182:埋もれよう。
カトリーヌさんのなんかアレな発言は置いといて、改めてぴーちゃんを見てみる。
特徴的な目元はまぁ良いとして、確かにスズメっぽいカラーリングだな。
頭と羽と尾羽は茶系の色で、脚とかの羽毛は白くてふわふわだ。
って良く見たら下は私と同じ様なの履いてるけど、上はこれ服じゃなくて羽毛だな。
鎖骨からみぞおちの辺りまで、ぐるっと羽毛に覆われてる。
おお、冬場のスズメっぽいモコモコ感……
……ここは私と似てないな。
こっちも私とカトリーヌさんの間…… いや、大抵の人はそうなるか。
っていう自虐はまぁ良いとしてだ。
むぅ、なにあれもっふもふで気持ち良さそう。
いや、でもこれいくら何でもにゃんことかと違って、揉んだり撫でたりする訳には行かないよなぁ。
背中側ならぽふぽふ触らせてもらえるかな……?
「雪ちゃん、何ぴーちゃんの胸元じっと見てるの?」
「きゃー、えっちー」
「いや、羽毛が冬のスズメみたいでふわふわだなーって。あとエリちゃんうっさい」
「あれ、雪ちゃんって近くでスズメ見た事有ったっけ? 視界に入ったら一斉に逃げられるって言ってなかった?」
「……図鑑とかの写真でね」
「悲しいなおい」
「良いもんどうせ普通の人でも触らせては貰えないんだし。見るだけなら写真で良いんだい」
「白雪さん、負け惜しみにしか聞こえません……」
「うん、本音は生で見たいんむっ!?」
何だ何だ!? やわもふぬくいぞってこれぴーちゃんか。
えっと、多分これ胸元に私の頭を埋めて上半身を羽で包んでるのか。
人で言う左腕を後頭部に、右腕を腰に回してる感じっぽい。
……あれ、もしかして憐れまれた?
むぅぅ、色々と悔しいけど温かくてぷにもふで凄い気持ち良いぞ……
でぶねこのお腹とかこんな感じなのかな。
私に乗っかってるはずなのに、重さが無いのは浮いてるのかな?
……これ顔動かしてスリスリとかしたらまずいかなぁ。まずいよなぁ。
「雪ちゃんが女の子に埋もれて喜んでる……」
「いや女の子に埋もれてって言い方はどうなの」
うん、まぁ確かにぴーちゃんの胸元に顔が埋まってて反論ももごもご籠った声だけどさ。
あ、ごめん。ちょっとくすぐったかった?
「うあー、でもこれきもちいいよー。このむなげふっ、ごめんごめん謝るから許してー」
喋ってる途中で唐突に腰に回した右腕で背中をバフバフと軽く叩かれた。
いや、うん。今のは私が悪かったよ。女の子に胸毛って言い方は無いよね。
あれ、なんか明るくなった。
前を見るとちょっと上の方に少しぷるぷるしてるぴーちゃんと、そのぴーちゃんを背後から捕まえた無表情のシルクが立っていた。
ぴーちゃんの両腕を封じる様に肘の辺りを胴体の横に押し当てて、まとめて掴んで持ち上げている。
あ、くるっと後ろを向いてお屋敷の方に……
「ぴゃぁーー……」
「待って待ってシルク、今のは私が悪かったから。ぴーちゃんを怒らないであげて」
お仕置きされると感じたぴーちゃんが悲し気な鳴き声を上げながら攫われて行ったので、とりあえずシルクをなだめておく。
確かに召喚者に攻撃しちゃってるけど、今のはなんか仕方ない気がするし。
あと別にダメージは無いし。
戻ってきて開放されたぴーちゃんが、こちらに向かって深々と頭を下げる。
「いやこっちもごめんね。言い方が悪かったよ」
近づいて頭を抱き寄せ、後頭部をぽふぽふと撫でる。
……うん、硬くてごめんよ。でもそこは諦めてくれ。
「さて、それじゃぴーちゃん。あっちのめーちゃんにもご挨拶しておいで」
こくりと頷いてめーちゃんの肩へ飛んで行くぴーちゃん。
ってうわ速っ。いや、でも鳥の飛行速度を考えるとあれ位当たり前なのかな。
「わー、目はこわいけどかわいー。わたしめーちゃん、よろしくねー」
「ぴー……」
「あ、ごめーん。気にしてたかー。そーだ、巣、つくるー?」
いや何を聞いてるんだよ。
というか作っても変形したら壊れちゃわないか?
