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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
112/117

方針変更

13 方針変更

「それではその・・・円盤用の材料の受け渡しに関してなのですが・・・1度に10機分と量が多いですが、来月初にはお引渡し願えますか?」


 霧島博士のことは本当に気の毒だったと考えているし、それにより生体での次元移送が中断されたことも気にはかかるが、まずはここへ来た目的を果たさねばならない。


 なにせ今日は注文をするだけだから、赤城も霧島博士(こちら側の)も来てはいないのだ。

 阿蘇と大雪君と俺の3人だけでやってきているので、後でこれを確認し忘れたとかならないよう、やるべきことをまずは果たしておくことにする。


「ああ・・・円盤製作の部品ですか・・・、どうしますかね・・・。

 はっきり申し上げまして・・・お気づきだったかもしれませんが、円盤製作は我々がそちら側へと次元移送するための移動先として製作するつもりでした。


 確かにそちら側世界の植民地の有する武力の均衡というものを確保しておく意味合いも、なきにしもありませんでしたが、第一の目的は移住先として座標の特定できる器がほしかったわけです。


 その後ある程度の人数が移住した後では、極秘裏に地上施設を建築して、その施設の正確な位置情報を取得したのちに、本格的な移住を開始するという計画をしておりました。


 それまでの経緯で生体による次元移送の可能性を指摘され、その移送先として検討した先をことごとくつぶされ、最終的に移動可能な円盤内にしか見いだせていなかったため、ダミーも含めて大量に100機の製作を計画したわけです。


 ですがもうその必要性もございません・・・そちら側世界との武力均等化だけであるならば、今現在植民地で有する円盤は10機です。

 そうしてそちらが所有している円盤数は8機と伺っております。


 つまりそちら側世界が後2機の円盤を制作されれば、武力の均等は保たれるという事になります。

 もちろん補修部品として10機の円盤用の部品提供は行うつもりではありますが、保有する円盤は100機までではなく10機ずつという事にしては頂けないでしょうか?


 残り2機分の部品でしたら、来月初までに準備させていただきます。」

 所長の覇気のない声が、スピーカーから聞こえてくる。


 なんとまあ予想外の言葉が返ってきた・・・、もう移住する術がなくなったので、その先として見込んでいた円盤製作の必要性はないと・・・、そのため100機も作らずに10機だけにするだなんて・・・。


 さすがに残り92機分もの発注は受けてはいないが、それでも30機以上は円盤所有を希望する国々があったと聞いている。

 それらの分はどうするのだ?


 全く入手する術がなかった時ならともかく、今は部品供給を受けて製作することには目途がついているわけだぞ・・・、しかもアメリカや中国にフランスでは円盤組み立て用の巨大工場まで作ろうとしているのだ・・、それらはどうなってしまうのだ?


「いや・・・ちょっと困りましたね・・・、部品供給を受けられるというから、円盤を組み立てるための工場も建築していますし、世界中の国々が協力し合って、各部品の製作に当たる計画をしております。


 まずは一旦持ち帰らせていただいて、その上で返事をさせていただいてもいいですかね?」

 こんな重要なこと、ここにいる3人だけで決められることではない。


「分かりました・・・恐らく追加の材料を希望されましても・・・、簡単には供給ができないと思われますので・・・ご了承ください・・・、なにせこちら側世界での円盤設計者である霧島博士を失ったものですから・・・。」


 尻つぼみのように、所長の声がだんだんと小さくなっていく。

 もはや無理やり、これで話しを決めようという魂胆が見え見えだ。


 恐らく自分たちがこちら側次元に移送してくることが出来なくなったため、こちら側世界に技術力を供与することを極力避けたいのだろう。


 確かにそうだ・・・こちら側世界が技術力を大幅に向上させて向こう側世界に追いついてしまえば、恐らく植民地化した国や地域も独立を望むだろう。

 そうなると向こう側世界の人たちは、完全降伏するしか道がなくなってしまう。


 こちら側世界へ移住できるという見込みがあったからこそ、ある程度技術の流出があっても・・・というか逆に技術力を向上させて世界を潤わせておきたいという心づもりすらあったのだろうと考える。


 だからこそ・・・植民地化された国や地域に、あらゆる技術で援助していたはずだ。

 それらが立ち消えてしまったのだから、当然のことながら余計な技術の供与など行いたくはないわけだ。


 

「円盤の材料供給を拒否した・・・?2台分だけ供給すると・・・?

