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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
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決戦準備

14 決戦準備

『パンパカパーン・・・』ファンファーレが鳴り響く中、紙吹雪が舞い上がり風船やハトが飛んでいく・・・、盛大な式典が催されている。

 世界政府で初めて製造された巨大円盤の完成式典だ・・・、円盤の材料供給を受けてから6ケ月後で、すでに年が明け、春も間近となっていた。


 もともと10年間で92機製造する予定であり、1機当たりの製作期間は6ケ月ほどと見積もられていたため、予定通りとも言えるのだが、アメリカや中国など最終組み立てに名乗りを上げていた国での円盤工場建築は中断し、何と日本で最終組み立てを行ったのだ。


 組み立て用の仮設テントに関しては植民地で円盤製作したドームを参考にして、加圧式の簡易型で行われた・・・といっても俺にはその構造に関しては全く分からないのだが・・・。

 日本国軍司令部のグラウンドに幌をかぶせたようなドームを作り、そこで2機の円盤建造が行われたのだ。


 式典には植民地からも参加・・・というのは名目だけで、供給した予備エンジンと発電機を利用して、2機多く建造していないか・・・兵器のバランスを保つための監視として、円盤が大挙して飛来してきた。


「ううむ・・・こちら側も、各国の円盤を招集して数のバランスを保った方がよかったのではないですか?

 もともと所有の1機と合わせても、新規建造が2機で合計3機・・・、対する植民地側は全ての円盤10機で来ています。


 この状態で攻撃されたら、到底かないませんよ。」

 新型円盤の操作室でモニターを通して外の様子を眺めながら、赤城に対して救援要請をお願いする。


 新型とはいっても、内装も機能も元の円盤と全く変わりはないのだが、新しい分だけ皮のいい香りがする。

 新型円盤の操作室や客室のシートは、本革張りになっていると聞いている。


 すでに天を覆っていたドームの幌は取り払われていて、2機の円盤ともむき出しの状態になっている。

 新型機を世界政府軍の旗艦にするという事らしく、天頂部分には世界政府の旗が飾られているらしい。

 ちなみに俺が乗船している新型機が旗艦で、もう一機は副艦という事らしく大雪君が操船している。


「まあなあ・・・植民地側がカジノビル建築とかドームを作って円盤を建造したりするたびに円盤で押しかけて、何かあるとすぐに軍を駐留させて長期間監視を行っていたわけだ。

 恐らく、そのことへのあてつけだろうな・・・こっちだって怪しげな動きをしていたら容赦しないという、意思表示と言えるだろう。


 まあだが・・・、変なことをしない限りは何もしてこんよ。

 なにせ全ての円盤を繰り出してしまったわけだから、今は植民地側の防備は非常に貧弱と言える。


 確かに増強されたマシンで守っているだろうが、それでも円盤で押し寄せられたら、一瞬で降伏させられるだろう・・・それが分かっているから、よほどの大義名分がない限り仕掛けてきやせんから安心しろ。」

 俺の後方の席に座っている赤城は、腰を浮かせて俺の背中越しにモニターを眺めながら、それでも平然と答える。


「まあそうだろうね・・・、仕掛けるのはこちら側から・・・という事になりそうだ。」

 俺の隣に座る霧島博士は、含み笑いをしながら恐ろしいことを口にする。


「えっ・・・仕掛けるって・・・いったいどういう事ですか?

 今日は新型・・・というか、別に型は変わってはいないが新規建造した2機の円盤の初フライト・・・いわゆる処女航海・・というか処女飛行・・・の記念行事ですよね?


 平和な式典で、軍事的行動はしませんよね?

 今戦闘になったら先ほども申し上げました通り、3機対10機で圧倒的武力差で、たちまち押し切られてしまいますよ・・・。


 さらに副艦の操船は大雪君なのでまだいいですが、日本軍で所有していた既存艦は阿蘇が操船しているのですよ・・・、およそ戦闘力はないものと考えていただいた方がいいです。

 つまり、たった2機で10機を相手にしなければならないのです・・・、勝ち目なんてありませんよ。」


 突拍子もないことを言われて、少しうろたえ気味に否定する・・・いくら今まで運よくことが進んできたとはいえ、それはあくまでも入念に下準備をして・・・あるいは不意を突いた作戦で勝ちを拾って来たのだ。


 ここへきて調子に乗って不利な状況で仕掛けて行って敗戦すれば、今まで積み上げてきたものがもろくも崩れていきかねない。

 植民地側へ寝返る国だって、きっと出てくるに違いはないのだ。


「いや・・・戦闘力に差が生じるとすれば、向こうの円盤が向こう側世界からのリモートコントロールであれば・・・、という場合だけだろう。


 知っている通り、円盤を生体次元移送の移送先にされないよう、植民地側で建造された円盤には外部からのリモートコントロールを受ける機能はついていない・・・というか撤去した。

