表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
100/117

武力均等化の提案

1 武力均等化の提案

「兵器の均衡を保って平和を維持したいというのであれば、交易を始められてはいかがでしょうか?

 といっても、現状の食肉や穀物の貿易量を増やせと言っているのではありません。

 半導体製品やモーターやポンプなどの、そちら側世界の優れた技術の原点である各種部品群を、貿易の対象とするのです。


 そうすることにより、こちら側世界でも対抗するだけのコントロール装置や、あるいはマシンや円盤なども製作可能となります。

 それが実現化すれば、いちいち各植民地で円盤製作台数をチェックする必要性もありませんし、そちら側もこれ以上の監視体制は望むところではないでしょう。


 勘違いしてらっしゃると困りますが、我々が戦争しているのは、あくまでも次元の向こう側世界にいるあなたたちであり、こちら側世界に存在する植民地ではないのです。

 植民地に円盤で攻め込んだところで、傷つくのはこちら側世界の人間たちであり、そのような破壊行為を我々は望んではおりません。


 しかし、どのように主張したところで、そちら側から見れば生命線である植民地を解放されてしまっては、もはや降伏か滅びるか以外の道は残されていないでしょう。

 それを避けるための軍備という事であれば認めざるを得ないわけではありますが、その際はこちら側世界にも公平になるような配慮をお願いいたします。」


 霧島博士が突然俺のコントロール装置に向かって告げる。

 こちらはマイクを通じての無線回線での発言だ。


『我々の技術をそちらの世界に差し出せとおっしゃっているのでしょうか?

 無茶苦茶な理論展開ですよね・・・、我々の世界の技術力を得て発展してしまえば、もう我々から得るものはなくなってしまうようにも感じるのですが・・・。』

 所長の言葉がだんだんと曇って聞き取りにくくなってくる。


「いえいえ・・・技術ではなく半導体など部品群です・・・、まあ、それを技術と言ってしまえばそれまででしょうが・・・、ご存知のように我々世界はそちら側世界の技術力から恐らく数十年は遅れていることでしょう。

 そのような世界に、そちら側世界の進んだ半導体製品を供給されても、その中身を解析して、より高度な半導体製品を制作することなど、まったく無理なことです。


 供給された半導体を、そちら側世界の設計図通りに組み立てて使用する以外の手立てはありません。

 つまりどこまで進んだところで、そちら側世界の技術力の範疇を逸脱することはできないわけです。


 いえ・・・こちら側でできることは、あくまでもそちら側世界の模擬・・・コピーにすぎないわけですから、そちら側で作られたものより劣ることはあっても勝ることなどありえないでしょうし、それらを独自に作り出すことなどできません。


 技術力を差し出せと申し上げているのではありません・・・、技術力をお貸しくださいと申しあげているのです。

 そうして初めて、そちら側世界が構築する防衛力と拮抗した軍備を有することが出来ると考えますが、いかがでしょうか?」


 霧島博士の主張は、ごり押しともとれるような内容ではあるが、確かにこちら側に対抗する手段を持たせるには、向こう側世界の半導体部品等は必須であろう・・・、できれば円盤やマシンなどももう少し供給してほしいくらいだ。


『うーむ・・・、しばらく協議させていただいてもよろしいでしょうか?

 追ってフィリピン行政府を通じて、ご連絡させていただきます。』


 所長も困り果ててしまった様子だ。

 確たる理由をつけて、円盤製造を認めさせようとしていたのだろうが、それには条件を付けられてしまった形だ。


「では・・・、円盤製作は一旦中断していただけますね?

 半導体部品など供給いただけるようになって、こちらでもコントロール装置やマシンなどの製作や補修が可能になって初めて軍事力の拮抗が望めますからね。


 それまでは我々の部隊が監視業務に当たらせていただきます。

 他の地域の植民地でも同様に部隊を派遣させていただきますが、よろしいですよね?」

 赤城が念を押すように天に向かって問いかける。


『仕方がありませんね・・・我々が望んでいるのはあくまでも平和的解決策であり、武力衝突ではございません。

 その拮抗を保つための策に関しましては、こちらでも検討させていただく所存です。』


 非常に不満を持っているのだろうが、こうなってしまってはこの場で断ることが難しくなってきたのであろう。

 うまくいけば本当にコントロール装置の量産も夢ではなくなる・・・、流石霧島博士だ・・・。


「では、失礼いたします・・・。」

 フィリピン行政府役人とともに赤城たちがドーム設備から出てきた。


「すまないが、引き続きこの場で警備にあたってくれ。

 向こう側世界は当面このドーム内での円盤製作は見合わせるよう約束した・・・、だから変な動きがあればすぐに連絡してくれ・・、円盤で駆けつける。


 折り返して交代要員も送り届けるから、頼むよ・・・。」

 赤城が送り込んだ部隊の部隊長に指示をする様子が、大雪君のコントロール装置を通じて伝わってくる。


「じゃあ悪いが我々は引き上げだ・・・、阿蘇・・・他の地域に関しては1個中隊で交代して監視に当たるよう指示を出しておいてくれ。」

 赤城の指示を聞いた後、俺は赤城と大雪君の2人とガードマシンを転送ビームで引き揚げる。


 マシンコントロール可能な大雪君はおいておきたいところではあるが、向こう側指揮下にあるこの地ではいつマシンのコントロールが奪われるかわからないため、円盤が一緒でない限りマシンは置いて行かない方がいい。

