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149:名乗りあおう。

「しかし、それにしたって少しは抵抗すりゃいいのに。足下に居るんだから蹴とばすとかさ」


「うん、まぁ普通はそうなんだろうけどさ」


「普通は? ……あぁそうか、相手が普通じゃなかったな」


 まぁいきなり人の足を舐め始めるって時点で、既に普通の範疇には居ない気もするけど。



「うん。カトリーヌさんの場合、蹴とばしても喜ぶだけなんだよね」


「中々に厄介ですねぇ」


「攻撃してもそのダメージで興奮して、もっと攻撃してもらおうとエスカレートしていくから……」


「やるだけ損なんだね……」


「うん、前回ので身に染みたよ…… 止めないと酷い事するって言ったら、死んでも離さないって言いだしたし」


「いや、それは言っちゃ駄目だろ。そうなるのが目に見えてるじゃないか」


「そうだよねぇ。しかし本当に死んでも離さなかったのは流石に凄いと思ったよ」


「なんて根性だよ…… その精神力をもっとまともな方向に活かせよなぁ」


「無理ですわ」


「え、あ、そう…… うん、即答かぁ……」



「それにもし暴れるとしても、足首から先だけ掴まれてるとグキッてなりそうで暴れにくいよね」


「あぁ、まぁ確かに動きづらいな。がっちり持って全身で回ったら足首とか膝とか壊せそうだし」 


「あー、フェアリースクリュー?」


「いや、そんなプロレス技みたいに言われても反応に困るよお姉ちゃん」


 なんで名付けたんだ。やってないしやらないよ。



「それに蹴とばすにしても首から上だから、殺すつもりが無いならあまりやりたくない部位だなぁ」


「うん、まぁ危ないよね」


「迂闊に暴れたら目に指とか突きこんじゃいそうで……いや、やらないからね?」


 こそっと手を伸ばそうとするんじゃないよ、カトリーヌさん。

 



「しかしまぁ、よくまぁそんな事された相手に近寄るよなぁ」


 そんな……あぁ、スクリューじゃなくて足舐めの方ね。


「いつまたやられるかと思うと、普通は警戒して距離を置きますよね」


「実際に今やられてたしな」


「あぁ、雪ちゃんって自分が何かされるだけで済む程度の事だったら、すっごい寛大だからねぇ」


 ん、そうなのかな?



「その割に、初回は普通に殺してたみたいだけど?」


「一応嫌がりはするけど、それで終りなんだよね。本当に怒って嫌がってたら運営にセクハラとかで通報するだろうし、少なくともすぐに家から追い出して、それ以降一切関わらない様にしてるよ」


