懐かしい声
8 懐かしい声
「撃墜されたマシンはすぐに阿蘇に予備のマシンをあてがってもらってくれ、あのマシンは危険なので俺が相手をするから、他の2台は上空待機してくれ。」
すぐに1機撃墜された編隊に指示を出す。
そう・・・コントロール装置は100台しか製造できず、これから新規製作される円盤のためのものと、各円盤所有国への配分も考慮され、日本には8台しか分配されなかった。
円盤に付属のガードマシンは10台だけだから、俺と大雪君の2台加われば足りるし、日本ではほかにも霧島博士と阿蘇が1台ずつ所有しているから、これ以上は要求できなかった。
それでもガードマシンは捕獲した予備がほかにもあったので、倉庫に20台ほど忍ばせて待機させていたのだ。
戦闘で破壊された場合の予備マシンだ・・・、ちなみにこちらも黄色く塗ってある。
戦闘には参加しない阿蘇のコントロール装置を操作室のコントロールパネルに接続させているので、これでマシンを振り分けることが出来るのだ。
ちょっと卑怯な気もしていたのだが、向こうはいきなり20台で攻めてきたわけだから、おあいこというか・・・1台くらいの補充じゃまだ足りないくらいだ。
『ヒュンッ・・・ヒュンッ』『ヒュッ・・・ヒューンッ』すぐに先ほどの1台に近づいていくが、ちょっと変則的な飛び方をされて、簡単にかわされてしまう。
『ヒュゥーンッ・・・ヒュッ』それでもスピードを緩めず、すぐに方向転回して相手の背後に回り込もうとする。
「新倉さん・・・ですか?ラッキョウです。」
すると突然、マシンが空中で静止してコントロール装置から懐かしい声が・・・。
「ああそうだ・・・、今は本名の新倉山で呼ばれることの方が多いがね。
久しぶりだね・・・元気だったかい?」
すぐに表示されているIDに通話者を変更して会話モードにする。
ラッキョウの声を聞くのは何年ぶりだろう・・、途中から所長以外との会話がほとんどなかったからな。
「やはりそうですか・・・、他は3機編成なのに単機で突入してきたり、更にフィリピンでのトラブル時には新倉さんがちょくちょくいらっしゃっていたので、そうじゃないかと思いました。
すごいですね・・・ガードマシンの戦闘フォーメーションですか?
そういえば、そちら側では軍隊が関与しているのでしたよね・・・、こちら側のようにただのゲームオタクの集団とは異なり、フォーメーションを組んで敵をせん滅するという作戦・・、見事に大成功と言えますね。
それもこれも新倉さんのお力と言えるのでしょうね・・・・流石です。
円盤に積めるマシンのリミット20台すべてをガードマシンにして戦闘を優位に進めるつもりでしたが、どうやら作戦負けのようです。
これ以上マシンを犠牲にするわけにも参りませんから、我々は引き揚げさせていただきます。」
そう言ってラッキョウのマシンはすぐに下降していき、その後を追うように数台のマシンが続く。
ほうそうか・・・20台あったマシンが数台にまで撃墜されたという事だ・・・、戦闘フォーメーションによる作戦勝ちというのは本当のことのようだな。
それにしても・・・ラッキョウがすぐにあきらめてくれたので助かった・・・、あいつなら1台だけでもこちらの半数は仕留めることも可能だっただろうに・・・。
しかも戦闘フォーメーションは米軍からのアイデアだし・・・、いずれ訂正しておかなければならないな・・・。
さてと・・・。
「所長・・・聞こえますか?
どうやらマシンによる抵抗は、無駄に終わりましたよ・・・。
円盤を操作している人に言って、フィリピン行政府の役人を円盤内に引き上げていただけませんかね。
そうしていただけないのであれば、不本意ながら円盤に向けて攻撃させていただきます。
もちろん、この場で墜落させるわけにもいきませんから、エンジン部分を破壊して航行不能にする程度ですがね。
円盤の設計図を頂いたおかげで搭載武器もすべて把握しておりますし、攻撃すべき個所も分かっておりますよ。」
すぐに所長のIDに通信先を切り替えて、マイクを使って呼びかける。
「・・・・・・・・・・・・これは内政干渉以外の何物でもありませんよ・・・、植民地への暴力による侵害です。
武力をもって行うという事であれば、こちらからもそれ相応の対応はとらせていただくことになりますよ。」
ところが所長は、こちらからの要求に応じるつもりはない様子だ。
こちらから円盤に対して攻撃を仕掛けてくるはずはないのだと、安易に考えているのだろうか・・・。
確かに人がリモートコントロールしているだけのマシンであれば俺も気楽に破壊できるが、人が乗り込んでいるかもしれない円盤を撃墜するのは気が引ける。
それでもエンジン部分だけをピンポイントで狙い撃ちして、航行不能にするくらいの自信はあるのだ。
「もういいじゃあないか・・・我々の負けだ・・・、こちら側世界では我々の考えなどすべてお見通しのようだ。
潔く降参するとしよう。」
すると別な回線から声が聞こえてきた・・、聞きなれた声だが・・・すぐに表示されるIDも通話先に加える。
「霧島・・・博士でしょうか・・・?以前お話していただいた・・・。」
とりあえず相手を確定しておくことにする。
「そうだ、霧島だ・・・。
所長さんは私の身を案じての返答をしていたまでで、他意はないはずだ。
円盤に中にいるのは私一人だけ・・・、もちろん乗り込んでこられて調べていただいても構わんよ。」
すると突然信じられない言葉が・・・、円盤の中に・・・???
