46:設備を知ろう。
再度魔法陣に触れて明かりを消し、窓から外に出る。
「ちなみに共用部は常に弱めの明かりが灯っているぞ」
共用部って。これ私しか入れないんですけど?
いや、他の妖精が現れたら別だけどさ。
「制御室からON/OFFの切り替えが出来るようにしてある。各階の切り離し可否の設定や結界の制御もそこからだ」
更に制御室て。これ民家だったはずだよね?
切り離しってのはさっきの開いた奴か。メンテ用に開く様にしたのに、中から設定するようにして大丈夫なのか?
あぁ、マスターキー的な物が有れば問題ないのかな。
結界か。そういえば被さってた布の形と、屋敷の屋根の形が全然違う。
結界に布が支えられてたのかな。
「さて、次の説明に移ろう。この最下層だが、ここは色々な作業や訓練が出来る様に空間を広く取ってある」
アリア様が二階から上を持ち上げると、壁で四つの大部屋に区切られている構造になっているのが見えた。
天井も高めになっており、外周部は通路になっているようだ。
というか二階から上を全部って結構大きいのに、すごく簡単に上がっていったな。
片側しか持ってないのに、引っかかる様子も無く水平を保ってるし。
かなり軽く作ってあるのか、スライドしやすい様に柱の部分に工夫がしてあるのか。
よく解らないけど、多分両方なんだろうな。
「言い忘れていたが、この家の結界内ではスキルを使用しても警報が鳴る事は無い。と言っても、制御室で登録した者だけだがな」
あぶな、試そうとしてたよ。
いや結界の内側に普通に入れているんだし、本人が居ない内にどうにかして登録されているかも?
いやいや、そもそも張られている結界がどういう物なのかも解らないんだから判断の材料にならないか。
ていうか無駄に試さなきゃいいだけだわ。
「登録はどうやるのですか?」
「制御室の説明と共に教えよう。という訳で次の階層だ」
一旦降ろして、今度は三階から上を持ち上げて固定する。
あれ、そういえば玄関は二階にあるんだな。
「入り口はこの階なんですね」
「あぁ、先ほどの階は地下室のような物だ。地上に出ているがな」
それ、意味あるのか?
この階は普通にお屋敷って感じだな。ただし吹き抜けの玄関ホールに階段は無い。
飛べるから必要ないからかな。
上を見ると、一応吹き抜けの外周には回廊が付いているようだ。
寝ぼけて歩いて、ドアから出て転落とか笑えないもんね。
少し奥まった場所にある部屋に、私が作った魔力結晶が備え付けられていた。
壁に様々な紋様が描かれ、それぞれの端から中央に固定された机に向かって線が伸びている。
あの机が制御盤かな? さっきの照明スイッチみたいな印がいくつも並んでいるようだ。
入り口と机の間に腰くらいの高さの台座の様なものがあり、机の奥には椅子が置いてあるな。
「座席から見て左から順に照明の切り替え、階層の固定、利用者登録、利用者解除、そして結界の切り替えとなっている」
そんな簡単に結界の操作が出来ていいのか?
一応他の物から離れてはいるけど、うっかりやらかしたらどうするのか。
「照明を切り替えて確認してみてくれ」
言われるとおりに印を押さえて、少し飛んで通路を見ると確かに暗くなっていた。
戻って点灯し直しておく。
「固定や結界は説明するまでも無いな。文字通りだ。そして利用者登録の方法だが、まず印を押してくれ」
登録の印を押さえると、正面の台座の上部が淡く光り始めた。
「その状態で光っている台座に触れれば、触れた者が登録される。解除も同じ手順だな」
なんで一人しか居ないのに場所を別けたのか。
「部屋毎の詳しい説明を全てする必要もなかろうし、用途の決まっている所だけで良かろう。ここが厨房だ」
料理スキル持ってないし、材料も無いから私には使えない部屋だな。
魔法陣が書かれているのはコンロと水道かな?
でも鍋や食器は無い。食器はともかく鍋は【魔力武具】で作れるんだろうか? 熱は通すのかどうか。
まぁ使う予定は無いからいいか。覚えてて気が向いたら実験しよう。
さて、二階が開かれた時からずっと気になっていた部屋の番か。
「そしてここが風呂だ」
私の前には口径一メートル深さ六十センチくらいの巨大なティーカップが、同じく巨大なソーサーに置かれているんだが。あと、銀のティースプーンも横に置いてあるな。
カップとソーサーは、ピンクの花と青いリボンの揃いのデザインでとても綺麗ではある。
「私にはティーカップが置いてあるようにしか見えないんですが?」
「風呂だ」
くそう、やっぱりか。ここだけ水気に強そうな壁してるからまさかとは思ったけど。
むやみに人をファンシーな感じにしようとするんじゃないよ!
どちらかというと私は火を吹いたりする色物枠だよ! いや自分で言っても悲しくなるだけだわこれ。
「姫様」
私の抗議の気配を感じたのか呼びかける声が。
よし、言ってやってくれコレットさん!
「やはりお湯の中で足が伸ばせないのは少し窮屈なのでは?」
違う、そうじゃない。確かに私は肩まで全身浸かりたくはあるけど。
まぁそうですよね。ここで止めるくらいなら今日までに阻止してましたよね。
「しかし、やはりここは譲れないところだからな」
そんなこだわりは要りませんよアリア様。
ていうか部屋が一杯あるのにお風呂は一人用が一つだけてどうなのよ。
「白雪、この印に触れて軽く魔力を流してみてくれ」
カップの持ち手の先端辺りにある、緑色の印を示された。
多分「軽く」の基準が【妖精】と違うので、気を付けて少しづつ魔力を流す。
おぉ、カップの底の方から水が湧き出てきたぞ。
「次に、根元に赤い印と青い印があるだろう? 赤い印に少しの間、魔力を流してくれ」
持ち手の付け根の左右に、色違いの印が一つずつ配置されていた。
手を伸ばして赤い印に触れ、魔力を流していく。
何も起きないなと思っていたが、続けているとゆっくりカップの中の水が温まっていたようだ。
魔力を止めて手を入れてみるとお湯になっていた。入るには少し熱過ぎる。45度くらいか?
「うむ、温まったようだな。今度は青い印だ」
やらなくても大体察せるけど一応試そう。
少しの間魔力を流してみたけど、あまり変わってないな。もう少し流すか。
と思ったらコレットさんが上からティースプーンでかき混ぜてくれた。
あ、適温になった。冷えた水が下に留まってたんだな。
いや、適温って言っても入らないけどね? もし入るとしても一人の時だよ。
追加で魔力を流して完全に冷ましておく。
「そして排水は下側にある黄色い印だ。これは他の二つと違って、切り替え式になっている」
持ち手の下側の付け根にある印に魔力を流すと、カップの底に五センチくらいの穴が開いて水が抜け始めた。
これ、ソーサーにも開いてるのかな?
「抜いた水は、床下の管を通って外部に排出されるようになっている」
ほうほう。見た目はともかく機能は便利だな。見た目はともかく。




