145:交換しよう。
あ、やばっ。
じっと見てたら目が合ってしまった。
とりあえず笑顔で手を振ってごまかしておこう。
いや、向こうからしてみたら何故か見られてたってだけで、まさか食べられそうになってたなんて思わないだろうから、別に焦る必要は無いんだけど。
あー、でも掲示板の妖精スレを見てる人って事は、私が人間を食べるのは知ってるのか。
まぁ警戒されている様子は無いから大丈夫だろう。
……いやいや、何が大丈夫なんだよ。
それじゃ後で襲うつもりみたいじゃないか。
【妖精】的な考えを頭から追い出して、待機してる次の人の方を見る。
「もう撃ってもいいかなー?」
問いかけに頷きながら、両腕で大きな丸を作って答える。
離れてるから大きめに動かないと見えないしね。
「あっ。この方、先程の方に近い味ですわ。白雪さん、少しいかがです?」
気を取り直して魔法を受け続けていると、突然カトリーヌさんが炎を抱えて近づいてきた。
あー、ちょっとうらやましそうな顔になっちゃってたかな?
「おー、いいの? それじゃいただきまーす」
燃え続ける炎を少しちぎって差し出して来たので、手の上に直接顔を近づけて吸い込む。
飛んできた氷の矢を抱えてて両手塞がってるし。
おー、確かにスモモっぽい。甘酸っぱー。
「美味しー。うん、ありがとね。それじゃこれ、お返しに上げるよ。端っこ持ってー」
カトリーヌさんが抱えた炎を吸ったのを見てから、矢じりを持ってもらって切り離す。
この人は確か、イチゴに近い味だったはず……
手元に残った氷柱を吸ってみる。うん、合ってた。
「ありがとうございます。おぉ、この方も美味ですわね」
口に合ったみたいで良かった。
再度離れて次の魔法を待つ。……あれ、来ないぞ?
「私達の魔法、おやつみたいなノリでシェアされちゃったよ……」
「んー…… まぁ実際効いてねぇんだからあの扱いでも仕方ねーわな……」
あ、しまった。
確かに効かないとは言え、相手がしてきてるのはあくまでも攻撃だったな。
流石にちょっと失礼だったか。
「あー。カトリーヌさん、ちょっと謝りに行こうか……」
「そ、そうですわね…… 少々配慮に欠けておりました」
お互いにそれぞれの相手に近寄って行き、頭を下げて【妖精吐息】を吹きかける。
「あぁいや、怒ってないから大丈夫だよ。ちょっとヘコんだだけ」
ごめんよぅ。
もう一度頭を下げて謝ってから、元の位置に戻ろう。
その後は特にトラブルも無く、全員の魔法を受け終える事が出来た。
「これで全員撃ち終わったかな? それじゃ皆さん、今日もありがとうございました」
お姉ちゃんの挨拶に合わせて、二人で一緒にお辞儀する。
あ、そうだ。
「お姉ちゃん、ちょっと皆に聞いてみて欲しいんだけど」
「ん? 聞くのは当然構わないけど、一体何を?」
「溶けても良いって人、居ませんかって」
「えっ。何雪ちゃん、人間の味が癖になっちゃったの?」
「あー。そういやさっき、なんか食べたそうに見つめてたな……」
あ、バレてた。
ていうかバラすなよう。スモモさんが「マジかよ……」みたいな顔になってるじゃないか。
「いや、確かに美味しいけどそうじゃなくて」
「そこは認めるんだな」
だって実際美味しいんだもん。仕方ないじゃん。
「カトリーヌさんに【血肉魔法】を覚えさせようかなって思ってさ」
「【血肉魔法】ですか?」
「なんか本人は初耳って顔してるけど」
「うん、まぁ今思い出したからね」
例によって相談もせずに提案しちゃったけどね。
「それにはどの様な魔法が有りますの?」
「最初の一つしか知らないんだけど、相手の血を吸って回復する魔法かな」
スキルパネルを開き、カトリーヌさんに手渡す。
「なるほど、【吸精】の様なものですのね」
「うん。違うのは実際にお腹に血が溜まるって事かな……」
「何か問題がございますの?」
少し嫌そうに言ったのが気になったらしく、問いかけて来るカトリーヌさん。
「簡単に言うと、【妖精】が普通に使ったら死ぬかな」
「えっ?」
「この中に、人間のお腹を満たす量の血が湧き出て来る訳で」
「あぁ、そういう……」
「まぁ破裂しちゃうよね」
「そう言われると少し興味が沸いてきましたわ」
「うん、そう言うと思ってたよ」
だから無断で提案したんだし。
「自傷での痛みはあまり好みではありませんが、内側から破れるという珍しい感覚は味わってみたいので」
「いやそんな興味の詳細は知りたくは…… あぁそうだ、珍しいと言えば破裂する前には現実だと有り得ないお腹の膨らみ方するよ。そりゃもうゴム風船みたいにぷくーって」
「おぉ、それは是非試してみたいですわ!」
俄然乗り気になったな。
カトリーヌさんのテンションが高くなると、大抵ロクなことにならない気もするけど。
「現実で破裂する事が有るみたいに言うのな」
「いやまぁそりゃ普通は無いけど、不可能では…… ていうかそこ食いつく所?」
「いやなんかこう、ツッコめそうな所が有ったら言ってみたくならない?」
「解らなくも無いけどさ」
「おーい、どうするんだ? 解散していいのかー?」
いけない、話が長くなってしまった。
「という訳でお姉ちゃん、聞いてみてもらって良いかな?」
「うぅ、良いけど……」
なんか嫌そうだな。まぁ普通は見たい物じゃないし当然か。
「うん、大丈夫だよね…… 今度は襲われる理由も無いし」
あぁ、そうじゃなくて昼にカトリーヌさんに襲われたからか……




