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197:伝えよう。

 なんかこのまま見てたら仕事を放り出して付いてきそうな気がするので、変な事を言い出す前に手を振ってモニカさんから離れる。



「いやー、ほんと好かれてるねぇ」


「初めてお風呂にお茶を淹れてもらった時、ごく当たり前の事みたいに残り湯を飲んで良いかって訊いてきたくらいだからね」


「うわー…… で、上げたの?」


「な訳無いでしょ。普通に排水したよ」


「あはは、排水管にコップとかセットしてたりするかもよー?」


「いや、怖い事言わないでよ……」


「冗談冗談。流石にやんないでしょー」


 うん、無いとは思う。

 ただ確実に無いって言いきれない所があるから怖いんだよ、あの人の場合。


 あー、でもバレたら本当に嫌われる様な事はやらないか。

 私に嫌われるか片腕を落とすか選べとか言われたら、即座に落とす方を選びそうな人だし。

 この世界だと普通に回復魔法で引っ付くから、本当にサクッと行っちゃいそうだよ。


 まぁそんな二択を迫る事は無いから大丈夫だけどさ。




「ぴぅ」


「おおぅ、どーしたの? ぴーちゃん」


 すれ違う人に笑顔で手を振りながら進んでいると、突然ぴーちゃんがエリちゃんの目の前に飛んで行って声をかけた。


「飛びながら手を振るのが大変だから、肩に乗っけてくれない? って言ってるっぽいよ」


 私の場合は翅を動かしてても手を振れるけど、ぴーちゃんの場合は振るのが羽だからなぁ。

 浮いてるくらいなら大丈夫でも、普通に移動しながらだとかなりやりづらいだろう。

 コクコクと頷いてエリちゃんの目をじっと見るぴーちゃん。



「いいよいいよー。何だったら頭の上でも良いよー?」


「ぴゃー」


「おほー、きもちー」


 首を振って肩に乗り、ありがとねーとエリちゃんの頭に横から抱き着くぴーちゃん。

 ほっぺたにふかふかがむにゅっと押し付けられて、エリちゃんご満悦だな。



「はむっ」


「ぴゃっ!?」


 抱き着かれて口の前に来ていたぴーちゃんの羽を、唐突に唇で挟むエリちゃん。

 なんでだ。


「あいたたたっ!? ごめんごめん。うひー、握力強いねーぴーちゃん」


「ぴゅぃ……」


「あー、今のはエリちゃんが悪いから、ぴーちゃんは気にしなくていいよ」


 びっくりしたぴーちゃんに思いっきり鉤爪で掴まれ、エリちゃんの肩から血が流れる。

 うん、ぴーちゃんはごめんなさいって言ってるけど、どう考えても今のはエリちゃんのせいだろう。



「いやー、ばさばさ叩かれちゃうかなー? ってやってみたら、思いの他痛い目に遭ったねー」


「もー、あんまりうちの子に変な事しないでよね」


 エリちゃんに文句を言いつつ、肩に【妖精吐息】を吹きかけて治療しておく。

 このくらいならこれでなんとかなるだろう。



「ありがとー。いやー、かわいー感じの反応が返ってくるかなーって思ってさー」


「ぴゃー」


「あたた。そうそう、こういう感じのー」


 ぴーちゃんに「まったくー」といった顔で後頭部をばふばふ叩かれ、ちょっと嬉しそうなエリちゃん。

 その悪びれない態度にちょっと注意しておく必要を感じたのか、ぴーちゃんが片足を首に押し付けた。

 

「あー、ごめんごめん、ごめんなさい。ちゃんと反省はしてますから許してくださいー」


「ぴっ」


 足を引っ込めて「よろしい」と頷くぴーちゃん。

 でもなんだかんだでこのやり取りも楽しんでるっぽいな。

 恐がらずに構ってもらえるのが嬉しいのかな?


