採用面接
先週投稿開始する予定が、投稿寸前に、待てよ、ここは・・・、なあんて迷いが出てしまい、すっきりしないままの投稿開始です。
まあ、あまり設定など考えていても進まないので、やってみます。
第1話 採用面接
これが最後のチャンスなのかもしれない。
3流大学を卒業後も、まともな定職に就くことも出来ずに、バイト暮らしで日々の糧を得るだけの生活。
こんな生活を既に6年も続けているのだ。
唯一の楽しみといえば、ゲームセンターのネット対戦形式のシューティングゲーム。
俺は、こう言ってはなんだが、ゲームの才能はあるようで、常に得点上位に名を連ねている。
対戦形式とは言っても、格ゲーのように対戦者同士が戦いあう訳ではない。
大きなスクリーンに映し出される動き回る的を、コントローラーを操作してシュートするゲーム・・・、同じシチュエーションでシューティングゲームを行い、その獲得得点を競い合うものだ。
格闘ゲームの場合、最近はVRが主流であり、互いにゴーグル式のモニターに加え、両手足にモーションセンサーを取り付け、体全体の動きで相手に打撃を与えたり攻撃を避けたりする、まさに格闘技そのものと言っていいくらいの実戦が行なわれたりする。
しかし、ゲーム画面を見ているギャラリーはいいが、ゲーマーが実際戦っている姿は、勿論、それぞれ別箇で誰もいない空中相手に蹴りを出したり防御したりしているので、余り格好の良いものとは言えないと個人的に思う。
だからという訳ではないのだが、俺はシューティングの方が性に合っていると感じているのだ。
俺は、全国レベルでの最高得点こそ出したことはないが、2人同時に同じゲームでの得点を競い合う対戦形式で、これまで負けたことはない。
ネットで繋り、日本全国どころか世界中から対戦者を募って行うのだが、周りの観客にも対戦状況が判る様に、巨大なスクリーンに2画面で俺と相手の状況が映し出されながら競い合うのだ。
大抵の人間は自分のキャラが担当している画面を注視する。
隣の画面も動きがある為、気がそられるから邪魔だというやつもいる位だ。
特に、相手の得点の数字が跳ね上がるのが、ちらちらと目に入ると、余計に焦ってしまうので、見えない方がましだと言うやつが多いようだ。
ところが俺は、隣の画面も同様に注視する。
自分のキャラ画面6割としたら、隣の相手側画面4割だ。
そうして、相手よりほんの少し遅れて進行させるようにする。
俺がメインで行っているシューティングゲームのターゲットは、設定が同じでも、毎回ランダムに出現するので、決まったポイントで出てくるわけではないし、出現パターンなるものも存在しない。
それでも対戦形式の場合は、出現ポイントの格差をなくすために、両者同じタイミングで出現するのだ。
俺は、相手側画面で敵の出現ポイントを把握しながら準備してシュートするのである。
相手が継続し続ける限り、俺にはターゲットの動きが丸判りの為、その間は無敵なのだ。
つまり、常に相手よりも少しだけは長く生きながらえるという訳だ。
このコツは誰にも明かしたことはない。
それに、遅らすと言ってもほんのゼロコンマ何秒といった僅差であり、瞬時の判断能力が要求され、1秒以上遅らすと、相手にも作戦がばれてしまうので、それを感づかれないようにする技術が必要だ。
シューティング対象の設定としては、
1.宇宙空間で湧き出てくる敵円盤を撃破
2.アフリカのサファリで、ライオンやサイなどの猛獣相手
3.オフィス街で敵スパイと銃撃戦
4.最終戦争後の世界でゾンビ相手に銃器を乱射
など様々だが、特に街中での人間相手の銃撃戦が好まれるようだ。
俺は、設定に好みはなく、常に相手の望むシチュエーションで戦うのだが、310戦して無敗。
上級者になると、コンティニューし続けて1時間近くも台を占拠するため、1日1対戦しかしないと決めているので、365勝になったらこのゲームからは引退しようと考えている。
たった百円でこんな長い間台を占有していて、ゲーム場も気の毒と最初の頃は思っていたのだが、俺がゲームの壇上に上がると、すぐにギャラリーが集まってきて、ゲーム終了まで固唾を飲んでその流れを見守っている。
そうして俺が退くと、興奮冷めやらない若者たちが続々と同じゲームを始めるのだ。
言ってみれば、客寄せパンダみたいなものだ。
俺としては、タダでゲームをさせてもらうどころか、手当をもらってもいいくらいだと考えてはいるのだが、行きつけのゲーム場の店長はそんなに甘くはない。
1日1度の対戦では飽き足らず、再戦を多くのギャラリーからリクエストされ、調子に乗って壇上に上がろうとしたら、店長が駆け寄って来て営業妨害だから堪忍してくれと断られた。
客の評判はいいので、1対戦なら堪忍してやるが、それ以上はするなと言うきついお達しを食らったくらいだ。