 阿蘇は大きな無線機を使って、各地の円盤に対して指示を出している様子だ。


「じゃあ交代要員も含めて2中隊を送り込むぞ・・・、客室には座れないから倉庫にそのまま待機させる。

 これだけいれば隣の娯楽施設とかいう巨大ビルの監視も含めて交代で監視を行えるから、駐在している兵士たちも少しは余裕ができるだろう。」


 赤城の指示通り、日本国軍本部のグラウンドには、300名ほどの部隊員が整列していた。

 客室には100名しか座れないから200名は倉庫で待機だ・・・、まあ円盤はほとんど加速度を感じないから、倉庫で床に座っていたとしても、さほど居心地は悪くはないだろう。


 俺たちはそこで豚や牛の着ぐるみを着せられて、待機させられていたわけだからな・・・。

 すぐに取って返して、マニラに200名の部隊を降ろして、バギオとダバオに50名ずつの部隊員を降ろす。

 これで日本からの派兵は総勢800名ほどとなった・・・、結構な大部隊だ。


「あとは定期的に食料などを補給しに来てやらなければならないな・・・、まさか向こう側世界の植民地であるフィリピン行政府に頼るわけにはいかないだろうからな。」

 赤城が、眼下で手を振って見送る隊員たちを、コントロール装置のモニターを通じて眺めながらつぶやく。


「まあそうですね・・・・、一応占領下にあるフィリピン行政府の要請で監視業務にあたっているとはいえ、彼らはいまだに植民地から独立することは拒否していますからね。

 彼らの望みは独立ではなく優れた文明の恩恵にあずかる・・・、そうして自分たちの存在意義が失われかねない、向こう側世界の人たちの移住の阻止ですからね。


 でも上手いこと行きましたよね・・・、向こう側の世界から移住してくることに対して、植民地化された地域の人たちが喜ぶどころか拒否してくれたので、監視業務がやりやすくなりましたからね。

 彼らが向こう側世界にどこまでも協力的であれば、いくらでも秘密裏に円盤などの製作もできたでしょうしね。」


 本当に、ここ数週間での植民地化された地域の人々の劇的な変貌・・・とまではいかないが、崇拝していた向こう側世界の人々が次元移送装置によって移住してくる可能性があると聞いた途端、手のひらを反すようにして態度を急変させたことが大きい。


 移住してくることを何とか阻止しなければならないと、その疑いのあるビル建築を阻止しに向かったのだが、それはダミーのようなもので、こちら側の出方をうかがっていたのかもしれないと分かった時は相当慌てたが、結果的にはうまくいった方だと考えている。


「それは・・・向こう側の世界の霧島博士が・・・どちらかというとこちら側に協力的で、生体の次元移送の可能性もあっさりと認めて、今は実験段階だって話したからだね。


 そうして本当に次元を超えての移住を検討しているようなことを話していたから・・・、それを阻止しようとするには植民地の開発自体を妨害することになるとまで発展させて話したから・・・、その話を聞いて植民地の人たちは、移住してきた人たちが自分たちにとって代わろうとしているという脅威を感じたのだろうね。


 だからこそ移住してくることには反対して、それを阻むことには協力的なんだと思うよ・・・、つまりは向こう側世界の霧島博士のおかげだともいえる。


 これがあの所長さんとだけのやり取りであったなら、上手くはぐらかされてしまって、植民地の人たちには危機感が伝わらなかったんじゃないかな。」


 阿蘇が、一抱えほどもある無線機を片付けながらつぶやく。

 まあそうとも言えるわな・・・、こちら側世界を長年にわたって苦しめてきた暴挙の首謀者の一人だなんて言っていたけど、そんなに悪い感じの人ではなさそうだった。



「でも、どうして円盤製作なんですかね・・・、もう30年も前の技術でしょう?

