129:上に出た。
「ったぁー……」
うー、やっぱ一瞬とはいえ痛いなぁ。
どうせなら顔をやってくれればよかったんだよ。
それなら痛みも感じずに済んだんだから。
いや、別にわざとやった訳じゃないんだからどこに当てろとか言っても意味ないんだけどさ。
振り向いた瞬間におへそに根っこを突きこまれたな。
あの太さで貫かれたなら下半身とはさよならしたんだろう。私の胴体より太かったし。
衝撃と痛みを感じた直後、お腹の方に吸い込まれるような感覚が一瞬だけあった。
どうやらそこで意識が途切れたらしいな。
ちゃんと止めを刺してくれたのは実際有難い。痛いのが続くのは嫌だしね。
さて、よくある事だから気にするなってめーちゃんに送っておくか。
どうせ帰るところだったし、ペナルティも無いから大した問題も無い。
うん、ちょっと痛かったけど。
……いや、痛み自体はちょっとじゃなかったけど。めっちゃ痛かった。
そりゃお腹をぶち抜かれて真っ二つにされれば痛いのは当然か。
まぁ痛みを感じた時間が凄く短かったから大丈夫だし。
んーと、パネルを開いてー、フレンド登録してないから宛先は手入力しないとだな。
めーちゃん……じゃない、エイス・メイだったか。確認してないけど多分カタカナでいいんだよね。
で、本文っと…… よし、でき
……いや、今何が起きた?
なんで私はまた違う場所で尻餅をつかされてるんだよ。
なんか一瞬暗くなったのは解ったけど……
「うぅー……」
あぁ、うん、解った。
振り向くとそこには膝を曲げた両脚を前に出して、お尻から少し斜め後ろに両手をついためーちゃんが居た。
私がさっき居た場所、今はめーちゃんのお尻の下だわ。
むぅ、もう少しズレててくれれば助かったのに……
人が居る場所に出現させるなよう。
というか殆ど動けない【樹人】をそんな姿勢で出現させるなよ。
姿勢を変えるだけで一苦労じゃないか。
いや、直立で出るくらいならマシなのかな?
まっすぐ立って出たりしたら根っこも張れないから倒れちゃうだろうし。
「みんなひどいよう……」
ってそんな事より何でめーちゃんがここに?
私を吸ったせいで食あたりでも起こしたか。
いや、皆って言ってるし何かあの後で起きたんだろう。
「めーちゃん、大丈夫?」
「あ、白雪ちゃん…… んー、大丈夫……」
返事を聞きつつめーちゃんの周りをぐるっと一周して、着地の衝撃でどこか折れていないかチェックする。
うん、大丈夫っぽいな。
「一体何があったの?」
「んー…… いきなり周りの人達に袋叩きにあったよー…… あー、さっきは本当にごめんねー」
めーちゃんの立てた膝に止まり、原因を聞いてみる。
袋叩きって…… それ、私を殺したからなんじゃないか?
「私も大丈夫だけど…… うん、なんかごめんよ」
「んー? なんで謝るのー?」
あ、なんか調子が戻ってきたな。
「いや、もしかしたら周りの人に襲われたのって私のせいかもしれないから」
「んー? あー、町の人って【妖精】が大好きなんだっけー。まーでも、私が殺さなきゃ何も起きなかったんだしねー」
まぁそうかもしれないけどさ。
「しっかし、何も殺さなくても良いだろうになぁ」
「んー、色々合わさった結果って感じだねー」
「色々?」
「んー。まず農家の人達に嫌がられてたことでしょー。エドおじさんとは結構仲良しだったけどー」
うん、悪態はついてたけど楽しそうではあったな。
「でー、白雪ちゃんを殺しちゃったのを見てた人が居てねー。その人から周りに広がって、囲まれちゃってさー」
むぅ、あくまで事故なのになぁ。
「人間はちっちゃくてかわいいけど、流石に刃物を持って囲まれるとちょっと怖いよねー」
私はそれより更に小さい側だから、あんまり実感は湧かないけどね。
「違うのーって言っても聞いてくれないしさー。いやー、本当に斧やノコギリは痛いねー」
早速実践されちゃったか……
「魔法使える人も居て、上半身は燃やされるしー。すごい熱かったよー」
「すごい熱い」どころの話じゃないと思うんだけど……
感じ方も結構差があるのかな。
「でー、衛兵さんが駆けつけて来たんだけどー」
「止めてくれなかったの?」
「いやー、来た理由が私の違反だったからねー」
「え?」
「んー、【樹人】の登録、してなかったんだよー」
あっ……
そういえば確認もせずに使えってそそのかしちゃったよ……
「ごめん、私が使えって言ったから……」
「いやいやー、忘れてた私のミスだよー。気にしないでー」
「そう言ってくれると助かるよ…… あれ、そういえばもう片方は登録してるの?」
普通に変形してたけど、衛兵さん来なかったし。
「んー。最初に試した時に怒られたんだけど、その時に職員さんを呼んでもらって登録したよー」
「え、呼んだら外で登録できるの?」
「んー、多分特例だねー。この体じゃ建物に入れないからねー」
「あぁ、そっかぁ」
いくら役場が大きいとは言っても、この体じゃ無理があるか。
「でー、話は戻るけどー。警報で駆け付けた衛兵さんが事情を聞いて、どうするって聞いてきたんだー」
「え、どうするってどういう事?」
「んー、私もそう聞いてみたよ。返ってきたのは『一息に殺して欲しいかどうか』って答えだったねー」
なんというか、衛兵さんが怒ってるかどうかで言葉の意味が変わってくるな、それ。
いや、どっちにしろ結果は同じだけどさ。
「痛いし熱いし、そのままでもゆっくり死んでいくだけだったからお願いしたよー。いやー、衛兵さんって凄いねー。一太刀で私を縦に真っ二つだったよー」
あぁ、やっぱり鍛えれば一気に切断出来るんだな。
「んー、でもあの姿勢じゃ、材木にはできないんじゃないかなー」
そういえばしゃがんでたな。
材木にするならまっすぐの方が良いだろう。
というか木の形態の方が。
まぁそれ以前の問題があるんだけどさ。
「いや、そもそも燃やしてる時点でダメだと思うけど」
「あー、そっかー。まぁそれはいいやー。というわけで、殺されてここに出てきたわけだよー」
むぅ、結構酷い殺され方したのに明るいな。
私の責任でもあるけど。いや、好感度に関しては私にもどうしようもないけどさ。
「んー、どうしよっかなー」
「ん? 何が?」
「いやー、色々とあるんだけどねー。まず自力でここから動けないっていう大問題がねー?」
あー……
誰かに運んでもらわないとどうしようもないのか……