162:提案しよう。
「あ、あのぅ……」
エリちゃんの陰に隠れながら、おずおずと声をかけてくるソニアさん。
「おっと、いかんいかん。今語るべきは本土にある【吸血鬼】の町の事よりも、ソニアがどうすれば良いかだったな」
「あ、そうでしたね。色々と気にはなるけど、今聞かなきゃいけない訳じゃないし」
今はソニアさんの相談に乗るための集まりだもんね。
すっかり町の話に行っちゃってたけど。
「まぁそういう訳で、体を動かすのが嫌でなければソニアも地下で採掘をしてみてはどうだろうか」
「穴掘り、ですか…… でも、やったことないし、鉱石とかよく解らない、です……」
「【吸血鬼】であればその辺りは問題無いと思うぞ? まぁ無理にとは言わんが」
「掘るのは適当に手を突っ込めばいいとして、鉱石とかを見分けるのはどうするんですか?」
ちょっと気になったので尋ねてみる。
そこは【吸血鬼】かどうかって関係あるの?
「見分けない」
「はい?」
「鉱石かどうかなど関係無く、掘った全ての土から【錬金術】で鉄や貴金属などを吸い出すんだ」
「あぁ、有り余る魔力でゴリ押すんですね……」
「うむ。残った土は掘った壁面に押し付けて、強度を増す為に使っていたな」
「押し固めるだけで大丈夫なんですか?」
「恐らくそれだけでもかなりの固さにはなるだろうが、私が見た時には【錬金術】も併用して溶かしこみつつ圧縮していた」
【錬金術】は便利だなぁ。
「道具も使わず華奢にも見える少女の手で押さえられた土が、まるで磨かれた石壁の様であったよ。まぁ少女と言っても見た目だけで、実際の年齢は知れたものでは無いが」
それ多分、聞かれたらお仕置きされる類の言葉じゃないかな。
「実際に見た事が有りますの?」
「うむ、一度視察に行ってな。比較的浅い層で作業を見せてくれたよ。っと、また話が逸れて行きそうだな」
「まぁ要するに、経験や知識が無くても出来るよって事ですね」
「うむ」
「そ、それじゃ、やらせていただきます……」
「少しでも嫌ならば、遠慮なく言えば良いのだぞ?」
「い、いえ…… 暗くて、狭いとこ、好きですし……」
「まぁ地下に部屋を作れば、時刻を気にせずに棺桶から出られるしね」
「うん…… お部屋が有れば、あの子たちも運動させて、あげられる……」
ん?
「あの子たち?」
「私、【召喚士】なの…… でも今まで、棺桶の中で一緒に寝るくらいしか、してあげられてない……」
「【吸血鬼】の方の召喚獣は、主と同じ様な特性を持ちますの?」
「うん…… 一度、夜に出してあげたら、痛そうに鳴いて、帰ってきた……」
「棺桶にタイヤつけて引っ張って貰ったりも出来ないんだねー」
「なんで台車に乗せるんじゃなくてタイヤを直接つけるって発想に」
「あー、そっか。まぁどっちにしろ召喚獣に移動させてもらったりは出来ないんだねって事で」
まぁ最初に呼べるのって犬猫だし、棺桶ごと引っ張って貰うのは……って小型犬なのは私だけか。
普通のわんこなら、タイヤが付いてれば引っ張るくらいはなんとかなるだろう。
「まぁやると言う事で良いのだな。となると、後は場所か。現状では山まで連れて行く事は出来んし、町のどこか空いた土地にでも日除けの仮小屋を建てるか?」
「あ、ソニアさんさえ良ければ、ここでやります?」
「ふむ。この小屋に地下室を増設するのか?」
「そうですね。庭から地下室に直接出入りできる様にすれば、モニカさんの邪魔にもならないでしょうし」
「いえ、私の事はお気になさらず。むしろ私のお部屋で一緒に住んで頂いても一向に」
「いや、この家普通に窓有るじゃないですか……」
常に今みたいに封鎖してる訳じゃないだろうし、うっかり昼間に出てきたらソニアさん死んじゃうよ。
「よし全部埋めましょう」
「コレット、連れて行って良いぞ。じっくり話したい事も有るだろう」
「ひいっ!? あっ、地下室を作るなら中への階段もお願いします! お世話させて頂くので!」
コレットさんにずるずると引きずられて行きながらも、自分の主張は忘れないモニカさん。
実に逞しいな。
「まぁどこにするかはソニアさん次第なんだけどね。どうかな?」
「あ、それじゃ…… お言葉に甘えて、お邪魔させて、もらいます……」
「それではここに地下室を作り、そこから縦穴を掘ってある程度の深さに達してから採掘するという方針で進めれば良いな」
「すぐ横に広げたら色々問題ありそうですもんね。めーちゃんの根っことかもあるし」
「あの、上り下りは、どうすれば……?」
「む? 【吸血鬼】は体を霧状に変化させて、自由に動く事が出来る筈だが」
ほう、そういう吸血鬼っぽい特性もあるのかー。
いや、っぽいも何も吸血鬼のはずなんだけどさ。
「そ、そういえば、そうでした…… 使った事、無いから、忘れてました……」
「それなら梯子やロープも無くて大丈夫だね」
「うむ、設置の手間も省けるという物だ。それではジョージ、大工の手配を」
「もう呼んでます。おっつけ来るでしょうよ」
「ほぇぁっ!?」
「なんて声出してんだよお前」
驚きすぎて凄い声出ちゃったよ。
いつの間に入ってきたんだよこの人。
「いや、え、いつから?」
「最初から居たぞ? お前が気付かなかっただけだ」
マジかー。気配すら感じられなかったよ……
「え、だ、誰……?」
「この地味なオッサンは私の部下だから、心配しなくて良いぞ」
「姫様、毎度地味なオッサンって紹介するのは勘弁して下さいよ。地味なのも仕事の内なんですってば」
「という事は地味なんじゃないか。なら何も問題は無いだろう」
「いや……うん、もう良いですよ、地味なオッサンで……」
あ、折れた。
「まぁ俺は影みたいなもんだと思って、気にしないでくれ」
「は、はい……」
「忍び込んだり覗きをするような奴じゃない筈だから安心しろ」
「そういう無駄に警戒されそうな事言わんでもらえますかね?」
「はっはっは。まぁそれはさておき、モニカは仕置きを受けている最中であろうから代わりに迎えに出てくれるか」
「へいへい、行きますよ。っと、急がねぇとそろそろ本当に来ちまうな」
言い残してフッと掻き消えるジョージさん。
本当に神出鬼没な人だなぁ。役場だけかと思ってたよ。