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108:腕に座ろう。

「こ、この感触…… なんだかクセになりますわぁ…… ふぅ」


 自分を抱えるシルクの腕をすりすりぷにぷにしたり頭をこてんと倒して胸に預けたりと、物怖じせずに感触を楽しむカトリーヌさん。

 あまりの遠慮のなさにシルクが「あらあら、しょうがない子ね」みたいな、慈愛に満ちた微笑みを浮かべてるぞ。


「……ではなく、これは一体どういう状況なのでしょうか?」


 あ、帰ってきた。早かったな。



「シルクは家事とお世話が存在意義な召喚獣らしいから、過保護なくらいお世話してくれるんだよ」


「お世話……ですか。抱えられたのはどういう?」


「自分で歩かせるなんてとんでもない、って事なのかな。私たちの場合は歩くじゃなくて飛ぶだけど」


「それは過保護などと言う段階を通り越している気がしますが……」



「まぁいいんじゃないかな。困る事じゃないし、気持ち良いでしょ?」


「えぇ、とても。しかし私ではなく、召喚者の白雪さんのお世話をしなくて良いのですか?」


 シルクは自分の両手が塞がってるのを確認して、こちらを見てから考え込み始める。

 どうにかして二人とも運べないかって考えてるのか?


「ほら、さっき私がお願いって言ったから」


 その後の発言も実質けしかけたような物だったしな。



「だからシルクはそんな困った顔しなくて大丈夫だよ。二人まとめて抱っこするのは、ちょっと無理があるでしょう?」


 背負ってもらうには脚を思いっきり広げないといけないし、肩車は天井が近すぎる。

 昨日みたいに片手で抱っこしても、両手でやると二人の脚がぶつかるしね。

 しかしシルクは考え続けている…… あ、動いた。


 えっと、まずは一旦カトリーヌさんを降ろして…… どうする気だ?

 お、屈みこんで左腕の前腕部に座らせ、そのまま立ち上がった。

 ゆっくりと肘を脇腹に付けて固定し、椅子にした手を正面から外側に開いて完成のようだ。

 あー、まぁ確かにそれなら両側に一人ずつ持てるな。


 カトリーヌさんはシルクの肩に両手を添え、上腕に寄り添っている。

 なんていうか、本当にまったく遠慮とか羞恥とか無いな。すごい普通に甘えてるぞ。



 しかしこれはあれか、私は反対側に座れという事か?

 まぁわざわざ降ろして片側に乗せ直したんだから、その通りなんだろうけどさ。

 そんな怖いのに無理しなくてもとは思うけど、まぁこちらとしては願ったり叶ったりか。


 それならそもそもカトリーヌさんを生贄にせずに、大人しく自分がお世話されてろって話なんだけどね。




「シルク、まずは制御室にお願い」


 とりあえず一階の訓練スペースでスキルを使えるように登録しに行こう。

 シルクは首だけ動かして頷き、家の奥に向かって滑りだす。


「とても快適ですわねぇ……」


 腕に寄りかかって、ほっぺたでぷにすべを堪能してればそりゃ快適でしょうよ。



「しかしシルクさんは、二人も運んで重くはありませんの?」


「家の中だととっても力持ちだから大丈夫だよ。私達なんて小指一本で持てるくらいにはね」


「それは凄いですわね。しかし、外ではどうなるのですか?」


「えっと、庭の中では少し力が出なくなるくらいかな。庭から出たら見た目通りの力しか出なくなっちゃうみたい」


「なるほど、本当に家の事に特化した子ですのね」


「そうだね。あ、ここが制御室だよ」



 シルクの手から降り、ドアを開けてあげる。

 少し窮屈そうにドアをくぐったのに続いて入り、ドアを閉め制御盤の前へ。


「えーっと、登録は…… これだっけ。うん、よし。カトリーヌさん、その光ってる台座に手を置いてください」


「はい。おぉ、光りましたわ。これでよろしいのですか?」


「そのはず。これでこの家の結界内では自由にスキルが使えるようになったよ」


「あぁ、今のはその手続きだったのですね」


「うん、それじゃ次に行こうか」


 私がドアを開け、カトリーヌさんを乗せたシルクが部屋を出て、私が閉める。

 ……あれ、私が家主かつ召喚者のはずなんだけど。

 いや、進んでやってるんだし、まぁいいか。私が乗ってたらシルクは両手が塞がってる訳だしね。




「ここが厨房だね。まぁ私達が扱うような食材もそうそうないし、そもそも物を食べなくていいから使う事は少ないだろうけど」


「その箱は?」


「あー、ここに置いたんだね。これは紅茶だよ。飲みたければ好きに飲んで構わないからね」


「しかし、茶器などはどちらに?」


「流石に私達のサイズの物は無いから、自前でなんとかしてね」


 【魔力武具】でほぼ透明なカップとソーサーを作り出し、カトリーヌさんに見せる。


「あぁ、なるほど。その様な使い方もありましたか」


「流石に茶漉しみたいな細かい物は慣れないと難しいと思うけど、実際に作るよりはマシかな」


 まぁ別に自力で作らなくても、依頼して作って貰えばいいんだけどさ。




 一旦一階に降り、訓練スペースに入る。


「ここが訓練スペースというか体育館というか。あと作業場でもあるかな?」


「多目的室というわけですわね」


「あ、それそれ」


 私はほぼ作業場としてしか使ってないけどね。

 あ、倉庫代わりにもしてるけどさ。


「それじゃ、また上に戻ろう」




「ここは脱衣場だね。で、そっちの奥がお風呂だよ」


「これは……」


 流石のカトリーヌさんも、ティーカップ風呂を見て絶句している。


「とても素敵ですわね!」


 あ、好評なのか……

 まぁ確かに綺麗なカップではあるし、カップのお風呂に入る妖精さんとか可愛いと思うけどさ。

 ただ、やるのが自分でさえなければって話なんだよね……


 

「えーと、ここ()の印に魔力を流すとシャワーが出るよ。で、カップの印がそれぞれ注水、加熱、冷却、排水だね。」


 指をさしつつ一つ一つ説明しておく。


「あ、魔力を流すときは量に気を付けてそっとね。一気に水が溢れだしたり、一瞬で蒸発したりするかもしれないからさ」


「はい。気を付けますわ」




「ちょっと試してみる?」


「よろしいのですか!?」


 何故脱ぐ!? あ、「入ってみる?」って事だと解釈したか?

 にしても即刻脱衣はおかしいだろ。


「いやいや、いきなり全部脱がないでよ!?」


「ここに殿方は居りませんので、何も問題は有りませんわ」


 いや、そういう問題じゃないと思うんだよ……




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