202:糸も見せよう。
石化したキャシーさんの体が、ゆっくりと後ろに倒れ始める。
このまま倒れたらまずいのは解るけど、私じゃどうしようもないっていうかカトリーヌさん待ちなさい。
行ってもそのまま死ぬだけでしょうに。
「っと、あぶねっ。流石にすげぇ威力だな……」
すぐにジョージさんが受け止めてくれたので、キャシーさんは無事で済んだ。
大丈夫そうなので捕獲したカトリーヌさんを解放し、自分で飛んでもらう。
何で捕まえたら【浮遊】を解除するんだよ。
「まぁ【妖精】にも普通に効く様な毒ですからね」
「そりゃ酷ぇ。ま、ゆっくり石化されたら怖ぇだろうし、こいつにとっちゃ不幸中の幸いかもな」
流石に自分の体がどんどん石に変えられてるのに、自然な笑顔のままってのはかなり難しいだろうしなぁ。
っていうか部分的に石化とかしたら生きてられるんだろうか。
首から上だけ生身だったりしたら、頭に血が回ってこないんじゃないかな?
「そんじゃ俺はこいつを飾ってくるわ。って重ってーなおい」
「おしおきちゅう!」の札をキャシーさんの首にぶら下げて、腰の辺りを持って担ぎ上げるジョージさん。
ん、ぴーちゃんどうしたの?
「ぴぴっ、ぴぅー」
「え、キャシーさんが怒ってるって?」
肩をつんつんしてきたぴーちゃんが、ジェスチャーでそれっぽく伝えてくる。
まぁ片方の羽でキャシーさんを指して、もう片方で自分のむーって顔を指しただけだけど。
ぴーちゃん自身は怒ってないから、キャシーさんが怒ってるってことだろう。
「あん? これ、意識あんのか?」
「あるんですかね。石なんだから仕方ないじゃないですか! って事かな?」
「ぴゃぅ」
「あ、そうっぽいですね」
「まぁそりゃそうだがな。っつーか、そいつらは解るんだな」
「ぴぴー」
「すごいでしょーって言ってますね」
「そんなもん見りゃ解るわ」
まぁ腰に羽の先を当ててふふーんって感じで胸を張ってれば、誰でも解るわな。
あ、ラキも同じポーズだ。
「それはともかくお前、意識あるなら何か出来ねぇのか?」
担いでいたキャシーさんを地面に降ろし、おでこを指でコンコン叩くジョージさん。
「ぴぃ、ぴっぴぅー」
「無理、は解るけど後半は何だろ? ってラキ、くすぐったいよ……え、それ? キャシーさんがくすぐったいって?」
「あぁ? これ感覚も残ってんのかよ…… 厄介な魔法だな」
「そうみたいですね……」
さっきあのまま倒れてたら痛いどころの話じゃなかっただろうなぁ。
「まぁ動けない事には変わりないみてぇだから、予定通りに飾ってくるわ」
「はーい。立ち合いありがとうございました」
「ま、一つしか見てねぇけど十分だろ。どうせどれも人間が吸ったらアウトな事は同じだろうしな」
「まぁそうですね。比較的マシそうな弛緩の毒も、少し吸っただけで心臓が止まってましたし」
「おぉ怖ぇ怖ぇ。お前、間違っても町中で使うんじゃねぇぞ?」
「当たり前です。怖くて使えないですよ、こんなの。風に乗って飛んでったりしたら大変な事になるじゃないですか」
「解ってるなら良いんだ。あぁ、粉について詳しく調べたかったら南東区の工房街に丁度良い奴が居るぞ」
「へぇ、薬や毒の研究者ですか?」
「まぁそんな感じだな。あぁ、行くなら気を付けろよ。お前みたいな珍妙な生き物が訪ねてきたら、多分解剖しようとするから」
「行く気が一気に無くなりましたよ…… というか、せめて珍しいって言ってくださいよ」
「お前みたいな変なのがで良いか?」
「ストレートに酷くなってるじゃないですか…… もうそれで良いです」
粘ったらどんどん悪化していきそうだし。
「ま、調べる気になったら言えよ。解剖されねぇように部下を一人付けてやっから」
「ありがとうございます。ていうか、部下とか居たんですね」
「そりゃお前、俺一人じゃ姫様が外出した時にここの守りが居なくなるじゃねーか」
「いや、一度も見た事無かったんで。っていうかそれならわざわざ自分で見張らなくても良かったんじゃないですか?」
「簡単に見つかる様な未熟な奴はここにゃ居ねーよ。あとお前、自分がどれだけ危険か解ってるか?」
「まぁ…… そうですけど」
今回も危険度で言えば洒落になってないレベルだし。
「まぁそういう訳で、あんまり暴れるんじゃねーぞ。よっしゃ行くぞキャシー。お前の意識と感覚があるって事は、先輩方にちゃんと教えてやるからな」
多分いじくりまわされるんだろうなぁ……
うん、やっぱ鬼だあの人。
あっと、もう片方も見せておかないと。
「ライサさん、新しい魔法がもう一つあるんです。これを」
【紡ぐ者】のパネルを引き延ばしてライサさんに手渡す。
「はい。……なるほど、糸を。それでは、見せて頂けますか?」
「えっと、こんな感じで色々と調整が効きますね」
「ふむふむ……」
太さや色を変えて何本か出してみる。
「白雪さん、少し太めにして先端をこちらに頂けますか?」
「ん? 良いけど何を…… あぁ、うん」
受け取った糸の端を前歯で噛んで口を閉じ、ゆっくりと後ろへ下がっていくカトリーヌさん。
ゴムにしろって事ね。まぁ良いけどさ。
少したるむ程度に糸を出し、反対の手で持って指から切り離す。
「はい」
「ぴっ!」
ぴーちゃんに持ってもらおうと差し出したら、ぴーちゃんもくわえちゃった。
そりゃそうか。手じゃないから持てないもんね。
「ある程度伸びたら放すんだよー」
ぴーちゃんが普通にくわえて引っ張ったら、多分カトリーヌさんの歯が先に耐えられなくなると思うから、適当な所で口を開けて発射しちゃってね。
「ええと、カトリーヌ様とぴーちゃん様は何を……」
「あー、気にしないでください。まぁこんな感じの魔法ですね」
「はい、ありがとうございました。それでは、報告書にまとめて参ります」
「お願いします。あ」
「ぴゃっ!?」
ゴムの引く力に耐えきれなくなったカトリーヌさんが口を開けてしまい、ぴーちゃんの顔にベチーンと当たった。
ほら、やっぱり。
「ぴー……」
「大丈夫? だから言ったでしょ。ほら、羽退けて」
痛がるぴーちゃんを【妖精吐息】で治療してあげる。
あれ、いつの間にかラキが肩から居なくなってるぞ?
あ、土下座したカトリーヌさんの頭に乗ってるわ。




