171:献上しよう。
「おう、そろそろ戻るぞ。いつまでも姫様を待たせる訳にもいかんだろ」
「あ、はい。そうですね、話も途中でしたし」
「んー、ごちそうさまでしたー。ありがとねー」
「お互い様だよー」
貰った分を返しただけって感じだしね。
私が入るために口を開けてもらったし、中を触って反応させたんだから養分も使っちゃってるだろう。
そういえば中で座標を登録しておけば、次からは直接行けたんじゃないか?
いや、あの後樹液が抜けてるとは限らないし、何よりめーちゃんがちょっと動いて位置がずれてたりしたら大惨事になりかねないな。
次に入る機会が有ってもやめておこう。
「姫様ー、戻りましたぜーい」
「おぉ、少し待て。 ……よし、開けて良いぞ」
「済みません、お待たせしました」
「構わんよ。待っている間にも色々と進めていたからな」
「あぁ、部屋がさっぱりしてますねぇ」
置いてあった家具とかが殆ど無くなってる。
奥の寝室にでも押し込んだのかな?
いや寝室か知らないけど、こっちの部屋にベッドとか無いしそうなんだろう。
あ、モニカさんが奥の部屋から出て来た。
やっぱり押し込んでるんだな。色々と積み上がってるのがモニカさん越しに見えた。
「それと、価格の相談をな」
「価格?」
「うむ。カトリーヌを使った角磨きの価格だ」
「あぁ、お金取るんですね」
「先程の行為はカトリーヌが自らの為にやったに過ぎんが、今度はライカの側から頼む訳だからな」
「いくら生き返るっつっても、死んでくれって言ってるんだしねぇ。何も出さないってのはこっちの気が済まないだろ?」
まぁカトリーヌさんだから喜んでるけど、まともな神経してたら耐えられる訳が無いからなぁ。
……っていうかこれ、カトリーヌさんが居なかったら【妖精】が攫われる事件が起きかねない設定なんじゃないか?
起きかねないっていうか、そういう方向に持っていくためって可能性まで有るぞ。
なんてったってこのゲームだしなぁ。
有料とは言え、やりますよって窓口があればそういう手合いも減るだろう。
まぁ元々【妖精】を攫うのはリスクが高すぎるんだよね。
バレたらほぼ全ての人を敵に回す訳だし。
……っていうか脆すぎてそう簡単に攫えないし。
「二本セットで銀貨一枚という事になりましたわ」
「高っ……いや安いのかな……?」
「少なくとも高くはないと思うぞ。普通であればこうまで綺麗に磨くには、それなりに高級な薬剤等が必要になるだろうからな」
「揃えるだけでもそれなりにかかっちまうし、磨くのだって質の良いやすりが幾つか必要になるし、更にそれなりの手間もかかるからねぇ」
あー、確かに大変そうだな。
自分からじゃ鏡越しにしか見えないから、後ろ側とか難しそうだし。
「その点、カトリーヌを使えば最後に拭い取るだけだからな」
「自分は座って待ってるだけって訳だ。それを考えれば安いもんさ。それに、そう頻繁にやる事でもないしね」
まぁあんまりやってると逆に痛みそうではあるよね。
なんせ塗ってるのが【妖精】だし。
「受ける苦痛を考えれば安すぎるとは思うのだが、カトリーヌがそれで良いと言うのでな」
「まぁカトリーヌさんですし。私だったら十枚貰っても絶対に嫌ですけどね」
「快楽を得られ、相手にも喜んで頂ける。それで更に多額のお金を取るというのは、私が得る物が多すぎますわ」
「最初のは殆どの人にとってどれだけ貰っても釣り合わない程の損失だからね」
「もしかしたら気に入るかもしれませんし、白雪さんも試しにやっ」
「ていやっ」
「てみぅっ! ……おぉぉ、っとっと。はぁぁ、やはり白雪さんの打撃は良いですわねぇ……」
カトリーヌさんが喋っている最中に、掌底を顎に叩きこむ感じで思いっきりビンタしておいた。
絶対に嫌って言ったばかりなのに変な提案をしてくるんじゃないよ。
というか、こうなるの解っててわざと言っただろ。
いい感じに頭が揺れたのか少しだけふらふらと落ちたけど、すぐに立ち直るカトリーヌさん。
うーむ、もっとSTRか技術を高めれば一撃で撃ち落とせるかもしれないな。
いや、別に撃ち落としたい訳じゃないけどさ。
この高さから落ちたら普通に死ぬし。
「何をやっているんだ……」
あ、呆れられた。そりゃそうか。
「姫様ー、この子たちも暴れてるじゃないさー」
「お前達とは周囲に与える被害が違うだろうに」
「まぁそうだけどねぇ。私なんて座れる椅子が無いから、こうして床に座ってるくらいだし」
確かにライカさんの体格じゃ、普通の椅子じゃ窮屈だろうなぁ。
別に太ってる訳じゃないけど、背の高さに見合う幅は有るし。
いや、むしろ高さを考えると少し細いくらいかな?
「こいつらじゃ暴れてその辺にぶつかっても、自分が潰れるだけだしな」
「まぁそうですね。物を壊せるほど頑丈じゃないですし。あ、そうだ」
「あぁ、そうだそうだ。採りに行ってたんだったな。姫様、どうぞ」
思い出した様な私の声と視線だけで察したジョージさんが、アリア様に樹液を渡してくれた。
これ忘れてたら、何しに出て行ったんだって話だからね。
「ふむ、これか。……少ないな」
「いやぁ、私が一度に持てる量っていうとそれくらいになっちゃうんですよね」
人間から見れば大さじ一杯って所だろうか?
「まぁ試すには十分か。どれ」
クイッと口に含み、転がす様に味わうアリア様。
しかし躊躇なく口に入れたな……
「渡した方が言うのも何ですけど、気軽に口に入れて大丈夫なんですか?」
「んっ…… 何、問題無い。ジョージが私に渡すという事は、毒である可能性は無いという事だからな」
ほー。イジりはするけど信頼してるんだなぁ。
まぁ信頼してなきゃ国からこんなとこまで一緒に連れてこないか。
「あんまりこっち任せにされても困るんですがねぇ」
「やかましい。それがお前の仕事だろう」
「まぁそうなんですがね」
「そもそもお前とコレットを抜けるような相手では、私がいくら警戒しても無駄と言うものだ」
「それにしたって、ちっとは気を付けた方が良いんじゃないですかね」
「面倒だ」
一言でバッサリいったな……
「それはさておき、もう一度走って来てくれるか」
「ライカの所の連中を呼んでくればいいんで?」
「うむ。事務所に待機させてあるそうだ」
「へーい」
あ、消えた。
んー……あ、ソニアさんがちょっとだけピクッとした。
まだ不完全らしいな。流石に即座に対応は出来なかったか。