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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
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証言

11 証言

「アメリカやインドでも地下基地の場所の特定ができ、今現在も向こう側世界から物資を運び出しているようです。

 やはりハンドアームマシンの操作に慣れていないせいか、向こう側世界の移送器に電源をつなぐ操作や、コントロール装置のプラグをコンセントから外す操作など、難航している様子です。


 1日では何も回収することはできず、次回は宿泊準備もして再度向かう予定と報告が入ってきています。」

 翌朝、基地へ出勤すると、他の地域の様子が報告されてきた。


 まあそうだろうな、どの地域でもマシンコントロールは基本ガードマシンの訓練を主体で行ってきたようだ。

 だからこそ戦闘フォーメーションを作り上げたとはいえ、フィリピンでのマシン同士の戦闘でも、向こう側の操作者に引けを取らないだけの戦闘を繰り広げられたわけだ。


 不謹慎な言い方ではあるが、射撃訓練は的が吹き飛ぶとある意味快感だし楽しい・・・、だがハンドアームのハンドで小さなものをつまみ上げたり、運んだりする訓練というのは、本当に地道な作業の繰り返しであり、つまらないと言えばつまらないものだ。


 俺は結構細かい作業を好むので、ハンドアーム操作用のグローブを入手してからは、例えば小さなねじが入った小箱から、別の小箱へ一つずつねじをハンドアームでつまんで移し替えるという訓練を繰り返し行っているのだが、そんな細かいことはやっていられないと阿蘇は5秒でねをあげた。


 まあ、精密機械だし・・・慎重に壊さないようにゆっくりと運び込めばいいだろうと思う。

 何だったら、応援に行ってもいいわけだ・・・。


「それから・・・、九州の地下基地から持ち帰ったものの中に、異質の移送器が入り込んでいたようです。」


『異質の移送器?』

 若い兵士の報告に、俺も阿蘇も同様に聞き返す。

 夜勤務の当番兵であり、夜通しで持ち帰った備品の分類をしていた結果報告だ。


「はい・・・通常の移送器は移送器の上端の球体は半透明のガラス製で・・・白色なのですが、1セットだけ薄いピンク色をしているのです。


 大きさに関しましては1mと通常の移送器サイズであり、セット区分けのためかもと思いますが、念のために区分しておきました。」

 若い兵士は報告後には敬礼して戻っていった。


「ふうん・・・ちょっと変わった移送器ね・・・、そういえば九州の地下基地を経由して、向こう側世界の霧島博士はフィリピンの円盤へ次元内移送したと言っていたよね・・・だったら、それが次元内の移送器かもしれないね。


 ほかは・・・コントロール装置が10台と予備が2台にジョイスティックが5つとグローブとフットペダルのセットが5セット。

 それと予備と思われる箱に入ったままのジョイスティックが1つとグローブとフットペダルも1つずつだ。


 ほかに取説などの書類と・・・ケーブル類に電源。

 ハンドアームやマシンガンなどの予備部品はなかったようだから、消費してしまって補充前だったのだろうね。」

 阿蘇が、兵士が置いて行ったリストを読み上げる。


「円盤やコントロール装置用の部品供給を受ける代わりに、こちら側が所有する円盤やコントロール装置の台数を、正直に報告しなければならなくなってしまったからね。

 向こう側世界にリストアップしないで済むコントロール装置は、いわゆる隠し財産と言ったところだな。


 といっても日本の基地から収集されたからと言って、日本だけで所有できるものではない。

 他国で発見された地下基地からの取得物も同様にリストアップして、世界中の国々へ分配することになるだろう。


 一応、強奪マシンを捕獲できた国として限定するつもりではあったのだが、円盤の取得のためには制作にかかわらなければならないし金がかかるからやらないが、マシンだけなら購入してもいいという国もあるようだ。


 それぞれのお国柄というか、内部事情によるのだろうが、そういった意味ではコントロール装置部品の追加発注もお願いしなければならないし、マシンの部品も円盤収納だけではなく、単独使用という使い方も申請する必要性がある。


 それがどこまで認められるかわからないが、向こう側が円盤製作にかかわる分だけと限定してきたとしたなら、今回の取得物は全てマシンだけを希望する国々へ分配されることになるだろう。

 そうしなければ、もてる国ともてない国での格差が付き、不公平感が募るだけだからね。」


 突然、後ろの方から聞きなれた声が・・・、赤城だ・・・恐らく当直兵士たちが、取得してきたものを区分けしていたのに付き合っていたのだろう、目を真っ赤にして少し眠そうだ。


