選考会
6 選考会
「世界各地の地下基地の存在に関しては、生体の次元移送の可能性が示唆された時点から私も懸念はしていた。
だが・・・もともと都市部のオフィス街などに地下施設を建築して基地としていたわけだろう?
その位置情報などに関しては恐らく極秘中の極秘扱いで、詳細資料など簡単に閲覧できない状態にあったはずだ。
もちろん地下シェルターに避難する際に、関係資料などは全て取り揃えて避難したのだろうが、なんという都市の何丁目何番地とかの住所はわかるだろうが、GPSとかからの正確な位置情報など取得してはいないのではないか・・・と考えている。
なにせ、そこを核シェルター代わりに使う予定はなかったわけだからね・・・、もともと20畳ほどの強奪マシンの操作室として作成したものだから、それ以上の使い方は想定されていなかったと考えるのが普通だ。
そもそも生体の次元移送などといったことは向こう側世界でも予定外のことであり、ここまで地上環境が汚染されるという事は想定してはいなかったはずだ。
せいぜい攻撃を受けた際にミサイルや核の直撃を避けるためだけを想定して、短期間で地上へ戻れるという公算だっただろう。
なにせ、こちら側世界には攻撃衛星など送り込んできていて、報復攻撃はすぐに行える状況だったわけだからね。
ところがあまりにも強烈な反撃を受けてしまって、報復どころか自分たちの生存すらも危ぶまれる状況となってしまったわけだ。
だからこそ、こちら側世界からの強奪を再開もしたし、マシンによる強奪がうまくいかないと分かるとトラの子の円盤を使用し始め、更に反抗する地域を植民地化したが、それでもこちら側世界とある程度の友好関係を保ちたいと願っているのは、こちら側世界が滅びると自分たちも滅びることが明確だからだ。
つまり強奪マシンを操作していた各都市の地下基地を避難後も利用するつもりなどなかっただろうし、後から利用しようとしてその正確な座標を取得することは、非常に困難と言えるだろう。
なにせ1m上下左右にずれるだけで、そこは土中になるわけだからね・・・、いろいろ試してはいるだろうが・・・。
各地下シェルター間に関しては、物品のやり取りも予想されていただろうから、シェルターごとに移送するための区域を設定して、その正確な位置座標を把握していたからこそ、同次元内での移送が可能となっているわけだ。
何より決定的なのは、こちらから反撃をする直前の期間は、君が地下基地全てを封鎖していたはずだ。
おかげで地下基地への通信も途切れているだろうし、そうなると地下基地が汚染されていないかどうかから確認していかなければならないわけだ。
恐らくそんなことをするくらいなら、適当な座標の地下深くに小さな移送器を送り込んで、空間を作り上げていった方が早いともいえる・・・、汚染の不安もないしね。
こちらから向こう側世界の東京基地へアクセスできたのも、あの地下空間が向こう側世界から作り上げた空間であったからにすぎないと考えている。
何よりも、こちら側世界にだって戸籍はあるし、身元がはっきりしない人間が、しかも大量に暮らしていくことは難しいだろうから、ただ移住してくればいいとは言い難い。
地下基地を通じて移住を仕掛けるのであれば植民地に限るのだろうが・・・、今や植民地の人々も向こう側世界からの移住に反対しているわけだから監視の目はより厳しいだろうし、移住してきた後のことも考えておく必要性があると言える。」
霧島博士が、各地の地下基地の利用は難しいと想定している理由を説明してくれる。
確かに・・・向こう側世界の地下基地との通信が途切れてしまっているからこそ、こちら側世界の強奪基地の多くは俺が書き換えた管理者権限でアクセスできたわけだものな・・・、つまり地下基地の状況確認するよりも新たな地下空間を植民地内に作った方が、安全で手早いという事の様だ。
「でしたら・・・、円盤はどうでしょうか?
