132:運搬しよう。
「集めてきたよー。こういう時に限って熊や鬼は居ないんだよねぇ」
「お前なぁ。声かけておいて本人が居る所で不満漏らすなや」
熊さんが担ぎ手を引き連れて戻ってきた。
うん、そりゃ腕力のある種族の方が適してはいるけどさ。
鬼が居れば一人でなんとかなるみたいだし。
連れてきたのは男性四人と女性二人か。
レティさん以外と合わせて男女同数だけど何か理由でもあるのかな?
ただの偶然かも知れないけど。
「お、運びやすい様に動いておいてくれたんだ」
「体のばすだけでギシギシ言ってて大変そうだったけどな」
「へー。木の体ってのも大変なんだねー」
「やっぱレア種族って、なるもんじゃなくて見るもんだよなぁ」
「なー。俺絶対無理だわ」
おいそこの呼ばれてきたお兄さん方。
やや遠まわしに人を変人扱いするんじゃない。
いや、割とはっきりまともじゃないって言われてる気もするけど。
「わー、こんな近くで妖精さん見るの初めてだよー」
「ねー。かわいーねー」
一緒に来た女の子二人はこっちを見て盛り上がってるし。
かわいーって言ってくれるのは嬉しいけど、実際はなぁ……
いや、まぁこの中で可愛いならそれでいいか。現実で会う訳じゃないし。
「それではみなさん、STR強化をかけますのでこちらへどうぞ」
一旦レティさんの前に集まって、順番に補助魔法をかけて貰っている。
そういえば私がかけたらどうなるか実験してなかったなぁ。
まぁ事故が怖いしやめておくか。
どんな罠が待ってるか判った物じゃないからな。
「ありがとなレティ。よーし、それじゃかかるとしようかね」
「おらおらー、男どもは前に回れーい」
あぁ、四人ずつにしたのはそういう事ね。
にしても力のバランスは大丈夫なのかな?
まぁゲームの中だし、性別や体格で筋力は判断できないけどさ。
……あぁ、前の方が重いか。腹立たしい事に。
まぁ頭もあるしね。偏りがあるのは確かだろう。
「皆準備出来たかい? それじゃ行くよ。……いっせーの、せっ! と」
掛け声と共にめーちゃんの体が持ちあげられる。
おー、すごいなー。まぁ私から見れば一人一人が重機みたいなものだし、迫力もあるか。
「おーい、どっち行きゃいいんだー?」
前の方から行き先を尋ねられる。
言ってなかったのか、熊さん。
「ちょっと待ってー。ごめん、ちょっと頑張ってて」
質問には答えず、後ろに居た増援の女の子に担当の脚を任せて、手を離す熊さん。
「えっ、ちょっ、何!?」
あーあー、言いながら離すから慌ててるじゃないか。
一体どうしたんだ?
なんかめーちゃんの下に潜り込んで行ったけど……
「おい、どうしたんだい?」
「んー、いやちょっと……」
アヤメさんが尋ねるもはっきりと答えない。
なんだろ、探るように移動してるけど。
「あー、ここだー! ほらほら、なんか良い匂いするーんぎゃっ」
「やーん、はずかしー」
「ったく、皆を待たせて何をするのかと思えば…… ほら戻りな」
あぁ、私の残り香か……
しかし、気になったからって人の尻を嗅ぐなよ。木だけど。
アヤメさんに尻をスパーンって蹴られて、大人しく戻っていった。
「で、どっちだー?」
「北の方、新しい公園判るかい?」
「いや、出来たのは知ってるけど詳しい場所までは知らん」
「あ、俺行った事あるわ。あの中央が妖精さんの巣なんだろ?」
いや、巣ってあんた。
「お前、家って言わないにしてもせめて棲み処とか言えよ…… まぁ場所知ってるなら指示してくれ」
「近くに行ったら言うけど、今はとりあえず言われた通りに北に行きゃ大丈夫だ」
「そうか。それじゃ皆、動くぞー」
「あいよー」
先頭のお兄さんの合図でゆっくりと動き始める。
方向転換に巻き込まれない様に、少し上空を飛んで付いていこう。
「あー、確かになんかいい匂いがするな」
「ねー。これ、木の香り? じゃないよね。だったらここからもするだろうし」
アヤメさんの後ろの子が、顔の横にある脚をすんすん嗅ぐ。
「なーんか前に嗅いだ覚えもあるんだよね」
「あぁ、これは白雪さんの香りですよ」
レティさんが横から近づいて嗅いでみて、疑問に答える。
私の香りって言っていいのか微妙だけどさ。
少なくとも今はその匂いしないんだし。
私の血の香りって方が近いんじゃなかろうか。判らないけど。
わざわざ確認のために流血したくないしね。
「ほら、アヤメさんがふへへって言ってた時の」
「忘れろ」
むぅ、怒られた。
怒られるのは判ってて言ったけどさ。
「しかし、何でそこからお前の匂いが……」
「いや、死に戻った場所でメッセージ打ってたら私の上にめーちゃんが出てきて……」
「あぁ、なるほどね…… 普通は場所は重ならない筈だけど、二人とも普通じゃないしな」
確かに出現したのが普通のサイズの人だったら、真上には何も無かったかも。
まぁ落ちた時に倒れ込めば背中で潰れるだろうけどさ。
案内に従い家に向かって進んでいく。
なんか数回無駄に曲がった気がするけど気にしないでおこう。
公園に入って進んで行くと、門の前にモニカさんが待ち構えていた。
「お帰りなさいませ、白雪様。そちらは戦利品でしょうか?」
なんでだよ。
私が何と戦うって言うんだ。
「いや、そういうのでは無いですけど…… とりあえず入れてもらって良いですか?」
「はい。皆様、どうぞこちらへ」
門を開けて脇に控えるモニカさん。
別に最後尾にレティさん居るから、先導してくれても構わないんだけどな。
仕方ないので私が前を進む。まぁ家まで一本道なんだけどさ。
「おかえりー。ってどうしたの、その大荷物は」
「人を荷物って言っちゃ駄目だよお姉ちゃん」
迎えるなり物扱いのコメントをするお姉ちゃんを嗜める。
まぁ単に木像にしか見えないからだろうけど。
「え、それ人なの?」
「はーい、人でーす。お邪魔しますー」
「わ、ほんとだ。いらっしゃーい。って私もお客だった」
あぁ、そういえばそうか。まぁ些細な事だろう。
「で、なんでわざわざ人に手伝ってもらってまでして連れてきたの?」
「いや、私のせいで生えてた所に居づらくなっちゃったから、責任取って家の庭に植えてあげようかと」
「何やったの、雪ちゃん……」
「おーい、話すのは良いけど先にどこに置くのか決めてくれー」
あ、しまった。担がせたままだった。
「めーちゃん、どこが良いとかあるかな?」
「んー、どこでもいーよー。ぜーたく言わないー」
「それじゃその入り口の横に、内側を向いて立てる感じでいいかな?」
「んー。じゃ、それでお願いしますー」
「はーい。というわけでアヤメさん、よろしく」
「はいはい。皆、一旦ここに置いてひっくり返すよ」
口々に返事をしてゆっくり降ろしていく。
あぁ、内側を向いて立てるなら一度うつ伏せにしないといけないのか。
四人で片側を持ってゴロッと転がした。
おぉ、凄い…… 顔が地面から浮いてるよ……
私だったら顔が芝に埋まってる所だったな。はっはっは。