462:よろしくない話をされよう。
まぁせっかく見かけたんだしという事で、「お疲れさまでーす」と声をかけつつ近づいて【妖精吐息】を吹いておく。
これだけ広いと普通の仕事も大変だろうからなぁ。
礼を言うモニカさんに手を振って皆の所へ戻り、改めて市場へ出発だ。
東通りに向けて路地をふよふよ南下していると、何やらカトリーヌさんがそっと近づいて来た。
「白雪さん、少し思ったことが有るのですが」
「ん?」
わざわざ近づいて小声で囁いてくるって事は、聞かれたくない話かあんまり表で言うべきじゃない話か。
話すのがカトリーヌさんの場合、後者な気がしてならない。
「お話してもよろしいでしょうか?」
「……一応確認したいんだけど、それまともな話?」
「そう言われますとまともとは言い難いですが、いつもの私とは方向性が少し異なりますわね」
ああ、普通の変な話ね。
いや別に普通では無いか。
「……たぶん聞かない方が良い気がするんだけど、言いかけられると気になるじゃない」
「すみません。その、半ば他人事とはいえ少々気になりまして」
「ちょっと待って。一応心の準備をしたい」
「あ、はい」
何を言ってくる気なんだろう。
半ばって事は一応自分にも関係無くは無い話だよね?
この人の事だから、痛いとか恥ずかしいとかだけど自分にとっては問題無いって感じの話題だろうか。
でもさっき、いつものカトリーヌさんとは違うタイプの話だって言ってたしなぁ。
まぁ考えても仕方ないし、覚悟を決めて聞くしかないか。
いや、多分聞かないのが一番良いんだろうけど。
「よし。で、何の話?」
「一応表でする様なお話ではありませんので、少しお耳を」
「……なんでそういう話を表で振ってくるの」
聞き捨てならないセリフにツッコみつつ、聞くって言った以上仕方ないのでカトリーヌさんに耳を近づける。
……やっぱ止めとこうかな。もう遅いか。
「その、何と言いますか」
「ん?」
自分から話を振っておいて、何を躊躇ってるんだ。
「排泄の仕様が無くて助かりましたね、と」
「え、そりゃまぁそうだけど……」
そういう話題だとちょっとは恥ずかしそうにするんだな。
いや、そこはどうでも良いか。
確かにあんまり堂々と表で話す事じゃないけど、そんなの今更だし、助かってるのは私に限らず皆じゃない?
ていうかカトリーヌさん、それ他人事じゃないよね?
……ないよね?
「いえ、普通の意味では無く」
「えっ?」
「我々【妖精】の数々の仕様を考えますと、その」
「……あー、うん。なんかロクでもない物を体内で生成しそうではあるかな……」
「はい。もしくは逆に宝石や薬品など、有益な物を産み出してしまうという恐れも」
「それもそれで嫌だなぁ……」
いくら綺麗でも自分が出した物はちょっと勘弁願いたい。
っていうかまともなサイズの宝石だと【妖精】の体が壊れそう……
というかお腹の中に出来た時点で、重くてまともに飛べなくなりそうだな。
「ん、でもそれカトリーヌさんは他人事じゃなくない?」
カトリーヌさんも同じ【妖精】なんだし。
「ここまではそうなのですが……」
「え?」
今度は何を言い出す気だ……?
「その、ですね」
「何?」
「白雪さんの場合、そちらのお世話もされてしまうだろうなと思いまして」
「え、あー、うん、確かに……」
チラリとシルクを見て言うカトリーヌさんに、同意せざるを得なかった。
あの子の事だから、絶対やろうとしてくるよ……
まぁ勘弁してって言えば止めてくれるだろうけど、例によって悲しげな顔されるだろうからなぁ。
流石にこの年でそっちのお世話されるのは遠慮したいよ。
遅いって意味でも早いって意味でも。




