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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第1章
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いざ決行

第10話 いざ決行

 施設内での写真撮影や携帯電話の使用禁止などの他にも、弁当以外の私物の持ち込み禁止など結構厳しいルールがあったのだが、女性たちが来てからは守られることはほとんどなかった。


 彼女たちは、お菓子を持ち込んでは休憩時間等、それをつまみながら話に花を咲かせる。(ガード業務の俺達は、作戦行動時間中は休憩時間などないのだが、彼女たちはショッピングセンターや市場から食料を調達して戻ってくる都度、基地の中で休憩をしている・・・、我々はその間も基地周辺の警護を行なっているか、交代で昼飯を食うくらいしか出来ない。)


 俺達の上司は、おとなしい性格なのか、それを咎めると言った行為をするつもりはなさそうである。

 それでも、彼女たちの机の上がお菓子やらマスコット人形やらで埋まりかけた時には、さすがに思うところがあったのであろう、上層部に掛け合ってくれたようで、俺たち個人ごとのロッカーが与えられた。


 それで、最小限度の私物は持ち込んでも良いが、業務時間中はロッカーに入れておきなさいという事のようだ。

 ますます、都合がよくなった。

 俺は目的に向けて、少しずつ物を持ってきてはロッカーに溜め込んでいった。


 決行の前日になって、俺は昔のアパートへ行って友人に会い、これまでの事情を全て話した。

 と言っても、俺が知り得たことと、そこから俺が到達した推論についてである。

 俺の上司に直接確認したことでも無いし、あくまでも俺が勝手に推測している事柄でしかない。


 友人は、そんな話はとても信じられないとしながらも、俺が話した通りに段ボール箱のへこみがあった件などを思い出しながら、現実の出来事であることを否定はできないと言った顔をした。

 俺はこれまでに隠し撮りをした中国でのことも含めた写真やビデオ画像を全て見せた。


 中には、大量の虐殺シーンなどもあったが、俺は自身の行為を正当化して、都合のいいデータだけを出すつもりは毛頭なかった。

 知らされていなかったとはいえ、薄々気づきながらも、随分と人を殺めてしまったものだ。


 別次元の人々とはいえ、俺は人殺しなのだろう。

 俺は、これからの行動によって、この事の一部分だけでも世間に知らせることが出来るかも知れないと伝えて、その時にはこれらの資料を明るみに出してほしいと告げた。


 もし、俺が失敗した場合は何も起こらないかも知れないが、1ヶ月以上たって何の音さたがなくても、疑惑は本当であるはずだから、やはりこの資料は明るみに出してはくれないだろうかとも告げた。

 そいつは、だったらインターネット上に匿名でばらまいてやるよと答えてくれた。

 それでもいいだろう。


 今でもシミュレーションゲームだと思いながら、大量虐殺の手先にされている人間が日本だけでも何十人、全世界では恐らく何百人、何千人と居るのだ。

 その彼らの目に止まれば、このことが明るみに出る可能性が大だ。


 俺は、もう一つの手段として、高校の時の同級生にも同じ話をしておいた。

 物理学者だと思っていたら、心理学者だった奴だ。

 そいつは信じてはいないのであろう、もし俺が死んだとしたら、お悔やみ代わりにネット上に流してやると言っていた。


 勿論、彼らにはそれぞれ別の協力者がいることは告げていない。

 もし仮にどちらかの身に危険が迫った場合、もう一方も危険にさらされる恐れがあるからだ。

 お互いに知らない関係の方がいい。


 俺は誰よりも早く出社し、地下の操作室のドアの鍵を開けて中に入ると、わざと鍵を折って鍵穴を使えなくしておいて、内側からロックした。

 夜勤の予定も入っていない為、ドアのカギは渡されてはいなかったが、合鍵を作っておきヤスリで切り込みを入れておいたのだ。


 それから管理者権限でシステムにアクセスすると、まずはサーバー上の全ての管理者名を抽出し、それらすべてのパスワードを書き換えた。

 1日で数ヶ所の応援をするようになり、夜勤での対応が頻繁になると、パソコン操作に不自由のない俺に対して、管理者権限を与えてくれたのだ。


 そうすることにより、いちいち管理者が出勤して、俺の操作するマシンを設定しなくても、どこの国のどの都市の何番のマシンであろうが、俺は自由に操作できるようになっていた。