 ううむ・・・まいったな・・・・、アメリカではすでに工場の改造がほぼ終わりそうだし、中国に至っては新規建築のためのスペースを確保してすでに基礎工事が完了するところだ。


 なにせ来月から部品製造にかかるわけだから、遅くとも2ケ月後から円盤自体の組み立てが始まるわけだった。

 それに間に合わせるために、世界中が躍起になって工事を進めていたというのに・・・これは大きな痛手だ。


 分かった・・・、悪いが明日にでももう一度交渉に出向こう。

 少なくとも、すでに発注が来ている50機分だけでも製造したい。

 残りは・・・数合わせのために円盤所有国に分配する予定だったから、こちらはどうでもいい。


 50機は作らなければこれまでの投資が無駄になってしまう・・・、また、円盤所有国と所有出来ない国との格差というか軋轢を生じさせかねないのだ・・・、世界政府とはいっても決して一枚岩ではないわけで、極力平等であらねばならないわけだ・・・。」


 基地に戻って先ほどの所長からのコメントを伝えると、赤城は頭を抱えてうずくまってしまった。

 無理もない・・・希望すれば円盤を主有することは可能という案内は、世界政府内の会議で大好評を得たらしいからな。


 所有するには円盤製作に加担しなければならないという条件は付いたのだが、どの国も喜んで参加することになったらしい・・・、と言っても全ての国ではなく、余裕のある豊かな国に限られたという事だったが・・・。


『ガチャッ』「霧島博士をお願いします。」

 すぐに赤城は内線電話の受話器を取って、霧島博士を呼び出す。


「はあ・・・どうやら向こう側世界の方針が変わったようです。

 もうこちら側の世界へ移住してくることをあきらめ、更に次世代へと種をつなぐ望みも捨てた様子です。


 そのため円盤の部品は2台分までで、それ以上は手に入りそうにもありません。」

 赤城が受話器の向こう側の霧島博士へ、顛末を説明しているようだ。


「はい・・・はい・・・分かりました・・・、条件を付ける?

 はい・・・はい・・・了解いたしました・・・、交渉してみます。


  ・・・・・・・・・ようし、すぐにこれからフィリピンへ行くぞ。

 再交渉だ・・・、少し要求部品を変更するそうだ。」

 赤城が少し笑顔を見せる・・・、そうしてすぐに階段を下りてグラウンドの円盤へと向かう事になった。



「核融合炉と光子エンジンの予備を・・・それぞれ2組ですか・・・?

 ううむ・・・これらは堅牢に作られておりますし、簡単には不具合を起こさないと聞いておりますよ。

 不具合が生じた場合の被害は大きいようですから、安全の上に安全を重ねて設計されていると聞いております。


 現に・・・そちら側で所有している巨大円盤ですが・・・、30年以上も前から稼働しておりますが、ただの一度も故障しておりません。


 円盤は破壊されてしまったものも含めますと、ご承知の通り112機存在しておりましたが、全て大きな故障もなく稼働しておりました。


 確かに駆動部分に関しましては摩耗いたしますので、シャフトやベアリングなど定期交換は必要でしょうが、装置自体を予備にされなくても十分に維持していけるはずです・・・、と生前の霧島博士も申しておりました。」

 フィリピン マニラに取って返して新たな要求を突き付けたところ、あっさりと断られてしまった。


「いやあ、そうはおっしゃられましても、2機の新作を加えたとしましてもこちら側の円盤の大半は、それこそ30年も前から稼働しているいわゆる中古品です。


 そちら側世界のものであったものを無理やり奪い取ったのですから、それに関してどうこう言うつもりはないのですが、装置の稼働限界・・・と申しましょうか、更新時期というのは確実に新規に製造された植民地の円盤に比べて早期にやってくるわけです。


 100機ずつ互いに持ち合うという当初の計画であれば、その割合は1割にも満たないものでしたが、10機ずつ持ち合う場合では、8割が早期に更新時期がやってくるわけです。


 その時点で新たにそちらにお願いして円盤製作を開始してもよいのですが、エンジンと発電機は恐らく発注しても制作に1ヶ月以上はかかるものと見込んでおります・・・、なにせ、そちら側にて製作されるのでしょうからね。


