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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
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九州基地

10 九州基地

「なっ・・・、敦子が・・・?

 こちらでは敦子がガードマシンの犠牲に・・・?」


「はい・・・、こちら側にある強奪基地の位置特定を進めているさなかの出来事でした・・・。

 死に至る状況までは不明でしたが、間違いなくガードマシンのマシンガンとレーザー銃により殺害されていました。


 私は娘の仇をとるために、向こう側世界に大規模な核攻撃を仕掛け、向こう側世界の大部分を死の世界にしてしまった。

 さらに核兵器制作にかかわった、こちら側の人々まで放射能汚染で・・・。

 わが娘の仇をとるためとはいえ、あまりにもひどい事を行ってしまったと、今では後悔しております。


 ですが・・恐らくあの攻撃を仕掛けることが出来なかったなら、向こう側から新倉山君が次元移送してくることもなく、今でもこちら側は向こう側からの強奪行為に対して、なすすべもなく好き勝手にされていたことでしょう。


 それもこれも・・・、あのような非人道的行為を計画して実行した首謀者がいけないと、なんとしてでも向こう側の首謀者たちをあぶりだすことに専念しております。

 どうか・・・一部だけでも良いので、首謀者を明確にしていただけないでしょうか・・・。」


「いや、だめだな・・・いかに非人道行為を働いたとはいえ、言ってしまえば緊急避難的な面もあったわけだ。

 恐らく多数の次元を確認したうえで最適・・・というのも語弊があるが、食料物資を強奪するのに適当な世界が選択されたのだろうと、私は理解している。


 よその次元の人々を不幸にしてもよいという事は決して言えないわけだが、自分たちが座して死を待つこともないわけだ・・・、打つ手があるのであればね・・・。

 犠牲者が出たことは大変気の毒に思うが・・・、十分な食料供給がなければ、毎日何十万人もの餓死者が出ると言われていたのだから、やむを得なかった行為と私は考えている。


 その打つ手・・、というのを計らずとも私が供給してしまったのが、唯一の罪と言えると考えている。

 罰せられるのは私一人だけでよい。


 それよりも・・・、私のコントロール装置を返してはくれないか・・・?

 どうせパスワードを知らないのだから、起動できんだろう?