『あっ・・・お早うございます。』

 すぐに阿蘇と2人同時に敬礼しながら挨拶する・・・自警団のころと違い、軍隊であるし相手は大佐なので、応対には気を付けなければならない。


「それと・・・、毛色の変わった移送器に関しては、同一次元内の移送器であると予想している。

 上部についている玉の色が異なるが、その他の見た目では相違がなく、他の移送器同様操作盤などついていない。

 恐らくコントロール装置のようなもので移送先座標などを指定するのだろうが、現時点までに移送器用も含めて、コントロール装置内にそれらしいプログラムは見つかっていない。


 向こう側の霧島博士が持ち込んだコントロール装置だけが頼りなのだが・・・、まさか奪い取るわけにもいかないし、ご存知の通りパスワードが分からなければ起動すらままならん。

 仕方がないのでコントロール装置は霧島博士にお返ししたのだが、いずれはパスワードも教えてくれると言っているらしい。


 それから解析するしかないと、こちら側の霧島博士も言っていた。」

 赤城が、さらに続ける。


「そうですか・・・、だったら裁判の結果待ちという事でしょうか?」


「そういうことになるだろうな・・・。」

 裁判まではあと5日ほどあるな・・・。



 そうして5日経過して裁判の日・・・。

 裁判は全国・・・どころか世界中に向けて放送されることになった・・・、と言っても衛星中継などはできないので、ビデオに収録されて世界中に配布されるらしい。


「えー・・・霧島守男さん・・・、と言っても同姓同名で年齢は異なるが外観などもほぼ同一の霧島守男さんが、こちら側世界にも存在するため、向こう側世界の霧島守男さんと表現させていただきますが、よろしいですね?」


 裁判の冒頭で、裁判官が向こう側世界の霧島博士の呼称について、本人に確認する。


 俺の裁判の時には、まだ次元を超えてやってきた初めてのケースであり、自称という言葉が付加されたのだが、今回のケースの場合は明らかに生体に寄る次元移送というものが確立されたうえでの移送であるため、向こう側世界のという言葉が付加されるようだ。


「はい・・・構いませんよ。」

 すぐに霧島博士が証言台で起立したまま答える。


「では・・・、まず私から質問をさせていただきます。

 私は当裁判の裁判長を務めさせていただきます、八甲田と申します。


 まずは・・・物質の次元移送に関しまして、こちら側世界でも旧強奪基地にて移送器を手に入れ、異なる世界へのアクセスを確認しておりますが、生体・・・つまり生きたままでの移送に関しては、向こう側世界の方たちも否定されておりました。


 ただ一人だけの例を除いてですね・・・、ところがあなたは向こう側世界から次元移送してこられたと証言しておられる・・・、あなたは生体での次元移送成功者の2例目と考えてよろしいのでしょうか?

 また、生体での次元移送は確立したと考えてもよろしいのでしょうか?」

 俺の時と同様に、裁判長から質問が始まる。


「はい・・・、これまで生体での次元移送はできないと考えられておりました・・、それは動物実験などを繰り返した結果からであり、生きたまま素粒子レベルにまで分解し、再構築しても生体活動までは復元できないと考えられておりました。


 ところが・・・裁判長さんもおっしゃられたように、生体での次元移送に成功したものが現れたのですね・・・、新倉山順三・・・こちらの彼が死亡し、更にその死体が我々の世界へ運び込まれたがために、その補正として彼だけが次元間移送に成功したのだとか・・、とんでもない理論が展開されたこともあったようです。


 成功例があるという事は、条件などによっては生体での移送も可能であろうと予想し・・・、次元移送器の移送原理を一から見直しました。

 そうして・・・素粒子レベルに分解するときと再構築するとき・・・、部位によって分解スピードと再構築スピードが異なる・・・、最大で100倍ほども変わってしまう事を確認したわけです。


 100倍と言いましてももともと1細胞を分解するのに10京分の1秒ほどしかかからないのですが、これの100倍まで時間がかかってしまう部位もあるという事です。


 つまり分解生成のスピードが部位によって異なるため、連続して起こっている生体活動をそのまま伝達できずに分断されてしまい活動を停止する・・・、つまり死んでしまうわけですね。


 その点を踏まえ・・・、最高の分解スピードを抑え、1京分の1程度に分解生成のスピードを部位に寄らずにそろえることを目指したというわけです・・・。」


 霧島博士は饒舌に次元移送装置に加えた改善内容を説明していく。

 この辺りは、キューブを通して得られた情報を解析した、こちら側世界の霧島博士の推測と同様だ。


「では・・・今後も引き続き、向こう側世界から次元移送してこちら側世界に人々が移住してこられるのでしょうか?」


「そうなるでしょうね・・・、ですが・・・私が移送してきたことをいち早く察知され、拘束され裁判にかけられることを向こう側世界でも知っておりますから、恐らくすぐには行われないものと考えます。


