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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
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円盤完成記念式典

7 円盤完成記念式典

『パーン・・・パパーンッ』祝砲が打ち上げられる中、広場では鼓笛隊によるパレードが始まった。

 白いハトが飛び大量の紙吹雪が降り注ぐ中、巨大な影がゆっくりと上昇を始める。


 天井部分に巨大なテント地を括り付け、空気を送り込んで内圧を高めドーム状にしていたのであろう、今はそのテントが取り払われてむき出しとなった天部から巨大円盤がゆっくりと上昇していき、地上から50mほどの高さで停止する。


 フィリピン マニラでの巨大円盤完成式典が行われているのだ。

 向こう側世界との申し合わせにより、円盤の完成日の通達はあったのだが、式典への招待状は送付されはしなかった。


 同時に世界中の植民地化された国や地域で同様の式典が行われる計画のようで、円盤の都合で8ケ所にそれぞれ担当地域の円盤が向かっているのだ。


「どうだ・・・、円盤には人が乗り組んでいる様子はあるか?」


「いえ・・・、昨日の朝から数時間かけて天井部を覆っていたテントを外していましたが、円盤がむき出しになってから16時間ほど経過しておりますが、円盤周辺に人が近づいた形跡はありません。

 円盤への人の収納は基本的には転送ビームしかありませんから、恐らく無人のままのはずです。


 でもまあ・・・もともとプログラムにより無人運転するための装置ですからね・・・、人が乗っていなくても当然のことなのでは?」


 手持無沙汰に操作室内をうろうろと歩きながら尋ねてくる赤城の問いに、遥か下の地上の様子を拡大したコントロール装置画面をのぞき込んでいる俺が答える。

 霧島博士の予想通りちょうど2ケ月後が円盤完成日として案内が来たので、訓練を終えたマシン操作者たちとともに、フィリピンへとやってきて式典の様子を遥か上空からうかがっているところだ。


 どうせ円盤の数が足りないのだから、1ケ所か2ケ所に対して数機の円盤を向かわせればいいのではないかという意見もあったのだが、今のところはまだ疑わしいだけであり、円盤の大群で押し寄せて何もないでは、相手の心証を悪くさせてしまう恐れもあり、それぞれ担当国が円盤を飛ばして監視を行うことになった。


 時差もあるため、何とか8機あれば同時開催ではない式典だから対応可能とみられているようだ。

 もちろん、まだこちら側の円盤所有数は向こう側世界に知らせてはいないため、植民地の数に対して円盤数が足りていないことは向こう側世界には知られていないはずなのだ。


「でも・・円盤が完成してしまえば、いつでもその座標を指定して移送してこられるのではないのですか?

 そうであれば記念式典は目立つから、後日という事になるのではないですか?」


 すると先ほどから、何度もため息をついていた大雪君が口を開く。

 そうか・・・確かにこんな目立つときに移送してくるとも思えないな・・・。


「いや・・・その点は霧島博士にも確認した・・・、地下鉄の自動改札もそうだが、円盤の自動運転も基本的に禁止する旨、各行政府には連絡済みだ。

 植民地の行政府の人間が直に乗船して操縦していただく。


 そのためのコントロール装置を使用しての操作手順書などは、以前に新倉山君に監修してもらい作成したものを送付済みだ。

 何よりその方が円盤同士での戦闘になりにくい・・・という半ば無理やり理屈をつけて行政府を介して交渉している。


 試験飛行を終えたら植民地行政府の手に渡るため、移送してくるのであれば今この瞬間しかないわけだ・・・、本当に生体の次元移送が確立しているのであればという事だがね・・・。


 移送してきてしまえば、ちょっと郊外へでも試験飛行して、人目につかない場所へ転送ビームで降りることも可能だからね・・・、円盤の倉庫の大きさから言えば一度に数百人は移送してこられるわけだ・・・。

 これを各植民地で10回行えば・・・、かなりの人数がこちら側世界へ移住してくることになる・・・、しかも秘密裏にね。


 恐らく向こう側世界の核シェルターに残っている人の数はもっと多いのだろうが、技術が確立したばかりの生体での移送は嫌だとして移住を望まない人も多いだろうし、これから先にも移住の機会は皆無ではないだろうから、何年かかけて順に行われるだろうと予測している。


 植民地内であれば、隠れて潜むこともうまく向こう側世界と連携していけば可能であろう。

 なにせ警察機構ともいえるパトマシンなど、自動コントロールだからパトロール範囲から外してしまえば、いいわけだ。


 ある程度移住してきた人々の人数が増えてしまえば・・・、地上で安全に移送できる座標が明確な場所も準備できるだろうし、そうなってから本格的に移住してくればいいわけだ。

