201:理由を聞こう。
「うぅ、まさかそんなことする人には見えなかったんですよ……」
「ま、お前の見る目が全く無かったっつーだけの話だ」
ん、何の話だろう?
実験体にされる理由になった原因の事かな?
「昨日、一体何があったんですか?」
「ん? あぁ、こいつが何やったのかって話か」
「はい。なんでそんな厳しい罰を受ける事になってるのかなって」
いくら祝福が有って命が軽くなってるとはいえ、わざわざ死ぬ様な目に遭わされるって相当なミスじゃないかな?
「昨日こいつ、受付でスキルの使用許可申請受けて受理したんだけどな」
「あー、その人が何かやったんですか?」
「許可取ったその足で強盗殺人を二件かね」
「……いやいやいや」
とんでもないな……
「まぁそんな奴に許可出しちまったら罰くらいあらぁな」
「怖い人もいるもんですねぇ。まぁ判ってるって事はもう捕まってるんですよね」
「別件でな。こいつへの罰が厳しいのも大体そっちのせいだな」
「別件?」
「そいつ、昨日お前らを網で襲った奴なんだよ」
「え、マジですか」
そんな危ない人に狙われてたのか……
捕まえられる程度に頑丈じゃなくて良かった。
「おう、マジだ。強盗の件が発覚したのもそれで責められて自白したからだしな」
「えっと、責められてって言うのは……」
「詳しく聞きたいか?」
「いえ、言わなくて良いです」
カトリーヌさんは凄い聞きたそうだけど放っておこう。
「で、まぁ色々あってこうなったと」
「端折りましたね。まぁ大体解ったから良いですけど。……っていうか、私を襲う時にはスキル使ってないんですし、私を襲ったのが原因で罪が重くなるのは……」
「いや、使ってたみたいだぞ? 普通の奴が使う魔法だから、気付きさえしなかったんだろうよ」
「あー、目に見えないタイプだと注意してないと気付けませんしねぇ」
「魔法防御が高すぎると、そういう問題があるのですね」
「まぁ食らっちまうよりは良いだろ」
うん、確かに。まぁどちらにしろ捕まえられはしないだろうけどね。
それにしても、なんで普通に発覚しない程度には隠れて強盗出来る様な人が、あんな堂々と襲ってきたんだろうな。
捕まえてさっさと逃げれば良いって思ってたんだろうか。
さっさと逃げる為に走ったら私達死ぬのにね。
「ところでそんな理由があるなら、この人を飾ってたら私が怒ってるって思われそうなんですけど」
「まぁそういう意味では大丈夫だろ。お前がやるって言うのは役場の人間なら元から知ってるし、客はこいつが何やったのかは知らないからな」
「そうですか。……いや、『そういう意味では』って何ですか?」
「石像の首からこれぶら下げるしな」
そう言ってジョージさんが自分のボックスに手を突っ込み、何やら太めの紐が付いた木の板を取り出した。
「え、なんですかこれは…… 何なんですか……」
くるっとこちらに向けられた面に、可愛くデフォルメされた妖精のイラストと丸い吹き出しに囲まれた「おしおきちゅう!」の丸文字が。
完全に私がやったって公表する気じゃないか!
妖精ってだけならともかく、髪や目の色とかの特徴が大体私と一致してるし。
……絵でくらいちょっと盛ってくれても良いのに。多分誰も文句言わないのに。
「あら、可愛いですわね。これはどなたがお描きに?」
「コレットだ。姫様に『おぉ、可愛く描けているじゃないか』と褒められて得意げだったぞ」
「ほほう、あの方はこの様な特技もお持ちですのね」
「専門分野以外じゃ流石に一流にゃ及ばねぇが、大抵の事は出来るはずだぞ」
「流石王女様のお付きのメイドさんですわねぇ」
「いや、あいつがおかしいだけだ。基準にはするなよ?」
正直ジョージさんも大概だと思う…… ほら、こういう事考えてるの察したのかちらっとこっち見るし。
「流石にそれを付けるのは勘弁してもらえませんか……?」
「なんだよ、不満でもあるのか?」
解って言ってるよね、この人。ちょっとニヤニヤしてるし。
「まぁ良いけどよ。コレット、可哀想になぁ。せっかくの力作なのにな」
くっ……
「そういうのズルいですよ……」
「いやいや、お前が気に入らないって言うなら仕方ないよなぁ」
「いや、気に入らないっていうか…… もー、解りましたよ、諦めますよ」
「良し。大体お前が危険物だって事くらい、もう皆知ってんだろ?」
「まぁそうですけどね……」
「私が」じゃなくて「【妖精】が」って言って欲しかった所だけど。
「ま、あいつなりにお前らの為にとやってるんだ。そう嫌がってやるな」
「為にって言われても」
「これだって【妖精】に手を出したらこうなるぞって見せしめみたいなもんだしな」
「あぁ、私達が襲われる可能性を少しでも減らそうという目的ですのね」
「そういうこった。あいつ、あんなのでも普通に可愛い物が好きだからな。態度には出さねぇけどお前らの事もかなり気に入ってるみたいだぞ」
「そうなんですか…… ってかあんなのとか言って怒られません?」
「バレなきゃ良いんだよバレなきゃ」
「いえ、バレますよ。私が言いますから」
横からしれっと言うライサさん。
「いや、マジでやめてくれ。怒ったあいつから逃げ切るのは骨が折れるんだよ……」
だったら怒らせなきゃ良いんじゃないかな……
「さて、それじゃやりますか。あ、その前にライサさん、これを」
【白の誘惑】のパネルと効果一覧のパネルを引き延ばして手渡す。
「はい。……なるほど、聞いていた通りですね」
「うぅ、本当に石化ってあるよぅ……」
「そりゃお前、あるから言ってんじゃねぇか」
まぁ無いなら言わないわな。
「で、普通の粉は砂糖代わりになりますね。というか粉糖ですね」
「はい、そちらも聞いております。試しに頂いてもよろしいですか?」
「お前それ、確認とか関係無しに欲しいだけだろ……」
「まぁ少しなら構いませんけどね」
口を開けてもらって、翅を差し込んでサーっと流し込む。
「あ、キャシーさんにも口開けてもらって良いですか?」
「おい、口開けてくれって言ってるぞ。良かったな、タダで甘い物が貰えて」
「うぅ、嬉しいけど素直に喜べません……」
少し怯えつつもちゃんと口を開けてくれたので、気持ち多めに出しておいた。
なんか申し訳ないし。
「しあわせ……」
「まぁこれから不幸になるんだけどな」
「現実に引き戻さないでくださいよう……」
「諦めろ。ほれ、笑顔で受付っぽいポーズ取れ。ミスったら恥ずかしいぞ?」
丸二日くらい晒されちゃう訳だからなぁ……
最悪ずっと同僚にイジられ続けるぞ。
「うぅ、一発勝負ですよね……」
「そりゃそうだろ。あぁ白雪、威力は調整せずに素のままで頼むぞ。そうじゃないと威力が解らんからな」
「はい。それじゃ自然に呼吸しててくださいね。吸うタイミングに合わせて出しますんで」
「普通に息しててくれれば、自然に吸わせてくれるとよ」
「は、はい……」
「ほれ笑顔笑顔。受付に飾られるって事を忘れるな」
諦めてきちんと立って笑顔になったキャシーさんの鼻の前に翅の先端を置いて、タイミングを合わせて【石化】の粉を発生させる。
……びっくりしたー。
吸い込むと同時に、完全にただの石像になっちゃったよ。
当然だけどリアルすぎて、なんかちょっと怖いな。
あ、服とかは変わらないのね。いや当たり前か。