 俺は、その日の担当役割を聞いて、自分でマシンを割り当てて、他所の応援を行っていたのだ。


 そんな重要な権限を与えてくれたのも、俺という人間を信用してくれたことと、陥落しかけた東京基地を一人で奪還したと言う功績があったからだろう。

 また、いくら管理者権限を与えたところで、こんな大それたことをするとは、考えてもいなかっただろうしな。


 未だ操作したことのない国や都市のマシンが多数あるが、そんなことはこの際関係がない。

 俺はただひたすら管理者権限で、自動プログラムで稼働している夜間のマシン操作者を、東京コントロールルームの装置に書き換えて行く。


 勿論、東京コントロールルームのマシンは搬送用のアームロボットを含めても全部で10台しかないので、割り当てられるのは俺以外の操作盤で9台だけだ。

 重複してマシンを割り当ててしまうと、同じ信号が複数台のマシンに送信されてしまうため、もちろん正常な操作は不可能だ。


 しかし、この際重複していても問題はない。実質操作することはないのだ。

 そうしてから順次、マシンの操作権を消失した他の都市のコントロールルームを閉鎖していく。

 テロ対策という事で、管理者権限であれば、遠隔操作でコントロールルームを閉鎖することが出来るのだ。


 この操作で、アジア地区の大半の都市のコントロールルームが使用不能になった。

 引き続き、時差の関係で終業していく地区のコントロールルームのマシンの操作者を書き換え、閉鎖していく。

 7割ほどの都市のコントロールルームを閉鎖し終えた時点で、これからは稼働中のコントロールルームへのアタックだ。


 迅速に行わなければ向こうに対応の隙を与え、計画がとん挫してしまう。

 俺は、まず稼働中のコントロールルーム全てに神経ガスを散布した。

 神経ガスは即効性があるが、有毒であるため黄色に着色されている。


 その為、黄色のガスが部屋に放出されたら、直ちに業務を放棄して非難する様、指示されているし、避難訓練も行われた。

 テロリストに基地が乗っ取られた時のための対抗手段で、全てのコントロールルームに設置されていて、逆に遠隔操作でなければ操作できないようになっている。


 俺は夜勤の時に、コントロールルーム内の全ての設備に関してのマニュアルを熟読したのだ。

 一人での対応が多かったので、フリーズ時に手間を取らさない為と言えば、大抵のマニュアルは見せてくれた。


 ガードが甘い事に多少の疑問を感じていたが、大半の関係者がただのシミュレーションゲームと思っているのか、警戒されたことはただの一度もなかった。

 就業時間中は忙しくて、なかなか読む暇もないと愚痴を言っていたら、自宅へ持ち帰ることを内々ではあるが許可してくれたほどだ。


 神経ガスの散布で、操作者が脱出した後のコントロールルームを閉鎖し、全てのマシンを東京コントロールルームの操作盤に関連付ける。

 迅速に行いたいのはやまやまだが、これらの事を1つ1つ手作業で行って行かなければならない。


 パソコンの操作に詳しければ、マクロでも組んでプログラムに実行させるのだろうが、残念ながら俺程度の知識では、そんな高度なことは出来ない。

 手作業を繰り返すのみだ。


 そうこうしているうちに、異常事態に気付いたのか、東京コントロールルームのドアの外が騒がしくなってきた。

 鍵が壊されて開けられない為、どんどんとドアを叩いて、叫んでいる。

 ドアの外のモニターを確認すると、いつもの上司と警備と思われる、ブルーの制服姿の男がドアの外に立っている。


「これはこれは所長さん、おはようございます。新倉順三です。」


「おはようございますじゃないでしょ。

 一体何を考えているのです。

 世界中のコントロールルームを閉鎖して、一体どれだけの損害か、分っていますか?」


 まだ、朝の7時前だというのに、就寝中にたたき起こされたのか、不機嫌そうに寝ぼけ眼の上司は、ドア上のモニターに向かって叫んている。

 セキュリティ用のモニターシステムが、いわばインターフォン変わりだ。


「損害?損害とおっしゃいますと、コントロールルームを閉鎖している間に、強奪できなかった分の食料、いわば機会損失という事ですか?

