128:吸われた。
うー、無駄だったと解るとなんか余計に疲れたよ……
「だいじょぶー?」
「大丈夫大丈夫…… 自分のうっかり加減にげんなりしてるだけだから……」
考えればすぐに解る事だからなぁ。
ログアウトで消えずにログインで消えるなんて奇妙すぎるだろう。
「うあー。……うん、切り替えよう。まぁとりあえず問題は無いってことだよね」
「んー。切った時に痛いのと、どれくらい切って大丈夫なのかっていうのはあるけどねー」
そういえば切り倒したら上下どっちが本体になるんだろう?
まぁ流石にそんなのは試せないけど。痛いだろうし。
「んー、まー今は商売する気もあんまりないし、別にいいかー」
「っていうか今回は一瞬で行ったから良いけど、普通だと何回も斧入れたりノコギリでガリガリやらないとだよね」
「うあー、いたそー。流石にそれはやだなー」
「あぁ、でもこの世界なら剣とかでスパッといける人が居るかも知れないね」
「あー、確かにー。どうせ切られるならそっちの方がいいやー」
まぁそういう事が出来そうな前衛は大抵町に居ないだろうけど。
熟練のきこりなら行けるかな?
そもそも職業にきこりってあったっけ。……まぁ測量なんてのまであるんだしきこりくらいあるか。
そんな事を考えていたらメッセージの着信音が頭の中に響く。
ん、アヤメさんからか。
あらら、結構時間経ってたんだな。終わったからうちに来るって書いてある。
……他の二人が終わったかどうかはそっちに聞けばいいんじゃないかな。
とりあえず了解の返事と二人からのメッセージは来てない事を……って立て続けに二件来たよ。
了解と他の二人も終わったみたいに文面を変えて全員に返信しよう。
「さて、それじゃ今日はそろそろ帰るよ」
「んー。また遊びに来てねー。追い出されてなければここにいるからー」
「うん。ってそうだ、これの水分抜かないと」
そのままじゃ重すぎて辛いんだよね。
一応ボックスの容量は足りるけど圧迫しちゃうし。
「へー、そんな事出来るんだー。どうするのー?」
「【錬金術】で抽出が出来るはずってだけで、まだ実際に試したことは無いんだけどね」
「ほほー。見てみたいなー」
「見てもそんなに楽しめる物でも無いと思うけどね。やった事のある変質はこんな感じだったけど」
横に置いてあった付け根から二番目の丸太を立て、魔力を通して柔らかくしてその上に座ってみる。
おー、沈む沈む。ふちが背中の中ほどまで来た辺りで魔力を抜いて硬さを元に戻した。
……なんか低いけど凄いフィットする椅子が出来たぞ。外側の余分な所を削って足をつけたらいい感じになりそう。
まぁその形でへこませたんだから、フィットして当然なんだけどさ。
「おー、私の指が白雪ちゃんのお尻を包み込んでるー」
「なんで皆そういう言い方するのかな……」
事実ではあるんだけど、言葉だけ聞いたらなんか揉まれてるっぽいよ、それ。
浮き上がって抜け出し、再度魔力を流して少し形を整えておいた。
さて、本来やろうとしてた抽出を試すとするか。
やり過ぎてダメにしても悪いし、抜く量は控えめにしておこう。
どういう風に抽出されるのかも知らないし、とりあえず【魔力武具】で天板が格子状になった土台を作ろうか。
離れた場所に出ないんだったら、地面に置いたままだと下がベチャベチャになりそうだし。
「せーのっ、おりゃー!」
気合いを入れて持ち上げ、土台の上に運んで行く。
「ごめんねー、こんなでっかいのに手伝えなくてー」
「いや、仕方ないよ。なんとかなるから大丈夫。……ていうか【追放】で飛ばせば良かったのか」
ゆっくりとしか動けないし、普通に動くのも大変なんだからしょうがないよね。
しかしもう少しうっかりを減らしたい所だけど…… 無理か。
全部乗っけた後に気づくのもお約束だな。
「さて、問題はやったこと無いからいまいちやり方が解んないって事なんだけど」
「大丈夫なのー?」
「ま、なんとかなるんじゃないかな。こう、水を抜き出すイメージで魔力を……」
