発注
3 発注
「さて・・・昨日は軽くざっと確認したのだが、円盤関係と言っていた通り、巨大円盤だけではなくコントロール装置とさらには強奪マシンの設計図までもが含まれていた。
マシンに関しては、下手に分解しようとすると爆発してしまうものだから解析はあきらめていたのだが、これは大きな収穫と言える。
これで各国ともに複数のマシンを所有することが可能となるため、とりあえずコントロール装置用の部品を最優先で発注しようと考えている。
液晶パネルや半導体部品などひとつずつドル建てで価格表も添付されていて、それを基に計算すると大体コントロール装置1台で10万円ほどになる。
さらにOSやソフトを含めると合計で20万円ほどになるが・・・、この価格は君の居た世界の価格と同等と言えそうかね?」
翌朝、地下の通信室へ呼び出されて、各国メンバーたちと一緒に昨日送付された円盤の設計図に関して、対応を協議する会議の場で、霧島博士が俺に問いかけてきた。
「はあ・・・そうですね、コントロール装置はいわゆるパソコンですが、本体だけなら5,6万円から・・・、液晶モニターつけても10万円弱のものから、20万円を超えるものまでピンキリでしたから、コントロール装置がどれほどのグレードかわからないので、何とも言えないところです。
ですが俺のいた世界でも、パソコンが出始めたころではモニターと記憶装置のセットで30万から50万円ほどはしていたと聞いたことがありますから、パソコンが存在しないこちら側世界での価格設定は非常に難しいところです。
コントロール装置を操作している限りでは、アクセス時間に不自由は感じませんので、かなり高いグレードのものと予想され、昨日所長が製造コストは1/5から1/10くらいになっていると言っていた事が反映されているのではないかと考えます。
OSというのはオペレーティングシステムと言って、パソコンを動かすための基幹プログラムで、ソフトというのは円盤と通信をして、円盤に様々な命令を送ったりするために必要なプログラムのことだと思います。
それらは・・・、まあ言ってみれば言い値のようなところが大きいのでしょうが、あまり一般的ではないソフトなので、まあ妥当な線ともいえると思います。」
パソコンのゲームソフトであれば金を出して購入したことはあるのだが、商用ソフトなど購入したことはないため価格帯など全く分からない・・・、だからあれくらいの円盤を動かすようなシミュレーションソフトを、マイナー販売するとしたらどんなものか・・・と考えてみたのだ。
フライトシミュレーションなどでも、航空会社がパイロットの教育用に使うものなどでは、それこそ何百万とか何千万とかすると聞いたことがある、まあ実際のコックピットを模擬した装置も含めてなのだろうが・・・、ソフト代だって馬鹿にはならないだろう。
「分かった・・・、ではコントロール装置製作用の部品の発注からやってみよう。
続いて・・・円盤製作にかかわる部分に関しては、各国に分担して確認してもらったが、終了しているかね?
順に結果を報告してもらいたい。」
霧島博士が、今度は巨大モニターに向かって問いかける。
そうか・・・、各国で手分けして送付された設計図の内容を一晩で確認したという訳か、徹夜作業だな・・・。
いや、昼間の作業で、今が夜中の地域もあるわけではあるが・・・。
「では、アメリカから始めまーす、アメリカのグループでは主にエンジン部分の設計図を確認いたしました。
光子エンジンですが、今現在こちら側世界では存在しない合金などもあり、大部分は向こう側世界から供給していただくか、合成手法を学ぶ必要性があります。
また、その動力供給用の発電機ともいえる核融合炉に関しては詳細図面は記載されておらず、価格が30億円ほどとなっております。
それらの新技術を加味して、1機当たりのエンジン部分だけで材料費だけでも、日本円で45億円ほどかかる見込みでーす。」
「次はフランス・・・、制御系の電装及び操作室関係ですが・・・、半導体製品でこちら側世界のものを使えそうなものはありません・・・、抵抗ひとつとっても向こう側世界の方がはるかに小型化されていて、基板の縮小化のためにはほぼ100%向こう側世界から供給を受ける必要性があります。
配線用の電源ケーブルなどは自作可能で、これらを含めて1機当たり日本円で材料費だけで2億円ほどかかりそうです。」
「次は中国から・・・、外装など円盤の骨格部分と外皮に関してですが・・・、ジュラルミンというアルミ合金に関しましては、我々にとって最新技術ではありますが、製造可能です。
ですが炭素繊維で強化された鋼板ですとか、セラミックなどといった材料は輸入する必要性があります。
こちら側で準備できそうな材料は、焼き入れした炭素鋼とジュラルミンと内装用のグラスファイバー樹脂くらいなものです。
円盤1機当たりの費用は、材料費だけでも日本円で20億円はかかるでしょう。」
「続いてロシア・・・」
