94:受け止めよう。
まぁやるぞーって言っても、私に出来る事は殆ど無いんだけどね。
なのでカトリーヌさんに「お願い」をして作業を進めて行くとしよう。
元々はお姉ちゃんに手伝って貰うはずだったけど、体が大きい分カトリーヌさんの方が力もあるので潰したりするのはそちらに任せよう。
「カトリーヌさん、箱から私のまな板を出してもらえるかな」
私の……まな板……? いや、ちゃんとある。あるから大丈夫だ。
だからお姉ちゃん、私が何を考えたのかを察して悲しげな瞳で見るのはやめるんだ。
くそう、全く必要のないダメージを受けたじゃないか。
「はい。擂り鉢と擂り粉木もですの?」
「そうだね。まな板の上に布で挟んだ大豆を置いて叩…… いや、棒で押しつぶしてほしいな」
なんか思いっきり叩いたら机がゆがんだりしそうで怖いし。
いや、流石にそんな力があっても全力では行かないだろうけどさ。
「はい。ですが心配せずとも、叩き壊したりはしませんわよ?」
あ、何考えたかバレた。そりゃそうか。
「あはは、ごめんね。まぁとりあえずお願い」
「雪ちゃん、私はー?」
「あー…… ごめん。手伝って貰う事がこれしかないから、お昼ごはん作ってて」
手分けするほどの量もないから、一人分の作業しか無い。
「むぅ。一応材料はあるけどさ。でもここ一面が芝生だから、火が使えないんだよね」
「あー、確かに。バーベキューコンロみたいなのが有ればいいんだけどねぇ」
「後々小屋を作る予定が有るなら、その予定地をむしっちゃう?」
「うーん、確定事項ではないんだよねぇ。まぁこういう時に物置兼作業小屋が有れば便利だろうけど」
「と言いますか、粉末にする作業はあまり屋外ではやりませんわよね。できましたわ」
「あー、何か飛んで来たり風が吹いて飛ばされたりするかもしれないしね。シルク、こっち来て。大豆の皮を集めるのを手伝って」
あ、集めた後の皮はどうしよっか。
魔力球に放り込んで分解して、そのまま一緒に吸っちゃえばいいかな? 暴走しない様に気を付けないといけないけど。
「カトリーヌさん、ちょっと息が荒いけど疲れちゃった?」
「いえ、大丈夫ですわ。この布の下で押しつぶされている大豆の代わりに、【妖精】となった私が……などと考えている内に少々昂って」
「あー、取りあえず小屋は建てる方向で行くとして、後で私が草取りをやるからお姉ちゃんは下拵えでもしてて」
聞くんじゃなかった。よく見たら顔もちょっと火照って赤いし。
お姉ちゃんも引いてるけど、スルーしておくことにしたらしい。
「ん、私がむしっちゃ駄目なの?」
「【吸精】で吸い尽くして処理するんだけど、生きた状態の方が沢山のMPを吸えそうだからさ。あ、シルク。取った皮はここにまとめてね」
「どうせ処分する物なら役立てた方が良いという事ですか。少々親近感を覚えますわね」
そこは別に覚えなくていいと思うよ?
「よし、それじゃカトリーヌさんはこれを擂っちゃって。シルク、これにその皮を全部入れて。ほら、触らなきゃ大丈夫だから。怖くないよー」
怯えるシルクを宥めて手伝って貰う。
こうやって分解できるとゴミ捨ての事を考えなくていいから楽だな。
「で、どの辺にしよっかな……」
端が壁とか道なら良いんだけどここは壁の代わりに花だし、蜜を取るためにその前は空けておかないといけないからな。
とりあえず管理小屋の位置を参考にして、大体のあたりだけ付けようか。
うん、広場の奥の方、管理小屋の反対側でいいや。
まずはお鍋一つ分とちょっとくらいの広さを空けちゃえばいいよね。
「よし、と」
出来たー。燃え移らない様に気持ち広めに空けておいた。
あっちの進みはどうかなーっと。
お姉ちゃんの方は、準備は大体終わった感じっぽいな。
カトリーヌさんは…… アレ、また危ない事考えてるな……
うっとりした顔でハァハァ言ってるし。
普通にしてれば綺麗な人なのになぁ。あーあーもう、うっとりどころの顔じゃないよ。よだれが顎まで……
「ってちょおーいっ!? 垂れる垂れる!! よだれ垂れる!! だあーーっ!」
顎から垂れ始めたよだれを見て、慌てて【魔力武具】でボウルを作って突撃する。
「よしっ、セーフ!! あっ、ちょっ、んむーーーっ!!?」
ちぎれて落ちた所にギリギリ間に合い、掬い上げる様にボウルを振り上げてキャッチ。
……したまでは良かったんだけど、咄嗟に作ったものが綺麗な半球状で、取っ手も無かったのが拙かった。
受け止めた衝撃でその場で手からすっぽ抜け、少し回転したところに私がダイブして頭に装着。
口を開けずに悲鳴を上げるのに成功したのが不幸中の幸いだろうか……
「……ハッ!? も、申し訳ありません! 白雪さん、大丈夫ですか!?」
我に返ったカトリーヌさんが、口元をハンカチで拭いながら安否を聞いてくる。
「うえぇ…… ヌメヌメするー…… でも入っちゃわなくて良かったよ……」
これで実は既に何滴か入ってましたとか言われたらちょっと泣くよ。
「本当に申し訳ありません…… せっかくの炒り豆を台無しにしてしまう所でした」
「いやぁ、仕様のおかげでただの水で良かったね雪ちゃん」
「ただの水って言うには粘度が凄いけどね…… 匂いは無いからいいけど…… うぅ」
「なんとお詫びすれば良いか……」
「いえ、大丈夫です…… とりあえずお風呂入ってきますね…… って私の腕力はよだれにも勝てないのか! 頭から取れないよこれ! うわぁ、手が離れなくなった!?」
待て待て待て、翅にも引っかかっててぺったり引っ付いちゃったよ!!
やばい飛び辛い、落ちる落ちる!
「シルクー! 助けてぇー! うわっ口に入っ」
うえぇ、やばい、粘ついてうまく吐き出せない。なんでこれだけ【妖精】仕様の粘りにならないんだよ!?
こんなんで死んだら情けなさすぎるでしょ!?
少し諦め始めてへろへろ落ちて行った所をシルクに抱き止められ、凄い勢いで家の中へ連れ込まれた。
うぅ、怖くて触れる程には近づけずにそのまま見捨てられるかと思ったよ……
さっき皮を集めてた時もきっちり私の真反対に居たくらいだし。
家に飛び込んだ勢いのままお風呂まで連れていかれ、着衣のまま熱いシャワーに晒される。
口も開けてうがいをして、やっと一息つけた。
「うぅ、本当に助かったよシルク。ありがとう」
目を見てお礼を言った瞬間に、熱い物に触れたかの様に跳び下がり直立するシルク。
ありがとうって言ってるだけなのにそんなに怯えなくても……




