831:時の流れに気付こう。
「で、その時計だけど、よく見たら四本目の針が有ってね」
「四本目?」
「うん。秒針を短くした様なやつが一周する度に秒針が進んでた」
「……そんなのがわざわざ有るって事は、その必要が有るって事か?」
「んだねー。それが十二回刻んで一周だったし、多分ユッキーのお腹の中にいる間は、時間の流れがここより更に十二倍に引き伸ばされてたんじゃないかな」
「えぇ……?」
「無茶苦茶だな……」
だから私の体は一体どうなってるんだよ。
大きさによって生き物の時間の流れは違うみたいな説は聞いた事が有るけど、そういうのとは関係無いだろうし。
【妖精】の体内って事と関係無くそんな仕様が有るなら、今のアヤメさんくらい縮んでれば少しは速くなっててもおかしく無さそうだけど、普通の人間サイズと同じ時間経過だったもんね。
「私がそれに気付くのを待ってから、『ね。だからそんなに急がなくても大丈夫だよ』って感じに微笑んで頷いてきたんだけど」
「うん」
「だからってあんまりのんびりし過ぎても待たせちゃうからね。それを言ってもう一回聞いてみたんだ」
「まぁ余裕が有るからって、その分ゆっくりしてれば同じ事だもんね」
「そそ。そしたらおねーさん、ちょっとだけ『ちぇー』って顔して壁の棚の方を見てね」
「何か有ったの?」
「なんかチェス盤みたいなのが見えたし、他にもいくつか箱が置いてあったから、遊び相手が欲しかったのかもねー」
「……暇なのかな」
「まぁそりゃ今まで誰も来なかったんだろうし、私が来た時もソファに転がって寝てたくらいだしね」
「あー」
確かにその状態は相当暇だろうなぁ。
中は十二倍速で時間が進んでるって事は、それだけ暇な時間を過ごしてたって事だろうし。
「つーか十二倍速ってさ」
ん、お兄さんが『ちょっと良いか?』って感じに会話に戻ってきた。
「それ、相当頭に負担がかかりそうだけど、そんな加速して大丈夫なのか?」
あー、確かに。
普段でさえ六倍速なんだから、現実に比べたら七十倍くらいにもなるのか。
「あー、まぁ私もそう思ったけど、少なくともさっきくらいの滞在なら問題無いと思うよー」
「ん、なんでそう言い切れるんだ?」
思うって言ってるのを言い切ってると言って良いんだろうか。
いや、これもどうでも良いな。
「だって、そういう重要な問題が起きる可能性が有るんなら、流石にこのゲームでも入る時に警告くらい出すでしょ」
「……あぁ、確かに」
なるほど。
まぁそりゃ何も言わずに現実の脳に問題を起こしたりする様な状況に放り込んだら、大問題になる可能性が高いか。
開発や運営だって、自分達が捕まるのは流石に嫌だろう。
……そのくらいは考えてるよね?