円盤であれば衛星を使って位置座標が明確になるはずですし、その高さも設定できますよね。
まさに同一次元内での移送先として、最適と言えるのではないでしょうか?」
すると突然・・・いつも意見を述べることもない大雪君が口を開いた・・・、確かに円盤であればGPSの位置情報もコントロール装置でモニターできるし、何より位置情報と高さを入力すればその位置に自動で移動するわけだからな。
細かな位置設定で倉庫内を指定してやれば、まさしく最適な移送先と言える。
「確かにその可能性は高いね・・・、今や円盤など抑止力として誇示するくらいしか利用価値もないし、金がかかるだけでその制作の意図を疑っていたのだが、向こう側世界からの移住先として設定しようとしていたのであれば、納得できる。
何だったら円盤を使って逃げ回ることも可能なわけだ・・・、宇宙空間へだってね・・・。」
霧島博士も納得の表情だ・・・、流石大雪君・・・若いだけに頭が柔らかい。
「円盤製作には恐らく2ケ月くらいはかかるだろうと予想している・・・、もともと1機だけ製作するための簡易ドームだから、あまり無理な突貫工事もしないだろう。
コントロールマシンの製作を1ケ月間で行うとして・・・、残りの1ケ月間でマシン操作者を育て上げられるかね?」
霧島博士が、厳しい表情で問いかけてくる。
「はあまあ・・・、俺だけではなく大雪君や各国の代表者の方が協力してくれさえすれば・・・。」
自信のほどは・・・と言われると何とも言えないのだが、先日の空中戦を考えると、こちら側世界にもゲームオタクともいえるような輩が、数多くいると考えている。
彼らの力を使えば、向こう側世界の連中に対抗できるだけの軍団を作り上げることも夢ではない。
「よし・・では1ケ月後から、先日模擬戦を行った北海道の牧場にて1ケ月間の合宿だ。
各国ともに、マシン操作者を10から15名選抜して合宿に参加させてくれ。
そうして2ケ月後には一戦やらかすことになるやもしれん・・・、精鋭を選抜するようお願いする。」
赤城が、100インチのモニター画面に向かって指示を出す。
『はい、了解致しました』
モニターの向こう側から、大きな声で返事が返ってきた、みんなやる気満々だ。
それからの1ケ月間は、日本でマシン操作者を募ることになった・・・、ベースは大雪君と一緒にマシンコントロールの訓練をした新卒兵士であったのだが、やはり大雪君と比べて見劣りするため、急きょ広く募集することにした。
といっても戦地に赴いて戦闘するため一般の人から募集はできず、日本国軍内でのゲーマーを募ることになった。
それでも元アーケードゲームの日本チャンピオンとか、ピンボールマシンの地区大会優勝者など、使えそうなメンバーが集まってきた。
「では・・・1次試験というか、合宿参加者を決めるための、選考試験を行う。
コントロール装置の操作方法に関しては、マシン操作に関してのみだが手順書が配布されたはずだ。
熟読して理解したうえでこの選考会に参加していると信じているが、今この場でマシン操作の第一人者である新倉山君からのレクチャーがあるから、おさらいがてら聞いてくれ。
その後、一人ひとりコントロール装置を使ってマシンを操作してもらい、その結果をもって代表者を選抜する。
マシン操作といっても、直進や右折左折など基本動作のほかに、飛行スピードや航路の正確性など、マシン同士の戦闘時に必要な技量も見るため、バルーンで吊った障害があるコースを飛行してもらう。
障害物のポール同士も黄色く塗った細いワイヤーで結び付けられてコースを作り上げているので、コースアウトしてワイヤーに接触すると減点だ。
障害物に触れたら10秒加算という方式で、ゴールまでの所要時間に減点分を加算した総タイムの少ない方上位13名が合宿に参加できるという、非常にわかりやすい選考方法だ。
では・・・新倉山君、マシンの操作方法について簡単な説明をお願いする。」
北海道の隠し農場のうち、あまりにも人里から離れすぎていて利用をあきらめた農場跡地を用いての選考試験会場で、赤城が壇上に上がりマイクを使って参加者たちに選考会の内容に関して説明する。
「おはようございます、新倉山と申します。
赤城大佐からはマシン操作の第一人者と紹介されましたが、単に長年マシン操作にかかわってきたという意味での第一人者であり、決して自分が一番マシン操作がうまいという訳ではないということを、あらかじめお断りしておきます。」
赤城に紹介されて、壇上で一礼する。
『おお・・・、そうか・・・』『謙遜だろ・・・』『はっはっはっ』
俺の自己紹介で、会場から笑みがこぼれ始める・・・掴みはOKだ。
結構ゲーム好きが多いというか、向こう側世界との決戦に参加したいという希望者が多いのか、広い牧場を埋め尽くすような人数がいる・・・、数百人はいるのじゃないのか?