 なにせ半ば命がけで次元移送してきて・・・、それでも捕まってしまってはおしまいですからね。

 どうせ捕まって裁判にかけられれば死刑なのでしょう?」

 証言台の霧島博士は、裁判長の方を見上げながら質問する。


「えー・・・捕まったら必ず死刑という事はありません・・・、こちら側世界の法律に照らし合わせて刑を確定させるだけです・・。」


 別の裁判官が少し言いづらそうに説明する・・・、俺の場合も判決は死刑だったのだから、自ら首謀者の一人と言っている霧島博士であれば、間違いなく死刑が判決されるだろう。


 と・・・言うより・・・こちら側世界の法律では、戦争状態であれば相手国の人間を全滅させるまで戦うという触れ込みなので・・・、恐らく強奪行為にかかわっていない人でも捕まれば死刑という事になるだろうな・・・。

 せめて戦争状態というものを停止しない限りは、この状況は変わらないだろう。


 だからこそ・・・早いところ敗北宣言をしてしまい、植民地支配も解いて、世界政府側から食料物資の供給を仰ぐといった形が望ましいのだと考える。


 そのためには当然向こう側世界にいる首謀者たちを明らかにして、こちら側世界に引き渡す必要性があるのだろうが、やったことから考えると彼らが極刑に処されることは、やむを得ないと言えるだろう。


 そうすることにより多くの人たちが助かるのだ・・・ここにいる霧島博士のように、自らが首謀者として名乗り出るような人はもういないのだろうか・・・。


「では、引き続き質問をさせていただきます。


 30年間近くの長きにわたり、こちら側世界から様々な物資を強奪・・・、隠し農場のようなところで営農もされていたようではありますが、それらも元はこちら側世界の資源でありました。


 6年ほど前からの5年間は強奪マシンを使って、市場やマーケットから食料物資をまさに強奪を繰り返しておりました。

 その行為に反抗するものは容赦なく殺害するという非道な行いは・・・家畜を提供されて食肉へ加工するという、いわゆる貿易が始まるまで行われてきました。


 そのような行為をあなたは承知の上で、巨大円盤や強奪マシンの開発を行い、更には移送器の改造も行ってきたわけですね?」


 裁判官はいよいよ核心に迫る質問をしてきた・・・、恐らく自分の罪として認めるつもりなのだろうが、霧島博士は巨大円盤や強奪マシンによる強奪行為を知らなかったはずだから、そこは正直に答えるしかないだろう。

 そのうえで真の首謀者たちがいるのではないかと、質問を変えるつもりなのだろう・・・。


「いえ・・・、私はただの昆虫学者です。

 時に大量発生して穀物を食い荒らしたり、人を含めた動物に襲い掛かり死に至らしめることもある害虫と称される昆虫類を、処理する目的で移送器を開発しました。


 私が行ったのはあくまでも移送器の理論づけと、製作方法の確立までです。

 同一次元内での場所移送と、別次元への同一座標への移送が可能な装置を作り上げましたが、それらの使用に関しては、私の存じ上げるところではありません。


 私は騙されていたのです・・・原始世界を見つけたから、知的生命体の全くいない世界で酪農や農業を営むと言われて円盤の開発に協力いたしました。


 ところが知的生命体のいないはずの次元から、核攻撃という反撃を食らい世界が絶滅の危機に瀕したとき・・・、今度は向こう側世界から移住してきて良いという承諾を得られたと言われ、生体での次元移送に関して再度研究を始めました・・・、成功例もいたわけですしね。


 ところが・・・移住を要望されていたはずの植民地の行政府からも、移住に関して反対されていることを知りショックを受けました。

 これはつい先日・・・生体での次元移送器の試作器が完成し、移送実験を開始しようと研究室からでて居住スペースに向かった時に、こちらとの通信をしていたのを目撃し、途中から加わることで知り得ました。


 私は向こうではシェルター内の人々が、快適に過ごしていけるような研究もしていましたので、向こうでの処遇もそれなりに大事にされてはおりましたが、まさか私の知らないところで非道な行為がなされていたとは、つゆ知らないことでした。


 かように私は騙されていただけでありまして・・・、こちら側世界へまいりましてから聞かされました数々の悪行を行った首謀者たちなど、予想もつかないわけであります。


 首謀者を特定できない限り、私は極刑に処されるというのでしょうか?

 ただ単に次元移送器という装置を発明しただけの私に、そのような罪があるとお思いでしょうか?」


 ところが霧島博士からの答えは、俺の予想とはかけ離れたものだった・・・というか、話している内容そのものは、取調室で証言した内容とほとんど変わらない。


 しかし語尾が少し異なるだけで・・、その意味合いがずいぶんと変わってきてしまう。

 すべての罪を一人で負って処刑されるつもりなのだろうと考えていたのだが・・・、いつから命が惜しくなったのだろうか?



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