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147:思い出そう。

「つーか、なんで襲い掛かったんだ?」


「せっかくですのでミヤコさんにもご馳走しようかと思いまして」


「いやいやいや、何考えてんだ。ありがた迷惑っていうか普通に迷惑だろそれ」


「足にまとわりついて転ばせてから、上半身に向かって包み込んで行ってたよね」


「怖くて足をジタバタしたら、かき混ぜられて喜ぶし……」


「あれはとても良かったですわ」



「えー、なになに? 溶けてからかき混ぜてもらうと気持ち良いの?」


「あぁ、私にとっては心地よい感覚でしたが、普通の方には少々妙な感覚かと。気持ち悪いとまでは行かないと思いますが」


「てか動けるんだねー。どうやったの?」


「うーん、言葉では説明し辛いですわね…… なんと言いますかその、こう、この辺りにグッと力を入れて……」


「うん、解んないね。実際にやってみるしか無いかー」


 サクッと理解を諦める熊さん。

 まぁ体の何処に力を入れればどう動くって感じでもなさそうだしなぁ。

 自分でやって感覚を掴むしか無いんだろう。

 ……いや、別に動かなくていいと思うけど。



「で、食ったの?」


 凄く端的な質問がアヤメさんから飛ぶ。


「食べてないよぅ。雪ちゃんに助け出してもらったよ」


「え、どうやって? ってそうか、転送出来るんだ」


「うん。直接食べちゃおうにも、暴れてたから表面が波打って近寄れなかったしね」


「迂闊に近寄れば、荒ぶる肉の海に飲み込まれてしまいますね」


 いやレティさん、何その表現。

 確かにぶつかったら死ぬし、あれだけ溶けてたら沈んで混ざりそうだけどさ。

 投げつけられたブーツも器用に飲み込んでたし。



「ただ、靴の中に入ってたのが一緒に転送されてさ…… うぅ、もぞもぞ気持ち悪かった……」


「切り離しても動かせるのか……」


「なんていうか、完璧にあの体を使いこなしてたよね。感覚も有ったんでしょ?」


「えぇ。私から別れた物も『私』でしたわ」


 解りにくいけど、何が言いたいかは何となく判る。



「なんで判るんだ?」


「いや、お姉ちゃんが靴脱いでカトリーヌさんに投げつけた後、足をブンブン振ってまとわりついたカトリーヌさんを振り落としてたんだけどさ」


「まとわりついたカトリーヌって……」


「いや、実際そうなんだから仕方ないじゃない。で、振り落とされて地面に叩きつけられる度に、本体から声が漏れてたからさ」


「あー、どうせそれも気持ちよさそうだったんだろうな」


「まぁカトリーヌさんだし」


 うん、言うまでも無いくらいだよね。



「なんと言いますか、お疲れ様です」


「本当に疲れたよ…… ぶつけた靴は綺麗になって返ってきたけどさ……」


「ん、何で綺麗に?」


「カトリーヌさんが一旦体内に飲み込んで、汚れを全部取り込んでから靴だけ吐き出したんだよ」


「器用過ぎるだろ……」


「靴の汚れを取るのはお手の物ですわ!」


「……それは、普段は代わりに唾液が付く手段では?」


「やめろレティ、追及するんじゃない」


 つい確認してしまうレティさん。

 うん、どうせ知っても得しない世界のお話だから……




「それにしても、そんだけ楽しんでたのに素直に妖精になったんだな」


「あー、そういえばそうだね。やっぱりやめて溶かされるのを楽しみそうなくらいだったのに」


「それも魅力的ではあったのですが、やはり無理にお話を聞いておいて他に逃げるというのも」


 あぁ、まぁ【妖精】になるから話を聞かせろって押しかけたんだしね。


「というのは建前で」


 おい。



「あれもとても気持ち良くは有りましたが、やはり私としましてはその……物足りないと申しますか」


 あぁ、普通に気持ち良いのじゃ駄目なのね……


「体内をグチョグチョとかき乱されたり、ミヤコさんの靴の中に入って歩く度に空気とかき混ぜられたりというのも快感ではあったのですが」


 お姉ちゃんが足元を気にしてる。

 大丈夫だ。もう【妖精】になってるからそこには居ないぞ。



「しかし、あの体には痛みという物が有りませんので…… 被虐にも精神的苦痛を楽しむ物と肉体的苦痛を楽しむ物とが有りまして、私は双方嗜みますがやはり肉体的な痛みが無いと満」


「いや良い判った。もう良いから落ち着け」


 だんだん早口になるカトリーヌさんをアヤメさんが止める。

 うん、私も別にそういう趣味の詳細は知りたくない。

 いや、今のは詳細って程でもないさわりの部分か……いやどうでもいいわ。忘れよう。


 ん、でもかき混ぜられたりするのってどちらかというと肉体の方なんじゃ?

 痛くなくてなんか気持ち悪いだけだから駄目なのかな?

 ……だからどうでもいいんだって。引きずり込まれない様に気を付けよう。




「さて、そろそろ始めようか。あっちの人達も待たせちゃってるし」


「つーか別に見てなくても良いんじゃないかね」


「怖い物見たさという奴では?」


「あー、そうかもねぇ。……ちょっと離れとこ」


 いや、別に熊さんは動けても襲い掛からないだろうけどね。



「私はいつでもオッケーだよー。ほら、服もこの通り」


 あぁ、そう言えばこれ初期装備だな。

 いや良く知らないけど、昨日戻って来てた時はこれ着てたし多分そうなんだろう。


「それじゃ昨日と同じ様に、後ろを向いて座って首を出してください」


「ほーい。よし、がんばるぞー」


 頑張るって何を……あぁ、動く事をか。



 熊さん側の準備が出来たのを見て、カトリーヌさんに指示を出す。


「それじゃカトリーヌさん、近づいてうなじに手をついて」


「はい。この体勢や位置には意味が?」


「位置は崩れる体に巻き込まれない様にだけど、体勢は何となく安定しそうってだけかな。寝転ぶのに抵抗が無ければカトリーヌさんみたいに転がってもらっても良いしね」


「んー、転がろっか?」


「いえ、どちらでも良いってだけなのでそのままで大丈夫です。もうカトリーヌさんも位置に付いてますしね」


「はーい」



「えっと、訓練で土に魔力を流した時と同じ感じで流せばいいんだけど、流す量に気を付けてね。少しずつゆーっくり流さないと、人間は大きさの割に容量が少なくて、すぐに弾けちゃうからね」


「いやいや白雪、他の種族が少ないんじゃなくて【妖精】がおかしいだけだからな?」


「うん、まぁそうだけどね」


「せっかく協力して頂けるのですから、無駄にしない様に気を付けますわ」


「私としてはそっちもどんな感じなのか気になるけどねー。まぁ周りも危ないみたいだから駄目だよねー」


 うん、私は見てないけど近くに居た兎さんは怪我したらしいしね。

 あと流す側も一緒に死んじゃうし。

 予兆を見て即座に【跳躍】すれば助かるかも知れないけど、わざわざ試す必要は無いだろう。




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