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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
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霧島博士

9 霧島博士

「分かりました・・・、では地下基地の位置情報を教えてください。

 ですが・・・その情報を頂いたからと言って、あなたを無罪放免するという事ではないことを、あらかじめお断りしておきます。


 霧島博士は以前無線通信の際に、こちら側世界に対して強奪行為を繰り返した犯罪者集団の首謀者の一人とおっしゃっていましたよね?

 そうなりますと、その罪と課せられる罰を確定するために裁判にかけられることになります。


 恐らく裁判は日本で行われますが、世界政府の法律で裁かれますので、どの国の裁判でも同じ裁定が下されるものと考えております。


 どこか希望される地域や国などございますか?

 植民地以外であれば、ご要望に応えますよ。」


 少し考えてから赤城が切り出した・・・、尋問のようなことはしたくはないのだろう。

 証言などは裁判で得るつもりだろうか・・、それよりも俺の場合はいやおうなしに日本で裁かれたのだが、流石に大物となると扱いが違う・・・、裁判にかけられる国まで指定できるとは・・。


「いや・・・このまま日本で裁判していただいて構わないよ・・・、刑に服すなら日本の刑務所がいいし、処刑されるにしても・・・日本がいいさ・・・。」


 そう言って、またもや微笑む・・・、ううむ・・・処刑って・・・極刑も想定しているという事か。

 まあそうだろうな・・・、俺だって死刑判決だったものな・・・。


「では・・・、私が持ち込んだ・・・コントロール装置を持ってきていただけるかね?

 あれに詳細座標が記録してある・・・、もう一台コントロール装置を持って来ていただければ、通信で位置情報を送付してあげるよ。」


 霧島博士のリクエストにお答えして、すぐに彼のコントロール装置が取調室に運び込まれる。

 俺は取り調べ内容を録画するためにコントロール装置を持ってきていたので、それを同じ机の上に乗せる。


「すみませんが・・・ウイルスの危険性もあるので、テキストメールだけでお願いしますね。」

 念のために、添付ファイルは無用と告げておく。


「ああ、分かっている・・・、位置座標の情報だけだから、メール本文だけでも十分だ。

 ほい・・・もう送れた・・・。」


 霧島博士の言葉と同時に、俺のコントロール装置にメールのアイコンが出現する。

 すぐにダブルクリックして開くと、5つほどの座標情報が記載されていた。


「正確な位置座標が分かっている地下基地は驚くほど少ない・・・、先ほども言った通り公共建築物や史跡など・・・、特異的な番地に設定されない限りは、位置情報など把握する必要性などはなかったわけだ。


 九州の基地は新幹線駅の真下に建築せざるを得なくて、真上からの工事はできずに横から穴を掘り進んで建築したために、メンテナンス用として正確な位置座標を把握しておく必要があったわけだ。


 そのほかにもアメリカニューヨークの秘密基地は・・、これまた博物館の地下に建造され・・・、インドの地下基地は有名な寺院の真下に建造された。


 地下基地建造に当たっては、双方の地下空間の作成及び長期的安定のために、過去に湖沼や河川であった地域を除き、岩盤系や砂岩系ではない、粘土質の土質が好まれたわけだ。

 地域も限定されるから、選択肢がないと無理をしてでも建造するしかなかったわけだね。」


 霧島博士が、わざわざ公共施設地下に基地を作成した理由を説明してくれる。

 それでも位置情報が分かっている・・・、無理に特殊な場所に作り上げた基地は世界中でも5ケ所だけだったという訳か。


 まあでも・・・、これでさらに50台ほどのコントロール装置を手に入れられる可能性が出てきたという訳だ。

 ほかにもカードリーダー含めて配線系や予備パーツなども・・・。

 これらも植民地から輸入することが可能になったとはいえ、数量限定されてしまっているわけだから、秘密理に確保できるものは非常にありがたいことだろう。


「では・・・地下基地の位置情報が判明した国及び近隣の円盤所有国へ、データを送信してきます。

 阿蘇よ・・・、悪いが関係国の担当者に円盤に乗り込んでメールを待つように無線連絡してくれ。」

 すぐに席を立って、円盤へ向かう。


「いいよ、そんなことしなくても・・・緯度や経度などの位置情報だろ?

 そんな情報だったら無線連絡で十分さ・・・、定時連絡の時に連絡しておくから座標を書き出しておいてくれ。」


 そう言って簡単に断られてしまった・・・・、赤城もその通りだとばかりに大きくうなずく。

 ううむ・・・メールを転送した方が、書き間違いや言い間違いがないのでいいのだがな・・・、だがまあ・・・、何でもメールに頼るのはデジタル世代の俺だけだろうか?


「では・・・引き続き向こう側世界がこちら側に対して行ってきた、強奪行為に関してお伺いいたします。

 霧島博士も首謀者の一員という事でしたが・・・、ほかにはどのような方がいらっしゃいますか?


