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165:好きにさせよう。

 未だに遠慮気味なソニアさんに、アリア様が言葉を続ける。


「この工事に続いて、いくつか【吸血鬼】用の住居を町に用意していくつもりだからな。ソニアだけを特別扱いしている訳では無く、その内の一つだと思ってくれればいいさ」


 まぁこれからも【吸血鬼】のプレイヤーが増えるかもしれないからね。

 ……増える気があんまりしないけどね。



「でも……」


「という訳でライカ、そちらもよろしく頼むぞ。そうだな、とりあえず十部屋ほど作っておくか」


「おっ、ラッキー! ありがとうねぇー、ソニアちゃーん。おかげで大儲けだよぉー」


 反論しようとしたソニアさんは、儲け話に喜ぶライカさんに撫でまわされて何も言えなくされてしまった。

 あー、また髪が……

 あと反対側のお膝に居るシルクが、激しい動きのせいで落ちそうになってるぞ。

 あ、ちょっと浮いた。落ち着くのを待つつもりかな。


 しかしこの町の現状じゃ、いくらでも大工さんのお仕事はありそうだけどなぁ。

 ってそうか、別にライカさん以外にも大工さんは居るのか。

 まとまった仕事が貰えるのは大きいんだろうな。


 というかあんまり強く撫でるのはやめてあげた方が……

 頭が振り回されて首がぐるんぐるんしてるぞ。

 常人ならゴキッて言ってそうだよ。



「おいおいライカ、その辺にしておいてやれ」


「あ、まーたやっちまったよ。ごめんねぇー?」


「うぅ…… め、まわる……」


 まぁあれだけ激しく振られたらそうなるわな。

 あ、シルクが着地した。




「さて、それでは…… ライカ、少し頭を動かすな」


「え? 良いけど、どうしたんだい?」


 うわ、いつの間にかカトリーヌさんが間近で角を観察してる。

 少し目を離しただけなのに、油断も隙も無いな……


「今、お前の頭上にカトリーヌが居るのでな。下手に動くと角で殺しかねん」


「ありゃ、そりゃ動けないねぇ。何やってるんだい?」


「何やら角が気になる様だな。周囲を回りながらしげしげと見ておるよ」


「へー。いくらでも見てくれていいけど、動けないのはちと辛いねぇ」


 そこに居るだけならともかく、首をずっと固定しておくのは確かに疲れるだろうな。

 とりあえずカトリーヌさんを回収しに行くとしよう。



「もー。不用意に近づいちゃ危ないよ?」


「太くて大きくて、立派ですわぁ……」


「いや、そりゃまぁ確かに綺麗な角だけどさ」


 私たちの数倍の太さがあるしね。

 でもその言い方はなんていうか、どうなのさ。


「硬くてすべすべで……」


「あ、ちょっとカトリーヌさん。勝手に人の角を触っちゃ駄目だよ。種族的に大事な部位かもしれないじゃない」


 なんていうかこう、誇りとか象徴とかそういう。物が角だし。

 まぁどっちかって言うと攻撃に使いそうな形してるけどさ。

 でもあくまで体の一部だし、勝手に触っちゃ駄目だろう。



「ライカ、角を撫でられている様だが良いのか?」


「あー、別に構わないよ。この図体だしそこら中にぶつけてるの、姫様も良く見てるだろ?」


「物にぶつけるのと人に触られるのとはまた別だと思うが、まぁ構わんというなら良いか」


 あ、別に良かった。

 単にライカさんが気にしない性質だって可能性もあるから、他の人はどうか判らないけどね。

 しかしそこら中にぶつけてるって割に、傷一つ無いな。

 再生してるのか、全部に勝ってるのか…… なんとなく後者っぽいな。



「ふふ、これはこれは……」


 ぺたぺた触ったり、ぎゅっと体を押し付ける様に抱き着いたりしながら、徐々に細くなる先端に向かって移動していくカトリーヌさん。

 うん、回収しに来たけどこれはなんか駄目な奴だ。

 近くに居ると変なとばっちりを食いそうだし、少し離れていよう。


「白雪、カトリーヌは何を考えている?」