「わー、ほんとだー。ぽたぽた出てきたー」
「えっ」
言われて下を覗いてみると確かに小さな水溜りが出来ていた。
おぉ、本当になんとかなったよ……
台に上げておいて良かったな。下が泥だらけになるところだったよ。
いや、別に落とせばいいだけなんだけどさ。
っていうかこんな下の方も見えてるんだな。
めーちゃんから見ればこの下なんて、ほんの小さな隙間だろうに。
よく解んないけど出来たのは確かなので、少しだけ注ぐ魔力を増やして作業を進める。
どのくらい抜いていいのか判らないから、たまに持ち上げてみて半分くらいの重さになったなーと思った所でボックスに放り込んでおいた。
……判らないのに半分は思いきり過ぎたかも知れないけど、きっと大丈夫だろう。
「よし、後は自然に抜けるのを待とうかな」
「すごいなー。私も何か頑張ってみようかなー? 時間はあるしー」
「うん、それもいいんじゃないかな? でも動く必要があるものは難しそうだね」
「んー。何か魔法とか覚えてみよっかなー」
「【樹人】の固有スキルとかは?」
「んー、さっきの変形かなー」
あぁ、あれスキルなんだな。
レベルが上がったら人になるのが早くなったりするんだろうか。
動くのも速くなるんだったら頑張って鍛えれば歩けるようになるかも?
問題はそうなる前にここを追い出されるだろうって事だけど。
「あー、一応もう一つあるんだけどねー」
「そっちはどうなの?」
「んー、レベルが上がったら色々出来るのかもしれないけどー、最初にあるのを使う機会がないからさー」
私にとっての【血肉魔法】みたいな物だろうか?
いや、こっちと違って使ったからって死にはしないだろうし、【血肉魔法】が色々出来るのかも知らないけどさ。
「どんなのがあるの?」
「んー、【樹人】っていう種族名そのままのスキルなんだけどねー」
おい開発、手抜きか?
「で、最初に使えるのが【養分吸収】っていうの」
「ん、地面から? でもそれなら普通に使っていけるか」
「んー。それなら良かったんだけどねー」
「って事は?」
「地面から飛び出した根っこを獲物に突き刺してちゅーちゅーしちゃうらしいよー」
「うわぁ……」
そりゃ町中じゃ使う機会ないわな……
「それにしても突き刺すって事は、根っこだけは速く動くのかな?」
「んー、なのかなー? 飛び出すって書いてあるしそうなのかもー。まだ使ったことないんだよねー」
「空撃ちでも経験値は溜まるだろうし、試してみたらどうかな。その分くらいは【施肥】してあげるし」
なんか気になるから見てみたいし。
「んー、それじゃやってみよー。とー」
めーちゃんが気の抜ける掛け声を発すると同時に、珠ちゃんが素早く横に飛び退く。
どうしたのっておい、珠ちゃんが居た所から鋭い根が生えてきてるじゃないか……
「ご、ごめんよう。わざとじゃないんだよー」
驚きにしっぽを膨らませた珠ちゃんが、めーちゃんの足に駆け寄って爪をとぎ始めた。
おぉ、お怒りだ。
特に意識せずに発動したせいで、近くの生き物に勝手に狙いを付けちゃったんだろうか?
「何処に出すか意識してやってみたらいいんじゃないかな?」
とりあえず【施肥】して上げつつ、アドバイスしてみる。
「んー。それじゃもう一回…… とー、やー」
お、出来てるっぽいな。何も居ないところにドスドス突き出てる。
「んー、これ狙った所に上手く出せないよー。練習しないと難しいねー」
地面から根っこを出し入れしつつ嘆くめーちゃん。
「まぁその辺はやってる内に出来るようになるんじゃないかな? 次の能力が出たらそっちを使えば良くなるかもだけど」
「んー。とりあえず近くに人が居ない時とかに練習してみるよー」
「それじゃ私は帰るねー。ばいばア゛ッ!?」
「あぁっ!? ごめんなさぁーい!!」
【施肥】と挨拶をして立ち去ろうと振り向いた所で、お腹に正面から強い衝撃を受けた。
……こらー、ひどいぞー、めーちゃ……