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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
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壮絶な死

12 壮絶な死

『ざわざわざわ・・・』


「静粛に!おっしゃったことを要約いたしますと、あなたは次元間の物質移送を行う移送器を発明はしたが、その使い方までは知らなかった。


 次元を超えた強奪行為を行ったものたちが悪いのであり、あなたは騙されていたと・・・、更にこちら側世界に対して行われていたことを知らないばかりか、どこの誰が計画してかような非道な行為を進めたのか、まったくわからないと・・・、こうおっしゃられるわけですね?」


 傍聴席のざわめきを制したのち、裁判長は霧島博士の証言について確認を求める。

 それはそうだろう・・・取調室での証言と、意味的には180度変わってきてしまっているのだ。


「はい、さようです。ですので・・・、何とか命だけでも・・・。」

 霧島博士は神妙に一礼して頷くと、両手を合わせて拝むようにする。


「そうですね・・・ではこれからは、あなたの処遇に関して非常にかかわってくることに対しての質問です。


 こちら側世界にある直径百メートルもの巨大円盤や、それに付随するガードマシンとハンドアームマシン・・・、これらはあなたの発明とお聞きしましたが、間違いはありませんか?」

 裁判長は質問を変えたようだ。


「はい、間違いありません・・・、と言っても私は円盤の外装部分の設計を行っただけで、推進部分や発電機に関しては、私の設計ではありません。

 それでもエンジンや発電機の設計図は持参してきておりますよ。」

 へえ・・ではエンジンなどはいったい誰が・・・??


「ほう・・・そうですか・・・、ではそのエンジンや発電機などはどなたの設計によるものなのでしょうか?」

 やはり裁判長から質問が・・・。


「はい・・・別次元を捜索していくうちに、はるかに科学力の進んだ世界が見つかり、そこでは超巨大円盤やマシンが飛び交い、更に宇宙進出も果たしておりました・・・、恐らく太陽系どころか銀河系の隅々までも進出していたでしょう。


 そのような進んだ文明世界を見つけたのであるなら、是非とも我々の世界の現状を伝えて、優れた科学力で救っていただけるようお願いしてみることを提案したのですが、次元を超えて我々の世界を支配されては困るというので、その次元の人々との接触は禁じられました。


 それどころか、その進んだ技術力を何とか盗み出せないかと相談され・・・、まあ確かにその技術を使って世界が救われるのであればと、自走式の昆虫型のスパイカメラなど製作して監視を支援したわけです。


 当時は地下を掘り進む技術も乏しかったために、人が近寄らないはずの活火山の噴火口を通じてアクセスしておりまして、ちょうどその近くに巨大円盤のエンジンなどを製造している工場があるのを見つけ、すきをうかがっていて、1年半も経過したころには工場の休日状況や、製造物の見当もついておりました。


 それでようやくその世界から技術を盗み出したのですね・・・、小さなドローンに次元移送器を取り付け、それを使って光子エンジンや核融合発電機及びマシンを我々側の次元に送り込むことに成功したわけです。

 その後、証拠隠滅のために、移送器やスパイカメラなどすべてを火山の噴火口へ落として焼却致しました。


 初期の円盤の光子エンジン、核融合発電機及びマシンの推進装置は、全て別次元からの調達品でした・・・未知なる文明世界から盗んできた技術にすぎないわけです。


 それでも超合金技術及びプラズマ技術に加え3Dプリンターなどを開発しまして、今ではそれらの製造は可能となっております。」

 霧島博士が少し恥ずかしそうに、うつむき気味に答える。


 なんとまあ・・・別次元から技術を盗み出したとは・・・、だから向こう側世界に展開しなかったわけだ、突然進んだ技術が展開されれば、怪しむ科学者などいるだろうからな・・・、第一、当初はそれをまねて作ることもできなかったわけだ・・・。


「それでは・・・現在こちら側世界では奪取した円盤を8機所有しておりますが、それに対抗して植民地側でも円盤製作に入っております。

 その円盤の中に移送されてきたので、ご存知とは思いますが念のため・・・。


 植民地と世界政府間の武力を均等に保つという目的で、こちら側世界でも円盤やマシン製造を行うことになりましたが、いかんせんそれらを製作する部品の大半が向こう側世界からの供給に頼らざるをえません。

 あなたがこちら側世界の工場部門の指揮を執ることで、大部分を内作化することは可能でしょうか?」


 そうか・・・霧島博士の頭脳があれば、こちら側世界でも独自に円盤やマシンを作り上げることは可能なはずだ・・・、協力してくれればの話ではあるのだが・・・それが延命の条件という訳か?