「ぴっ」
「んー、いらないかー、残念」
「ぴぴっ」
「あー、気にしなくていーよー。言ってみただけだからー」
「ぴゃっ」
「うん、よろしくねー」
……あれ会話出来てんの?
でもぴーちゃん側におかしな反応が無いって事は、少なくとも大体あってはいるって事だよね……
めーちゃん恐るべし。いやよく解んないけど。
戻ってきたぴーちゃんにはシルクと一緒に居てもらって、次の子を呼ぶとしようか。
……さっき怒られそうになったからかちょっと怯えてる気がするけど、慣れてもらおう。
普通に過ごせばすぐに仲良くなってくれるだろうし。
っていうか私が変な事言ったせいだけど。
「よし、それじゃもう片方も呼ぶよー」
「えっと、アオオビアラクネだっけ?」
「なんか聞いた事有る気がするんだよなぁ」
「まぁ呼べば解るよ。えーっと、名前名前……」
うーん、どうしよ。アラクネだよね。
アラクネ……アラクネ……アラク……
「雪ちゃん」
「ん?」
「荒木さんとかやめてね?」
「いやいや、流石にそれは…… ごめん、自分でも無いって言いきれない」
「でしょ?」
うん、やりかねない気がする。
どうしよっかな。ラク…… よし、ちょっとずらして「ラキ」ちゃんだ。
いや、ちゃんなのかはまだ判らないけど。
入力を済ませると光が集まって来て、お姉ちゃんと同じくらいの高さの球体に纏まった。
まぁ縮むよね、うん。……ってまだ縮むの!?
「わー、これどうなっちゃうの……?」
「ま、まぁ出てくるのを待とうか」
「まさか元になった物と同じサイズなのでしょうか……」
流石にこれにはお姉ちゃん達も戸惑ってるな。
レティさんはなんか察してるみたいだけど。
最終的に十センチくらいまで縮んで私の顔の前に浮いている光球。
これ出現したら落ちちゃうんじゃなかろうか。
うん、下に手を添えておこう。
あ、出て来た。危ない危ない、やっぱりこれ手を出してなかったら落ちてたな。
しかしまぁちっこいな……
中から出てきたのは光よりも更に小っちゃい、六センチくらいの活発そうなお姉さんだった。
まぁ下半身はクモなんだけど。
あれ、腕も有るのに足が八本…… あぁ、そう言えばクモって顔の所に短い手が生えてたっけか。
おっきなお腹は光沢のある毛で緑黒緑って感じに色分けされてて、アオオビって言うよりクロオビっぽいな。
こっちを見て私と目が合うと、ニコッと笑って頭を下げた。
「あ、うん。これからよろしくね、ラキちゃん」
左手側に寄ってもらって、右手の人差し指を差し出して握手する。
わー、お姉ちゃん達はこんな感じだったんだなぁ。
まぁこの子の場合、人間と私よりも更にサイズ差が大きめだけどね。
「わー! ちっちゃーい!」
「お姉ちゃん、声が大きいし近い近い」
「わぁー…… あ、よろしくねー」
「いや、お姉ちゃん…… これ多分挨拶じゃなくて威嚇されてるだけだよ」
後ろから突然近づいてきた巨大な生き物を相手に、必死に両手を上げて体を大きく見せている。
これどう考えてもこっちくんなって言ってるよね。
もうキシャーって聞こえてきそうなくらいだよ。




