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150:拭いてもらおう。

 うつ伏せで両腕を枕にして、ぐったりしているアヤメさん。

 首の上にまたがって後頭部に覆いかぶさったシルクがウサ耳の付け根を横から挟むように摘まみ、そのまま軽く指先で擦る様に先端の方に滑らせ、一瞬止まり、少しだけ根元の方に戻す。


 おお、進むときに足がピーンとなって止まると脱力して、戻る時には服からはみ出た短いウサしっぽがピコピコ動いてる……

 なにあのしっぽ可愛い。


 じゃない、見てないでシルクを止めないとだった。



「シ、シルクー?」


 私が声をかけるとピタッと一瞬止まり、上半身をガバッと起こして少し浮き上がり、くるりとこちらに向き直る。

 あぁちょっと、摘まんだまま起き上がったりするから、ウサ耳を一気に先端まで擦られた上に後ろに反らされて、アヤメさんが全身をビクビク痙攣させてるじゃないか……


 うぅ、そんな「いじわるなおねーちゃん、やっつけたよ! ほめて!」みたいな誇らしげな顔されると注意しづらいぞ……

 でも流石にこれは、一応言っておかないとマズいよなぁ。



「えーっとね、ちょーっとやり過ぎかなー……?」


 私の言葉を聞いたシルクは一瞬ハッとした顔になり、目を伏せてガタガタ震え始めた。


「あぁっ、いや大丈夫大丈夫、怒ってないから。ほら、落ち着いて?」


 そんな「今度こそ殺される」みたいな絶望感を出さなくても……

 宥めながら脅かさない様にそっと近づき、シルクの手を両手でにぎにぎする。

 一応震えは止まってくれたな……



「と、とりあえず踏むのは止めてあげよ? ほら、こっちおいで」


 アヤメさんの後頭部をぷにっと踏んでいるシルクの手を引き、カトリーヌさんとエリちゃんの所へ戻る。


「よしよし。私の為にやってくれたのは解ってるからね。ありがとう」


 頭を撫でてあげながら、お礼は言っておく。

 やり過ぎではあったけど、私を思っての行動だろうしね。




「アヤメちゃん、大丈夫ー?」


「んー…… なんとか、生きてる……」


 私達と入れ替わりでお姉ちゃんがアヤメさんの所に行き声をかけると、息も絶え絶えに返事をする。

 あ、良かった。ちゃんと意識は有った。白目で気絶とかしてたら本当にどうしようかと……



「……っ!? ちょ、待って…… 今、あんまり、触らないで……」


「あっ、ごめんね」


 お姉ちゃんが肩に手を置いた瞬間、ビクッとなって身を捩るアヤメさん。

 少し落ち着くまで待った方が良さそうだな。


 あれ、そういえば突っついてたレティさんは?