「おお、それは問題ありませんぞ・・・、ただし・・・私は材料屋ではないから・・・、私の指定する材料が準備できればの話ですがね・・・。


 まずはスーパーコンピューターはもちろんですが、発信周波数GHz以上のクロックとそれに対応したCPUとテラ級のHD・・・、超鋼にタングステン鋼に加えマグネシウム合金及びカーボンナノチューブなど等・・・、必要材料をあげるだけでも結構時間がかかります。


 ほかに解析装置として10万倍まで拡大可能な電子顕微鏡や原子吸光分析器に3Dプリンターなど・・・、どれか一つ欠けるだけでも製作は難しくなるでしょうね・・・、こちらにそれだけの技術力はありますか?」


 ううむ・・・なんだか聞いたことがあるようなないような・・・、先端技術の材料やパソコンなど・・・、どれをとっても今のこちらにはない技術だ。


「す・・・ぱー・・・???」

 裁判長が言葉に詰まると、すぐに中年男性が席に寄って行って耳打ちする。

 今回はこちら側世界の霧島博士が直接解説してくれるようだ。


「ほうそうですか・・・、こちら側世界ではどれ一つとっても、まだ実現していない技術という事のようですね。

 それらを開発出来ない限り、円盤やマシンの独自生産は困難という事なのでしょうね。

 だからこそ・・・向こう側世界は円盤の設計図までも提供してくださったのでしょうからね・・・、分かりました・・・では質問を変えます。


 向こう側世界には主要都市ごとに核シェルターなるものが設置されており、そこに多くの人々が避難し、核攻撃の難を逃れて今も生存されていると伺っております。


 狭く限られた空間に多くの人々が生存していらっしゃると食料物資は・・・、現状はこちら側世界の植民地から供給を受けられているようですが、不用品・・・いわゆる廃棄物はいかがしていらっしゃるのでしょうか?


 人数が多ければ、それなりの量が日々発生するものと予想されております。

 まさか、廃棄物までもこちら側世界に送り届けておいででしょうか?」


 円盤製作への協力は無理と分かると、今度は向こうでの生活の様子について質問を変えたようだ。

 そうか・・・廃棄物など送り届けてきているのだとしたら、こちら側世界の地下へ穴を掘って廃棄物を捜索することで、核シェルターの位置を特定できるかもしれないわけだ・・・。


 まあ、やみくもに穴を掘って行っても、徒労に終わるだけだろうが・・・。


「いや・・・廃棄物の処理は基本的には乾燥させて重量と体積を減らしたのち、微生物処理をしています。

 ほとんど不要物など出ませんね・・・、一部土を露出させている場所では、最終処理物をたい肥代わりにして花など育てておりますからね。」


 ふうむ・・・循環型社会・・・、とまではいかなくても、少なくとも廃棄物など出さなくてもいいような生活様式が確立しているという事か・・・、それはそうだろうな・・・まさか核シェルター内からこちら側世界へ強奪行為を続けるなんてこと、想像もしていなかっただろうしな。


「分かりました、では・・・。」

 ううむ・・・裁判長はまたも質問を変えて何か聞き出そうと試みるようだ・・・、それにしても何でもはっきりと答えているようなのだが、その割に向こう側世界の様子など、まったく伝わってこない。


「どうしました・・・?ご気分でも悪いのでしょうか?」


『ざわざわざわ・・・』すると突然、裁判官の慌てた声が・・・すぐに霧島博士の方を見ると、のど元を両手で押さえながら、ずいぶんと苦しそうにしているようだ。

 すぐに、担当の刑務官が霧島博士のもとへと近寄っていく。


『プッシュー・・・』などと音は聞こえなかったと思うが、証言台に立つ霧島博士の両のこめかみから、真っ赤な液体が噴水のように・・・、それこそ1mくらいは噴き出し始めた。


 あれは血なのか?血が噴き出しているのか?

 あんな所から血が噴き出したのでは、助からないのでは・・・?


