119:驚かされよう。
雑草からMPの補充を済ませ、一息付く。
「よし、お腹いっぱい。ところでカトリーヌさんはこれからどうするの?」
「少し街を見て回ろうかと。このサイズから見れば見る物全てが新鮮ですので、色々と楽しめそうですから」
「カトリーヌさんの色々楽しめそうって、なんか嫌な予感がするんだけど。あんまり人に迷惑かけないでよ?」
「むぅ、人聞きが悪いですわ」
「いや、さっき何したか忘れてないよね……」
他にも二つほどやらかしてるだろうに。
片方はお姉ちゃんの頑張りで回避出来たけどさ。
「大丈夫と言ったのに信用されていませんわ……」
「いや、だってねぇ。案内終わるまで我慢してって言ったのに二回もやらかされたらねぇ」
「うぅ、確かにその通りですわね……」
「まぁ私にカトリーヌさんを縛る権利なんてないし、従う必要はないんだけどさ」
家主っていう立場がある位で、後は同じプレイヤー同士だし。
他人の遊び方にどうこう言える立場ではないからね。
まぁ迷惑をかけるなっていうお願いくらいはするけど。
「し、白雪さんさえ望むなら、いくらでも縛って頂いてぶっ!?」
「もー。そういう事は言ってないよ。まったく、言葉の選択を間違えたよ……」
地面に足が付いていないので、代わりに全身を回転させ勢いをつけて思いっきり頬をひっぱたく。
曲解して期待した顔になって、両手で縄をピンと張るジェスチャーで近寄って来るんじゃない。
「よ、良いビンタですわぁ…… ふっ!」
首が変な感じになったのを、両手でゴキッと直しながら悦ぶカトリーヌさん。
うん、我ながら良い打撃だったな。
ちょっと自分の手にもダメージがあったけど……
もうこの人にはこれくらいやって、適度にガス抜きしてやった方が良い気がして来た。
あんまり溜め込んだらああいう暴走するんだろうし。
問題は私が必要以上に暴力的に見えてしまう事か……
まぁすぐに解ってもらえるだろうけど。
特にプレイヤーはカトリーヌさんの顔を知ってる人もいるだろうしね。
「何やってんだよお前らは……」
「あ、ジョージさん。見てたんですか?」
「だからやってるのがお前らだって判ってても、一応見ない訳にゃいかねぇんだっての」
「そうでしたね。お疲れ様です」
「もういいけどよ…… で、そいつはアレか。どこかおかしいのか?」
「まぁ簡単に言えばそういう事ですね」
「二人とも酷いですわ。私はごく普通の被虐愛好家でしてよ?」
「あぁ、おかしいんだな」
「でしょう?」
それは普通とは言わないんだよ、カトリーヌさん。
多分自覚した上での突っ込み待ちなんだろうけどさ。
「まぁじゃれあうのも程々にな」
言い残して消えていくジョージさん。
別に好きでやった訳でもないんだけど別にいいか。
「凄いお人ですわね。【魔力感知】でも全然追えませんわ」
「その位の事は出来なきゃ死ぬ羽目になる仕事だからな」
「うわぁ!?」
「まぁここはそう危険でもないし、今はもう死ななくなっちまったがな」
「なんで私の背後に出てくるんですか!?」
「ただの嫌がらせだ。じゃあな」
「堂々と言わないで下さいよ……」
こちらが言い終わる前にまた消えていった。
わざわざ脅かしに戻ってこなくても……
というか、今はもうっていうのはNPCの祝福って後天的な物っていう設定なのかな?
いや、プレイヤーの設定もそうなのかもしれないけど知らないし。
まぁそういう細かい所はいいか。
復活出来るっていう事には変わりないんだし。
「茶目っ気の有るお人ですわね」
「まぁ暇潰しとは言わないけど、同じ事をやるなら楽しい方が良いって事なんじゃないかな」
面白そうって理由だけでライサさんに私が死んだのをバラしたりしたしな……
「それはそうですわね。さて、それでは行きましょうか」
「うん。とは言っても、私は別に予定とか無いんだよね。何しよ……ってしまった」
「どうされました?」
「いや、そういえば一度死んだから召喚解除されちゃってるよ。シルクのお仕事が中断しちゃってるかも」
「あぁ、それはよろしくないですわね。一度お家に戻りましょうか」
「うん。というか別にカトリーヌさんは行っちゃってくれて構わないんだけど」
「いえ、お家の中をもう一度見ておこうかと思いまして」
「空き部屋がある位で特に見る事も無いと思うけど…… まぁいいか」
ライサさんに手を振って役場を後にし、家に帰る。
よく考えたら気付いたタイミングで召喚して一緒に帰ってくれば良かった気もするけど、今更だな。
「いやー、ごめんねシルク。お仕事は大丈夫だったかな?」
頷いて家の方を指す。あ、カーテンちゃんと付け終わってるな。
「ありがと。それじゃ、引き続きお願いね」
「シルクさん、家の中を見て回りたいのですがお願いできますか?」
お願いされたのが嬉しいのか、笑顔で頷いてカトリーヌさんを優しく抱き上げるシルク。
そのまま家に向かっていくので、後ろから声をかけておく。
「カトリーヌさん、何か作りたければ置いてある資材を好きに使ってくれていいからね。まぁ木材が少しあるだけだけども」
「はい、ありがとうございます」
「それとシルク、カトリーヌさんが変な事してきたら叱っていいからね」
「信用がありませんわ……」
振り向いて少し困惑気味に頷くシルク。
「カトリーヌさんは痛いのが嬉しい人だから、少しくらいなら叩いちゃってもいいよ?」
そういうの、良くないよーって顔で首をふるふる振られた。
うん、私もそう思うけどさ。
言っといてなんだけど逆効果だろうし。
「残念ですわ。シルクさんのお力でしたら私の体を端から少しづつ摘まんで引きちぎり、細切れの肉片にして頂く事さえも可能だと思いましたのに」
のけ反って首を必死に振るシルク。
うん、放り捨てないだけでも立派だぞ。
というかこれ以上シルクに【妖精】を怖がらせないで欲しいんだけどな。
私に言う権利は全くと言っていい程無いけどさ。
そもそも恐怖を植え付けた元凶な訳だし。