 国を挙げての組織的な犯罪だと考えております・・・、各国の首脳以下多数の関係者がいるとみて間違いはないでしょうか?」

 いよいよ赤城が本題に入る。


「ふうむ・・・強奪行為の首謀者かね・・・、私にはわからんね・・・。

 私が次元移送器を発明したのだから、私一人が首謀者という事でいいのではないのかね?」


 すると霧島博士らしい一言が・・・向こう側世界の霧島博士も、こちら側と同じような性格なのだろう・・・といっても同一人物なのだから、当たり前のようにも感じるが・・・。


「でも・・・俺がガードマシンを操作するために雇われた会社の日本支社長や、アジア地区担当の上席部長といった面々は、次元を超えてこちら側世界から強奪行為を繰り返していたことを知っていました。

 恐らくは本社の社長以下役員に関しては周知の事実だったはずです。


 このような会社が世界中に何社あったのか俺にはわかりませんが、相当数の人間が知っていたはずですし、その多くは今も各シェルターの中で生き延びているはずです。

 そのほかにも・・・強奪してきた食料物資の流通を円滑に進めるためにも、どこから調達してきたのか明確にする必要性があるわけです。


 なにせ突然、肉や野菜が出現してくるわけですからね・・・、その食品の安全性を保障するためにも起源を明確にする必要性があるわけですが・・・、恐らく各国の代表者クラスは全て知っていたはずです。

 こちらも・・恐らく核シェルターの中に・・・。」

 俺は真の首謀者と言えるのは霧島博士とは別に、もっと大量に存在するのだと確信している。


「ふうむ・・・向こうの出身者の君に言われてしまうと・・・なんとも反論しがたいところだが・・・、私は次元移送器を発明はしたが、対象となる次元に関してまでは聞いていなかった。

 なにせ、このように知的文明があるどころか、我々と同じように文化的な生活を行っている世界から強奪行為を行っていたなどという事は、皆がシェルターに避難してきた後・・・というか最近知った次第だ。


 次元移送器を使って別次元から食料物資を調達するという事は知っていたが、まったく知的文明のない原始時代のような世界を見つけたから、そこで牧場や農場を作り上げ家畜の飼育や作物の世話をするというので、円盤の外形構造を設計した。


 もちろん恐竜とまではいわないが、猛獣などに家畜たちが襲われた場合を想定して、ガードマシンのような武装マシンも積み込むといわれたね。

 異世界の広大な農場からの収穫で、食糧危機は回避できているはずだった。


 私には、どこか人里離れた農場の映像が送られてきていただけで、まさかこのように我々が住んでいるのとほとんど変わらない世界から、無理やり食料物資を強奪していたなどとは想像もしていなかった。


 だが全ては私の責任であることに間違いはない・・・、私が次元移送器を発明しなければ、このような暴挙など到底できなかったことなのだ。

 私が首謀者という事で、向こう側施内の生存者までは罰しないと約束してくれ。」


 霧島博士はそういって、席に着いたまま深々と頭を下げる。

 どうやらすべての罪を一人で被るつもりのようだ・・・、霧島博士らしい。


「そうは参りません・・・、何も知らされずに我々世界から強奪された食料を得ていただけの人々ならともかく、こちら側世界の状況を知ったうえでなおかつ食料物資の強奪に踏み切った首謀者たち・・・、彼らは罰せられるべきと考えております。


 なにせ我々世界の人口が少なく、文明が遅れていることがこの世界をターゲットとして選んだ理由だと、最初に向こう側世界とコンタクトが取れたときに伺っておりますのでね。

 自分たちが圧倒的有利な状況で、我々に恐怖を与えながら否応なく強奪行為を繰り返したのです。


 さらに食料物資の強奪行為だけではなく、人的被害も多数報告されております。


 犠牲者は、強奪行為を阻止しようとした軍隊や警察関係者のみならず一般人にまで及んでおり、実存する世界からの強奪行為とはしらされずにガードマシンをコントロールしていた操作者たちまでにも、罰を受けさせるべきだという意見がもっぱらなのです。


 今ここにいる新倉山君を除いて・・・ですが・・・。


 彼は向こう側世界からの強奪行為を一時期だけでも食い止めてくれましたし、更に彼が属していた強奪チームは、途中から一切の破壊行為や殺戮行為を行わなくなりました。

 さらに、こちら側世界に次元移送してきてからは、向こう側世界との戦いに協力してくれています。

 今ではこちら側世界の大切な戦力となっております。


 もちろん・・・ガードマシンやハンドアームマシンの操作者に関しましては、死刑などの極刑は行われないでしょう・・・、我々も新倉山君を通じて、向こう側世界の人々たちの行動や考え方が分かってきました。


 彼らはあくまでもゲーム・・・と言ってもこちら側世界でいうゲームとはどうやら異なるようなのですが・・・、バーチャルゲームと理解して、自分の役割を果たしていただけという事を把握しております。