 人数が多くなれば、植民地の行政府を掌握することも可能となるだろうしね。」


 赤城が厳しい顔をして告げる・・・ううむ・・・、やはり向こう側世界から本格的な移住が開始される可能性が強いわけか・・・。

 しかも最初はそれほど多くなくても済みそうな・・・、それでもキャパは数千人規模なわけだ・・・。


「でも・・・向こうは円盤で、しかも中が見えないわけですから人が移送されてきたのかどうかなんてわかりませんよ・・・、転送ビームであればあれは円盤下部が開いて出入りするから、視認可能ですがね。」


 こんな遥か上空から何時まで眺めていても、円盤内に人が移送されてきたのかどうかなんてわかるはずもない。

 移送されてきた人物が転送ビームを使って地上へ降り立ってくれればいいのだが、流石に式典の最中は目立つからそんなことはしないだろう。


「ああ・・・、さっきも言った通り試運転の時に郊外へ出て、そこで転送ビームで地上へ降り立つことが予想されている。

 移動中は正確な位置座標は指定できないから、試運転実施するまでには移送されてくると踏んでいる。


 なにせ試運転から戻ってきたら、フィリピン行政府へ円盤を引き渡さなければならないからな。

 だから試運転を開始する直前に、この円盤を急降下させて内部確認を申し込む。


 よほどうまくやらないと、次々と地域ごとに試運転が始まっていくわけだから、早すぎて移送してくる前に駆け付けてもぶち壊しだし、かといってちょっとでも遅いと試運転飛行で逃げられてしまう恐れもある。

 最初に行動する俺たちにすべてがかかっているといっても過言ではない。


 うまくいけば次の地域から移送をあきらめるかもしれないし、強行したところで内部確認を強要して移送してきた人々をとらえることも可能になる。


 しかし俺たちが失敗してしまえば、次の地点での円盤内部確認が難しくなるかもしれん。

 うまくタイミングを見計らってやってくれ。」

 赤城からちょっと難しい指示が飛ぶ・・・。


「分かりました・・・、式典が始まってから1時間経過しました。

 予定ではフィリピン行政府への引き渡しまで含めて2時間でしたから、恐らくそろそろ試運転となるしょう。

 引き渡し後には行政府の操作者が乗り込んで、こちらも試運転が行われる予定ですからね。


 急降下して円盤を横付けして、内部確認を申し込みましょう。」

 赤城に始動の許可をもらう。


「おおそうか・・・いいだろう、行ってみてくれ。」

 赤城も大きくうなずく。


『ヒュンッ・・・グググッ』高度2万メートルから急降下させたので、やや強いGを感じたが、円盤は予定通り植民地側の円盤真横の高度200m地点で静止した。

 少し上方位置を指定したのは、向こうの円盤が逃げようとしたり、攻撃を仕掛けてこようとした場合に、上側の方が有利であるからだ。


「・・・・・なんですかいきなり・・・今回の式典に、世界政府側の人たちは招待しておりませんよ。」

 すぐにコントロール装置を通じて、いつもの声が聞こえてきた。


「お久しぶりです・・・新倉山です。

 そうですね・・・、招待状を頂けなかったのは至極残念でなりません。

 世界政府側と植民地側での武力均衡を保つための円盤完成記念式典ですからね、我々も参加をお願いしたかったくらいです。


 ですが・・・本日お伺いしたのは式典参加のためではございません・・、円盤内部を確認させてください。

 恐らく今は円盤はプログラムにより自動操縦されているはずで、中は無人のはずですよね?なにせフィリピン行政府へは引き渡し前ですからね。


 中に人がいるのはおかしいはずですよね?

 その様子を確認させてください。」

 すぐに所長に向かって、なるべく丁寧に要件を告げる。


「な・・何を馬鹿なことを・・・。

 円盤は製作後まもなく、自動プログラムによる試運転前ですからもちろん無人ですよ。

 確認するまでもありません。」

 すぐに所長の返事が返ってくる。


「いえ・・ですから、その無人であることを確認させてくださいとお願いしているのです。

 円盤は世界政府と戦争状態にある植民地側のものですから、我々が中へ乗り込んで調査するという事は望んでおりません。


 フィリピン行政府の人間で構いませんから、転送ビームで乗船させて中に人がいないか確認させてください。

 その調査結果を我々は真摯に受け止めます。」

 すると今度は赤城が、俺のコントロール装置に取り付けたマイクに向かって話しかける。


「そんな要求は受けられませんね・・・、植民地行政府は世界政府からは独立した国家のはずです。

 そのような内政干渉は受け入れられません。」

 すぐに所長が突っぱねてくる。


「ですから・・・、この要求自体はフィリピン行政府も承知の上でのことです。

 すでに円盤の下では、内部確認するための役人が待機しているはずですよ。」

 ところが赤城も一歩も引かない。


「馬鹿なことを・・・、一体どのような嘘を並べ立てて植民地の行政府役人を動かしたかわかりませんが、何度も申し上げますが、そのような内政干渉のようなことには応じられません。