 いや、私ならそんな感じかなってだけだけど、多分あってるよね。

 ラキに怖がられた時とか、ちょっと悲しそうだったし。




 エドワードさんと話してもらう時の為に、めーちゃんと出会った時の事を話しながら北通りを横断し、お店の間の路地から奥の畑へ向かう。

 えーと、めーちゃんが居たのは…… あっちか。


 昨日の事とはいえ特に目的も無くふらついてただけなので、道をちゃんと覚えてない。

 幸い見晴らしが良いので、目印になる建物や木で何となくは判るから大丈夫だろうけど。


「おー、こっち側には初めて来たよー。のんびりしてそうな風景だねー」


「いやー、結構忙しそうじゃない? なんかでっかい籠に一杯乗っけて走り回ってるし」


「凄いねー。あれかなり重そうじゃない?」


「重いだろうねぇ。中身はお芋っぽい」


「へー。あ、こっちであってる?」


「んー、確かこっちの方。あ、っていうかあそこに居るね」


 交差点でエリちゃんに道を聞かれ確認の為に見回してみると、畑で作業しているエドワードさんが見えた。



「えっと、あのおじさんかな?」


「うん、そうそう。とりあえずもうちょっと近くに行こうか」


「そだねー」


 頷くエリちゃんと一緒に道沿いに進み、エリちゃんに声をかけてもらう。




「すみません、あなたがエドワードさんですか?」


「おう、そうだが? お、白雪ちゃんじゃねぇか。大丈夫だったか?」


「あ、はい」


 返事だけじゃ聞こえないので、大き目の動作でコクコクと頷いておく。



「私、めーちゃんの使いで来たエリシャといいます。今、お時間良いですか?」


「おう、構わんぜ。あのデカブツ、今どうしてるんだ?」


「ここには戻りにくいだろうと、こちらの白雪ちゃんの計らいで北東の新しい公園に移植されました」


「そうか。何か言ってたか?」


「お世話してくれてありがとうございました、と。それとお騒がせしてごめんなさい、とも」


「あー、気にすんなっつっといてくれ。こちとら植物の世話すんのが仕事だからな」


 いやー、勝手に住み着いた植物っぽい生き物のお世話は範囲外じゃないかな。

 むしろ普通なら排除する対象だと思うよ。



「あぁ、一応聞いておきたいんだがよ」


「はい、何でしょう?」


「あいつの事だから、どうせ攻撃するつもりなんか無かったんだろ?」


「その様ですね。スキルの練習をする様に勧められて試していたら起きた事故だったとか」


「ったく、あいつらももうちっと話を聞いてやりゃ良かったのによ…… 済まんが、エドワードが謝ってたって伝えてくれるか?」


「はい、確かに伝えます」



「それとだな。あいつに渡してほしい物が有るんだが」


「あぁ、お金なら受け取るなと念を押されていますので」


「あんの野郎…… ちっ、無理矢理押し付けても変なルートで返ってきそうだな」


「えぇ、少なくともめーちゃんの懐には入らないでしょうね」


「はー…… 解ったよ、大人しく貰っとく」


 うん、納得は行ってないみたいだけど、なんとか財布はしまってくれたな。




「それでは、お仕事中失礼しました」


「おう、伝言ありがとうな」


 エドワードさんと別れ、家に向かって歩いていく。

 うーむ、通訳っていうかエリちゃんだけで普通に済ませちゃったな。

 私が居た意味、あんまり無かったぞ。


 まぁ一応私も挨拶するべきだったし、私が一緒に居る事で無関係の人じゃないとは思ってもらえたか。



「っていうかさ」


「んー、何ー?」


「誰?」


「ひどいなー、私だってちゃんと喋れるんだぞー」


「いやー、アリア様にもあの調子だったからさ」


「あー、あれねー。初めに町で会った時から、本人がそうしてくれって言ってるんだよねー」


「言われたからって流石に馴れ馴れしすぎるんじゃ……」


「皆そう言って遠慮するから、少し寂しいって言ってたよー。あの立場じゃ馴れ馴れしく接してくる友達も居ないんだろうねー」


「あー、まぁお姫様だもんなぁ」


「まー流石に試しに『またまたー』って軽く背中を叩いてみようとしたら、それやった瞬間に殺すって気配がしたから慌てて引っ込めたけどねー」


「そんな命がけで限界を探らなくても……」


 うん、多分触れる直前で手と首が飛ぶんだろうな……

 コレットさんこわい。



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