 有人での操作か、若しくは人工知能による完全自動プログラムでしか動作しないよう仕様変更された。


 人工知能で操作しているのであれば、たった2機でも10機相手にしてだって勝ち目はあるわけだろう?」

 霧島博士が余裕の笑みを浮かべる。


「そ・・・そりゃあ自動操縦でさえあれば、10機相手でもなんとかなる可能性はありますよ・・・、でも植民地の円盤は行政府の役人が乗り込んだ有人機のはずですよ。

 操縦訓練だってしているはずですし、有人機10機相手では骨が折れますよ。


 さらに・・・人が乗っているのであれば・・・攻撃したくはないですしね・・・、撃墜して空中分解・・・なんてことにでもなったら目覚めが悪いですよ・・・。」


 いくら戦争でも、人が乗っていることが分かっている敵円盤を攻撃することは、ごめんこうむる。

 甘いと言われようが、これだけはできない・・・。


「まあ・・・操作室や客室を攻撃すれば死傷者が出るだろうな・・・、だが・・・エンジン部分のみを攻撃して破壊すれば飛行不能にできる。

 円盤の構造上から、地上に降ろしてしまえば攻撃兵器は使用不可能だ。


 なにせレーザー砲は円盤の側面側で、ミサイル発射口は下側にしかないからね。

 そのエンジンは・・・、ちょうど円盤の下側中央から外側へ1/3くらいの位置にある。


 ダミーのミサイル発射口が3つ3角形に並んでいるところだから、見つけやすいはずだ。

 下方からそこを狙い撃ちしてくれ・・・、できるね?」

 霧島博士が、円盤の構造図を自分のコントロール装置画面に表示させ、一点を指さす。


「確かに・・・そこを狙い撃ちすることは、さほど難しいことではありません。

 ですが1機や2機だけならともかく、10機もいるのですよ・・・どう考えても反撃を食らってしまいます。

 しかも・・・エンジン部分ともなると、装甲はかなり厚いのではないのですか?


 円盤のレーザー砲でもそこを攻撃するのに何分もかかるような・・・、それではダメージを与える前にほかの円盤の攻撃を受けてしまいますよ・・・申し訳ありませんが無理ですね・・・。」

 到底実行不可能なミッションを引き受けるほど俺は自信家ではない・・・、丁重にお断りする。


「いや・・・新規建造の円盤には光子砲を積んでいる・・・、設計上では通常のレーザー砲の千倍の破壊力を持つはずだ・・・、光子砲であれば一撃でエンジン部分にダメージを負わせることが出来るだろう。

 しかも連射できるから、向こうに反撃どころか逃げるいとまも与えずに、君だったら全ての円盤を葬ることが出来ると踏んでいるのだがね・・・どうかね?


 ちょうど今なら、植民地の円盤は基地上空に整列して浮いている。

 我々の飛行実験の様子を確認したいのだろうが・・・、さすがに攻撃兵器を構えて・・・という事はないだろうから、不意を衝ければ簡単に攻撃できる。


 あとはスピードだ・・・いくら連射が効くとは言っても狙いが正確でなければいけない・・・、下手なところに当てて本当に撃墜しては人的被害が生じかねないからね。」

 霧島博士は自信満々に答える・・・、光子砲・・・聞きなれない言葉だ・・・。


「その・・・光子砲というのはどこについているのですか?

 また、いつの間に制作したのですか?霧島博士の設計ですか?

 円盤の操作マニュアルには目を通しましたが、そのような兵器の記述はありませんでしたよ。」


 確か以前霧島博士が、円盤の推進力は光子エンジンだと言っていた記憶がある。

 それとおなじく光子砲というのだろうから、エンジンに関係のある攻撃兵器ではないかと推定されるのだが、熟読したはずのマニュアルにはそんな記述はなかったはずだ。


「光子砲は、円盤下部中央に設置してある。

 設計は・・向こう側世界の霧島博士の設計だ・・・、残されたコントロール装置に設計図が保存されていた。


 恐らくこの兵器を使えという事なのだろう・・・、コントロール装置デスクトップの中央の目立つ部分に攻撃兵器というファイル名で保存されていて、円盤に設置する手順の記載もあった。


 推進中の光子エンジンのエネルギーは使用できないため別の熱源が必要となるのだが、光子エンジンの予備を向こう側に要求したのはそのためで、光子砲設置のために必要だったという訳だ。


 回転座に設置してあるから水平方向360度、縦方向180度全方位に向けて発射できるようになっていて、コントロール装置のジョイスティックを用いて操作可能となるよう設定してある。


 レーザー砲と光子砲とミサイルのどの兵器を使うか選択したのち照準を合わせて発射する・・・、操作的には難しくはないから、初めてでも十分使用可能と考えているが・・・どうかね?」


 霧島博士が、コントロール装置右下のジョイスティックアイコンにマウスカーソルを合わせて右クリックすると、確かに光子砲が選択できることを見せてくれる。


「分かりました・・・やってみましょう・・・ですが、こういった平和的な式典を利用して敵を攻撃するというのは、ちょっと卑怯な感じもしますが、いいのですかね?


