168:人を雇おう。
とりあえず復活地点の問題は解消できたみたいだし、ソニアさんのお悩み相談もアリア様のおかげでサクッと解決した。
「地上に居られないなら穴掘ってれば良いんじゃない?」っていうのは解決なのか微妙に疑問ではあるけど、まぁ棺桶の中にこもっているよりはマシだろう。
「あーそうだ、丁度いいや。キャロちゃーん」
「む? 今度は何だ?」
と思っていたら今度はエリちゃんが何か思い出したらしく、唐突にアリア様に話しかけた。
……キャロちゃん!?
あぁ、そういえばミドルネームがキャロルだったっけ?
それにしても遠慮が無さすぎやしないか、エリちゃん。
まぁ本人が気にしてないんだから良いんだろうし、私が気にしても仕方ないか。
コレットさんも特に反応してないしな。
「何かお仕事ないかなー? 仲間に捨てられちゃって暇なんだよー」
「捨てられたって言うか、自重しないエリちゃんが悪いと思うんだけど」
その言い方じゃ兎さんたちのイメージが悪くなっちゃうよ。
「あはは。まーそーなんだけどねー。いやー、あのセット買ったからすっからかんでさー」
「なんで使い切っちゃうかな……」
「いやー、離脱が決まる前だったからねぇ。で、お金は無いけど暇は有るって訳でなんかないかなーと」
いやぁ、自重するつもりが無いなら決まってた様なもんじゃないかな……
ていうか別にアリア様に聞かなくても、普通に何か適当にやればいいんじゃないかな?
あぁ、丁度いいって言ってたし元々はそのつもりだったけど、せっかく居るんだし聞いとこうって事か。
「ふむ、仕事か。……そんなに暇ならここの住人たちの雑用係でもやるか?」
「もー、アリア様はまたそういう事を言うー」
明らかに面白がってる顔で変な事を言い出した。
「あ、じゃあそれで」
「はっは…… はっ? ……いや、冗談で言ってみただけなのだが」
即答するエリちゃんに困惑するアリア様。
割と普通にそのつもりになってるっぽいけど、どうしてくれるんだ。
「えー? 駄目ー?」
「いや、駄目という訳では無いが…… 良いのか?」
「良いよ良いよー」
「し、知り合いの下に付くとかやりづらくない?」
「えー? ユッキー達悪い子じゃないし、酷い事言わないでしょー? 知らない人のとこ行くより安心じゃーん」
「いや、そりゃそうかもしれないけどさ……」
ちょっと抵抗してみたけど普通に返された。
それまで対等だった相手の下に付くのって、なんか抵抗があるもんだと思うけどなぁ。
エリちゃんがそういうの気にしない人ってだけか?
「ふむ…… まぁ実際の所、手は必要ではあるしな……」
「白雪様の下僕でしたら私が居るではありませんか」
まぁ確かに、何か要る物が有って買い出しに行くにしても【妖精】はろくに物が持てないし、【樹人】と【吸血鬼】はそもそも買い出しに行けないんだよね。
あと何を言ってるんだモニカさんは。
「お前には庭園の管理という仕事もあるだろう。そちらをきちんとやってくれねば、皆も困るのだ」
いやアリア様、否定してくださいよ。
……まさか公認じゃあるまいな。
でもアリア様には、この公園全体を贈ったつもりでいる疑惑もあるからなぁ……
『仕事の手伝いもする管理人』じゃなくて『公園の管理もする使用人』を送り込んでる可能性が否定できない。
「そんな、私は…… いえっ、やります! 誠心誠意、管理に努めさせて頂きます!」
「うむ」
反論しようとした瞬間にアリア様の呆れ顔が真顔に変わり、必死で留まろうとするモニカさん。
まぁ庭師は一人じゃないからなぁ。
わがままで蜜の納品に問題が出る様なら、交代させられても仕方ないだろう。
「じゃーオッケーかなー?」
「み、蜜の採取のお手伝いだけは譲りませんからねっ」
おぉ、ついさっき外されそうになったのにねじ込んで来た。
そこまで必死になる事か?
「……うむ、まぁ元々それもお前の仕事だからな。ではライカ、ここに一部屋増やしてやってくれ」
「え、お部屋なんていいよー。私なんてお庭に転がってればいいんだよー」
「何なのその唐突な自虐は」
「いや、流石に冗談だけどねー。でも増築なんてしたら、庭が狭くなっちゃうじゃん?」
「ふむ、確かに。では横に広げなければ良いという事だな。地下にもう一部屋作るか」
「んー、でもなー。私お金払えないし、負担してもらう程の理由も無いんだよねー」
まぁ【吸血鬼】と違って、別に表に居たからって死ぬ訳じゃないしね。
でも管理人宿舎みたいな物だし、そんなに遠慮しなくていいんじゃないかな?
「あ、そうだ。庭に一部芝を無くしてある所が有るんですけど、その辺りに小屋を作ろうと思ってたんですよ」
「ほう。しかし何故?」
「人間のサイズの物を扱う為の、物置兼作業小屋が要るかなと」
「なるほど。しかし、ここではいかんのか?」
「いやー、あくまでここって管理人さん用のお家じゃないですか。昼の間はモニカさんも居ませんし」
住人が不在の時に、勝手に上がり込む訳にも行かないだろう。
「この家も私も白雪様の物なのですから、お好きな様に扱ってくださって構いませんが」
「で、そういう小屋があれば私の友人達も気軽に使えるかなと思いまして」
「思いっきりスルーしたね、ユッキー」
「むぅ……」
家はともかく自分も含めたからな。そりゃ放っとくよ。
「まぁそういう訳で、すみっこに建てて頂ければと。共用部に間借りするだけなら、エリちゃんも遠慮は要らないでしょ?」
「お前はうちの備品だから物置に転がってろって事かな?」
「そんなカトリーヌさんみたいな事言われても、反応に困るんだけど」
「ふっふー。冗談じょうだーん」
「まぁ建てるのは良いとして、支払いの当ては有るのか? あぁ、そう言えば蜜の納品が有ったか」
「はい。カトリーヌさんの手伝いも有ってほぼ一瓶溜まっているので、明日には納品出来ます。……それで足りますかね?」
「ん、いくらなんだい? ……あぁ、それなら小屋くらいなら余裕で行けるよ」
ライカさんが聞くと即座にコレットさんが耳打ちした。
普通に言えばいいのに。
「それじゃ、蜜の代金はライカさんの方にお願いします」
「え? 全額こっちで良いのかい?」
「良いんじゃないですか? 物が置けて作業が出来ればそれで良いので、あとの事は全部お任せしますね」
いくらかかるか解んないし、多めに渡して置けば問題無いだろう。
急に仕事をねじ込んじゃう訳だしな。
……渡し過ぎで酷い事になったりしないよね?