191:にぎにぎしよう。
左足の親指に抱き着いたまますりすりぺろぺろちゅっちゅと懐き続けるラキをぶら下げて、踵を支点にゆらゆらと揺らして遊んであげつつ、うちの子との遊びでおでこを腫らしたお詫びでカトリーヌさんの相手もする。
今までにもシルクにボコボコにされたりはしてるけど、今回のはこっちが発端だからね。
一旦私の足を放してシルクの右脚の横に私とはす向かいで座り、私の膝の位置を確認しつつシルクに寄り添うように仰向けで転がるカトリーヌさん。
顔を少し内側に傾け左目で私を見つめながら、左目の上から顎までツーっと指でなぞる。
これはそこに足を下ろしてくれって合図だよね?
右脚を開いてシルクの脚の上からずらすと、丁度膝の真下にカトリーヌさんの顔があった。
さっきの確認はこうなる様に調整してたのか。
少しだけ脚を上げ、膝の力を抜いて足を真下に向けておき、そのまま腿の力を抜いてストンと自然に落とす。
う、鼻が土踏まずに当たってちょっとくすぐったい。
少しもぞもぞと動いて位置を調整されて母指球を左目、土踏まずを鼻と口元、踵をあごの辺りに配置された。
……なんか微妙なフィット感があるな。
もうちょっと私の足が小さければもっといい感じになりそう。
別になりたくも無いけど。
ん、なんかカトリーヌさんがハンドサインを送って来てる。
えっと、にぎにぎして、かな?
手が小さく円を描く様に動いてるのはそんな感じにぐりぐり動かしてくれって事かな。
指示に従って足指をぐーぱーと動かして、上まぶたの辺りや少しずらして頬骨の辺りをにぎにぎもみもみ。
足を元の位置に戻して、少し力を込めてぐるぐると動かす。
動かしてる最中に少しだけ舌を出して土踏まずをちろっと舐めてきたので、やめなさいという意思を込めてグッと体重をかける。
……いや、これご褒美にしかなってないんじゃないか?
あ、やっぱりまた舐めてきた。やめなさいってば。
一旦浮かせて親指と人差し指でカトリーヌさんの鼻をグッと挟み、グイグイと左右に振ってやった。
二往復して再度内側に向かせ、ドスッと元の位置に足を戻す。
……うん、やっぱり逆効果だよね。口で言おう。
「カトリーヌさん、くすぐったいからそれは禁止ね」
私の言葉にオッケーのハンドサインを返してくるカトリーヌさん。
言葉で返事をしないのはくすぐったいって言ったからだろうな。
口を動かしたら唇でくすぐる事になるし。
いや、顔を離せば良いはずなんだけどね。
何やら気になるのか、私の顔に羽毛をぽよぽよと押し付けながら興味深げに覗きこむぴーちゃん。
あの、上に乗りだしてくるから視界がどんどん狭まっていくんだけど……
あと息がしづらい。
くそぅ、一体何がこんなに詰まってるって言うんだ。
あれか、夢とか希望か。私には夢も希望も無いって言うのか。
……しょうもない事考えてないで足に集中しようか。
若干左足の動きが単調になってて、ラキがあんまり楽しめてなさそうだし。
むー。当然ではあるけど、左右で別々の動きをするのは難しいな。
うっかり左足を軽く握ってしまって、指でラキちゃんの顔を挟んじゃったよ。
【妖精】と違ってまともな耐久力あるから、全力で握っても全然大丈夫そうだけどさ。
実際今もきゃっきゃと楽しそうに、挟みに来た人差し指に頬ずりして押し返してるし。
別に新しい遊びとかじゃないんだけど、楽しんでるならまぁいいか。
「雪ちゃん、皆食べ終わったよー」
「ん。ほらカトリーヌさん、召喚者からのお詫びタイムも終わりだよ」
足を浮かせて親指で唇をぷにぷにっと軽く押さえ、引っ込めて脚を閉じる。
「ありがとうございます。存分に堪能させて頂きましたわ」
火照った顔に満ち足りた笑顔を浮かべて礼を言うカトリーヌさん。
これに味を占めて変な事しなきゃいいんだけど。
まぁ自分からやった事だったらやってあげないけどね。あくまでお詫びだし。
「しかしそれ、気持ちよさそうだな…… ぴーちゃん、背中で良いからちょっと触らせてくれない?」
「ぴっ」
シルクから降りて立ち上がったぴーちゃんを見て、アヤメさんがお願いしてる。
いいよーと頷いて背中を向け、撫でやすい様に少し前かがみになるぴーちゃん。
ところでラキちゃん、ぶら下げたまま飛ぶのは危ないしそろそろ足から離れてね。
「おぉ、ふわふわ…… こりゃ気持ち良いなぁ」
「私も良いですか?」
「ぴぅー」
「おおぉ…… クセになりそう……」
「あー、アヤメちゃん良いなぁ」
レティさんに許可を出しながら背中を向け、向きを変えた事で正面に来たアヤメさんの指にむにゅっと抱き着くぴーちゃん。
うんうん、気持ち良いよねそれ。
便乗してエリちゃんとお姉ちゃんも交代でモフモフと撫でるが、最後になったお姉ちゃんだけ抱き着いてもらえなかった様子。
こんなとこでもあぶれるのか、お姉ちゃん……
「さーて、それじゃ出発するかね」
「行ってきまーす。雪ちゃんも頑張ってね」
「うん、行ってらっしゃい。お土産期待してるよー」
「あはは、まだ大したものは拾えないよ。帰ってきたらメッセージ送るから。じゃーねー」
探検に出ていく三人に手を振って見送る。
昨日は一日町に居たんだし、少し勘を取り戻さないとだろうなぁ。
「それじゃこっちは一旦家に戻ろうか。蜜を集めないと」
「そうですわね。あ、糸を巻く為の芯を買うのでは?」
「そうだった。エリちゃん、荷物持ちお願いしていい?」
「がってんだー。ご飯も奢ってもらったし、きっちり働くよー」
元気一杯と言った様子でクマ耳をピコピコと動かすエリちゃん。
やめろ、モフモフしたくなるじゃないか。
「んー、おかえりー。色々買ってきたんだねー」
「ただいまー。どうせなら何か欲しい物が無いか聞いておけば良かったね」
「んー、大丈夫ー。今は特に無いかなー」
荷物を全てエリちゃんに持たせる事にして、木材や金属片などの素材を適当に買い集めて帰宅。
とりあえず小さな物は玄関ホールに入れてもらい、大き目の物は家の下にある箱の横に置いてもらった。
「ねぇユッキー、なんか妙な事になってるんだけど」
「言わないで。見なかった事にしてるんだから」
「あ、うん」
ライカさんが突き立てた杭の内側に、工事現場の囲いの様に布が張られているのが帰ってきた時から見えていた。
張られてるのは良いし、中で作業してるっぽいのも良いんだよ。
何で凄い縦に長いの? あと何で音がかなり下の方から聞こえてくるの?
私がお願いしたのはただの小屋であって、塔や見張り台じゃないはずなんだけど。