200:罰を選ぼう。
「それじゃ、行ってきまーす」
「んー。頑張ってねー」
痺れに悶えるのを面白がってツンツンするシルクからぴーちゃんを助け出し、手を振って庭から出て行く。
平たくなってから少し経ってるし、もうカトリーヌさんは役場に着いちゃってるかな?
少し急ぐとしよう。
役場に着くと、入り口の横にカトリーヌさんが浮いているのが見えた。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「いえ、しばしシルク様のお尻の余韻に浸っておりましたので。先程着いたばかりですわ」
うん、まぁ待たせてないなら良いけどさ。
ただそこの兎のお姉さん、なんで凄い勢いで振り向いた。
周りから変な物を見る目で見られてるぞ。
あと入り口のど真ん中で立ち止まったから邪魔になってる。
まぁ良いや。とりあえず横を通ってライサさんに挨拶しよう。
「いらっしゃいませ。今日も大変お可愛らしいですね。そちらの方は新しい召喚獣でしょうか?」
うん、視線が通った瞬間からぴーちゃんをじっと見てたし、そうくると思ってた。
まぁ言わなくても一応紹介はしてたと思うけど。
「そうですね。この子はぴーちゃんです。あ、『ぴーちゃん』っていう名前なのでぴーさんとかぴー様とか呼ばないであげてくださいね」
「はい。よろしくお願いします、ぴーちゃん様」
あぁ、やっぱりそうなるのね。
「で、こっちがラキです。ほらラキちゃん、ご挨拶」
肩に乗ったラキを摘まんで手に乗せ、ライサさんの顔の前に近づける。
ライサさんは少しだけ目を細め、次の瞬間にパネルを開き、素早く操作して閉じた。
「これで良し。よろしくお願いします、ラキ様」
あー、多分【視力強化】取っちゃったんだろうな……
そんな即決で取っちゃって良いんだろうか。
まぁ私が気にしても仕方ないんだけどさ。
「ところで白雪様、今日は新しい魔法を見せる為においでになったのでしょうか?」
「はい。早速ですが今から見てもらっても良いですか?」
アリア様がさっき戻った時に言っておいてくれたのかな。
話が早くて助かる。
「勿論です。済みません、少し離れますのでここをお願いします」
近くの職員さんに頼んで席を立つライサさん。
「あ、そうだ。ジョージさん、今回の魔法は色々と危ないんで立ち会ってもらって良いですか?」
姿は見えないけどどうせ居るんだろうと、宙に向かって呼びかける。
あ、何も無い空間からもやっと出てきた。
「おう。まぁ一応さっきのパネルも見てっから、言われなくても見張るつもりだったけどな」
……あー、やっぱりさっきも居たのか。
アリア様が居るならジョージさんもどこかに居るって思って問題無いんだろうな。
「おいキャシー、隠れても無駄だからさっさと出てこい。行くぞ」
「はいぃ……」
ジョージさんが声をかけると、机の下からもぞもぞと職員さんが這い出てきた。
あ、この人昨日お姉ちゃんを案内してくれた人だ。
「あれ? この人は何の為に?」
「あ? そりゃお前、効果を見なきゃ始まらんだろうが。ぎせ…… 被験者だよ」
今本音が漏れてたよジョージさん。
「うぅ、やっぱ死にたくないですよぅ」
「それじゃ元の予定通りに、コレットの訓練に付き合うか?」
「……どうせ死ぬならこっちの方が多分マシです」
一体この人は何をやってしまったんだ。
というかコレットさんの訓練に付き合うと死ぬのか……
何されるんだろう。いや、知りたくは無いけど。
とりあえず裏庭に全員入り、ドアを閉めてからジョージさんが口を開く。
「それじゃ三択だ。目と耳と喉の機能を失うか、ドロドロに腐って土に還るか、石像になって明日の夜までホールに飾られるか。どれが良い?」
待って待って。何その選択肢。
っていうか最初の奴、三つ複合だし。
「ど、どれも嫌なんですけど…… うぅ、どうせ選ばないと全部順番にやられちゃうんですよね?」
「良く解ってるじゃねぇか。さっさと選べ」
「え、それ私がやるんですよね?」
「そりゃそうだろ。お前しか使えねぇんだから」
「よ、妖精様、お願いですからもっと穏便なのに変えて…… はい、黙ります……」
言葉の途中でジョージさんにちらっと見られて折れた。
てかこの三択を出されても「やっぱりコレットさんで」ってならないのが凄いな。
「う、うぅー…… さ、最初の奴ってもしかして……」
「あぁ、もちろんそのまま仕事してもらうぞ?」
「ひぃぃ、そんなの罰が更に上乗せになっちゃうだけじゃないですかぁ」
「他にも感覚は有るだろ。日頃からちゃんと鍛えてれば問題ねぇよ」
「普通は無理ですよぅ!」
うん、そんな何でもない事みたいに言える人はそうそう居ないと思う。
「あー、そんじゃ他のを選びゃ良いじゃねぇかよ」
「と言われても、腐るのは論外ですし…… えっと、その最後の飾られるのですけど」
「何だ?」
「その状態で仕事しろとか言いませんよね?」
「まぁ流石にそっちは無理だろ。あー、声が出せりゃ案内板代わりには使えるな」
鬼かこの人。今更か。
「藪蛇だったかな…… あと、勿論終わったら戻してもらえるんですよね?」
「あー、戻せるのか?」
「えっと、石化は判りませんけど弛緩する方の麻痺なら【妖精吐息】で治せました。ゆっくりですけどね」
「治せるか判らんとよ」
「そんなー!?」
あぁ、まぁダメな方に要約するとそうなるね。
「まーそんときゃぶっ壊せば復活できるんじゃねぇの?」
「うぅ、治せる事を祈って石化するしかないかぁ……」
「あー、っていうかですね」
「ん?」
「私、明日から数日こっちに来れないんで、治療を試すのも数日後になっちゃうんですけど……」
流石に日付が変わってからもう一日やるのは明日が辛い。
起きてから来るってのも、十分に時間が有るかは判らないしね。
「あぁ、そうなのか? まぁ物置にでも転がしときゃいいだろ」
「えっ」
どういう事!? って感じで俯いていた顔をガバッと上げた。
まぁ当然だけど。
てか扱いが雑すぎない? それも含めて罰なのかな。
何のかは知らないけど。
「こいつ、明日からしばらく居ないってよ」
「あの、あのですね」
「あん?」
「石化してる間のお給料とかは……」
「んなもん、出る訳ねぇだろ」
「ひぃぃ…… せっかく甘い物が売り出されそうだから、少し溜めておこうと思ってたのにぃ……」
うん、なんか可哀想だから解除した後に蜜を上げよう。
粉も甘いけど、多分嫌がるだろうし。
「昨日の自分を恨みやがれ。で、それでも石化にするのか?」
「最終的に生き残る可能性があるのは、それだけじゃないですか……」
「まぁ感覚消してミスったら今度こそ処刑だろうしな」
「それだけは御免ですからね……」
職場の中でコレットさんは一体どう思われてるんだろう。
大体察せるけどさ。