まあ俺が子供の頃の話だが、物価高騰して野菜の価格が跳ね上がり、このままいくと庶民の食卓から野菜が消えるなんて事が囁かれていたらしく、当時から百円の価値なんて無きに等しいものとなっていて、これをケチったところでどうしようもない。
今のこの時代でも百円で1ゲームできることを、ありがたいと感謝しなくちゃいけないと考えることにしている。
今のバイト先から自分のアパートへの、丁度通り道にあるこのゲーム場は、立地条件も良く最適なのである。
過去のゲームブームで日本中にゲーム場が乱立した時代もあったようだが、今ではつぶれるゲーム場の方が多いようで、貴重な娯楽の場である。
各家庭にネットワークが普及して、パソコンどころか家庭用ゲーム機でもネット対戦が行われるようになったかと思うと、今度はスマートフォンでのゲームが主流となり、ゲーム場人気は廃れる一方だというのが、店長の常々の愚痴である。
それでも俺としては対戦ゲームであっても、ゲーム場でギャラリーに囲まれて行うのが、ストレス解消に最適だと考えている。
家に籠って一人でちまちまと指の運動じゃ、いくら最高得点が出ても気は晴れないと思っているくらいだ。
そんなゲーセンフリークの俺に、日ごろの感謝をこめてなのか、店長が募集票を持ってきてくれた。
ついに俺の腕を見込んで、どこかのゲームメーカーが専属のゲーマーとして雇ってもらえるのかと思い、渡された紙を見たら違った。
いや、そんな微妙で先行きに不安のありそうな案件よりも、はるかに好条件の就職の斡旋であった。
世界的な大企業で、正社員として働かないかと言うお達しであった。
しかも、シューティングゲームの達人求むとなっている。
俺は訳が分からず、店長に事のいきさつを尋ねた。
「いやあ良く判らないんだが、何でもこのシューティングゲームの対戦で、常勝している人間がこのゲーセンに来ているだろうと、ごつい体で黒スーツの面々が先日訪ねて来てな。
お・・・、俺としては大切な顧客情報だから、教えることは出来ないって答えたんだが、犯罪がらみとかではなく、その人間に興味があるので、見かけたら連絡してほしいと言われたんだ。
そうは言っても、無闇に変な情報を教えるわけにもいかないから、相手の身元の証明なんかを求めたら、それがなんと世界的な一流企業の日本支社。
それでピンと来たんだよ。
シューティングゲームの達人を招いて、新規ゲームの評価をするつもりだろうと。
穀物メジャーなんて言われている会社だが、ついにゲーム市場に参入するんじゃないかと考えてな。
そう話したら、当たらずとも遠からずだなんて笑って言ってきて、この紙を渡されたんだ。
長い事ゲームセンターの店長をやっているが、こんなことは初めてだよ。
いずれ、レーシングゲームの達人をF1ドライバーに、なんて引き合いも来るかもしれないな。」
店長は、さわやかな笑顔で答えてくれた。
思えば、この店長とも、普通に言葉を交わすのは今が初めてかも知れない。
あまり人付き合いのいい方ではない俺は、学生時代の元同級生や、バイト先の職場の人間たちとか、常に顔を突き合わせている人間たち意外とは会話することはない。
そう言った点では、毎日通い詰めているゲーム場の店長とは、常に顔を突き合わせているともいえるのだが、それでも相手は俺にゲーム機を占有しすぎだの、他のゲームもしないでぶらぶら過ごしているだけだのと、文句を言ってくるだけの存在なので、実をいうと苦手としていたのだ。
そんな人が、俺の事を気にかけてくれていたとは、意外であった。
店長の立場から言えば、来店してくれるお客に対して、下手な勧誘情報は与えられないとの責任感から、確認してくれた程度の事なのかもしれないが、俺としては親身に面倒を見てくれる恩人とも思えた。
「あ・・・、ありがとうございます。」
俺は深々と頭を下げると、急いでゲーム場を後にした。
なにせ、面接設定日はあと3日後なのだ。
それまでに履歴書と職務経歴書などを準備しなければならない。
履歴書であれば、バイトの面接用に準備したものがあるが、職務経歴書なるものは書いたことが無い。
急いで家へ帰ってから、パソコンを立ち上げネットで職務経歴書なるものを検索した。
まともな職に就いたことが無い自分には記載することがあまりなさそうだが、面接官の心象をよくするために、少しでも当てはまりそうなことは何でも記入した。
そうして、バイトの休みをもらって面接会場へと向かった。
今から20年ほど前の西暦20××年、世界人口はついに80億を超えた。
地球全体の耕作地面積から、食料が安定的に供給できる人口は50億までと言うデータもある中、急激に拡大する人口増加は、やはり食糧危機を招いた。
世界規模の飢饉ともいえる食料不足は、食料品価格の高騰を招き、食料自給率の低い日本では、キャベツ一玉千円でスーパーに並んでいる光景が何年か続き、近いうちにそれは5千円を超えるだろうと言われ始めたらしい。
大学新卒サラリーマンの初任給全国平均が30万円ほどで、税金などの支払いを考慮しなくても、キャベツ60玉分にしかならないのだ。
