164:飴で釣ろう。
「お前達、こんな所で暴れるな」
「あいよー」
「俺ぁ避けただけなんですがね」
「刺される様な事を言うお前が悪い。あぁ、そうだ。先程出て行った時、ドアを開けたのをソニアに感知されていたぞ?」
「なっ!? マジかよ……」
「見えなかった、けど…… 光、入ってきた、から、お肌で……」
「あぁ、そうか…… そういう所も考えねーといけねぇんだな。ったく、俺も修行が甘ぇわ」
「人をからかってないで精進する事だな」
「うーっす」
アリア様、面白がってるの隠そうともしてないな。
すっごいニヤニヤしてるし。
……なんかライカさんにじっと見られてる。
さっきみたいな勢いで来られたら、即死しちゃうんだけどな。
「白雪、そんなに身構えなくとも大丈夫だぞ。ライカは子供好きなだけだからな」
「こどもじゃ、ないもん……」
ぷくっと膨れるソニアさん。かわいいな、おい。
「ほらほら、機嫌直しな。飴ちゃん食べるかい?」
「いいの……? ありがと、ございます…… おいひぃ」
……この人もちょろいな。
ていうか鞄から普通に飴が出てくるのって、何かおばあちゃんっぽいな……
言ったら角の飾りになりそうだから、絶対に言わないけど。
「ほら、ここに座りな」
床にドカッとあぐらをかいて、膝の辺りをぽんぽん叩いてソニアさんを座らせる。
……なんの抵抗もせず普通に座ったな。これが飴ちゃんパワーか。
「で、あんたらが噂の妖精さんだね? あたしゃライカって言うんだ。よろしくね」
取り出した櫛で滅茶苦茶になったソニアさんの髪を整えてあげながら、こちらを見て挨拶してくる。
でっかい体の割に繊細な手の動きだな。
まぁ力加減くらい出来なきゃ、正確な物作りなんか出来ないか。
「こちらが市場のアイドルの白雪で、こちらがカトリーヌだ」
カトリーヌさんと一緒に挨拶を返すと、アリア様が補足してくれた。
っていうかアイドルて。別に良いけどさ。
「で、私がエリシャー。まー私は居合わせてるだけなんだけどねー」
一応って感じでエリちゃんも挨拶した。
まぁ確かに関係無いっちゃ無いよね。
あれ、シルクはどこ行った?
……あ、エリちゃんの背中にくっついてる。
「ほら、シルク。隠れてないでご挨拶しなさい」
なんで「そんな、殺生な!?」みたいな顔するかね。
……あー、もしかして身の危険を感じて隠れてたのか?
シルクも見た目は小っちゃい子だしなぁ。サイズじゃなく体形的な意味で。
まぁ見た目はっていうか中身もだけど。
「シルク、出て来ても大丈夫だぞ。今、奴は動く事が出来んからな」
アリア様がシルクを説得にかかる。
あぁ、確かに。今はお膝にソニアさん乗っけてるもんな。
「ほらほら。大丈夫、捕まったらすぐに送還してあげるから」
流石にカトリーヌさんみたいに捕まえてる側をコキャッと行くわけにもいかないし。
近づいて手を引くと、抵抗せずに出て来た。
うん、まぁまだ私に手を引かれて逆らえる程には図太くなれないよね。
「おやおや、これまた可愛い子だねぇー。ほーらおいで、飴ちゃん食べなー」
ここだと飴ってそんな安い物じゃないと思うんだけど、一体あの鞄にいくつ入ってるんだろうか……
まぁいいか。くれるって言うんだから貰えばいいだろう。
「良かったね、シルク。ほら、ちゃんとお礼しないと」
シルクから見ればりんごくらいの大きさの飴玉を両手で持って、ぺこりと頭を下げる。
おぉ、舐めた瞬間に目が輝いた。そんなに美味しいのか、あの飴ちゃん。
あ、スススっと近寄って行ってソニアさんとは反対側のお膝にぽむっと乗った。
甘い物の力は凄いな。ていうかうちの子もちょろいな。
両膝に子供を乗っけて凄い幸せそうだな、ライカさん。
なんていうか、孫に囲まれ……やめよう、あんまり失礼な事考えてるとその内バレそうだ。
「失礼します。ただ今戻りました。いらっしゃいませ、ライカ様」
「おう、コレットも元気そうだね」
奥のドアからコレットさんが顔を出す。
……とりあえず足を持って引きずるのは止めてあげよう?