「えっ・・・円盤の中というと・・・、霧島博士は次元間移送されてきたという事でしょうか?
そうして無事に生きていらっしゃると・・・?」
これは驚きだ・・・、ううむ・・・やはり生体の次元移送は現実のものとなっていたという事なのか?
俺としてはただ単に、移送先を作ろうとしても無駄だと前もって知らしめておくつもりだけであったのに・・・。
というか・・・、まさか霧島博士本人自らがやって来るとは・・・。
「ああ・・・、とりわけ驚くことでもないだろう?
何より君が生体での次元間移送の、最初の成功者なわけだからね・・・。」
霧島博士の冷静な一言が、胸に突き刺さる・・・。
思えば、ずいぶんと無謀なことをやったものだ・・・、たまたまなのか偶然なのか・・・何にしても素粒子に分解するときの分解速度が俺の場合は安定していた・・・とかだったかな?
「分かりました・・・、まずはフィリピン行政府の役人たちを円盤の中に転送していただけますか?
さすがに我々が直接踏み込むことはできませんので・・・。」
すぐに赤城が、コントロール装置のマイクに向けて話しかける。
「分かった・・・、では円盤下の6人を収容すればいいわけだね・・・。」
ガードマシンを下方に移動させると、すぐに黄色い光が円盤下部から照射され、円盤下で待機していた6人が円盤に吸い込まれるようにして上昇していった。
「はい・・・はい・・分かりました・・・。
フィリピン行政府から、世界政府に向けて連絡が入ったようです。
1号機円盤の中にいた人物は、霧島と名乗る日本人という事です。
彼は向こう側世界の人間であり、投降すると言っているそうです。」
無線機からの連絡を受けた阿蘇が、赤城に告げる。
「分かった・・・円盤を降下させてくれ・・・、霧島博士を収容しよう。
日本で取り調べることになるだろう。」
赤城の指示で、フィリピンの円盤と同じ高さまで高度を下げていく。
同時にマシンのカメラで地上を映し出すと、いつの間にか白髪のスーツ姿の男性が地上に降り立っていた。
彼が向こう側世界の霧島博士だろうか・・・、ちょっと距離があるのでマシンのカメラで顔までは確認しにくいが、手に持っているのはコントロール装置に間違いがない。
「霧島博士・・・収容しますので、こちら側円盤の下方に来てください。」
すぐに赤城が、コントロール装置のマイクに向かって呼びかける。
それに応じて、地上の人物が円盤真下まで歩いてきた。
「大変申し訳ありませんが、お手持ちのコントロール装置は電源を切って置いていただけませんか?