確かに・・・会場設営のために俺や赤城と阿蘇は先に牧場に降りて準備を始め、大雪君が日本各地の軍支部を回って参加者を連れてきたのだが、何往復かしていたようだったからな・・・。
これだけの人数からタイム順に一気に13人にまで絞ってしまうのは、ちょっともったいないような気もするな・・・、鍛えれば才能を現すような奴だっているはずだ・・・。
「ではマシン操作に関してですが・・・、コントロール装置の操作に使うキーボードはこのようになっています。」
俺の背後の、鉄パイプをくみ上げて作り上げた巨大な鉄枠上部からつりさげられた、これまた巨大スクリーンにキーボードの映像が映し出される。
「マシンの操作に使用するのは基本的にテンキーを用いますが、マシンガンやレーザー銃を操作するときには、ジョイスティックも併用できます。
ハンドアームマシン操作の場合は、グローブ状の操作具も使用します。
前進は・・・後退は・・・」
スクリーンに映し出される、2分割されたキーボードとマシンの飛行映像を見ながら、マシン操作手順概略を説明していく。
スクリーン映写するにはフィルムになってしまうので、コントロール装置のカメラを用いて収集した映像を加工して、コントロール装置モニターに出力した映像を映画用カメラで収めたのだ。
何か2重手間のようだが、画像処理方法など知らない素人では、この方法が一番手軽だ。
「では・・・、番号札の1番のものから順に始めてくれ。
各支部には霧島博士が作成したコントローラーが配布され、支部ごとに奪取したマシンを使っておおよその操作を体験してきたと考えるが、コントローラーよりもはるかにレズポンスが速いので、最初慣れるまでは戸惑うかもしれないが、ここにいる参加者全員が同じ条件なので、承知おき願いたい。
まず30秒はマシン操作に慣れるために、前進・後退・右回り・左回りを繰り返していただく。
次の30秒がコースを使ってのトライアルだ・・・、1人当たり1分ずつで遅れないよう次々進めてくれ。
では、1番の参加者・・・お願いする。」
赤城が選考会のスタートを宣言する。
「はいっ・・・エントリーナンバー1番・・・高山です・・・。」
1番のゼッケンをつけた、若い男性が手をあげて操作位置につく。
コントロール装置は俺のものと阿蘇のものと大雪君のものが3台あるので、2番後まであらかじめ手渡されていて、キーボード配置など確認しておいてから、前者が終了次第次々に連続して試技していくことになっている。
トライアルコースは広いので、30秒で終了できずに次のものが操作を始めたとしても、まだ操作場に居残って1分以内なら操作を続けることは可能だ。
しかしコースを30秒で抜けられないようでは、合格点には程遠いと俺は見ている。
コース設計は俺で、障害物などは阿蘇に手伝ってもらいながら設置したのだが、試しにマシンを飛行させてみたら、俺は10秒で抜けることが出来た。
試技はしていないが大雪君だってほとんど俺と変わりないタイムで抜けるだろうし、高速飛行を禁じた阿蘇でも25秒はかからなかったので、30秒未満でしかも減点1回までで抜ける必要性があるとみている。
『1番高山さん・・・、1分を越えてしまいましたので失格です。』
『2番山下さん・・・タイムは45秒で接触が2回ありましたので合計65秒となります。』
次々と試技結果がアナウンスされていく。
『45番恐さん・・・タイム20秒で接触一回・・・合計30秒で現時点でのトップとなります。』
うん?・・・、どこかで聞いたような名前・・・ふと見ると、確かに見覚えのある顔が・・・。
確か俺と変わらない年齢だったはずだが・・・、あそこにいるのは20歳そこそこに見える若者で、その面影というか本人に間違いはないだろう・・・。
そうか・・・奴も日本国軍に・・・、というか兵役を終えて自警団にいたのかもしれないな・・・、何にしても向こうの世界での知り合いがいると心強い。
こっちの世界の俺もピンボールゲームが得意という事だったから、個別技量に関してはある程度似かよっているのではないだろうか。
そう考えると・・・ほかのメンバーもいたりして・・・。
それからは審査員席に座っているのをやめにして、大雪君のところに行って一緒に参加者の整理を行うことにした。
すると・・・いた・・・、やはりいたんだ・・・。
「きっ・・・君は・・・えーと、名前は・・・?」
「はい・・・猿投と言いますが・・・、エントリーナンバーは345番です。」
俺より5,6歳は若いであろう、サル顔の青年が笑顔で答える。
「そうか・・・、頑張ってください・・・。」
いくら知り合いとはいえ・・・、というかこちら側世界の彼とは知り合いではないのだが・・・、個人的な心情で肩入れもできないので早々に引き上げることにする。
『345番猿投さん・・・タイム19秒、接触なしで合計タイム19秒で断トツのトップです。』
すると・・・しばらくして結果が放送される・・・、やはりこちら側世界でも、ラッキョウの能力は素晴らしい・・・。
さらに庭稲も参加していたようで、奴も13人の中に選ばれていた・・・、これは大変心強い。