 私は裁判にかけられて処刑される身の上だ・・・、せめて辞世の句でも書き留めておきたいものだ・・・もちろん、その時にはアクセスパスワードは教えるがね。」


「分かりました・・・残念です・・・、本当の首謀者を明らかにしていただければ、極刑は避けられるよう弁護するつもりでしたが意志は固そうですね・・・。

 裁判は1週間後の予定です・・・、コントロール装置はあとでもってこさせます。」


『ガチャッ』

「どうでした?」

 赤城がドアを開けて出て来たばかりの霧島博士に声をかける。


「いや・・・娘のことも話して首謀者のことを聞きだそうとしてみたが、頑として話そうとはしない。

 自分一人ですべての罪を背負って処刑されるつもりなのだろう。」

 霧島博士が取調室の前で待っていた俺たちに、残念そうに説明してくれた。


「そうですか・・・、向こうの世界の霧島博士のせいでは決してないのだと思いますがね。

 車だってなんだってそうですが、扱う人によってそれが非常に便利な乗り物であったり、あるいは人の命を奪う凶器になったりするわけです。


 決して次元移送装置を作ったから起こったこととは、誰も思っていないはずですが・・・。」

 俺は、そんな霧島博士を元気づけようとしてみた。


「まあそうなんだけどね・・・、だがまあ・・移送器がなければ別次元への干渉もできなかったわけで・・・、そのことを悔やまれると何とも・・・。」

 霧島博士が至極当然のことを説明してくれる・・・確かにそうとも言えるのだが・・・。



「おおい・・・どうだあ・・・?」

「こっちは何もありません・・・。」

「こっちもです・・・。」


『ぴちょーん・・・ぴちょーん』大きな下水配管の天井部分からたまにしずくがしたたり落ちてくる中を、ひたすら両壁に沿って進み壁に開いた穴を探す。

 ここは北九州市内を縦断している下水の本管内で、霧島博士が指定した地下基地があるという座標に円盤で飛来した、ちょうど真下の位置に当たる。


 地下基地自体はもっと地下深く、5,60m地点だろうが、そこからこの下水の本管を経由して地上へ出たのではないかと見当をつけて捜索を続けているのだ。


 福岡の強奪基地もこの近くに存在していたため、信ぴょう性が高い情報だ。

 ほかにもアメリカやインドなど、知らされた座標へ円盤で赴き地下施設を探っているはずだ。


「あっ・・・これじゃあないですかね・・・。」

 ひときわ体の大きな男が、直径5mほどはありそうなコンクリート製の下水本管の上部を指さす・・阿蘇だ。


 奴の指さす方を見ると、管の上方4mくらいの高さに、直径1m程度の横穴が開いている。

 こんな位置に地上へのマンホールなど作るはずもないので、恐らくこの穴はマシンが開けたものだろう。


「阿蘇よ・・・確かにマシンが開けた穴っぽいが、この穴は位置から考えて地上へ出るためにあけた穴ではないのか?

 もっと別なところに、地下から辿ってきた穴があると思うぞ。」

 折角見つけてくれた阿蘇には悪いが、俺はまた下方向を捜索し始める。


「いや・・・ここは下水の本管だ・・・、恐らくマシンがこの管に到達した時点でそれは向こう側も認識したことだろう。

 そうなると管の下方向に穴をあければ、常に汚水が地下空間に流れ込むという事が明白だ。

 それではせっかく土砂を向こう側世界に送り込んで、地下空間を作り上げた意味がなくなってしまう。


 また、流している汚水量の変化に気付かれると、地下基地の存在が明らかになってしまう恐れもあるわけだ。

 だから管の上部に穴をあけて、汚水が入り込まないようにしたとも考えられる。


 なにせ地上の強奪基地は、まだここから3キロほど向こうだ・・・、下水管を辿って行って、恐らくそこにも上側に穴が開いているか・・・、若しくは器用にマンホールを使って地上へ出たかしたのだろう。」

 すぐに赤城が来て、穴の様子をうかがおうと背伸びをする。


「分かりました・・・、それではマシンを中に入れてみましょう。」

 ハンドアームマシンを起動させているので、持たせていた荷物をその場において、すぐに穴の中に入れてみる・・・。

 穴は確かに上方へは向かわずに、配管の外側を伝って下側迄移動したのちに、急激に下方へ落ちて行っていた。


「出ました・・・、通信装置や小さな次元移送装置などがあるようですね・・・、確かにここは地下基地へつながる穴のようです。


 でも・・・どうします?あの穴までは脚立を利用すれば、上れないことはないですが、下へ向かう穴の角度はほぼ直角に近いと思います。

 落ちても大変ですが高さも随分ありますので、一旦降りた場合は登ってくるのも容易ではないと思いますよ。」


 コントロール装置のモニターを通じて、地下基地の様子を確認する。

 地下基地なんて所詮は人が出入りすることを想定してはいないからな・・・、宙を自由に行き来できるマシンが通るだけだから、こんなとんでもないルートができるわけだ。


 霧島博士だって九州基地経由でフィリピン マニラの位置座標が明確になった円盤内へ次元内移送しただけで、この穴を使って地上へ出ようとしたわけではないからな。


 考えてみれば、東京基地はちょうど地下鉄の線路が近くを通っていたからこそ、土中のトンネルがそれほど長くはなかったし、廃線のホームなどを辿って簡単に地上へ出られたが、もしこんな状況であったなら、俺は穴倉から這い出ることもできなかっただろう・・・。


「仕方がない・・・我々が直接基地に入ることはできそうもない・・・、マシンだけで向こう側世界へアクセスする事は可能かね?」

 赤城が心配そうにコントロール装置の画面をのぞき込む。


「はい・・・まあ何とかなるでしょう・・・、ハンドアームマシンであればそれほど難しい作業ではありませんよ・・・、じゃあ、一旦戻って無停電電源装置など運び入れましょう。」

 すぐにハンドアームマシンを上昇させ、先ほど置いた荷物を取りに戻る。


「順三さんのマシンの画像を見る限り、次元移送器も基地内にあるようですし、必要なのは電源だけですよね?