この円盤の制御系含めて、全てが霧島博士の設計と思っております・・・、絶対的な管理者権限など設定されていても困りますので、申し訳ありませんが電源を切ってください。」
非常に情けないのだが、安全のために霧島博士が持っているコントロール装置は停止させることにする。
拘束とかしたくはないため、仕方がないことだ・・・。
「分かった・・・これから電源を切るから、手をあげたら円盤へ収容してくれ。」
霧島博士は落ち着いた口調で、文句も言わずに従ってくれる様子だ。
「では、霧島博士を転送ビームで収容します。」
霧島博士が右手を上げ、マシンを使って手に持つモニター画面が消灯しているのを確認したうえで収容する。
「じゃあ、すぐに俺が倉庫へ迎えに行って客室へ連れていくから、このまま日本国軍司令部へ向かってくれ。」
すぐに赤城が操作室を出て霧島博士を迎えに行く。
「今回の移送実験は、次元移送器の発案者である私一人のみで、他の植民地含め私の他に移送者はいない。
生体実験は繰り返したが、所詮はカブトムシや蝶などの昆虫類が主であり、サルや犬などの動物実験は全くできなかった。
なにせ核シェルターという性格上、避難できたのはごく一部のいわゆる選ばれた人々のみであり、備蓄の食料の関係からもペットなどの収容は基本的に見送られた。
唯一、私が実験用に飼っていた昆虫類だけが自由にできる、試験サンプルだったという訳だ。
なにせ東京地区の核シェルターのうちの一つは、私が地下実験室として使用していた施設を含んでいたようだからね。
それでも昆虫は完全に生きたまま移送可能と分かり、人体への安全性を宣言はしたのだが、最初の次元移送希望者は皆無だった・・・、まあ安全性を確認してから・・・という気持ちもわからんでもない。
当然、発明者である私自ら名乗り出て、晴れある2人目の次元移送成功者となったという訳だ。
さすがに私が手をあげたら多くの人々が一緒に次元移送すると手を挙げたのだが、いかんせんろくに動物実験もできていない装置のため、まずは私が一人だけ移送してみると皆を説き伏せてやってきたという訳だ。
次元移送に失敗することを恐れていたわけだが、それよりも君たちの迅速な対応にやられてしまった。
いかに危険を冒して次元移送してきても、すぐに包囲され逮捕されてしまうのでは、向こうの世界の穴倉に閉じこもっていた方がまだましだ。」
白髪の老人は、日本国軍本部の取調室のパイプ椅子に座って快活に答える。
顔のしわなど見た目から察すると、恐らく60どころか70歳を超えているのではないだろうか・・・予想通り、こちら側世界の霧島博士とは、30歳近い年の差はあるだろう。
それでも背筋もしゃんと伸びていて、元気な様子ではある。
「そうですか・・・、向こう側世界の核シェルターには、一体どれだけの人たちが暮らしているのですか?
霧島博士のいらっしゃったのは、東京の核シェルターの一部とおっしゃいましたよね?
ほかにはどの都市に、いくつあるのかお分かりですか?」
赤城が、メモを取りながらゆっくりと質問をする。
「ああ・・・そのことに関しては・・、下手をすると向こうの住民たちの生活に直接影響しそうだからな・・・・、申し訳ないが教えるのは勘弁してくれ。
なにせ秘密裏に移送してくることが叶わなくなってしまう。
それよりも・・・主要都市の地下に存在する、地下基地の位置を知りたくはないかね?強奪マシンの操作を行っていた地下基地だ・・・。
実をいうと私は九州福岡の地下基地経由で、この世界へ次元移送してきた。
といっても座標が分かっている地下基地というのは非常に珍しいのだがね・・・九州の案件は、ちょうど地上施設が新幹線の駅という事から、たまたま正確な位置座標が特定できた。
ほかの地下基地に関しては番地情報しかないから、正確な位置情報を把握することは今となっては困難なわけだ・・・、番地のひと区画は地域によっても異なるが、都市部でも数十メートル四方はあるし、今となってはGPS衛星を使って確認することが出来ないからね。
番地情報から衛星画像を使ってビルを選択して、その位置座標を・・・とするにも目印となるビルが破壊されてがれきとなってしまっているから無理だな・・・。」
霧島博士は、もっともらしいことを言ってにやりと笑みを浮かべる。
このことに関しては、すでにこちらの世界の霧島博士が予想していたことだ。
「ほう・・・地下基地の場所をですか・・・、それはすごい情報ですね・・・、今回の次元移送は地下基地を経由してこちら側世界へいらっしゃったという訳ですね?
そんな貴重な情報を、渡してしまっても大丈夫なのですか?」
霧島博士の発言にすぐに赤城が飛びついた。
「ああ・・・、まあ今回はあくまでも次元移送実験という訳だから、狭い地下基地を経由してこちら側世界へ移送してきたのだが、地下基地経由では一度に数人ずつくらいしか移送してはこられないだろう。
地下基地の広さから言って移送可能な人数の制限がある・・・、向こうの地下基地はもう少し広いのだが、それに対応するこちらの地下基地の広さは地下に掘り進んだ穴倉だから非常に狭いからね。
さらに穴を掘っただけで固めてはいないから、崩落の危険性が常に付きまとうわけだ。
そんな場所を経由して次元移送では・・・、安定した計画などできやしない。
だから本格的に避難民たちの次元移送をする際には、それなりの地下空間を確保する必要性があるわけだ・・・それは別途計画中だ。
だから地下基地の位置情報を与えたところで、我々にとっては痛くもかゆくもない・・・我々の世界の避難民の数や位置情報など執拗に問い詰められた場合の交換情報として、了承を得て準備してきた。
それでも・・・君たちにとっては宝の山となるわけだろう?」
霧島博士が、またもやにやりと笑う・・・。
「向こうの連中は意識してはいないようだが、君たちが取得したコントロール装置やジョイスティックにグローブ・・・果てはカードリーダーなど・・・、これらは位置情報が分かっている東京基地から取得した物なのだろう?」
ううむ・・・すべてお見通しという訳か・・・。