187:糸も試そう。
ぐでーっとしているエリちゃんを地面に転がしたままテーブルの上へ。
あ、ラキがなんかしょんぼりした顔で大人しく食べてる。
暴れすぎてシルクに叱られちゃったかな?
「さて、とりあえず迂闊に使えない事は良く解ったね」
「なんかあの様子だと、お薬としても使えそうに無いねぇ」
「【鎮痛】どころか触覚ごと無くなりそうだな。まぁ効き目は調整できるみたいだから、そこは大丈夫なんじゃないか?」
「通常であそこまで効くとなると、微調整が凄く難しそうだけどね」
あんまり実験できる物でもないし、もし必要になったら可能な限り下げた状態からちょっとずつ強くして試すしかないかな。
「さて、それじゃもう片方のスキルも見てみよっか」
「えっと、【紡ぐ者】だっけ?」
「だね。こっちはまともだといいなぁ……」
「期待してるぞ」
「それ、ダメな方にだよね」
「聞く必要あるか?」
「無いね、うん」
アヤメさんの期待を裏切る事を望みつつパネルをポチッと。
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【紡ぐ者】
使用者の体から魔力で作られた糸を放出する。
太さ、色、強度、弾性、粘性などの性質の調整が可能で、それらにより消費するMPが変動する。
放出してから使用者から切り離すまでの間は、追加でMPを消費することにより性質の再調整が可能。
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「おー、なんかいい感じっぽい」
「今度はどこに罠があるんだ? やっぱり尻から出るとかか」
「待って、有り得て嫌だからそういう事言わないで」
……うん、本当にありそうで困る。
ちょっと試しに…… あ、ダメだこれ。なんか尾てい骨の辺りに違和感があった。
あのまま発動してたら恥ずかしい事になってたぞ。
教えたらやってみてとか言われそうだし黙っておこう。
「とりあえず試しに指から出してみよう」
右手の人差し指をピンと立て、そこを意識して発動してみた。
おー、髪の毛くらいの太さの真っ白な糸がにょろにょろ出てくる。
用心してゆっくり出る様に意識したからか、秒間十センチくらいの勢いで伸び続けていく。
あー、出した糸を操作とかは出来ないんだな。動かしたかったら根元を振り回さなきゃか。
「あれ、もう出してるの?」
「うん。ほら、これこれ」
流石にこの細さが一本あるだけじゃよく見えないみたいなので、お姉ちゃんの顔の前に行って左手で糸を摘まんでみせる。
「んー…… あー、ほんとだ。出てる出てる」
「ほっそいなー。強度はどんなもんだ?」
「どうだろ。……んー、少なくとも私が引きちぎれる程には弱くないね」
両手にくるくる巻いてグッと引っ張ってみても、ピンと張るだけで切れる気配は無い。
「ちょっと貸してみ?」
「あー、下手したら手が切れる可能性があるし、なんか適当に糸を引っ付ける物無いかな」
「あるよー」
「やっぱり石持ってるんだね…… っていうか二個で良いよ二個で」
お姉ちゃんが鞄からごろごろと石を出してくるので押しとどめる。
そんなに出してどうするつもりだ。
「粘着力のテストにもなって丁度いいや。ぴとっとね」
二メートル位の長さにした糸の両端に粘着性を持たせて貼り付け、石と石とを糸で繋げる。
「はい。ふぬっ……」
「いやいや、自分で取るから無理しなくて良いよ」
むぅ、持ち上げて渡そうと思ったけど重すぎて無理だった……
「おぉ、ちゃんと繋がってる。……んっ。おぉ、凄いなこれ。こんなに細いのにちょっと耐えたぞ」
流石に人間の力だとあっさり切れるか。
でも少しは抵抗出来たらしい。頑張って強度に魔力を注げば引っ張るくらいじゃ切れなく出来るかな?
「他の項目も試してみようか。えーと、太さと色…… おー、指の太さまで行けた。色も割と自由に変えられるね」
指より太くはできなかったけど、これ手の平から出したらもっと行けたりするのかな?
また今度試してみるとしよう。
「弾性っていうのは?」
「ゴムみたいになるんじゃない? はい、小石にひっつけてみたよ」
「おー、びよんびよんしてる…… えいっ」
「当たるかよ」
引っ張って十分に伸ばしてから、アヤメさんに向けて飛ばすお姉ちゃん。
流石に目の前で堂々とやってるし、アヤメさんもスピード系の前衛をやってるだけあって軽々とキャッチした。
「こらこら、人に向けて飛ばしちゃ駄目だよお姉ちゃん」
「アヤメちゃんはこんなのに当たる様な人じゃないって信じてるからね」
「いや、そういう問題じゃ無いだろっと」
「あいたっ!?」
「ゆっくりやり返してやったのにそのまま食らうなよ……」
お姉ちゃん……
「で、粘着力はどんなものかな? さっきから色々やっても普通に取れてないし…… よし、ちょっとここに他の石引っ付けてみてー」
比較的平らな石の表面にぐるぐると渦巻きを描くように太い糸をはりつけて、接着剤みたいにしてみた。
同じ太さの糸を出した時の五倍くらい魔力を消費して、粘着力に注ぎ込んだけどどうなるかな?
「はい。……私の力では外れませんね。アヤメさん、どうぞ」
「んー、取れないな。糸だけじゃなくて瞬間接着剤にもなるのか、【妖精】は」
「いや、原料みたいな言い方しないでよ」
そんな潰した【妖精】を塗ったら引っ付いたみたいに。お米じゃないぞ私は。
「あの、白雪さん」
「ん?」
「先程からラキ様が悲しそうな目でそちらを見つめておりますが……」
「えっ? あ、糸か……」
せっかく「糸出せるよー!」ってやったのに、直後に私も色々出来る糸出しちゃったからか。
むぅ、タイミング悪いな……
「ほら、大丈夫だよ。私が糸を出せたからって、ラキの糸が凄い事には何も変わりないんだからね」
ラキの脇腹の辺りをつまみあげて手に乗せ、頭を撫でつつ宥める。
実際クモ糸ってかなり良い物のはずだし、それを出せるだけで十分に凄い事だろう。
そもそもそれを言うなら他の子たちなんてただ可愛いだけだからね。
私に取って一番大事なのはそこだけど。
あ、流れでクモの方の背中も撫でてみたけど結構手触り良いな。
少しだけ硬めだけど、その分すべすべと滑らかだ。
むぅ、納得してない顔してるな。まぁそれも仕方ないか。
「ぴっ!」
あ、ぴーちゃん。
この顔は「もー、ご主人を困らせちゃ駄目でしょ」みたいな感じかな。
羽を使って器用にラキを挟み込み、そっと自分の頭に乗せた。
うん、ラキちゃん目が合ってる間ぷるぷる震えて動けなくなってたからね。同じ方を向いてようね。
あ、涙目になってる。