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155:呼び止められよう。

「んー、食べるのはいいんだけどさ。流石にこんな広場で堂々とやりたくないし、家に帰ってからにしようね」


「お預けかー。それにしても今回は、味を確かめる為にお口の中でぐちゅぐちゅして貰えて楽しかったなー」


「なんかその擬音だと、ちょっと汚い感じに聞こえちゃうんだけど。せめて濁点を取ってくちゅくちゅくらいに……」


「雪ちゃん雪ちゃん、そういう問題じゃないと思うよ」


「それもそうか。まぁいいや、とりあえず帰ろう」


 溶かした人間を口の中でかき混ぜるって時点で綺麗も何も無いよね。

 エリちゃんに立つように促し、光を放って再度照明係となる。


 しかしさっきの回答で答えになってたのか?

 みーちゃん(仮)から追加で問いかけてこないってことは、本当に「今から」何するかって質問だったのか。



「……すいませぇん、ちょっと待ってもらって、良いですかぁ……?」


「ん? 誰か呼んだ?」


 どこからかささやくような声で呼び止められる。

 ささやくというかぼそぼそとしたというか微妙な所だけど、まぁどっちでもいいか。


 っていうか私とは言ってないけど、タイミング的に多分私か同行してる誰かだよね。


「えっと…… そこに居るの、妖精さん、ですよね……?」


「あ、はい。確かに私は妖精ですけど」


 これで私じゃなくてカトリーヌさんに話しかけてたら、ちょっと恥ずかしいな。

 まぁ「妖精さん」と呼ぶって事は、多分私に話しかけてるんだろう。



「えーっと、どちら様でしょうか? というか、どこから話しかけてきてますか?」


「あ…… ごめんなさい…… えと、ベンチの、下に……」


 ベンチの下? ん、そういえばなんか変な木箱が置いてある。

 いや、これ木箱っていうか西洋風の棺桶か?

 なんでこんな所に棺桶が……



「あー、ユッキーに用事だったんだねぇ」


「あれ、エリちゃん知ってたの?」


「ここに居る事? うん。てゆーかそこにしまったの私ー」


「え、なんでまたそんな事を」


「いや、その人が『邪魔になるから隅っこか物陰に置いてくれませんか』って頼んで来たからさ」


「あぁ、なるほど。で、誰なの?」


「ん? いや、私も知らないよー?」


「そか。まぁ直接聞けばいいか。あー、私は【妖精】の白雪です。貴方は?」


「あ、どうも…… えと、わたしは、【吸血鬼】の、ソニア、です……」


 おぉ、この人もレア種族か。ふむー、【吸血鬼】かぁ。それで棺桶なのね。

 ……あれ? もう夜なのに何で棺桶の中に籠ってるんだろう?



「あ、いけない…… 正しくは、ソニア・マルツォラッティ、です…… 間に、黒い点が入ります…… あ、でも呼ぶのは、ソニアだけで良い、です……」


 この人も苗字付きか。まぁその方がかぶらないしね。

 ていうか人の名前にこういう事言うのは良くないと思うけど、マルツォラッティって言い辛いな……

 ってそれはいいんだ。


「あ、はい。【吸血鬼】のソニアさんですね。よろしくお願いします。ところで今はもう夜ですけど、棺桶から出ないんですか?」


「あ、えっと…… ごめんなさい、話しづらい、ですよね…… えと、今、曇ってます……?」


「いえ、綺麗に晴れてますね。星も月……あれの呼び名は月で良いのかな? まぁいいや。月もしっかり見えますよ」


「そ、そうですか…… う、うぅ…… でも、こっちからお願いが、あるんだから…… 入ったままなのも、失礼だし…… 頑張らなきゃ………」


 ん、どうしたんだろう? なんか出られない理由でもあるんだろうか?

 凄く出たく無さそうだな。



「か、覚悟を、決めよう…… せー、の…… えぃあぐっ!?」


 ……うん、多分勢いよく蓋を開けて出ようとしたんだろうな。

 でも開こうとした蓋はベンチにぶつかって開かなかったと。

 で、止まった蓋に多分顔面をぶつけたって所だろう。

 棺からうぅー……ってうめき声が聞こえる。



「エ、エリちゃん。ちょっと引っ張ってずらしてあげて……」


「うん…… ごめんね、気が利かなかったよー」


「おでこ、痛ぁいぃ…… いえ、ベンチの下、っていうのは、知ってましたから…… 私の不注意、です……」


「もー大丈夫だよー。蓋も開けよっかー?」


「あ…… 自分で、開けるから、大丈夫、です…… ありがとう、ございます……」


 お、戻ってた蓋がちょっと浮いた。ご対面かな?