 そのため操作者に関しては、それほど重い罪に問わないつもりですが、首謀者ともいえる企業のトップや各国の首脳に関しては、やはり重い罰が待っております。


 それらの人々の存在を明らかにして、まずはこちら側世界に送り込んでいただいたうえで、相応の罰を与えたうえでないと、我々は向こう側世界からの移住に応じるつもりはありません。」

 赤城がきっぱりと答える。


「ふうむ・・・以前無線でやり取りしたときと、変わってはおらんという事だね・・・残念だ・・・。

 こちらがそのような態度では・・・、向こうから移住してこようとする輩は一人もいないだろう。


 当時の状況の説明を受ければ君たちにもわかるはずだ・・・、いかに向こうの世界が切羽詰まった状態だったのかを・・・、それを回避するためには必要な行為だったと言えるはずだ・・・。」

 霧島博士は、自分は知らされていなかったこちら側世界からの強奪行為を、それでも肯定しようと弁明する。


「いかなる事情があったとしても、我々が住んでいる世界から次元を超えて強奪したことを認めることはあり得ません。

 あなたたちの世界が危機に瀕していたとしても、それはあなたたちの世界だけの問題であり、我々の世界に干渉する理由にはなりえないでしょう。


 まあ、この議論はどこまで行っても平行線でしょうから、質問を変えましょう。


 霧島博士は、こちら側世界から強奪行為を繰り返していたことをご存じなかったと先ほどおっしゃいましたが、それでも地下シェルターに避難していたから、生き延びられたのだと考えます。

 報告を受けていたように原始世界に構築した農場であれば、核による反撃などと聞いて違和感は覚えませんでしたか?


 恐らく避難勧告を受けたのだと思いますが、どうして核シェルターに避難されましたか?」

 赤城が核心をついたような質問を・・・、でもさっき霧島博士は最初から地下にいたと言っていなかったか?


「私は核シェルターに避難指示を受けて避難したわけではないよ・・・、私が研究を行っていた地下研究所がたまたまシェルターを兼ねていたというだけのことだ。

 なにせ地下深くは気温が安定しているから・・・昆虫を生育させるのに適している・・・大学の研究室として与えられていた場所なんだがね・・・。


 私は数学者であると同時に昆虫学者でもあるのだ・・・といっても害虫研究が主なのだがね・・・。

 稲作に多大な被害を与えるイナゴや人の命に係わる殺人バチなど・・・、大量発生して手が付けられないような昆虫類を、一括して駆除するために移送器を発案した。


 4つのポールで囲まれた空間の中に入り込んできた昆虫類を、素粒子レベルにまで分解してしまう装置だったのだが、分解して得られたエネルギーの行き先がなく、試作機は数匹吸い込んだだけで大爆発してしまった。


 それからは別の場所へ移送する・・・つまりエネルギーの放出先をつくる事を考えついて、移送先として人跡未踏の地や極地などが候補として挙がった。

 しかし、生態系が狂ったり環境汚染となる懸念があったため、移送器が使われることはなかった。


 そこで並行世界のことを思いついたのだな・・・、別次元世界へ移送してしまえば、少なくとも自分たちの世界では被害を免れる・・・、そう考えて候補の次元選びを農機具メーカーに託したわけだ。


 そうこうするうちに害虫の移送先次元として適当なところが見つかり、更には原始世界なのでそこで農場を作って食料問題を一気に解決するという報告を受けたという訳だ。」

 霧島博士は、明確に答える。


 そうか・・・昆虫学者か・・・、だから生体の次元移送実験に昆虫類が使われたという訳だな。

 核シェルターだから、人優先でペットなど断られたのだろうが、もともとその場で昆虫の研究をしていたという訳だ。


 それでも移送実験したのが益虫でよかった・・・、殺人バチなど送られていたらドーム内はパニックに陥っていたことだろう・・・。


 だがまあ・・・そんなことすればいくらなんでも気づいていたのか・・・、フィリピンの自然に紛れ込まそうとしたのだから、やはり昆虫・・・しかも益虫か・・・、それでもこちらでは生体移送の可能性に気づいたわけではあるが・・・。


「霧島博士ご自身が、積極的に我々の世界に対して強奪行為を働きかけていた首謀者ではないという事は、理解いたしました。

 証人など第3者はいませんが、まあ・・向こう側世界と通信したところで、正しい証言が得られるとは思っておりません。


 ですので、今得られた霧島博士ご自身の証言をもとに裁判を行わせていただきますが、よろしいでしょうか?

 ご自分を弁護する証言をもっとされてもよろしいですよ。」

 赤城が、これ以上質問をしても明確な答えは得られないだろうと判断したのか、裁判へ移行することの賛同を促す。


 まあそうなのだろうな・・・、口は堅そうだから向こうの核シェルターの状況など話しそうにないし、更に強奪行為に関してはまったく知らされていなかった可能性が高い。


「いや・・・、もう十分だ・・・。」

 そう言って霧島博士はにっこりと微笑んだ・・・、和やかな性格のひとだ。



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