127:確かめよう。
「ふー、やれやれー。なんか痛みが引いてきたよー」
「え、早くない?」
「ねー。小指が一本丸々無くなったのに、もうなんともないよー」
痛みは自分の体が減った事に対する通知みたいなものなのかな?
めーちゃんの左手の切断面を見てみる。
おー、普通に木だな。
まぁこれで人間の指の断面だったりしたら、めーちゃんは完全に斬られ損だけどさ。
ん、なんか表面がつやつやしてる。
これ、樹液が染み出てきて断面を覆ってるのかな?
「なんか切り口が樹液で覆われてるね。鎮痛作用でもあるのかな?」
「かなー?」
もしくは切断面が空気に触れてると痛いとか。
「試しに少しだけ洗い流してみてもいい?」
「んー、ちょっと怖いけど私も気になるなー。やってみてー」
許しを得たので、やや端の方に少し水を放出した。
お、まだ固まってないから簡単に落ちるな。
「おおー…… とりあえず、剥がれると痛いっぽいー。斬られた時ほどじゃないけど結構ちくちくするー」
「ほほー。あ、ごめんね。わざわざ実験しちゃって」
「んー? いーよいーよー。提案したのは白雪ちゃんだけどー、それをやってって言ったの私だしねー」
謝罪の意味も込めて、洗い流した所に【妖精吐息】を吹きかける。
「んんっ…… 白雪ちゃん、きもちーけどちょっと痛いよー」
「あっ、ごめん…… 別の場所にしたほうが良かったね」
「んー。まー、ちょっとだから別にいいんだけどねー」
むぅ、失敗失敗。
小さいとはいえ傷口に風を送られれば、そりゃ痛いよね。
さて、肝心の切り落とした小指がどうなるかだけど……
「あ、そうだ」
消した刃物を再度生成する。
今度は刀の形じゃなくて巨大な肉切り包丁にした。
「んー? どしたのー?」
「いや、せっかくだから何種類かの状態で試してみようと思ってね。何回も試す訳にも行かないし」
「んー、別にいいんだけどねー。痛いけど我慢出来るし、この手で何かする訳じゃないしー」
「まぁ痛いよりは痛くない方がいいじゃない」
「んー、まーねー」
そうじゃない人は居るけどさ。
あれは例外だし……
目の前に横たわる小指を、目測で大体同じくらいの大きさに切り分ける。
うん、一つ五十センチくらいになったな。
「という訳で『そのまま置いておく』『持ち上げてから置き直す』『ボックスに入れてから置き直す』『ボックスに入れておく』『手に持っておく』の五パターンでやってみよう」
むぅ、五分割したとはいえすっごい重い。
シルクが居れば手伝って貰えたんだけど、珠ちゃんのおててじゃちょっと無理だね。
てか、根元から順番に行ったら持っておくのが指先になってしまったぞ。
他はともかく、これだけは指ってはっきり判るからなんだかなぁ。
まぁ仕方ないか。
「置き直すのはなんなのー?」
「なんていうか、こう『他の人が一度取得しましたよ』ってシステムにアピールしてみようかと」
「なるほどー。持っておかないとダメなら倉庫にしまったり出来ないしねー」
まぁ一定時間持ってないとダメとかいう条件があるかもしれないけどさ。
「切ってからの時間とかはいいのかなー?」
「ん? あぁ、離れてからの時間経過で残るようになるなら、別に問題はないかなってね。さっき落としてからの時間程度で残るようになるなら全然大丈夫だし、もっと待たないとっていうなら今は試せないしね」
「あー、そっかー。売るならもっと時間経ってるだろーし、だいじょぶかー」
「うん。全部消えたらまた別の機会にやってみるくらいでいいんじゃない?」
「だねー」
むしろそこまでしなくていいとは思うけどね。
痛いんだし、最初斬られるの怖いって言ってたじゃん。
「さてさてー。それじゃー、ちょっと行ってくるよー」
「いってらっしゃーい。よいっしょっとっ…… 出来ればなるべく早くしてくれると助かるよー」
地面に立てて椅子にしていた指先を持ち上げ、早めの帰還をお願いする。
爪が危ないので、指の腹側を手前にしておいた。
根元に比べると小さいとはいえ、これもかなり重いからあんまり持つ気がしないよ。
というか既につらい。
「うん、急ぐよー。それじゃぽちっと」
言葉と共にめーちゃんの巨体が光って消える。
ん、そういえば動かない体でどうやってメニュー操作してるんだろ。
魔法とかと同じ様に考えるだけで操作出来るようになってるのかな?
まぁ今はそんな事より早く戻って来てくれって思いで一杯なんだけどさ。
腕がぁー…… って、これ珠ちゃんに載せておけば良かったんじゃないのか?
うぅ、でも今更だし頑張ろう……
「おまたせー。だいじょーぶ?」
「お、おかえりー…… うあー、重かったー」
持っていた指を地面に降ろし、ぺたんと座り込んでもたれかかる。
おー、そういえば指紋もちゃんとあるんだなー。
手の平にもしわがあったと思うけど、気にしてなかったな。
まぁ別にいいんだけどさ。
「おー、全部……じゃないねー。一つだけ消えてるかー」
「ん? あ、本当だ。そのまま置いてたのが無くなってるねぇ」
うん、他はちゃんと残ってるな。ボックスの中のやつも消えてないし。
顔を上げて見回してから、指先の上に両手を重ねてあごを乗せてだらける。
「んー。くっついた訳でも無いし、私の体内にも無いねー。ちょっともったいないなー」
体内? ……あぁそうか、鞄代わりか。
「まぁ今回は実験な訳だし、仕方ないねぇ」
「んー。まーとりあえず、一旦誰かの物になれば大丈夫っぽいのかなー?」
「持ち上げて降ろしただけの奴が残ってるもんね。ん、でも私は手の上で死んだけど全部消えてたな……」
「んー、本体から切り離してないからじゃないかなー?」
「あぁ、そういえば飛び散って食べられたのは体内に残ってたっぽいなぁ」
アヤメさん、飲み込んだのを吐き出したら正気に戻ってたし。
脳も食べてたみたいだけど、本体の扱いはどこになるんだろうな。
いや、別にどうでもいいか。どうせどこが吹き飛んでも大抵即死するんだから。
「へー。流石に私は食べられた事ないなー」
「いや、そりゃ木は食べないでしょ……」
「んー、まーねー。ところでさー、ちょっと思ったんだけどねー」
「ん、何?」
「ログアウトした時に消えるなら、別にずっと持ってなくても良かったんじゃないかなー?」
「えっ? ……あっ」
そうか、ログアウトしたのを見届けて降ろして良かったのか……
敷いていた両手を降ろし、指先にほっぺたを乗せてガックリと脱力する。
あぁ、指紋がごりごりする……