「えっと、解るなら苦労しないと言いますか…… とりあえずロクな事じゃないのは確かだと思いますけど」


「少々嫌な予感がするのだが、止めた方が良いのではないか?」


「でもこれ下手に止めると後で私が舐め回されたり、シルクの目から光が消えたりするんですよね」


「お前等は普段一体何をやっているのだ」


「私達は巻き込まれてるだけですよぅ……」


 いや、止めさせずに諦めて付き合ってる時点で同罪かもしれないけどさ。



「先端も、とても鋭くて…… 素晴らしい」


 まぁ確かに。頭を向けて突撃したら、それだけで強力な攻撃になるんじゃないかな。

 まぁこの体格だと、角が無くてもかなりの衝撃だろうけどさ。


「うふふ、これならば……」


 ん? 一旦離れて角の上に…… っておい、何する気だ。

 いや、何となく察しはつくんだけど。



「まずくないか?」


「まずいですね」


「えっ、何? 何が起きてるんだい?」


 アリア様の声だけが聞こえて、戸惑いを隠せないライカさん。

 いや、全部聞こえてても戸惑うだろうけどさ。

 とりあえず先に言っておくとしよう。


「なんか本当にごめんなさい」


「謝るくらいなら止めれば良いのではないかな?」


「いや、正直巻き込まれたくないです」


「薄情な奴だ」



「あの、姫様。なんか怖いんだけど?」


「安心しろ、お前に被害は出ない。……筈だ」


「その言い方で、どう安心しろってんだい……」


 うん、まぁ確かにライカさんの体にはダメージは無いだろうな。

 流石に角が溶けたりはしないだろうし。




「ドキドキしますわね……」


「やめれば良いんじゃないかな」


 まぁ聞いてくれないよね。っていうか聞こえてなさそうね。

 あ、おへそのやや下あたりに角の先端をあてがった。

 こりゃ駄目だわ。


「シルク」


「……え? わぅっ」


 一声かけると、私が何を言いたいかを察したシルクがソニアさんの顔に正面から抱きついた。

 いや、別に後ろに回ってから手で目隠しで良かったんだけど?

 殆どシルクに隠れて、口元くらいしか見えてないぞ。

 ……まぁいいか。



「んっ、ふぅっ……」


 あ、シルクの頑張りを見てたらもう刺してた。

 よくあんなのやれるよなぁ。お腹って神経が張り巡らされてて、すっごい痛いらしいけど。

 いや、それこそ望む所なのか。


「おいおい、あれは大丈夫なのか?」


「どういった意味でも大丈夫ではありませんけど、カトリーヌさんですから」


「なるほど、服を断ったのはこういう事か」


「あれはまだ大人しい方ですけどね。市場では焼けた鉄板や煮立った鍋を見つめていましたし」


「流石にそこは自制してくれたか」


「とんでもない迷惑になりますからね」


「冷静に話していますけど、それどころでは無いのでは」


 そうは言うがね、モニカさん。

 止めに行っても巻き込まれるか押し込まされるかの二択な気しかしないんだよ。



「良いぃうぶっ、ですぅわぁ…… はぁぁぁ…… ごぼっ、う、ふふふぅ……」


 あー、もうかなり深くまで入ってるな。

 もう先端は胸の辺りまで来てるんじゃないか?

 胴体が角の形に膨れ上がって凄いシルエットになってるぞ。

 てか、よく裂けないなあれ。


「姫様ぁー! なんか角から垂れて来たんだけど!」


「気のせいだ」


「いやいやいや!?」


 アリア様、流石にそれは無茶だろう。



 あ、もう声すら出せなくなったらしい。

 まぁそりゃ、喉まで埋まれば空気も通らなくなるわな。

 肺も無くなってるだろうし。

 ってか何であれでまだ生きてるんだあの人……


「うわっ、なんか頭にブブブって振動が……」


 声を上げられない代わりか、カトリーヌさんが凄い勢いで翅と脚をばたつかせ始めた。

 ちょっ、やめろ、色々まき散らすんじゃない!

 翅はともかく脚はやめろー!



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