42:工房を探そう。
陳列台から飛び立ち、おばちゃんに手を振って離れる。
しかし皆こっちを見てくるけど、話しかけてくる人が全く居ないのはなんなんだろ?
これだけ目立ってれば一人や二人くらい居てもおかしくないと思うんだけどな。
まぁ話しかけられても普通の人だとこっちの声は聞こえないから、まともな会話にはならないんだけど。
考えても仕方ないし、気にしないでおこうか。
さて、午後からはどうしようかな?
魔法や魔力関係のスキルは色々取得できたし、生産スキルも何か探してみようか。
伏せたポチの首に後ろから抱きついて、両手で首筋をわしゃわしゃしながら考える。
うーん、出来そうな物は…… 【錬金術】で抽出とか出来るみたいだし【調薬】とか。
【裁縫】で服とかも作ってみたいけど材料がなぁ。
あの細い絹糸で作ろうとしたら一体いくらかかるんだろ? 普通の糸だと太くてごわごわしそうだし。
あ、【細工】ならこの小さい身体が活かせるかな。
お姉ちゃん達に、目立たないサイズの魔力結晶入りのアクセサリーとか作ってあげられるかも。
たしか地図を見た時、南東区の店の中にいくつか工房みたいな名前があったはず。
大通りから少し離れたあたりだったな。行ってみようか。
そういえば町を一通り回ってみようとか思ってたけど、結局東側しか見てないや。
まぁ色々やってたし急ぐ必要も無いから、そのうち機会があればで良いかな。
大通りを外れてしばらく進むと、カンカンと金属を打ち合わせる様な音が聞こえてきた。
鍛冶場だろうか。ということはこの辺りに工房がまとまっているのかな?
音のする方に行ってみると、建物の大きさの割に売り場の狭い店があった。
開け放たれているドアの向こうで、ガラス戸の付いたケースに武器が陳列されているのが見える。
表通りが量産品で、こちらは一点物やオーダーメイドの店っていう感じかな?
【細工】で作る物を扱ってる店を探してみよう。
というかそもそも、教えて貰えるものなんだろうか? まぁ頼んでみて、ダメなら他の手を探そうか。
あ、ここかな? 小さな窓からいくつかのブローチや指輪が見えた。
あと看板にやたらと精緻な彫刻が施されてるし。
……なんで私が入ろうと思った店は、どこもドアが閉まってるんだ!
いや、解ってる。店は何も悪くない。開けられない方が悪いんだ。
「中に入りたいのかしら?」
なんか聞き覚えのある声と台詞が後ろから。
振り向いてみたら、初日に素材屋の前で会ったお姉さんが立っていた。
頷いて横に避けると、ドアを開けてくれて迎え入れてくれる。
「はい、どうぞ」
「お帰りなさーい。あれ、どうしたんですか?」
店員さんの台詞まで似たような流れかい。
まぁ突っ込んでても仕方ないので、ポチには還って貰ってから中に入る。
前回はずっと待たせちゃったからね。
ん? 今お帰りなさいって言ったな。お姉さんはこの店の人なのかな?
「お客さんよ」
「いらっしゃいませー。どのような品をお求めでしょうか?」
しまった、普通は何か買いに来たんだと思うか。
細工を教えて欲しいって言わないといけないな。
でも一人で来たから私の声が聞こえる人が居ない。
ボディーランゲージでなんとかするしかないぞ。
……細工を教わりたいなんてどう表現したらいいんだよ!!
なんとかして伝えようと努力してみる。
「これ」「わたし」「ちがう」「わたし」「つくる」
これを私に、ではなく私が自分で作りたい、と。
細工作業の動きなんてどうしたらいいか判らなかったので、鑿と金槌で彫る動作をやってみた。
「ええと、もしかして【細工】を教えて欲しいと言っているのかしら?」
今ので解るって凄いなこの人。自分で言うのもなんだけど、解ると思ってなかったよ。
頷いて両手で丸を作って正解だと示す。
「いいわよ。丁度暇だったから」
「暇なのはご自分で今朝、練習してた子たちを追い出したからじゃないですか」
「大きな声で騒いで私の仕事を邪魔するのだから、仕方ないでしょう?」
「まぁ私としても、フミさんが作ってくれなくなったりしたら困りますけど……
あれから誰も来ませんし、悪い噂でも流されてませんか?」
「そんな話を真に受けるような人なら、最初から来ない方が静かでいいわ」
仕事に関しては気難しい人なんだろうか。気を付けよう。
「それでは作業場へ行きましょう。こっちよ」
売り場の端にあるドアを通り、通路を奥へと進んで行くと少し広い部屋に出た。
「この部屋は本来、店の裏にある入り口から入るのよ。あのドアね。
でも、わざわざ表に出るのも面倒だったから」
部屋の反対側にあるドアを指し示す。今通ったのは納品用の通路なのかな?
室内には様々な工具が整頓されて収められた棚と、綺麗に片づけられた机が四つ置いてある。
防音でもされているのか、とても静かだ。
「それじゃ、始める前に名乗っておくわね。私は【細工師】のフェルミよ」
あ、フミさんってあだ名か何かなのか。
こっちも名乗るべきなんだろうけど、聞こえないんだもんなぁ。
でも耳が良ければ聞こえるってことは、静かなこの部屋なら叫べばなんとかなるんじゃないか?
口に手を当ててメガホンの様にして、大声で名乗る。
「私は白雪といいます! よろしくお願いします!!」
「あら? ごめんなさい。よく聞こえなかったのだけれど、もう一度お願い出来るかしら?」
お、ちょっとだけ聞こえたみたいだ。耳に手を当ててこちらに近づいてきた。
よし、今度は【魔力武具】でメガホンを作って再挑戦だ。
「白雪さんね。よろしく。喋れないのではなくて、声が小さくて聞き取れないだけだったのね」
頷いた。あ、そういえばリボンを選んでもらったんだしフェルミさんにも謝っておかなきゃ。
ボックスから服を取り出して机に置いて、頭を下げた。
「何かしら? あら、随分傷んでしまったのね」
布を確認して、少し驚く。
横に置いておいたメガホンを使って声を届ける。
「せっかく選んで頂いたのに、不注意でダメにしてしまいました! すいません!」
「あら、律儀なのね。でも気にする必要はないわ。これは貴女が、貴女のお金で買った物なのだから」
それでも一応ね。 もう一度頭を下げて、ボックスに仕舞っておいた。