 今ならもっとすごい技術の攻撃兵器くらい、できているんじゃあないかと・・・。


 向こうの世界の所長さんが、こちら側世界にある兵器と拮抗させるためと言っていましたけど、別に全く同じ兵器を持ち合う必要性はないわけですよね、戦力的に釣り合えばいいわけですから。」


 日本国軍地下の通信室で意外にも阿蘇が最初に切り出した。

 円盤での向こう側世界の霧島博士のコメントの感想など、今日の阿蘇はずいぶんと積極的だ。


「そうですね・・・向こう側の世界の霧島博士も、大天才ですね・・・。

 でもそれは30年前のお話・・・、今ではお年を召されたから、兵器開発など行っていないのではないですか?」

 100インチの巨大モニターに映し出される各国の代表者の1人が、推察する。


「前にも話したと思いますが、俺のいた向こう側世界では、あのような円盤もガードマシンやハンドアームマシンすら、一般人には知らされていませんでした。

 そのような凄い技術が30年以上も前からあったという事自体が、驚きでした。


 それでも一般的な技術をとっても、こちら側世界と比べると、一部の技術力では確かに数十年は先を行っていたと思います。

 携帯電話とかスマホ技術を取ってもそうですし、半導体製品なんかで電子機器などは本当に小さく縮小化されて、多機能なものとなっていました。


 コントロール装置というものは基本的にはパソコンというコンピューターですが、手のひらサイズのスマートホンという電話機が、同等の性能を持っていましたからね。


 ネットアクセスなんてこともできましたし・・・ああっと、ネットワークというのは世界中とつながっていて、情報のやり取りなどを簡単に行えることです・・・、今こうやって会議しているようなことが、手のひらサイズのスマホでも、やろうと思えばだれでも結構簡単にできました。


 さらに軍事技術でも・・・、俺はそういった兵器などへの興味はほとんどありませんでしたが、それでも大陸間弾道弾や百キロ以上も離れた場所に正確に当てられるミサイルとか言う話は聞いていましたし、そのほかにステルス戦闘機という、レーダーには映らない爆撃機なども紹介されていました。


 それらをこちら側世界へ展開してもいいのでしょうけど、それでも俺が見る限りでは、あの巨大円盤やマシンが最新の攻撃兵器のような気がします。

 それらの発展形が、いまだにないのが不思議なくらいです。」


 とりあえず俺が知っている限りの向こう側世界の軍備に関して説明しておく・・・、まあ、本当に知っている限りのことであり・・・、ごくごく一部分でしかないわけなのだが・・・。


「あまりにも斬新な攻撃兵器であり、向こう側世界に展開することを当時はためらったのかもしれないね・・・、それによって世界の軍事力の不均衡が生じると、また戦争状態に戻りかねない。

 あまりにも強力すぎる軍事力は封印したのかもしれない。」

 すると突然赤城が口を開く。


「ああ・・・そうですね・・・、向こう側世界では核兵器は一時期大国同士の力の均衡を保つなどと言って、世界大戦終了後には大国同士が核実験を続けて、大量に保有していたと歴史の授業で教わりました。

 核保有国イコール大国みたいな感じでしたからね。


 しかし平和な世の中がある程度続くと、そのような大量破壊兵器は逆に邪魔者扱いされ始めて、核軍備縮小といったことが叫ばれるようになったようです。

 まあ、そのような危険な兵器を安全に保管するという事にも、それなりに費用が掛かるでしょうからね。


 一時期は大国の持つ核兵器で地球上の生物を30回くらい全滅できるなんてことが話題に上っていましたが、その時の数分の一にまで減らされたはずです。

 あまりに強力な兵器を持つ事は、お互いに危険という事でしょうね。」


 確かに一方だけ強力な兵器を持ってしまうと、他方はもう最終手段に訴えてでも、その不均衡を是正せざるを得なくなってしまうわけだ・・・、そうしなければ征服されかねないわけだからな。

 そんな理由で円盤やマシンの技術は俺のいた世界では展開されずに、次元を超えたこちら側世界に限られたのかもしれないな。


「そうなると・・・円盤技術やマシンの技術は開発はされたけど、その後の発展は見送られた公算が強いね・・・、まあでもこちら側世界にとっても、いまだに脅威の兵器であるわけだから、発展も不要と言えるだろうしね。」

 赤城が納得したように大きくうなずく。


「まあ、最新兵器を展開されなかったという事は、こちら側にとっては有利に働くことが大きい。

 向こう側世界が植民地で製造される半導体製品や工業製品を貿易対象とする場合に備えて、各国でも修復した円盤部品に搭載されている、半導体製品やポンプやモーターなどの機能部品を手分けしてリストアップしてもらいたい。


 それにより円盤の補修が完璧に行えるようになるだろうし、こちら側でも円盤の製作も可能になるだろう。

 何だったら円盤の設計図を要求してもいいのかもしれないね・・・、なにせ、お互いの世界で兵器を持ち合うことを向こう側世界が提案してきたわけだからね。」


 霧島博士が笑顔を見せる・・・、ううむ・・・そこまでしてくれるかどうか不明だが・・、実現すれば大きな発展だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