 これから記念すべき植民地製円盤の試運転が開始されるという大事な場面ですから、邪魔するようですと容赦いたしませんよ。

 円盤をどかせていただけないのであれば、力づくでもどいていただきます。」


 所長の言葉が届くのが速いか・・・、向こう側の円盤下部から無数の黒い球体が上がってきた・・・ガードマシンだ・・・、しかも数が多い・・・20はいるぞ・・・、円盤1機当たり10台ずつと言っていたのではなかったのか?


「よしっ、こっちも応戦だ・・・、客室にいる操作者に指示を出してくれ。」


「はいっ・・・分かりました。」

 赤城に指示され、すぐに阿蘇が無線機に向かって呼びかける。


 新たに製作したコントロール装置を、合宿を終えて選抜したメンバーに持たせて客室に待機させていたのだ。

 すでにマシンは起動させたうえで各操作者のIDに振り分けているので、円盤の操作盤に接続していなくても操作可能な状態だ。


 こちらのマシン10台も円盤の下部ゲートから飛び出して、下からやってくるマシンを待ち受ける。


「では、3台ずつフォーメーションを組んで戦ってくれ。

 単機での戦闘は極力避けるように。


 また、地上には一般人もいるので、銃口を地上には決して向けないように、できれば敵円盤の上空のみを戦闘区域にしてくれ。」

 すぐにコントロール装置につけられたマイクに向かって、無線で呼びかける。


 ログインしている各IDを指定して無線通信ができるので、マシンを起動しているときであれば、この方が手軽だ・・・、ただし各操作者のコントロール装置にはマイクは取り付けていないので、こちらからの一方通行ではあるが・・・。


 模擬戦などで戦闘訓練は十分に行ったし飲み込みは早いのだが、米軍のマシン操作者にいわれて戦闘隊形というものを取り入れたのだ。

 3台ずつのフォーメーションで敵方1台から2台を相手にしてつぶしていく・・・、これを繰り返して最終的に相手をせん滅するのだそうだ。


 思えば俺たちはマシン操作に関して戦闘訓練すらも受けてなく、ただ単にコントロール装置を各自あてがわれて、マシンを操作して相手を撃ち殺すという事を日々行っていた。


 戦闘フォーメーションも何もなく、単機で飛び回って敵の攻撃をかわしながら致命傷を与えるという、非常にシンプルなパターンだったが、それでも背後から不意を突いた攻撃で俺のマシンは粉々になり、2台と3台に分かれてフォーメーションを組んで互いの背後をカバーしあったものだ。


 ところが今回の戦闘フォーメーションは、互いの死角をカバーしあうだけではなく、敵側の死角から攻撃を加えることが出来るような配置で3台を並ばせるのである。

 ようは一段進んだ戦闘隊形であり、基本単独行動の向こう側世界のマシン操作者相手なら、いかに経験豊富でも作戦勝ちを狙えると俺はふんでいる。


『ヒュンッ・・ヒュンッ』『ヒュンッ・・・ヒュンッ』『ヒュンッ・・・ガガガッ』『ドッゴォーンッ』下から上昇してくるガードマシン1台を、3台編成の部隊が葬り去る。

 我々側のマシンには黄色のペイントが塗られているので、見分けは簡単だ。


 なにせ合宿期間中はペイント弾による模擬戦ばかりで、訓練後にペンキをふき取るのに疲れた俺たちは、塗られたままにした。

 そうしてペイントの形状を記録して、写真判定でペンキが当たったかどうか判定していたのだ。


 おかげでほとんどのマシンが黒い外板が半分も見えない、黄色い球体となってしまった。

 今回戦闘に向かう前にいっそのことと考え、全てまっ黄色に塗りなおしてきたのだ。


『ヒュンッ』『ヒュンッ』『ヒュンッ・・・ガガガッ』『ドッガァーンッ』さらにもう一台別の編隊が撃墜する。

 ずいぶん調子がいいぞ・・・。


『ヒュンッ・・・ヒュンッ』『ヒュンッ』『ヒュンッ・・・ヒュンッ』『ヒュッ・・・ガガガッ』『ドッゴォーンッ』3台編成のマシンが上から覆いかぶさるようにして包囲を狭めていくのをするりと躱して、一旦上空で反転したマシンが、黄色いマシンを撃墜する。


 ううむ・・・、こちら側の圧倒的勝利とはいかないか・・・。



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