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148:お腹を空かせよう。

 さて、それじゃ調理するかー。

 まぁするのは私じゃなくてカトリーヌさんだけどね。


「よーし、それじゃカトリーヌさん……ってちょっと待った」


「はい? どうかなさいましたか?」


「いや、そう言えば私達二人ともさっき死んだばっかりだから、あんまりMP減ってないなと思って」


 一応空腹や【浮遊】の分は減ってるけどさ。

 あと私は熊さんを降ろした分もか。



「確かにその通りですわね」


「食べると結構回復するから、溢れても勿体ないしご飯の前にちょっとお腹空かせようか」


「そうですね。ええと……こういう時は【空間魔法】ですわね。たしか白雪さんも私を食べている時に使っておりましたし」


 食べられながらもきっちり把握してたのか……

 相変わらず変な所は凄い人だな。



「あー、うん。普段の訓練では使わないから、あんまり経験値入ってないしね」


「確かに。まぁ物が物ですから、そう簡単に捏ねたりは出来ませんものね」


 うん、空間を捏ね回すとかどうやればいいんだ。

 もしかしたら頑張れば出来たりするんだろうか?

 凄い難しそうだけど。


「それでは、何を飛ばしましょうか」


「んー、とりあえず【追放】じゃなくて【跳躍】でいいんじゃないかな。急に景色が変わるから、それにも慣れておいた方が良い気がするし」


「あぁ、確かに。ではそうしましょう」




「あれ、どうしたんだ?」


 私達が離れたのを見て、魔人さんが疑問の声を上げる。


「美味しく食べる為に、まずは【空間魔法】使ってお腹空かせるってさー」


「あぁ、MPが満腹度も兼ねてるんだったな」


「私もその間に準備運動しよーっと」


「いや、食われる側が何の準備だよ」


「あれ、聞いてなかった? 溶かされた後、スライムみたいに動けるらしいからさー。頑張ってみよかなってね」


 まぁ近くに居るとは言っても少しだけ離れてるし、私たちの声は聞こえないから聞こえるのは半端な内容だろうしなぁ。

 あちらの話を聞きながら、【跳躍】でほぼ同じ座標に飛ぶと言う実に無駄な行為に勤しむ。



「アレが動くのかよ…… 相当ヤバい見た目なんじゃないか?」


「うん、赤黒い塊がうぞうぞ蠢きながらにじり寄って来て…… 触ったらぬるぬるねちょねちょしてるしさ…… 苦手な人が見たら吐くんじゃないかな」


 その姿を直接見たお姉ちゃんが答える。うん、唯一の体験者の言葉は重みがあるね。

 いやどちらかというと被害者か。


「あー、グロいのが苦手な奴は引き上げた方が良さそうだな。お前ら、吐く位なら先に帰っとけよー」


 魔人さんが後ろの人達に向かって声をかけると、ぱらぱらと数人が歩き始めた。

 苦笑しながらこちらに手を振って、訓練場から出ていく。


 というか、あれだけしか出て行かないのか。

 皆物好きだなぁ。




「よし、こんなものかな。カトリーヌさんはどう?」


「うぅ、少々やりすぎた様ですわ…… お腹が空いて辛いです」


「ちゃんと加減しなきゃ。んー、仕方ないなぁ。ほら、ちょっと上げるから吸っちゃって」


 自分で言う通りに辛そうな表情をしているので、近づいて行って正面に浮いて手を差し出す。

 余裕は持たせてるから、少しくらいなら分けてあげられるしね。



「ありがとうございます。では失礼して……」


 あれ? なんで高度を下げぇぇぇっ!?


 目線が私の膝の辺りになるまで降りていったと思ったら、スッと私の右足に手を出してくるカトリーヌさん。

 左の手の平をくるぶしに当て、指をアキレス腱に添える。

 右手の指の付け根を土踏まずに添え、親指は足の甲にそっと乗せた。


 似たようなことを一度されているにも関わらず、あっけに取られて動けない。

 それを良い事に、流れる様な動きで私の足を持ち上げつつ手前に引き、斜め下に向けてつま先を突き出す様な形に動かすカトリーヌさん。


 ……あれ、これマズくない?



「ちょっ、待ってやめぇぁぁぁ……」


 我に返って制止するのとほぼ同時に、親指の先を啄まれる。間に合わなかった……

 こら、そんな何度も色んな方向からつっつく必要は無いはずだろう。


「く、くすぐったいからやめなひゃぁあい!?」


 言ってる途中に親指の腹をペロッと舐められた。

 くそぅ、変な悲鳴を聞いたアヤメさんが噴き出してる。

 こんにゃろめ、口の中にカトリーヌさん放り込むぞ。



 しまった、この状況じゃ殺して解決って訳にも行かないぞ。

 他の人達を待たせておいて、やっぱ止めでっていうのはなぁ。

 いや、別にそこまで見たいって人はそんなに居ないと思うけどさ。


 ってレティさんは何「ほわぁー……」みたいな感じの嬉しそうな顔で見てるんだよ。

 見てないで助け……いや無理に引き離そうとしても、カトリーヌさんが千切れて死ぬだけか。

 下手をすると私まで一緒に死ぬ羽目になりそうだし。




「ふぅ、ありがとうございました。おかげさまで空腹はしのげましたわ」


 宙に跪いて揃えた両手に私の足を乗せ、足指の上に額を付けて礼を言うカトリーヌさん。

 なんなのさ、その儀式みたいなポーズは……


 クイッとつま先を上げ、額を押し上げて前を向かせる。

 押し上げた額から顔をなぞるように指を降ろして行き、指先を顎にひっかけて持ち上げ、顔を(こちら)に向ける。


「あのねぇ…… 私が吸えって言って出したのは手だよね……?」


 持ち上げるのに使った右足を顎から外し、疲れ切った声で確認する。

 こら、ぞくぞくしてないで私の質問に答えなさい。

 私は威圧してるんじゃなくてげんなりしてるだけだ。



「雪ちゃんがなんか慣れてきてる……」


「まぁ追い払わずに一緒に行動してりゃ、嫌でも慣れるだろ。昼にもまとわりつかれて、大暴れした挙句に殺してるみたいだし」


「今回は暴れませんでしたね」


「皆を待たせてる状況で、死に戻らせて更に待たせる訳にもいかないじゃん……」


「雪ちゃんは良い子だねぇ」


「いや、人間を捕食する生き物を良い子って言って良いんだろうか?」


 そこはほら、【妖精】と人類は種類の違う生き物だから。

 悪いのは開発元って事で。




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