「霧島博士・・大丈夫ですか?」

「霧島博士!」


 すぐに数人の刑務官が寄ってきて、証言台に倒れ伏す霧島博士に呼び掛ける。

 そうして霧島博士は担架で運ばれて行った・・・、一体何が起きたのだ?


 まさか狙撃でもされたのか?・・・いや、銃声も聞こえなかったし、怪しそうな人物も見当たらない・・・、何せ傍聴席もすべて日本国軍兵士で埋まっているのだ。

 そのほかはテレビ中継のためのテレビ局スタッフくらいだが・・・。



「向こう側から来た霧島博士は、お亡くなりになられた・・・。

 突然死だったので急きょ解剖に回され死因を検討されたが、胃や腸などの消化器官及び腎臓に肝臓など臓器のほとんどが原形を保っていないほどで、特に血管の損傷が激しかったようだ。


 そのためこめかみから大量出血したようで、直接の死因は失血死だが、内臓などの損傷から突発性の多臓器不全と循環器不全・・・疫病なども疑われている。

 念のため昨日霧島博士が倒れてから接触した刑務官や病院関係者など、全て隔離されたと聞いている。」


 混乱のまま終わった裁判の翌日・・・軍司令部へ出勤すると、赤城が神妙な面持ちで告げる。


 そうか・・・亡くなってしまったか・・・、せっかく生体での次元移送を確立させて、こちら側世界へ移住してきたというのに・・・、病気では仕方がないか・・・しかも疫病って・・・、ここでの取り調べに同席した俺たちはどうなってしまうのだ?


「あっあの・・・、一昨日まで霧島博士のお世話を俺と阿蘇も行ってきましたが、隔離されなくてもよろしいのでしょうか?

 まさか・・・、うちの家族まで感染なんてことは・・・?」


 朋美や順二にまであのような恐ろしい病原菌が感染していたら大変なことだ・・・、今ならまだ治療できるのだろうか?


「いや・・・たとえ疫病だったとしても、恐らく空気感染はしないだろうと想定している。

 疫病だとすると感染源は向こう側世界にあるはずなのだが、そうなると核シェルターという外部から隔絶された空間内で、しかも生体の行き来はできない環境下にあった。


 つまり外部から病原菌が持ち込まれる危険性もなかったわけだ・・・、霧島博士が改造した新移送器を除いてね。

 そんな中で空気感染するような病原菌が存在していたのだとしたら、同じシェルター内の人たちは当の昔に感染して全滅してしまっていただろう。


 そのような様子が見られないのであれば感染ルートは限定される・・・、接触感染・・・それも体液などに直接触れなければ感染はしないだろうと、感染症学会の学者たち及びこちら側の霧島博士も同じ意見のようだ。


 だから・・・君たちは安全だ・・・、出血した後の霧島博士に近づいた刑務官と担架で運び出した医務局員及び病院関係者が隔離された。

 もちろん、使用された担架や救急車も全て消毒済みだ。


 それ等の処置も感染症だと想定した念のための処置であって、霧島博士の持病という事だって考えられるわけだ・・・、何せ向こう側の霧島博士は、大変な高齢の様子だったからね。」

 赤城の解説で少し安心した・・・、家族の危機は避けられたのがなによりよかった・・・。


「向こう側からの要望で・・・遺体はこちらで荼毘に付せずに、そのままお返しすることになった。

 だがまあ・・・、こちらでも解剖して死因の特定をしてからという事になるので、明日以降の引き渡しと答えてあるがね。


 明後日の早朝にはフィリピンから円盤が飛来して、霧島博士の遺体を引き取りに来ると連絡が来たよ。」

 さらに遺体はフィリピンへ引き渡すと告げる・・・、向こう側世界にはご遺族がいるのだろうからな・・・。


「そうですか・・・向こう側の世界から来た霧島博士は、ご自分の体調に関して分かっていたのでしょうかね?

 だからこそ処刑の日まで耐えられないと踏んで、裁判ではあのような証言を・・・」


 俺にはどうしても霧島博士の態度の豹変した意味が分からない・・・、まあ豹変といったってうろたえたり見苦しい命乞いなどではなかったのだが・・・、それでもすべての罪を背負うなんてことを言っていたのが、自分は何も知らなかったの一点張りに変わってしまっていた。


「でも・・・どうせ死ぬんだったら・・・、全ての罪を背負ってっていうふうに変わるのならともかく、自分のせいではありませんというように変わるなんて・・・、ちょっと信じられないね。」

 阿蘇が話に加わってくる・・・、確かにそうなのだが・・・。


「自分の発明品がこちら側世界を苦しめたことを反省して、生きてこちら側世界に貢献したいと考えたのではないですかね?」

 すると今度は大雪君も加わってきた。


「いや・・・それだったら、円盤やマシン製作するのに、材料がそろっていないとだめだとか言わないはずだろ?