キャベツを1日2玉も食べる人はそうもいないだろうが、キャベツだけで生活できるわけでもないし、米だって肉だって、当然の事だが相応に値段が上がっていたはずだ。
そんな恐ろしい世の中が何年か続き、ようやくここへきて、食料価格が安値安定してきたところだ。
それでもキャベツは冬場でひと玉500円ほどだが、ピーク時の半分であり、米は10キロ1万円まで落ち着いたところである。
米離れなんてずいぶんと昔から言われているようだが、やはり日本人としては、1日1食は米の飯が食べたいところだ。
フリーターとも称されるバイト暮らしでは、昼勤務の外に夜勤のバイトを併用して何とか食いつないで行けるレベルまでには、回復したとも言えるのが現状である。
それでもいつまた食糧難で価格高騰なんて時代が来るかもしれない、その時に備えるためにも安定した職に就くことは必須な願望なのだ。
三十路間近の男が、いつまでも事ある毎に親の世話になっている訳にはいかない。
俺は一念発起という程でもないが、それでも、この面接結果に当面の俺の生活が懸かっていることに間違いはないので、新調してからあまり袖を通したことのないスーツに着替えて面接会場へと向かった。
会場は倉庫が立ち並ぶ、港に近いベイエリアの一角のビルだった。
苦手な筆記試験をどうしようかと頭を悩ませていたのだが、直に面接でしかも集団面接であった。
4人の面接官に対して、10人の応募者が並んで一度に面接を受ける。
俺の隣の奴のハンドルネームを聞いてピンときた。
一人プレーのシューティングゲームで、常にベスト5の得点をたたき出す奴だ。
俺は一人プレーになると、全国のベスト10位がやっとだ。
シューティングゲームの才能を競うようなことを聞いて、天職とも感じて来たのではあるが、こんなのと競り合うのでは、敵いそうもないと途端に意気消沈だ。
なにせ話を聞いていると、日本全国からゲームオタクともいえるような連中が、面接に来ているのだ。
集団面接は、それほど個人差が出そうもない確認事項のみに留まった。
その後、一人ずつ会場に設置されたゲーム機で実戦だ。
トラクターや農機具が並べられた会場内の一角に、煌びやかな電飾で飾られたゲームマシンが1台だけ置かれていて、非常に目立つ。
これが、本当に採用試験会場なのかと疑いたくもなるが、向こうも真面目に対応してきているので、おふざけではないだろう。
相手は畑違いではあるが、世界的大企業なのだ。
遠くは北海道から来ている者もいて、冗談やドッキリで済むレベルは、既に越えているのだ。
まあ、今まではゲーム関連に全くかかわったことはなかったにしても、今後は手広くやって行くのだろう。
実戦での俺は、善戦した。
会心の集中力を見せて、これまでの最高得点と同程度の記録を叩き出した。
しかし、これでは全国トップ10レベルだ。
この会場に来ているであろう、全国で一ケタの順位に名を連ねる面々の得点には、到底かなわないだろう。
なにせ、採用予定人数は5人に対して面接に訪れた人数は20人なのだ。
しかも、各人の記録を参考にふるいに掛けられて、残った面々が来ているというのだ。
補欠でも考慮して、10人採用であれば引っかかる可能性も無きにしも非ずだが、5人であれば俺の隣で面接を受けた奴ですら合否ラインすれすれなのだ。
あきらめムードの俺だったが、隣の奴に追い抜かれた後は、俺の得点を上回る奴がなかなか出てこない。
みんな調子が悪いのであろうか。
ゲームの設定自体は、普段やっているゲームそのものであり、何の工夫もされていないものだった。
それとも、みんなは新規設定で来るのではないかと深読みして、別なゲームで特訓してきたのだろうか。
どちらにしても、それほど高い得点をたたき出す奴は出てきていない。
記録が更新されて、6位以下になる毎に、はじき出された面子が会場を後にしていく。
どうやら、このゲームの得点順位で採用の可否が決まる様子で、面接はただの素性確認目的だけのようだ。
そうこうするうちに、既に残り人数は5人を切って3人となった。
現在2位の俺は、これで5位以上が確定した。
まだ最終的にどうなるかは判らないが、採用となる公算が大きくなってきた訳だ。
それでも、今回はレベルが低すぎるので、再度募集を掛けますなんてことが起きないとも限らないのだが。
まあ、あくまでもシューティングゲームの達人を熱望していればの話なのだがな・・・。
そんな心配をよそに、応募者全員の実戦が終了した。
俺の記録は全体の2位であった。
俺を含めた5人はそのまま会場に残り、その他の応募者は全員帰って行った。
その後、就業時間や給料及び手当、休日のローテーションの説明などが行われ、採用通知書に自分の名前が記載されたものを受け取った。
本当に採用されたのだ・・・、夢でも見ているような気分になり、本当に自分の頬をつねって見たい衝動に駆られたくらいだ。