126:切り落とそう。
「さて、まぁ要らねぇなら片付けっか」
「いやー、せっかく持ってきてくれたのにごめんねー?」
「大した手間じゃねぇから気にすんな。それに金は貰ってるんだしな」
「あー、あれで足りてるー?」
「たまに水撒く程度なら十分過ぎる位に貰ってるさ。そんじゃ白雪ちゃん、この馬鹿デカいのと仲良くしてやってくれ。またな」
バケツと塩を持って立ち去るエドワードさん。
塩の袋を肩に乗せ、背中を向けたまま手を振って歩いていった。
見てないけどこっちも手を振っておこう。
「もー。おとーさんみたいなこと言うんだからー」
「まぁいいじゃない。心配してくれてるんでしょ?」
「んー? 私があんまり暇だと変な事すると思ってるだけな気がするけどねー」
「一体何をやらかしたの……」
「んー、さっきも言ったけど枝を伸ばして広げてみたのとか。あと根っこで足を固定せずに歩けないか試して、畑の中に倒れこんじゃった」
一応やってみたのか……
しかしこの体で畑に倒れたりしたら作物は駄目になっただろうなぁ。
土も押し固めちゃいそうだし。
「試しはしたんだ。っていうか畑に被害出してよく追い出されなかったね」
「んー。エドおじさん、ちょっとぶっきらぼうだけど、結構優しいねー。倒れた時も起き上がるの手伝ってくれたしー」
農家が自分の畑を痛められたっていうのに寛大だなぁ。
「まー『重ってーなクソ、ちょっとぶった切らせろやこのデカブツが』とか言われたけどねー。流石にちゃんと謝ったよー」
あー、確かにこのくらい大きければ人間の体なら二トンは超えてそうだしな。
樹木の体だとどれ位かは判らないけど、軽くはないだろう。
生木の状態だと人間と比重はそう変わらないんだっけ?
まぁ木の種類にもよるだろうし、別にどうでもいいか。
「でも根っこさえ張れれば自力で起きられたんじゃ?」
「倒れた時にちょっと場所がずれててさー。あと、畑に手をついて欲しく無かったみたい」
あぁ、まぁ押し固められても困るか。
「両足を抱えてずるずる引きずられて、道の上で向きを変えて元の場所に戻されたよー」
引きずったにしても凄いな農家。
しかしその跡も手入れ大変だったろうなぁ。
「動かしてくれた後に、『てめぇ次やったら切り分けて材木にしてやるからな。覚悟しとけよ』って言われちゃったよ。まぁ言いながら周りに肥料と水撒いてくれたけどねー」
植え替えた直後ってあんまり肥料撒かない方がいいんじゃなかったっけ?
あんまり知らないけどさ。
まぁあえてやってるんだし、【樹人】は問題ないんだろう。
移動の度に根っこ引きちぎって張り直す様な種族だしな。
あぁ、そういえばカエデって建材や家具に使われるのか……
木の姿だと十分な太さがあったし、うまく加工すれば一枚板のテーブルとか作れそうだな。
まぁプレイヤーの体だから死に戻りで消えそうだけど。
「流石に切られるのはちょっと怖いねー。あー、でも頑張って太い枝生やして材木に出来たらお金貰えるかなー?」
「なにその体張った金策。っていうか死んだら消えちゃわないかな?」
「あー、どうなんだろ? 流石にそんな事やってみた人は知らないしねー」
「まぁ人体でやってる人が居たら何考えてるんだこいつって感じになるしね」
「んー、試してみないと売れないかー。消えちゃったらただの詐欺だもんねー」
「建材に使われたら大事故が起きる可能性もあるしねぇ」
いきなり柱に消えられたら大変な事になるよ。
「あー、死ななくてもログアウトでも消えちゃうかもしれないかー」
「あぁ、確かに。体の一部って判断されてると消えちゃうのかな?」
「どうなんだろねー。そーだ、ちょっと試してみないー?」
「え、切っちゃうの?」
「物は試しだよー。どこでもいーから、白雪ちゃんが使う分好きなだけ切り取ってみてー」
「いや、使うって言っても…… っていうかくれるの?」
「まー、自分で持ってても仕方ないしー。それに白雪ちゃんなら、試しに落とす位の量でも色々作れるんじゃないかなーって」
まぁ確かに足の親指一本でも、輪切りにするだけでテーブルが作れそうな位の太さがあるけどさ。
と言っても丸々一本だと、重すぎてボックスに入らないだろうけど。
「それじゃ…… あ、試すのにログアウトするんだよね。珠ちゃんを降ろしてあげないとだし、左手を地面についてくれるかな?」
「んー。ごめーん、ちょっと時間かかるよー。あー珠ちゃん、思いっきり爪立てていーから、落ちない様に気を付けてねー」
手を降ろすためにこちらに向けてしゃがみこんでくるめーちゃん。
おぉ、流石に三十倍以上の体が迫ってくるのは凄い迫力だな……
いや普通の十倍でも十分だけどさ。
「はーい、珠ちゃんおかえりー」
残り数メートルになったあたりでヒョイッと飛び降り、こちらにすり寄って来る珠ちゃん。
お、だんだん上手になってきたな。良い子だ。
「おまたせー。手の指を落とすのかなー?」
両足を揃えてしゃがみこみ、左手を地面に降ろして問いかけて来る。
あ、少しだけ浮かせてくれてるな。
「うん。痛かったら言ってね」
「はーい。でもそれ歯医者さんと同じで、『はい我慢してくださいねー』って奴じゃないのー?」
「まぁそうなんだけどさ。途中で止めたら痛い思いしただけ損だろうし」
「そっかー、それもそーだねー」
喋りながら【魔力武具】で久しぶりに薄い刀を生成していく。
あれから練習なんてしてないけど、まっすぐ縦に振りぬくだけなら慎重に行けばなんとかなるだろう。
よし、これくらいあれば長さも十分かな。せー、のー……っそいっ!
「よーし、いつでもいーよー。やさしくしてねー?」
「え、もう切ったよ?」
私の前には根元から切断された小指が横たわっている。
あー、大きすぎたかな……?
二百五十センチくらいあるけど、ボックスに入るだろうか。
少し水分を抜いたらなんとかなるかな?
「んぇ? あー、ほんとだー……っていたたたたたぁーい」
また珍妙な悲鳴だなおい。
認識して初めて痛みが襲って来たのか……
「大丈夫?」
「うー、なんとかー。痛いけど我慢できない程じゃないよー」
うーん、結構痛いならそう簡単に切り売りは出来ないだろうなぁ……