各国が円盤の設計図を基に、概算の製作費を見積していく。
「はい、ありがとう・・・、巨大円盤製作費用だが・・・、コントロール装置やマシン・・・もちろん武器も除いての材料費だけでも100億円はくだらないという事が分かった。
まあ、あれだけ巨大な乗り物を建造するわけだから仕方がないわけだが、組み立てるための施設建造費や組み立て費用など考慮すると、1機当たり200億どころか300億円にはなってしまうな。
その価格にしたとしても、制作側に利益などは出ない・・・、まさに原価という訳だ。
この価格では購入できる国は限られてしまう事だろう・・・。」
赤城が各国代表者に礼を言って、とりあえずの試算結果を書き記したホワイトボードを眺める。
原材料費の半分近くは核融合炉と光子エンジンという訳か・・・、完全に未知なる技術だから大半は向こう側世界製・・・というか、植民地で製造されたものを輸入することになるのだろうな。
「円盤保有を希望する国ごとに制作するのではなく、数ケ所でまとめて製作すれば、何とか300億円での販売でもわずかながら利益を出すことは可能となるだろう。
向こう側世界では100機の円盤製作の計画の様で、こちらでも100機までの保有が許されるわけだから、現有の8機を除くと残り92機分の材料発注ができる。
すべての国が保有するという事はできないわけだが、それでも保有を希望する国を募れば、恐らくそれらの国々の希望はかなえられるだろう。
なにせ高額だから、恐らくそれほど多くの国は希望しないと予想している・・・。
残った分に関しては、現在円盤を保有する国からの増台希望を募ってもいいだろうし、世界政府として10機ほど保有してもいいだろう。」
霧島博士が、何とか少しでも安く製造できるように製造場所の限定化を提案する。
「まあ・・・円盤製造をするといっても、大半が与えられた部品を組み立てる、いわゆるプラモデル制作のようなものだから、その製造を一部だけの国や地域で行ったとしても、技術力の偏りなどといった評価はされないだろう。
円盤製作の概算見積もりと、製造場所の限定及び保有国の希望を募ることに関して、これから世界政府に打診しておくよ・・、では、今日はここまでだ、ありがとう。」
赤城のコメントで今日のところはお開きとなった。
俺の持つイメージからすると、こちら側世界の物価は、俺がいた世界のおおよそ1/10くらいだから、巨大円盤1機が3000億円という試算になる・・・、それでもほとんど利益の出ない原価販売に近いという訳だ。
そんな値段では、購入を希望する国もそう多くはないと考えるのも頷ける・・・、それはそうだ・・円盤を保有したところで、敵対国と言えば次元の向こう側の世界なわけだからな。
向こう側世界と一戦することはほぼあり得ないだろうし、植民地と戦争行為を繰り広げることも、こちら側世界の人たちの望むところではないだろう。
ただ単に、向こう側世界が円盤を100機・・・各地域に10機ずつ保有しますよ・・・と宣言したから、それと同等の戦力を保有するために製造するだけだ。
円盤を保有したからと言って旅客機のように使用することはしないだろうし・・・、いや、できないわけではないだろうが・・・、戦略兵器という位置づけからして、簡単にはいかないだろう。
そうなると・・・、よほど裕福な国でなければ保有を希望することはないだろう。
まあそれでもコントロール装置が割り当てられなかったがために円盤保有国になり損ねた国が、何ケ国かは希望するのではないのだろうか・・・、こういったものはある程度興味があれば保有を望むことはあり得るわけだ。
何にしても円盤保有国が増えれば、円盤による各国支援業務が軽減されることは間違いがないし、日本でも複数台保有することになれば、操作者の育成も始まることだろうし、そうなると俺や阿蘇が円盤で活動する機会も削減されるだろう。
何よりも、植民地化された国や地域と保有する武力のつり合いというか均衡が保たれていけば、平和な世界が訪れるという訳だ・・・、それが一番ありがたい。
「こんなに・・・ですか?
これではコントロール装置だけ先に百台分製作できてしまいますね。
我々の計画では、各植民地で製造できる円盤数は年に2機ずつで、10植民地で年間20機。
5年間で100機製造予定となっております。
植民地ごとにいくつもの生産工場を建造すればペースは上がりますが、何せ各10機という制限がありますから1工場ずつでの製造を予定しております。
恐らくそちらの世界でも、それほど変わらないペースで製造されるものと考えておりましたが、やはり国数が多いものですから、百ケ国で同時に1機ずつ製造されるのでしょうか?」
翌日、まずはコントロール装置分の部品を発注のために、フィリピンのマニラまでやってきたのだが、要求品目を見て、所長が驚いたように確認してくる。
「いえ・・・、コントロール装置は円盤1機に対して1台という制限はないわけですよね?