 その間は当然のことながら、我々側と植民地側にて兵器の不均衡が生じます。

 その際に近隣諸国へ攻撃を仕掛けられ、植民地の範囲を広げられても困るのです。


 巨大円盤の心臓部ともいえる発電機とエンジンさえ予備があれば、すぐに入れ替えて修理は可能なはずです。

 そのため、この要求は取り下げることはできませんね・・・、もともと100機ずつ持ち合うという約束事を、突然反故にされたのはそちらなのですから、この程度の要求はのんでいただけるようお願いいたします。」


 赤城が、マイクを付けたコントロール装置に向かって深々と頭を下げる。

 簡単に引き下がるつもりはない様子だ・・・、当たり前だわな・・・。


「ううむ・・・そうですか・・・、少しこちら側でも議論させてください・・・、何せ、ご承知の通り核融合炉と光子エンジンは、こちら側の技術者が製作しなければなりませんのでね・・・。


 申し訳ありませんが、来週早々にもう一度来ていただけませんか?その時に返事をさせていただきます。」

 所長は少し悩んだ末、来週へ持ち越しとなった。



「ただいまー。」


「パーパ・・・だいじょぶ?だいじょぶ?」

 アパートへ帰るなり、いつもは朋美にくっついていて、なかなか寄ってはこない順二が、珍しく玄関口まで駆けよってきた。


 しかも、お土産の確認ではない・・・、そりゃあそうだ・・・このところ毎日帰宅しているからな。

 それにしても、大丈夫って・・・何が心配なんだ?


「おかえりなさい・・・、体は・・・どこもおかしいところはない?

 軍の病院で精密検査してもらった?」

 すぐに朋美もやってきて、俺の体を心配する。


「一体どうしたんだ?俺は元気だぞ・・・というか、今朝も元気に出勤して行っただろ?」

 ううむ・・・、誰かが俺が怪我でもしたと誤った情報を流したのか?


「だって・・・ジュンゾーと同じ世界から来た霧島博士って・・・裁判の時にお亡くなりになったけど、あれは次元移送してきたことが原因だったのでしょ?

 向こう側世界での検死の結果判明したって、夕方のニュースでやっていたのよ。


 何か・・・体に時限爆弾を抱えていて、ある時突然爆発するって・・・、だからもう・・・心配で・・・。」

 朋美は目に涙を浮かべながら、本当に悲しそうな顔をする。


「ああそのことか・・・確かに霧島博士は生体による次元移送により、体中の細胞に異変が起きてお亡くなりになったようだね。

 向こう側の世界で俺と一緒に働いていた所長は、すごくショックを受けていた様子だったよ。


 なにせ、もうこちら側世界に移住してくるつもりだったようだからね・・・、その夢が断たれたんだ・・・ちょっとかわいそうな気もするね。


 だが・・・俺は大丈夫だよ・・・、そもそも霧島博士が次元移送してきた装置は改良型の次元移送装置で、俺がやってきたのとは違う原理の装置だからね。

 改良型の方が生体を次元移送する安定性は増したのだろうけど・・・、それでもまったく問題なく移送することはできなかったという事だ。


 俺の場合は理由はともかく、改良前の装置で次元移送できてしまったわけだからね・・・、その時にどんな偶然が起こったのかもわからないけど、何にしても改良した装置とは違った要因で俺は送られてきたのだと思っている。

 なにせ、すでに4年近くもこちらの世界に来て生活しているわけだ・・・、さらに向こうにいるときよりも運動もしているからすこぶる調子がいいさ・・・。」


 極力笑顔で明るく答える・・・、生体による次元移送が失敗する原因は、未だに明確になってはいないのだ・・・だからもしかしたら俺もいつかは霧島博士のように突然倒れてしまうのかもしれないが、全く平気で寿命を全うする可能性だってあるわけだ。


 そう悲観的になる必要もないだろう・・・、特に家族の前では・・・・。


「本当・・・?本当になんともない・・・?」

 朋美が念を押して確認してくる。


「ああ・・・、春の健康診断だってばっちりの健康体だったし、まったく問題ないって・・・。」

 強がるわけでもなんでもなく笑顔で答える・・・、心配してくれる家族がいるというのは・・・ちょっと嬉しい気持ちになってくる・・・ちょっと不謹慎ではあるが・・・。



 そうして翌週フィリピンに出向いて確認したところ、しぶしぶだがこちら側の要求を呑んでくれた様子だ。

 2機の円盤部品納期は1ケ月後で、予備発注の発電機とエンジンは2ケ月後という事になった。



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