 だったら僕のマシンで運び入れるから大丈夫ですよ。」

 すぐに大雪君が自分のマシンが持っていた荷物をその場において、俺が先ほど降ろした荷物を持って穴の中にマシンを入れる。


「穴はちょうどマシンの大きさだから、ハンドアームが当たらないように横向きで入れるようにね・・・。」

 念のために大雪君に指示を出す。


 大雪君の操作するマシンには次元移送装置を2セット持たせ、俺が操作するマシンには無停電電源装置を4セット持たせていたのだ。

 恐らく向こう側世界の地下基地にも次元移送装置があるだろうから、こちらからは当初の通信用の次元移送装置1セットと電源だけ持っていけばいいという事になる。


「では、まず俺のマシンとここにある次元移送装置を向こう側世界へ送り届けます。

 うまくアクセスできれば、続いて大雪君のマシンも次元移送してもらうことになります。」


 案の定、地下基地には1mと30センチと1センチの次元移送装置のセットが見つかったため、そのうちの1センチのセットに無停電電源装置を繋げ、更に1mのセットの枠内に俺のマシンとともにおいて、無停電電源装置を繋げ電源を入れる・・・とすぐに俺のマシンは消失してなくなった。


 それからリモートで無停電電源装置のスイッチを入れると・・・、俺のコントロール装置に向こう側世界の地下基地の様子が映し出された。


「どうやら俺のいた東京基地内とほとんど変わらないレイアウトのようですね・・・、これならコントロール装置やその他の備品類の捜索はかなり楽と考えます。

 まずは・・・床板を剥いで・・・、次元移送装置の確認ですね・・・。」


 通信が可能となり向こう側世界の様子が分かるようになったので、床板を剥いで通信器具の確認を行う。

 すると・・・ビンゴ・・・、床下には高さ1mの次元移送装置のセットが見つかった。

 これに無停電電源装置をつなげば、向こう側世界から物資を送り込むことが可能となる。


「ようし・・・、じゃあ大雪君・・・、君のマシンも向こう側世界に送り込んでくれ。

 狭い室内ではあるのだが、収集するアイテムは意外と多いから、2台のマシンで行った方が効率的だ。」


「はいっ・・・分かりました。」

 すぐに大雪君はマシンをコントロールして、電源を入れたままの次元移送装置の範囲内に突入させる。

 俺が床下にあった次元移送装置のプラグを無停電電源装置につなげたころ、1台のハンドアームマシンが現れた。


「じゃあ、大雪君は机の上にあるコントロール装置の回収をお願いする。

 コントロール装置にはそれぞれジョイスティックとグローブがついているから、コードを切らないように注意して持ち上げてくれ。


 俺は棚にある資料とかケーブル類を回収する。

 それらを一度送り込んでから、その後は無停電電源装置を床板をはがしながら回収しなければならないから、恐らく3往復ぐらいはしなければならないだろうね。」


 大雪君に、基地内の備品を運び出すときの大変さを説明する。

 なにせ、以前は数回に分けて行われたのだ・・・、それを今回は一度にだなんて・・・、しかも直接地下基地に入ることが出来ずに、ハンドアームマシンだけで行うだなんて・・・。


「分かりました・・・、コントロール装置は慎重に扱う必要性があるのでしたよね・・・、任せてください。」

 大雪君は、少しも振動を与えないように注意しながら、ジョイスティックやグローブのついたコントロール装置を、次元移送装置の枠内に次々と運び入れていく。


 凄いな・・・俺も感心してばかりもいられないので、部屋の隅にあるロッカーの中の小物類を収集しにかかる。

 うまくいけば予備のコントロール装置や備品が見つかる可能性もあるため、慎重に一つ一つ確認していかなければならない。


「じゃあ、まずは1回目の次元移送だ。」

 向こう側の無停電電源装置のスイッチをリモートで入れると、コントロール装置からの映像がコンクリートの壁から瞬時に土ばかりの洞窟に切り替わる・・・、次元移送してきたのだ。


 すぐにコントロール装置や備品類・・・、もてるだけ持って縦穴ともいえる急こう配の穴を上昇していき、コンクリート壁に沿って弧を描くように上昇し、その先は下水の配管上部の穴に到達する。


「ようし・・・、まずは第一陣だ・・・悪いがこれらを慎重に地上まで運んでくれ。」

 すぐに赤城が同行している兵士たちに命じる・・・、地下基地までは無理でも下水配管内なら荷物の運搬が可能と、地元の軍の兵士たち・・・以前の自警団員たちに直接申し込まれ協力をお願いしたのだ。


 地下深くから運び出したコントロール装置とケーブルなど備品類を兵士たちに手渡しし、身軽になった後でもう一度縦穴を降りていく・・・。


 ハンドアームロボットとはいえ、狭い縦穴を通過させる必要性があるので一度に運べる量にも限りがある。

 そのため、これを十数回繰り返した・・・、九州基地にも100インチの液晶モニターがあったが、地下基地まで運び出しただけに終わった・・・、この後どうするのか俺にはわからない・・・。



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