 それと・・・撃ち漏らした場合・・・、恐らく敵円盤はこっちの円盤を攻撃するのではなく地上施設・・・つまり軍司令部を攻撃すると考えます。


 軍司令部には本日は来客も多く、政府関係者や諸外国の来賓もお見えです・・・なにせ円盤完成の記念式典ですからね。

 そのようなところを攻撃されでもしたら、日本の信用は丸つぶれですよ・・・。」


 いくら何でも敵円盤を葬るために多くの犠牲者を出すわけにはいかないだろう・・・、しかも来賓だから重要な人たちばかりのはずだ。


「その点なら心配無用だ・・・、軍司令部にはバリアー発生装置を備え付けてある。」

 霧島博士は自信満々で答える。


「ば・・・バリアー・・・って・・・、ミサイルやレーザー砲など跳ね返してしまうような防御壁ですか?」

 まさかバリアーだなんて・・・、それこそSFの世界だ・・・。


「そうだ・・・まさにその防御壁だ・・・、これも霧島博士の残してくれたコントロール装置の、これまた防御装置という名前のファイルに記載されていた。


 ただしバリアーを実現させるには膨大な電力が必要なようで、そのために発電機・・・核融合炉だね・・・、これを司令部にも設置するために要求したという訳だ。

 円盤が上昇すると同時にバリアーを起動させるよう、すでに指示を出してあるから問題はない。


 この辺りは軍司令部のほかに周囲は演習場で人家などもないからちょうどいい、存分に戦える。

 それに・・・あの円盤群はこちらが招待したのではなく、向こうから勝手にやってきたのだ・・・、もちろん本日に新規建造した円盤の試運転をするという通達は、植民地側にも流してはいたのだがね。


 戦争中の敵国に攻撃兵器で押し寄せてきたわけだから、そこを攻撃されても文句は言えないはずだ。

 何から何まで全て向こう側世界のものを利用して、こちらから攻撃を仕掛けるのは、ちょっと申し訳ない気持ちもするのだが、これは間違いなく向こう側の霧島博士のご遺志でもある。


 霧島博士は本当に我々のような、遅れているとはいえ、ある程度の文化レベルを持った世界から、食料物資を強奪していたという事は知らされていなかったのだろう。

 そうして、人的被害も多数出ていることにも心を痛めておられた。


 そうして持参のコントロール装置を託してくれた・・・、当然アクセスするにはパスワードが必要のはずだが、どうやら1週間以上アクセスしていないと、自動起動するよう設定されていたようだ。

 学生に何とか霧島博士が持ち込んだコントロール装置から情報を引き出すよう、いろいろと試させていたのだが、そのうちに勝手に起動してくれたという訳だ。


 恐らく自分はそれほど長くは生きられないことを、承知しておられたのだろう。

 まさか植民地が所有する全円盤で押し寄せてくるとは全く予想もしていなかった・・・、そのため1国ずつ植民地を開放していくつもりでいたわけだが、これは千載一遇のチャンスといってもいい。


 ここで一気に片を付けるつもりでお願いする。」

 霧島博士が、真剣な表情で俺を見つめる。


「分かりました・・・、何とかやってみましょう。

 大雪君・・、光子砲の操作に関して質問はあるかい?」


 すぐにコントロール装置のマイクに向かって問いかける・・・大雪君が操船する副艦と阿蘇が運転する旧円盤の両方とも通信を解放したままでいたのだ。

 双方向通信したいのでデジタルのマイクも部品として一緒に発注して、今回から装備させた。


「はい・・・コントロール装置のジョイスティックアイコンをクリックして、光子砲に兵器を切り替えておきました。

 レーザー砲と同じ要領でよいのであれば、問題はありません。」

 すぐに頼もしい返事が返ってくる。


「よし分かった・・・、俺が上方東側の5機のエンジンを破壊するから、大雪君は西側5機をお願いする。

 恐らく一度に全部という訳にはいかないだろうから、一度上昇して追い抜いた後、再び急降下して反転して再度攻撃を仕掛けなければならないだろう。


 恐らくその間に敵は地上攻撃を開始するだろうから、そのすきに反転してきて仕留めればいいだろう。

 迅速に進めなければ逃げられてしまうだろうし、上手く最小限の動きで仕留める必要性がある。」

 とりあえず、互いの分担を明確にしておく。


「はい、了解しました。」


「僕はとりあえず何をすればいいのかな・・・?こっちには光子砲なんてもの付いてはいないようだけど?」

 すると阿蘇から質問が・・・。


「ああ・・・、阿蘇はとりあえず円盤が逃げ出さないよう高空で待機していてくれ。

 逃げ出そうとしたらレーザー砲などで威嚇して足止めでもしてくれればいい・・、決して無理に戦おうとしない方がいい。


 なにせレーザー砲やミサイルでの打ち合いだと、エンジン部分の装甲は簡単には破壊できないから、操作室や客室など居住空間を狙う事になってしまうからね・・・、人的被害は避けなければならない。」


「了解・・・じゃあ、体当たりか何かで引き留めておくよ。」

 阿蘇の得意な体当たりが、また見られるのかもしれない。


「では・・・、えらいさんの挨拶も終わったようですので・・・、円盤を上昇させます。

 みんな準備はいいね?」


「はいっ!」

「ああ、大丈夫だ・・。」



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