 ないならないで・・・、今あるだけの材料でならこれだけのものが作れますよ・・・、とかの提案することだってできたはずだよ。」


 すぐに阿蘇が否定する・・・、確かにそうだ・・・あの人はいったい何をしたかったのだろう?

 そうして何の目的があって、命がけで次元移送してきたのだろうか?


 なにせ、それまでは動物実験ですべて失敗していて、成功しそうな理論は確立したけど実験動物がいなくて手持ちの昆虫だけの実験で、いきなり高等生物である人間での試行に踏み切ったわけだ。

 まさに命がけの実験であったというのに・・・。



「ええっ・・・、生体による次元移送が原因・・ですか?」

 コントロール装置を通して、ショッキングな事実が告げられる。


 霧島博士の壮絶な死から1週間後・・・、今度は円盤製作用の材料を発注しに、連絡先であるフィリピンのマニラへ来ているのだ。

 そこで、向こう側世界の所長から霧島博士の遺体の解剖結果について、報告があった。


「当初、我々も多臓器不全を引き起こす感染症に関して、あらゆる細菌及びウィルスを検査いたしましたが、それらはすべて陰性でした・・・、試験した病原菌全ての症状が霧島博士の症状と合致していませんでしたしね。


 さらに博士の持病に関しても詳しく調査いたしましたが、多臓器不全・・・特に循環器系に持病はお持ちではありませんでした・・、これは次元移送実験をする直前に人間ドックで体調を詳しく調べた結果ですから、間違いがありません。


 つまり、お年は召しておられましたが、まったくの健康体であった霧島博士が、感染症でもなく突然あのような悲惨な病状でお亡くなりになられたという事です。


 こちら側の解析では、やはり生体での次元移送は不可能で、素粒子レベルへの分解と合成の時間をそろえることが出来たとしても、完全に元通り復元することはなく、微妙なひずみが残り、ある時突然それらが爆発するのだという結論に至りました。


 ここフィリピンの円盤製作ドームの中に出現した昆虫類は、霧島博士の研究室で飼育していた昆虫類で、それらを使って生体の次元移送を確認したのですが、お宅の兵士たちが採集してフィリピン行政府で預かっていたそれらの昆虫類も全て1週間以内に死滅したと報告されております。


 しかもすべてが内臓破裂の状態だったようです。

 つまり、今の技術では生体による次元移送はやはり不可能という結論に至りました・・・、残念です。


 そもそも・・・、昆虫での実験で成功したのに満足して、もっと複雑で細胞も多い動物実験をせずにいきなり人間で実施したのが失敗だったのですよ・・・、貴重な人材を失ってしまいました。」


 所長の声がいつにもまして元気がない・・・それはそうだろう・・・、生きて地上に出られる可能性が、ほぼなくなってしまったと言えるのだ。


「新倉山さん・・・あなたの体調はいかがですか?」

 突然俺の体調に質問が変わった。


「はあまあ・・・、何事もなく元気にやっておりますよ。

 別にこちらの世界に来てから1週間後に体調を崩した記憶もありませんし・・・。」


 俺の場合はこちらの世界に来てから逆に体調がよくなったくらいだ・・・、なにせ、こちら側世界の俺とよく比較されたので、それなりにトレーニングをするようになってから、ぜい肉は落ちて筋肉が少しだけ着いた。


「そうですか・・、お体を大切にね・・・。

 我々はこちら側世界でも子孫を残すことを計画しておりましたが、このまま地下施設に生まれ出てくる子供たちのことを考えると、そのような考え方は断念するしかないという結論に至りました。


 我々の代にて、この種は滅びることになりそうです・・・、こちら側の唯一の種として新倉山さんが、そちら側世界に辿り着けたという事が、せめてもの慰めになりそうです。」


 なんだか非常に寂しいことを言われてしまった・・・、どうやら向こう側世界では、今いる人たちだけの代での絶滅を覚悟したようだ。



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