あ、片手でライカさんの横に放り投げた。
凄い力だなぁ。っていうかお客様の近くに投げるってどうなの。
「うぅ、酷い目に遭った…… げぇっ!?」
「おいおいモニカちゃん、げぇは無いだろー? 相変わらず可愛らしいねぇ」
あー、知り合いか。
まぁ一応って言うのもなんだけど、モニカさんも役場の人間だしな。
反応からして、あのハグの被害者なんだろうな。
ちっちゃいもんなぁ、モニカさん。
「わ、私子供じゃないんで……」
「そーんな逃げなくても大丈夫だって。ほら、見てみなよ。動けるように見えるかい?」
「あっ、ず、ずるいですよライカさん。私にも分けてくださいよ」
何言ってんだこの人は。
「こらこら、この子らは物じゃないだろ。来な、一緒に可愛がってやるから」
「うぅ、それはお断りします」
「おや残念」
「ライカ、幸せそうなところ悪いんだが仕事の話をしても良いかな?」
「おぉ、悪いね姫様。あ、姫様も飴ちゃん食べるかい?」
「うむ」
あ、普通に貰っちゃうんだ……
いや、別に何も悪くは無いんだけどさ。
「で、仕事ね。【吸血鬼】のこの子がお客さんって事は、暗室か地下室でも作るのかい?」
「うむ、相変わらず話が早くて助かる。この家の下に一部屋掘ってやってくれ」
「あいよ。何か希望は?」
「その部屋から表に直接出られる様にする事と、部屋から張り出す様な形のくぼみを壁に作ってやってくれ。そこは土がむき出しのままで良い」
「あぁ、そこから採掘用の穴を掘っていく訳ね。表に通じるドアは二重の方がいいかね」
「うむ、一枚では開いた時に光が差し込む危険が有るからな。一応家の中に通じるドアもそうしておいた方が良いだろう」
家の中も常に暗闇って訳じゃないもんね。
お世話しようとモニカさんがドアを開けて死亡とか笑えないし。
っていうかさ。
メモ取ってるのは良いんだけどさ。
今、そのメモどっから出した?
私、そんなとこに収納ないんだけど?
「はいさ。えっと…… ごめん、名前聞いてなかったね。お嬢ちゃんは何て言うのかな?」
「あ、ソニア、です…… ソニア・マルツォラッティ……」
「あいよ、ソニアちゃんね。で、ソニアちゃんは何か希望はあるかい?」
「い、いえ…… 光が、入ってこなければ、それだけで、嬉しい、です……」
「いやぁ、謙虚で良い子だねぇ! 姫様、この子家に貰っていって良いかい?」
「良い訳が無かろう。あぁそうだ、工事の費用は私に請求してくれ」
さくっと却下しつつ、唐突に費用の負担を申し出るアリア様。
まぁそもそもソニアさんは、工事代金を払えるほどお金持って無さそうだけど。
多分初期の銀貨十枚のままだろう。使いようが無いし。
「え、そ、そんな…… 悪い、です…… 有るだけは、払います……」
「やー、良い子だねぇー。でも遠慮しなくていいんだよー?」
あーあ、また髪が乱れちゃってるよ。
すぐに梳かし直してあげてるけど、髪傷んじゃうよ?
まぁ仮にも【吸血鬼】の性能だし、髪だってそう簡単に痛むほどヤワじゃないとは思うけどさ。
「うむ。【吸血鬼】が暮らせる場所が無いというのは、町を管理するこちらの手落ちだからな。ここは負担させておいてくれ」
んー、確かに【妖精】と違って滅びてないんだから、来る可能性も考慮して用意しておかないといけなかったのか?
まぁそれを言うなら【樹人】共々、船から降ろした後船着き場に放置するなよって思うけどね。
あれ自分で降りたとは思えないし、船員が降ろしてるだろ。