134:お礼を分けよう。
お、めーちゃんはちゃんと立てたみたいだな。
周りに高い物が何もないからめーちゃんだけが突き出ていて、遠くからでも良く見えそうだな。
逆に言えばめーちゃんも遠くまでよく見える訳で、【視覚強化】も持ってるだろうし暇はしないだろう。
「皆、ありがとー。お礼にこれ上げるから、皆で分けてねー」
「別に俺らは暇だったから手伝ったんだし、お礼なんて無くても気にしないけどな。っていうかこれってのはどれの事だ?」
一番年上のお兄さんが疑問を口にする。まぁ普通そうなるよね。
穴が開いてる所ってみぞおちの辺りだからかなり上の方だし。
人間で言うと四メートル位はあるのかな?
「あー、ごめんねー。えーと、お腹に穴があるでしょー? その中ー」
「あぁ、確かに小さい穴が開いてんな。しかしあの高さじゃ手も届かんぞ」
「よーし、私登っちゃうぞー」
待て待て熊さん。手がかりも道具も無しで木登りは結構難しいだろう。
人の脚にべったり抱き着いてよじ登っていくつもりか。
「アヤメさん、私が取って来るよ」
「はいよ。ちょっと待った、妖精さんが取ってきてくれるってさ」
「えー、ちょっと登ってみたかったなー」
「んー? 別に登って遊んでもいーよー。どーぞどーぞ」
「ほんとー? わーい!」
子供みたいな喜び方だなおい。
でも難易度凄く高いと思うよ。手がかりないしすべすべだし、上に行くほど太くなるし。
防具を外して身軽になり、靴を脱いで裸足になってめーちゃんの脚に抱き着いた。
靴を脱いだのは、一応人の脚って事で気を遣ったのかな?
「マジでー? わーィオフッ」
便乗して抱き着こうとしたチャラいお兄さんは隣の人のボディーブローによって阻止された。
うん、まぁアレは仕方ないな……
「通報してやろうか」
「うおおぅ…… 冗談じゃねーかよ……」
「誰も止めなきゃこれ幸いと実行するのは、冗談とは言わねぇんだ」
「いや、流石にやんねぇよ!?」
「まぁそんな事はどうでもいいとして。何くれるんだろうな?」
わいわい言ってるのを後目にめーちゃんが開けた穴に向かって飛んで行く。
えーっと、中身はー…… あ、やっぱり銀貨か。
特に何も活動してないから、初期アイテムしか持ってないだろうしね。
「アヤメさーん、近くに来て手ぇ出してー」
「え、何、投げるの? っておおっ!?」
アヤメさんが出した手の上に【追放】で銀貨を飛ばした。
ちょっと射程距離が足りなかったので上から落とす形になっちゃった。
っていうかちょっと外したけど、上手くキャッチしてくれて助かったよ。
いや落としても拾えばいいだけなんだけどね。
「そうか、転送できるんだったね。おーい、誰かこれ両替できる?」
「おう、行けるぞ。済まん、ちょっと机借りるな」
アヤメさんの問いかけに最年長のお兄さんが応じる。
お姉ちゃん達に断りを入れて、小さな袋をひっくり返して机の上に銅貨をジャラッと出した。
十枚重ねた物を十個並べて、数を確認してアヤメさんから銀貨を受け取る。
両替用に百枚詰めた袋を用意してるのかー。
「それじゃ頂くぞ」
そういって一塊を袋に戻すお兄さん。
あれ、八人だしそれじゃ少ないんじゃないか?
あ、レティさんも居れたら九人か。担いではいないけど強化したし。
袋を仕舞われる前に近づいていき、積んである銅貨を一枚持ち上げて袋の口へ飛んで行って落とし入れる。
「ん? どうしたんだ?」
「いやレティさん入れて九人だし、十枚じゃ足りないでしょ?」
あ、お兄さんには聞こえないか。
「白雪も人数に入れてるんじゃないか?」
察してアヤメさんが返事をしてくれた。
「私は手伝ってもらった側だし、数に入れる必要はないでしょ?」
「自分は頭数に入らないって言ってるけど」
「あぁいや、九人だと割り切れないから面倒だった」
そういうのはせめて他の人に聞いてからにしようよ。
揉め事の元になっちゃうからさ。
「それにしたって私は余りの一枚でいいよ。皆十一枚ずつってことで」
「自分は一枚で十分だってさ。あぁほら白雪、やってやるから離れとけ」
山を一つ崩して他の山に一枚ずつ乗せようとしたら、アヤメさんに止められた。
まぁ私がやると無駄に時間かかるし、その方がいいか。
「そうか? まぁくれるなら有難く貰っとこうか」
「私も手を出していないので結構なのですが……」
レティさんが遠慮し始めた。
私と違ってちゃんと補助かけてたじゃないか。
「そういう事言い出したらキリが無いから大人しく貰っときなよ。っていうか実際あれで結構楽になってるはずだしね」
「だな。貰っても誰も文句は言わんよ」
他の人も「そーそー」とか言いながら取り分を回収していく。
レティさんも諦めて一山を鞄に放り込んだ。
あれ、一つ残ってるけど…… あぁ、熊さんの分か。
「おーい、机に置いてあるぞー」
「あーい。後で取っとくよー」
返事をしながらずるずるとずり落ちていく熊さん。
「お前全然登れてねぇじゃねーか」
「うるさいなー、難しいんだよー」
いや、見た目で既に判ってた事だよね。
へばりついてはずり落ちるのを繰り返して、一向に登っていく気配がないぞ。
もう諦めた方がいいんじゃないか?
「むぅ、てっぺんからの景色を観たかったんだけどなー」
おいおい、頭にまで乗るつもりだったのか。
いや、サイズ的に肩に乗って頭に手を添える位か。
「んー、それじゃーちょっと離れててー?」
「えっ? わわわっ」
おや、めーちゃんが動き出した。
きしむ音に驚いて熊さんが慌てて離れて、靴を履いてこちらへ寄って来る。
あ、ついでとばかりに素早くお金を回収した。
めーちゃんはしゃがみこんで右腕を斜めに伸ばし、指先を地面につけた。
左腕は真横まで上げ、肘を曲げて前腕を立てている。
右は通路だろうけど、左は何だ?
「はい、どーぞー。他の子もどうかなー?」
あぁ、肩だけだと二人が限度だから足場にするのか。
立ててるのはそこに掴まっておけって事だろう。
「わー、それじゃ私も行ってみよっかな」
「じゃー私もー」
女の子二人も乗ってみる様だ。
まぁあんなでっかい人に乗せてもらうなんて、そうそうある機会じゃないしね。
「私も私もー!」
お姉ちゃん……
「あー、靴は履いたままでいいよー。滑ったら危ないからねー」
出来るだけ姿勢を低くしているとはいえ、それなりの角度があるから登りづらそうだ。
あ、お姉ちゃん滑って落ちた。