各円盤にはガードマシンとハンドアームマシンがそれぞれ10台ずつ収容されていますから、個々のマシンコントロール用のコントロール装置の製作用です。
まだまだこれは全製造分のごく一部でして・・・、最終的には1000台ほど製造予定となっております。
そちらでは、もっと多くのコントロール装置を所有されていると思いますが、違いますか?」
昨晩遅くまで霧島博士と発注する部品の内訳を相談していたのだろう、目を真っ赤にはらせた赤城が、眠気をものともせずに堂々と答える。
「ああまあ・・・そうではありますが・・・、分かりました・・・コントロール装置の台数に関しては、確かに円盤1機当たり1台という事はないわけですからね。
ただし・・・、搭載するマシンに関しては台数制限を付けさせていただきますよ・・・、収容数もスペースから限られておりますからね。」
所長はあきらめたかのように同意をしたが、マシン数に関しては円盤同様制限すると注文を付けてきた。
まあ、この辺りは仕方がないだろう・・・、世界中で捕獲したマシンがあることだし、円盤搭載分の数を制限されたとしても、優位には立てるはずだ。
「円盤の製造に関しては、世界中の国々からの要望を聞いてからという事もありますが、まずは製造工場を新設する必要性がありますので、工場ができ次第当面の生産分を発注させていただきます。
恐らく2ケ月後の発注となる予定です。
また、円盤の生産期間はそちらと大きな違いはないものと考えております。」
赤城が次の注文時期に関して予定を話しておくようだ。
こちら側では生産期間を少しでも短縮させるために、各工場でそれぞれ生産するのではなく、エンジン部分、外装部分、内装部分・・・、とそれぞれのパーツを製造、組み立てする工場を世界各地に作り、それらを一括して3ケ所ほどの工場で一気にくみ上げるという計画ができている。
今のところその工場はアメリカと日本とフランスかドイツ辺りに作られる予定だ。
部品工場の配置から、最終組み立て工場の場所も選定されるために、日本で生産されるかどうかも流動的な様子だが、まあ俺としては作られるのがどこであっても構わないと思っている。
どのみち円盤を製造したところで、それを他国に販売してもほとんど利益など出ることはない金額での販売となるため、製造を希望する国は恐らく出てこないだろうというのが霧島博士の予想だ。
そのため円盤保有を希望する国々に対して、部品の製造・組み立てを割当制とするらしいのだ。
「分かりました・・・、では部品の供給は来月から始めさせていただきます。
月初に、こちらにお越しください。
お支払いに関しましてはフィリピン行政府を通じてという事になりますので、そちらと手続をお願いいたします。」
以外にも、あっさりと注文を受け付けてくれた・・・、ちょっとあまりにもコントロール装置が多くなりすぎるだのと、苦情を言われるかもと想定していたのだが、ちょっと拍子抜けした。
コントロール装置に関しては、実のところパソコンであるわけだから、他の使用方法も疑われるところではあるのだが、気にしないことにしたのだろうか・・・。
「了解いたしました・・・フィリピン行政府と支払方法に関して、打ち合わせを持ちたいと考えております。
では、よろしくお願いいたします。」
赤城が、いつものようにマイクに向かって一礼する。
「では・・・、こちら側も円盤製造を再開できるということですよね?
公平を期するために来月初からの再開とさせていただくことにしますが・・・、それまでに監視役の軍隊は引き揚げてくださるのですよね?」
最後に、所長が派遣している軍隊の引き揚げを要求してきた。
まあ、そのためにこちら側の無茶な要求も、しぶしぶ呑んだのだろうから、当然と言えば当然だわな。
「それはもちろんです・・・、今月末にドーム周辺を警備している軍隊を引き揚げさせる予定をしております。
しかし、娯楽施設用のビルの地下空間に関しましては、引き続き警備させていただきますので、ご了承願います。」
赤城が丁寧に答える。
「分かりました・・・、まだ疑いは晴れていないという訳ですよね・・・。
ですが・・・娯楽施設完成の折には軍隊は引き揚げていただきますよ・・・、銃を構えた軍隊が地下に常駐しているのでは、せっかくいらっしゃったお客様が、くつろげませんからね・・・。」
所長が軍隊引き上げの期日について念のために確認をしてくる。
「そうですね・・・、ビルが完成した暁には軍隊は引き揚げさせることをお約束いたします。
ですが・・・、引き続き地下施設には現地の住民たちが配置されますようお願いいたしますよ。
わざわざ地下5階を倉庫にするとかいうのはなしで・・・、ポーカールームとかバカラルームとか設置頂いて、常に人の行き来がある場所にしていただくようお願いいたします。」
赤城が、所長の要求に関してしつこく念を押すようにして確認する。