11:怒られた。
ようやくまともに話が出来る状況になった。
手間取った最大の原因は私なんだけど。
まぁそれは置いといて。
「さて、んじゃ改めてよろしく。
白雪ちゃんの声は小さくて聞こえないみたいだから、私が中継するよ」
「お手数かけます」
「気にしない気にしない。ってかそんな丁寧に喋らなくていいよ。
レティはこれが普通らしいから、それも気にしないで」
「あっ、はい」
「で、お互い色々聞きたい事とかあると思うけどとりあえず最初に私から一つ。
なんでそんな小っちゃいの?」
「えっと、十中八九【ランダム】で引いたレア種族の【妖精】のせいだと思う。
ステータスとか特性とか色々とおかしかったから、何かあるとは思ってたけどこんなことだとは……」
「【妖精】なんてあるのかぁ。確かにそれっぽい翅もついてるもんね」
「雪ちゃん雪ちゃん、その翅って動かせるの?」
お姉ちゃんが横から割り込んできた。
ぱたぱた動かしてみせる。
「かわいー! 触ってみてもいい?」
ずずいっと近寄ってくる。
本当に懲りてるのかお姉ちゃん。
「翅は敏感だからやだ。自分で触った時もくすぐったくて変な声出そうになったんだから」
「くすぐったいからダメだとさ。
あとあんたはまた力加減間違えてもぎそうだからやめときな」
「ひどい!」
いや、言われても仕方ないよ実際。
「その翅で飛んだりできるんですか?」
と、今度はレティさん。
「種族スキルに【浮遊】っていうのがあるから飛べるとは思う。
翅が無くなっても飛べるのかは解らないけど、試したくはないなぁ」
ちょっと試しに浮いてみよう。
とりあえず翅で出来る限りパタパタ羽ばたいてみる。微動だにしない。
スキルはどう使えばいいんだろう? メニューとかみたいに念じるだけでいいのかな。
【浮遊】、【浮遊】。 浮けー。 飛べー。
おっ、浮けた。発動できたみたいだ。
翅パタパタも併用すると少し負担が軽くなるみたい。
って高い!怖い!
慌ててレティさんの手の上に戻る。 ふー。
これは高さに慣れないと使えないな。
……お姉ちゃん、微笑ましい物を見たって顔をするんじゃない。やってる方は本当に怖いんだぞこれ。
あれ?アヤメさんが「あーあー」って顔してるぞ?
何かまずかったのかな?
遠くからピピッピピッという電子音と共に、衛兵のような格好のおじさんが小走りで近づいてくる。
「こら、君たち。町の中では指定区域以外でのスキルの使用は禁止されているだろう?」
えっ。
なるほど、アヤメさんの反応はそういう事か。
とりあえずまずは謝ろう。
「すいません、そういう決まりだとは知りませんでした。次からは気を付けます」
レティさんの手の上で深く頭を下げる。
おじさんが私を見て驚いてる。
「そうとは知らなかった。ごめんなさい、もうしません。って言ってます。
飛べるの?って聞かれて、いけないのを知らずにやってしまったんです」
アヤメさんが中継と説明をしてくれた。
「この子はもしかして【妖精】かい? おぉー、初めて見たよ。
……うん、嘘じゃないみたいだな。以後気を付ける様にね。
スキルが使いたければ役場の窓口で申請して、許可が下りれば使っても大丈夫だから行ってみるといいよ。
町の中で使うのに順当な理由は必要だけどね。役場の場所はわかるかい?」
「はい。大丈夫です」
「そうかい。それじゃあね」
それだけ言うとおじさんは立ち去っていった。
巡視中だったのかな。
「焦ったよ。町中でスキルを使うとあの人達が持ってる魔道具が反応してバレるんだ。
【鑑定】とか、例外で使って良い物もあるけどね。
優しいおじさんで良かったよ。テストの時にやっちゃって知らなかったって言っても引っ張って行かれた人もいたから」
うん、親切な人だったな。
後で申請しにいかなくっちゃね。
どうでもいいけど私を引っ張って行くのは至難の業だろうな。嬉しくない理由で。
というかお姉ちゃん、これは始める前に言っといて欲しかったよ。
むしろカメリアさんが言っとかなくちゃいけない事じゃないか?
「気を取り直して、さっき【妖精】の性能が色々おかしいって言ってたけど、どういうこと?」
最初に聞いた時からずっと気になっていたらしいアヤメさんが改めて聞いてきた。
口で言うより見た方が早いので、ステータス画面と【妖精】の説明画面のパネルを可視化する。
あ、このサイズのままじゃ見えないな。両手で頑張ってパネルを広げてみる。
「あ、可視化したら渡してくれればこっちで伸ばせるよ?
出した本人以外が出来るのはそれくらいだけど」
おおう、無駄な努力だった。
まぁ初期サイズだと摘まみづらいだろうし無駄ではないと思うことにしよう。
他が出来ないっていうのは見せた人の目を盗んで必要以上の情報が抜き取れないようにする為かな?
まず【妖精】の種族説明パネルを渡した。
「うっわ、なんだこりゃ。固有スキルが三つも?」
「スキルスロット倍増って凄いですね……」
「デスペナ無しなのはメリットっていうか最低限の情けだよね……
逆に言えばそうしないといけない位の頻度で死ぬって事だし」
「本当ならもう三回は貰ってるはずだもんな。全部ミヤコからだけどな」
「むぅ。そうだけどさ」
「まぁまぁ。
見た感じはっきりとしたデメリットは魔法のペナルティでしょうか。
空腹の代わりにMPが減っていくのも安定した補給手段が無いと厳しそうです」
そういえばMPが減っていったら空腹の感覚は出てくるんだろうか?
まぁ減ったら解るか。
「『滅びた理由については定かではない』って書いてあるけど……」
「普通に絶滅しただけっぽいよね」
うん、そう言いたくなるのもよく解る。
ステータスのパネルも渡す。
「ほいほい、よっと。……うっわ。なんだこりゃ」
「さっきと同じ事言ってるよ?」
「言うしかないじゃんこんなの。なにさINT千超えって」
「普通の種族はそれぞれに偏りはあっても合計したら【人間】と同じ七百付近ですからねぇ。
一部の特性持ち種族は少し上下しますがここまで極端ではないですし」
「無茶苦茶だねぇ。で、その代償が小さな体と。
それはそうと雪ちゃん。ずっと気になってたんだけどなんで水着着てるの?」
そんなの私が開発に聞きたい。
「ステータス画面に書いてあるでしょー! 水着じゃなくて妖精の服なのー!! 初期装備なのー!!」
装備欄の方を指さしてブンブン手を振っておく。
好きでこんなデザインの服を着たわけじゃないんだ。
って、もしかして普通のサイズの人に他の服を作ってもらっても糸が太すぎでゴワゴワして着られたものじゃないかも。
この服の糸、私から見て普通の細さだし。
最悪の場合どうにかして自分で作るしかなくなるかもしれない。
「水着じゃないもんって怒ってるぞ」
「いや、でもどう見ても水……ごめんなさい」
全力でにらみつけて黙らせる。目つきは柔らかくしたし小さいから迫力は無いだろうけど。
目を合わせてたお姉ちゃんの視線が少し下に下がった。
「あらー?」
やめろ! 微笑むんじゃない! くそぅ、気付かれた!!