74:判定しよう。
「もう駄目、一発も撃てない! いやー、妖精さん強いなぁ」
ごちそうさまでした。
しかしMP使い切っても元気だなこの人は。ブレないというかなんというか。
埋め立て作業やってて外に出てないってことは、最大値近くから一気に無くなったんだろうに。
流石に少しふらつきはしてるけど、表情は明るいままだ。
かなり一杯撃ってくれたし、念入りに吹いてあげよう。
「わーい! ありがとう!」
ええい、声が大きい。いくら慣れてきてても限界はあるんだよ。
まぁ耐えられない訳じゃないから我慢しよう。わざわざ来てくれた訳だしね。
さて、これで全員終わったかな。皆の前に出て頭を下げようか。
と思ったらレティさんが先に進み出て、手の平を上にして両手を重ね胸の前に掲げた。
こっちを見て笑顔で「どうぞ」と言ってきたけど、それはそこに乗って挨拶をしろって事だろうか。
いや別に乗るのは良いけど、何故に?
まぁいいか。これでスルーしたらレティさん恥ずかしいだろうし。
「みなさん、今日はありがとうございました」
レティさんがマイクも兼任してくれて実に助かる。
私がジェスチャーでやろうとしたら、なんか凄い子供っぽくなるからな……
「妖精さん、これ明日からもやるのか?」
「あ、そうそう! やっぱ攻撃担当としては全く通用しないのは悔しいし、なんとかして驚かせたいところだよね」
あー、確かに攻撃魔法メインで戦ってるのに全然効かないってのは火力職としてのプライドに障るか。
別に予定がある訳じゃないし、やってもいいかな。うん。
「それじゃ、明日もやろうと思います。ただ毎日やれるかは判らないので、明後日以降は出来る時に掲示板にでも書き込もうかと思います」
「よしきた。ところで今日の中で、良かった魔法ってのは有ったかな?」
「うーん。私は実戦に出てないので攻撃魔法の良し悪しはよく判らないんですが、あのおっきな火球は美味しかったです」
「威力じゃなくて味か……」
「あ、いえ、なんかすいません。あの魔法は込められた魔力が多かったので。ちゃんと暖かかったので威力も十分だと思います」
「雪ちゃん、フォロー下手だね」
うるさいやい。
「よし、それじゃ明日は頑張って妖精さんを痛めつけるぞー!」
「言いたい事は解るけど、言い方がおかしいだろ」
「それじゃ解散ってことでいいのか?」
いや、一気に言われると解りづらいんだけど。
「はい。ありがとうございました」
「おう、それじゃまた明日だな」
「あ、そうだ! 誰かー、とろっとろになってみたい人居ないかな? 雪ちゃんが見ない方が良いっていうんだけど、逆に気になる!」
おい待て、何を言い出すんだお姉ちゃん。
見ない方が良いって言うか、私が見たくないんだよ。
で、やっぱり魔人さんが手を…… いや待て、なんで数人居るんだよ。デスペナあるんだぞ?
「デスペナもセットで貰う事になるけどいいのか?」
あ、アヤメさんが確認したら殆ど手を降ろした。そりゃ進んでデスペナ貰う人なんて居ないよね。
って言いたいけど、それでも何人か残ってるんだよな。解せぬ。
当然というかなんというか、魔人さんは手を挙げたまま。っていうか隣の熊さんもかい。
なんだこの状況、私の指名待ちなのか?
むぅ、やりたくないとは言いづらい雰囲気になってるぞ。
いや、言えば多分解ってくれるんだろうけどさ。
まぁ仕方ないか。なんかお姉ちゃんに乗せられるのもちょっと悔しい気がするけど。
魔人さんはもう体験してるんだし、熊さんにお願いしようか。
「えーっ!?」
「やたー。あんたはもう二回もやって貰ったんでしょー? 後回しだよ後回し」
一回は破裂だけどね。まぁそっちも気持ち良いって言ってたしカウントしていいか。
っていうか出来れば次があるって前提で言わないで欲しいんだけど。
「で、魔力流し込むって事は妖精さんのMP消費するの?」
頷いて肯定しておく。
「そんじゃ、やる前に使う分を吸っていいよー」
そんなに沢山使うわけでは無いけど、補充は助かるな。
「んで、どうせやった後は死ぬんだし消える前に全部吸っちゃってー」
え、いいのか。まぁ確かにMP抱えて死ぬのも勿体無いけどさ。
っていうかそれ、別にやる前の【吸精】要らないんじゃ? まぁいいか。
「それじゃ、首から吸いますんで座って下を向いて下さい」
お姉ちゃんが伝えてくれて、念の為にと余分な荷物を預かって魔人さんたちの所へ行く。
いや、今回は別にドロップしても大丈夫だと思うんだけど。
熊さんのうなじに近づき、まずは手で触れる。
うん、やっぱり解っててもピクッてするよね。顔から行かなくて良かった。
首に入った力が抜ける前に口を付けて、軽く吸う。
おお、焼き芋味。相変わらず調理済みなのが謎だけどレアだな。美味しい。
「あーなるほど、ふらついてぶつかったりしないために座るんだねー」
察せたらしい。そこまでふらつくほどには吸ってない筈だけどね。
「妖精さん妖精さん、何味だったー?」
なんか魔人さんが聞いてきたけど、人の味を気にしてどうするんだ?
「焼き芋でした。果物以外は割と珍しいですね」
「へー、レアなのか。焼き芋みたいな味だってさ」
「ぷっ、あっははは! やーい、芋女ー!」
兎さんの中継を聞いた魔人さんが茶化しにかかる。止めといた方がいいんじゃないか?
熊さんがゆらりと立ち上がる。あーあ、知らないぞ。
「黙れライチ野郎」
うん、あれは痛いだろうな。ゆっくり歩いて近づいてから、みぞおちに突き上げるようなボディが叩き込まれた。
魔人さんは逃げても無駄と悟ったのだろうか。覚悟の表情で立ち止まったまま大人しく殴られて、物も言えずに崩れ落ちる。
「いやー、やっぱアホだろお前。なんでそうなるのが解っててわざわざやるかね」
「というか焼き芋は美味しいので、私としてはとてもありがたいんですけどね」
「ほー。おい喜べ、妖精さんはお前の味が好きらしいぞ」
なんか言い方が微妙な感じがするけど間違ってる訳ではないからいいか。
しかし熊さんちょっと嬉しそうな顔してるけど、自分が美味しいっていうのは喜ぶべき事なのか? まぁ不味いって言われるよりはいいのか。
「や、野郎じゃないもん……」
あ、復活した。早いなおい。
「いいからお前は黙って休んでろよ。妖精さん、こっちは気にしなくていいから」
「中断してごめんよー。それじゃ、またさっきの姿勢になればいいのかなー?」
熊さんが戻ってきたので頷いて再度座って貰う。
さて、私も覚悟を決めるか。