「い、痛ぁい…… やっぱ無理ぃー……」


 あれ、何故かへこたれた。また閉まっちゃったよ。

 痛いっておでこじゃないよね。どうしたのかな?


 なんか隙間からシューって音と、ちょっとだけ煙みたいなのが漏れてたけど、あれはなんだったんだろうか。

 太陽はもう完全に沈んでるけどなぁ。



「ど、どうしました?」


「えと…… ごめんなさい…… こ、これ見てもらえれば……」


 棺桶にちょっとだけ隙間が空いて、パネルが一枚ニュっと出て来た。

 レティさんが「失礼します」と言って受け取ると、パタンと再び閉められる。


「えぇと、これは…… 種族の説明の一部でしょうか。『恒星が放つ光を受ける事により、甚大なダメージと弱体化を受ける』と有りますね」


「うん……」


「あれ? でももう日は沈んでるんだし大丈夫なんじゃないの?」


 お姉ちゃんが疑問を素直に声に出してくれる。

 って待てよ。



「えっと、『太陽』じゃなくてわざわざ『恒星』って書いてあるのは…… いや、あれがこの世界で太陽って呼ばれてるか知らないけど」


「少なくとも通称は太陽ですが、何やら名前が付いていた筈ですね。ですがそれにしても指定されていないという事は、そういう事なのでしょう」


「え、どゆ事?」


「星の光も、月の光も全部駄目なんじゃない? 月だって太陽の光を跳ね返してきてるだけだし」


「うん、そうなの…… おひさまよりマシだけど、痛いし全然力出ないの……」


「んー、相変わらずレア種族にはまともに遊ばせる気が無いねぇ……」


「本当に、何故このような種族を実装したのでしょうね」


「満喫してるカトリーヌさんが言ってもなぁ、とは思うけど」


 さっきまでちゃんと我慢してたから、そろそろ暴走しそうで怖いんだけど。

 まぁ気を付けててもするときはするだろうから、諦めが肝心だな。



「光の届かない様に作られたお屋敷や、洞窟とかの地下深くなら大丈夫なんだろうね」


「うーん、そういう理由があるならとりあえずそのままで居てくれて良いですよ。無理に出てもお話どころじゃ無いでしょうし」


「ありがとう、ございます……」


「で、用件は何だったんです?」


「うん…… えと、仕様で困ってたレア種族の子を、妖精さんが、助けてあげたって聞いて。私も相談に、乗ってもらえたら、と思って、駄目元で、来てみました……」


 レア種族の子ってめーちゃんか。

 あれは困ってたっていうか私のせいで困った事になったっていうか……

 カトリーヌさんも今はレア種族だけど別に困ってないしな、この人。



「あれ、そういえば今更だけど私の声が聞こえるんですね」


「んと、【吸血鬼】、光が全く無ければすっごい強いらしいから、耳も元々良いみたい、です。でも、心配だから、ちゃんと【聴覚強化】も、取っておきました」


 そのどっちかのおかげかとも思ったけど、蓋で遮られてるし両方無いと聞こえない可能性もあったか。

 まぁ聞こえてるならそれで良いや。聞いたのもなんとなくだし。




「そういえばカトリーヌさんって、【妖精】になる途中に【吸血鬼】も引いてたんだっけ?」


「えぇ。せっかくですので一応試してはみましたわ」


「どうなった?」


「棺桶の中から開始したのですが、不用意に蓋を押し開けてしまい日光を浴びました」


「あー、焼けちゃった?」


「いえ、光が当たった所が消滅して、そのまま頭部も失って即死しました」


「なにそれ……」


 いくら何でも光に弱すぎるだろう……

 いや、吸血鬼って本来そういう物か?

 それにしても、せめて日陰から始めさせれば良いのに……

 いや、反射した光も駄目なら誤差でしか無いのかな。




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