 ……通報の機能、忘れてたよ。初日のログアウトと言い、切羽詰まった時にはそういうシステムが有るって事が頭から抜けてるな。

 まぁ確かに別段、通報まではする気も無いけどさ。


「あー。まぁ今も軽くやめろって止めはしたけど、終わったら普通にしてるしな。止めなひゃあーいってなはあぁっ、ちょ、止めてシルクちゃん、ごめん許してぇ……」


 茶化す様に笑いながら私の悲鳴を再現するアヤメさんを、むにむにさわさわ撫でまわして優しくお仕置きするシルク。

 よしナイスだぞシルク。今は移動中じゃないから存分に可愛がってあげなさい。

 召喚獣を頭に乗せたままで、そのご主人様をおちょくるとは迂闊だったなアヤメさんよ。




「……まぁ雪ちゃん、リアルだと怖がられ過ぎてぼっちの子だからね。誰かに頼られたり求められたりするのが嬉しくて仕方ないんだよ」


「うっさいよぅ! ぼっちとか言うなー!」


 へなへなと崩れ落ちて、シルクにされるがままになっているアヤメさん……を横目にチラチラ見つつお姉ちゃんが唐突にバラし始めた。

 くそぅ、余計なお世話だい。



「そんなに怖がられているのですか?」


 崩れ落ちてプルプルしつつ可愛がられるアヤメさんを、つんつんと指で突きながらお姉ちゃんに聞くレティさん。貴女は鬼か。


「うん、私はずっと見てて慣れてるから平気だけどね。とりあえず子供には何度も泣かれてるよね」


「うぅ、あれはきっと迷子で心細かったからだし……」


「あと近所のペットショップやホームセンターの展示コーナーには、遠回しに『もう近寄らないでくれ』って言われてるよ」


「何であんなに怯えるのさ……」


「命の危険を感じるんじゃない? こう、本能とかで」


「危険なんて無いよぅ」


 ガラス越しにかわいいなーって見てただけじゃないか。

 間にガラスが無くても危害なんて加えないしさ。




「んー、そんなに怖いかなー? ちょっと目が鋭いけど十分かわいーよー?」


「ちょっ、近い近い。近過ぎるよ熊さん」


 小さな私の顔を良く見ようと、片目だけ開いて私の目の前に顔を持ってくる熊さん。

 手を伸ばせば目玉に触れそうなくらい近いんだけど、そんなに近いと逆に見辛くないのかな?



「その体、多分作った時に限界まで眼つきを優しくしてるよ。現実の雪ちゃんの、視線だけで相手を殺すオーラが無いもん」


「そんなオーラを出した覚えは無いよ!」


「意識しなくてもにじみ出て……いや、あふれ出してるかなー」


 わざわざ言い直すなよ。なんだ量か、量の問題なのか?



「あと凄いおっきいしねー。ほら、隣のカトリーヌさんと比べると判るでしょ?」


「あー、確かに。頭一つ分くらいは大きいねぇ。えーっと……二メートル三十センチくらい?」


「いやいやいや、カトリーヌさんが鬼だった時を基準に考えないで!?」


「うーん、流石にそんなには無いかなぁ」


 お姉ちゃんも苦笑しつつ否定する。

 うん、その高さって普通の家だと天井に頭つきそうになっちゃうからね……?



「あとおむねも盛ってぇっ!? うぅ、地味に膝に来るよこれ…… 雪ちゃん酷いよぅ」


「いえ、今のはミヤコさんが悪いと思いますよ……」


 おもむろにバラそうとするお姉ちゃんを、【追放】で十センチほど上に飛ばして落とす。

 ちっ、転ばなかったか……




「ん? あれ、熊さん? あー、私名乗ってなかったんだっけー?」


「あ、はい」


 味は知ってるけど名前は知らないよ。


「私はエリシャ上村(かみむら)。エリちゃんでいいよー。さん付けだとそっちの人と発音がちょっとかぶっちゃうし」


「か、上村?」


 確かに口に出すとちょっと近いけど、それよりも苗字の方が気になる。

 他にエリシャが居たんだろうか?

 まぁめーちゃんも付けてたけどさ。

 


「あー、別に意味は無いよ。リアルの苗字でも無いし」


「そ、そうですか。えーと、ちょいちょい聞こえて知ってるとは思いますけど、私の名前は白雪です。改めてよろしくお願いします」


「お堅いなー。もっと気楽に行こうよー、歳も近そうだしさー。あっと……」


 逆に熊さん……じゃないエリちゃんは軽すぎる気もするんだけど。

 まぁそういうなら普通に喋るけどさ。

 しかしなんか途中で切ったけど、どうしたんだろう?



「んー、しろ…… ゆき…… 雪ちゃんはもう呼ばれてるし……」


 なんかブツブツ言い始めた。なんだ、呼び方でも考えてるのか?

 別にかぶっても問題無いだろうに。


「うーん、呼び捨てもさん付けも様付けも既に使われてるんだよねー…… うん、よし」


 ん、決まったのか?


「よろしくねー、ユッキー」


「え、あ、よ、よろしく……」


 なんでだ。いやエリちゃんらしいっちゃらしいけどさ。そんなに知らないけど。

 まぁちゃんと判るし、別にいいか……

 差し出された指を両手で持って握手する。




「なぁ、ちょっといいか?」


 会話が途切れた(と察せる)所で魔人さんが声をかけて来た。

 あ、しまった。また話し込んで待たせちゃったよ。


「あ、ごめんなさい。ほら雪ちゃん、カトリーヌさん」


 お姉ちゃんも気付いて、早く溶かす様に言ってくる。


「あぁいや、急かしに来たんじゃないんだ」


「えっ?」


 じゃあどうしたんだ?



「いや、その子大丈夫か? ちょっと前から声も出さなくなってるんだが」


 あ。アヤメさんの事、すっかり忘れてた……




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