 俺は、世界中のコントロールルームで日々どれだけの物資強奪を義務付けられているかは知りませんが、どれほどの損害になります?」


「何を馬鹿な事を言っているのですか。

 そんなプログラム上の、いわば仮想現実の収得物を損失として考えている訳、ないでしょう。

 全世界ネットワークで24時間稼働実験を行い、仮想現実世界とのバトルアクションデータ取得が遅れるのですよ。


 ゲームの販売が1日遅れるだけで、一体どれだけの損失となるか、あなたには判らないでしょうね。」

 上司の答えは、俺にとっては意外であった。

 彼に関しては、これが異次元世界からの略奪行為であることを知っていると考えていたからだ。


「所長さんは、この作業がただのシミュレーションで、データ取りの為に行われていると、思っていたのですか?」


「当たり前でしょう。そりゃ、仮想現実をリアルに表現する為に、死んだ人間を丁寧に弔って埋葬するだの、細かな設定はありますが、全てリアルさの追求の為でしょう。

 ばかばかしい事に付き合わされているというよりも、私は、ここまで細かく追及したプログラムに関わることが出来て、光栄に感じていますよ。


 今まで関与していた、どのプログラムより、リアルですからね。

 その、制作の邪魔をするとは、あなたはライバル会社から派遣された、いわば産業スパイですか?」

 どうやら本当に上司は、この侵略行為の事を知らないようである。


「そうですか。あなたならご存知のはずと考えていたのですが、そうであればご説明しましょう。

 毎日毎日、繰り広げられている略奪プログラムは、異次元世界の地球に対する侵略行為です。」


 俺は、マイクを通してではあるが、ドアの外の所長と警備員に対して、俺がこれまでに知り得たことを説明して行った。

 と言っても、資料も何もなく、相手に理解してもらうには乏しい内容ではあったのかも知れない。


「何を馬鹿な事を言っているのですか。

 そのような事を現実に行われているのだとしたら、間違いなく犯罪行為ですよ。

 いくら異次元とはいえ、同じ人類に対して、そのような事許されるはずもない。


 第一、どうやってその異次元に行くのですか?

 未だ、太陽系の星々にすら満足に行き来できない人類が、次元を超えるなんて到底考えられませんよ。


 あなたは病気で、現実世界と仮想世界の区別がつかなくなってきているのですよ。

 悪いようにはしませんから、おとなしく鍵を開けて出てきてください。」


 上司は、勉めて平静を装って俺の説得に乗り出してきたようだ。

 警備員も連れてきてはいるが、ドアをこじ開けようなどの危険行為は今の所なさそうだ。

 まあ、これもテロ対策なのだろうが、厚さ数センチはある鋼板のドアは、簡単にこじ開けることは出来ないであろう。


 俺は、上司との応対をしながらも、他基地の制圧を続けて行った。

 そうして、リスト上にあるコントロールルーム全ての閉鎖と、操作者を書き換えたころ、東京コントロールルームのエレベーターのドアが開き、ガスボンベや工具類を持った数人の男たちが乱入してきた。

 俺はすぐさま、廊下へ神経ガスの散布を行う。


 天井から黄色に着色されたガスがゆっくりと、頭上に降り注ぐ。

 しかし、彼らの対応は素早かった。

 すぐさまガスマスクを装着すると、そのままドアの開錠に取り掛かる。


 俺はドアに、撃退用の電気を流す。電流値はさほどでもないが、数千ボルトの電気ショックだ。

 鍵穴の異物を取り除こうとしている奴が、そのショックで床に前のめりで倒れる。

 電気ショックで気絶したのだろう。


 人が入れ替わり、今度は分厚いゴム手袋をした奴が、鍵穴の対処に当たる。

 俺は冷静に天井のスプリンクラーから水を放出させた。

 これは、テロ対策用ではないが、火災用に設置されているものだ。


 部屋の中にスプリンクラーの操作パネルがあり、動作確認のテストボタンを押したのだ。

 フィルタータイプのガスマスクは、水に濡れてしまい、恐らく使用不能だろう。

 しかし、肝心のガスも流れ出る水により落とされてしまい、床が黄色く染まる。


 ドアに通電した電気のせいで、所々でバチバチと火花が飛び散る。

「さあ、早いところ退散しないと、もう一度神経ガスを散布しますよ。」

 俺がマイクを通して、廊下側に呼びかける。


 男たちは、ずぶ濡れになったガスマスクを投げ捨て、エレベーターで戻って行った。

 俺は、緊急時対応のプログラムで地下行きのエレベーターを使用禁止にし、ロックを掛けた。

 そうして、階段のドアもロックする。


 これらは、テロリストにビルの地上階を制圧された時の対処として、マニュアル化されており、外部からの解除は出来ない仕様になっている。

 これで何とか、東京コントロールルームも制圧できたようだ。



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