 あ、居た。少し離れた所で小さな箱を椅子にして、お茶か何かを飲みつつ観戦していたらしい。

 見てたなら言ってくれれば良いのに。

 というかそのちょっとほっこりした顔は何だ。




「シルク、私の為に頑張ってくれるのは嬉しいんだけど、アヤメさんはちょっとからかっただけだからさ。あそこまでやらなくても大丈夫だよ?」


 私の言葉に少ししょんぼりした顔で頷くシルク。

 うんうん、解ってくれれば良いんだよ。

 いや、私も存分にやってやりなさいとかチラッと考えたけどさ。

 流石にあそこまでやるとは思ってなかった。


「それにアヤメさんは優しいから今回は抵抗しないでいてくれたけど、次からは判らないんだから調子には乗らない様にね?」


 調子に乗るなの所で何度も頷く。身に染みてますって事だろうか。



「ほら、シルクは私よりおっきくて強いって言っても、アヤメさんはもっとおっきくて、もっと強いんだから。シルクなんて片手でぶちゃって潰されちゃうよ」


「ぷちっとは言わないんですのね」


 頷くシルクの横からカトリーヌさんがツッコんで来る。

 ……いいじゃん。ぷちってサイズでもないしさ。




 あ、そういえば……


「シルク、拭くもの持ってたよね?」


 頷いて懐からパッと取り出……したのが私の服だったので慌てて戻して、ハンカチを取り出すシルク。

 一瞬私の服を使うのかと焦ったよ。


「足がベタベタになっちゃったからさ。ちょっと拭いてくれる? あ、カトリーヌさんの顔もお願い」


 さっき私が足でなぞったせいで、よだれが顔に塗られちゃったからな。


「私は別にこのままでも構いませんが?」


「こっちが気になるの。拭かせなさい」


 自分が汚したのをそのままにされると、なんか気になって仕方ないよ。

 まぁ汚すって言っても仕様上はちょっとベタつくただの水だけどさ。

 ベタつくのにただのって言うのはどうなのかと思うけど。

 というかこんな軽い命令ですら喜ばないでよ。



 シルクはハンカチを手に少し降下し、左手を私の踵に添えて少し持ち上げ、右手に持ったハンカチでつま先を丁寧に拭っていく。

 痛く無いしくすぐったくも無い、丁度いい力加減だ。相変わらず器用だな。

 あぁ、家の中に居る時よりは簡単な調整か。百分の一近くまで弱体化してるんだし。

 いや、むしろそんなに凄い幅で自分の力がブレるのに、加減を間違えないのが凄いか。


 そういえば足を先に拭きに来たけど、二枚持ってるのかな?

 ……いや、私の足を拭き終わったその布でカトリーヌさんの顔をグリグリと乱暴に拭き始めた。

 うん、まぁ別にカトリーヌさんが良いならそれで良いけどさ……

 拭き終わった布を持ってシルクが近づいて行った時、凄い嬉しそうな顔してたし……



「ユッキー、ふっつーに人に足拭かせるんだねー」


 あ、確かに布貰って自分で拭けば良かったな。

 でも駄目か。


「多分布頂戴って言っても、ダメって首振って拭かれるからさ。先にこっちからお願いしたほうが話が早いんだよ」


「へー。尽くす子なんだねー」


 多分だけどさ。まぁ合ってるだろう。

 あと実際はそういう事全く考えずに普通に拭かせたけどさ。

 むぅ、私もシルクに染められてる……? まぁいいか。




「アヤメちゃん、大丈夫? 無理せずに休んでた方が……」


「いや、大丈夫、大丈夫…… うわ、ちょっとミヤコ、拭くもの頂戴……」


 息は荒いままだけど何とか動けるようになったらしいアヤメさんが、お姉ちゃんに心配されつつフラフラと立ち上がる。

 あー、よだれとよだれのせいで引っ付いた土で顔がドロドロだ。



「あ、ちょっと、待って大丈夫。自分で、拭くから……」


 汚れているのを見たシルクが新しい布を片手に近づこうとして拒否される。

 ちょっとしょんぼりしてるけど、あれシルクが汚した様なものだよね?

 アヤメさんがちょっとビクッとして、一歩下がりながら止めるのも仕方ないと思うんだ。


「ありがと。ちょっと、私、先に、帰ってるわ…… これ、洗っとくな」


 お姉ちゃんに借りたハンカチを畳んでしまいつつ、訓練場の入り口に向かってフラフラ歩き始めるアヤメさん。

 足取りがおぼついてないけど、大丈夫かな。



「アヤメさん、ちょっとお待ちを。私たちはあくまで白雪さんの客という立場ですから、一人ではモニカさんに止められてしまいますよ」


 え、多分大丈夫じゃないかな……?


「あぁ、そうか…… どうしよっか……」


「ですので、シルクさんをお連れになってください。シルクさんと一緒であれば、白雪さんも承知の事だと解って頂けるでしょうから」


 え、ちょっと? あれ?

 ていうか何でレティさん、そんなニコニコしてるの?

 いや微笑んでるのはいつもなんだけどさ。



「あぁ、そうか、そうだね…… シルクちゃん、おいで……」


 おい、アヤメさん本当に大丈夫か?

 そうなった原因シルクだけど、判断能力無くしてないか?

 どうしようって顔でシルクがこっちを見てきた。


「んー、それじゃ一緒に行ってあげて。まだフラフラしてるから、出来るだけサポートしてあげてね」


 私の言葉に頷いてアヤメさんの所に飛んで行き、頭に貼り付くシルク。

 あ、耳持って大丈夫なのかな? 持ち方の問題だろうか。




 ……いや、サポートしてあげてとは言ったけどさ。

 耳を触った時の反射でふらつきを立て直せとは言ってないぞ。

 レティさんはそれ見てにっこりしてるし。……わざとか?




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