107:話を聞こう。
無言でこねこねしてるのもなんだし、適当にお話をしながらこねつづける。
「カトリーヌさんは、職業は何にしたのかな?」
「よくぞ聞いてくれました。私は【無職】ですわ!」
なぜそんなに誇らしげなんだ。
「えっと、なんで【無職】?」
「どうにもピンと来るものが無かったので、不得手の無い物をと」
「あぁ、なるほど。でもやっぱり微妙なイメージがある名前だよね」
「そうでしょうそうでしょう」
いや、微妙って言われて喜ぶんじゃないよ。
「それと、【妖精】だからと言って普通に魔法系統の職業を選ぶのはつまらないと思いまして」
「そこに面白さを求めちゃったかー。まぁ万能って言えば良い感じだよね」
「私としては器用貧乏…… いえ、いっそ無能と言って頂いた方が嬉しいのですが」
「あー、柔らかくしすぎたなー」
喋りながら変な形のオブジェを作っていたけど、横に伸ばした棒が重力に負けて垂れてしまった。
作り直しだな。いや自分でも何作ってるんだかよく解んないし、どうなったら完成なのかも不明なんだけどね。
「そういえば結構メッセージ来るまで時間かかってたけど、【妖精】って中々出なかった?」
「そうですわね。実は私、昔からくじ運があまりよろしくない様でして。狙った物だけが中々出ないのですよ」
「という事は、求めてない他のレア種族とかは色々引けたのかな?」
「えぇ。【吸血鬼】や【樹人】などが出ましたわ。あ、変わり種としては【人魚】というのも出ましたわね」
おー、人魚なんてあるのか。ちょっと見てみたいな。
「でもやっぱり、どれも酷いペナルティがあるんだろうね」
「その様ですわね。特に【人魚】は、ある意味では【妖精】よりも酷いようです」
「え、これより?」
「はい」
「えー…… 具体的にはどういう欠点?」
「上陸できません」
「……え?」
これ、新大陸を開拓していくゲームだったよね?
「脚が無いので歩く事が出来ない上に、無理に陸に上がっても肺呼吸では十分も生きられないとの事ですわ」
「基本的にはエラ呼吸なのかぁ……」
「ですので活動範囲は大陸の外周と、ある程度の深さの有る川の周辺のみとなりますね」
「その分、水中ではすごく強いのかな?」
「そうらしいですね。但し、水の上に体を出した時点で五割近いペナルティを受けるようですが」
「……それ酷すぎない?」
「えぇ。ですので戦い方としては川辺に近づいた相手の足を掴み、バランスを崩して水中に引きずり込む所からでしょうか」
「それ人魚っていうか、なんか河童っぽいんだけど……」
なんでこう種族のイメージをぶち壊しに来るんだ、ここの開発は。
いや、これは全部が開発のせいではないかもしれないけどさ。
「しかし地上に出られないって事は、町を歩くことも人と関わる事も出来ないんだよね」
「そうですわねぇ。漁師さんくらいなものでしょうか?」
「まともなご飯も食べられなさそうだなぁ」
「確かに…… 海藻と魚くらいでしょうか?」
「まぁ調理出来れば美味しそうではあるし、ご飯に関しては私達もあんまり言えないけどね」
一応お店で食べられるだけマシかもしれないが。
「そういえばその情報って、掲示板から?」
「いえ、ガイドさんから教えて貰いましたわ」
「えー…… カメリアさん、私の時は何も言わなかったのに……」
「どうも『聞かれなければ教えられない』といった制限がある様に感じましたわ。ここに書かれていない欠点があれば教えて欲しいと言うと、一瞬ホッとした顔になりましたもの」
なるほど。それでちょっと悲しそうだったのかな?
おのれ開発め…… なんでそんな設定なんだよ。
「あとは【ハーフ】と、四つを混合した【ミックス】を数回ずつ引きましたわね」
へー、四分割っていうのもあるんだ。っていうかハーフもミックスだよね。
いや、そこはどうでもいいか。
「何か面白い組み合わせとか出た?」
「【魔人】と【鬼人】のハーフを始めとした、妙な組み合わせは何度かありましたわ」
あー、それ引いたんだ。
「ただこのランダムでの組み合わせですが、重複防止の処理はされていない様ですね」
「ん? 同じのが出ちゃうってこと?」
「えぇ。【ミックス】で【人間】・【人間】・【人間】・【人間】を引いた時は流石に笑いました」
「うわぁ…… なんなの、その無駄な運は」
「と言っても、良い訳ではありませんけどね。……あ、いつの間にか取れていましたわ」
まぁ普通の【人間】だろうしなぁ。
よし、これで一通りのスキルは教えたかな。
【溶解吐息】と【血肉魔法】はスルーで。【血肉魔法】の方は覚える機会はあるかもしれないけどね。
「んじゃ、それちょうだい。あ、そうだ。お腹空いてない?」
「実を言うと少々……」
「それじゃ、これ上げる。【吸精】で吸えば結構回復できるよ」
五百点の結晶を二つご馳走しておく。
「有難いですが、よろしいのですか?」
「結構持ってるからね。もし気になるなら、後で作って返してくれればいいよ」
断られなかったら後で裏庭にも連れて行くつもりだしね。
「ではその様に。頂きます」
二つ続けて吸い込み、満足そうな顔になるカトリーヌさん。
「ふぅ。満たされましたわ……」
「それじゃ、一旦お家に戻ろうか。家の中を案内して、部屋も決めちゃおう」
受付でポチを回収して、役場を後にする。
今度はちゃんとカトリーヌさんに合わせた速度で飛び、何事も無く家まで……
ってまた門の事忘れてたよ。……仕方ない。
「ごめんねポチ、今日は還っててね」
まぁ私が死んだ時以外、昨日からずっと呼びっぱなしだったしね。
「ただいまー。シルク、帰ったよー」
玄関を開けて呼んでみたら、奥から急いで出てきた。
「今日からこの人もこの家に住むから、お願いね」
「カトリーヌですわ。よろしくお願いいたします」
カトリーヌさんの挨拶に、ぺこりとお辞儀して返すシルク。
そうだ、言っておかなきゃね。
「あ、言い忘れてたんだけど」
「はい?」
「家の中ではシルクのお世話は断れないから、そのつもりでよろしくね」
「え? あら? え、あの? あらー?」
滑るように近づいてきたシルクに抱き上げられ、困惑するカトリーヌさん。
ふふふ、貴女にもお世話の餌食になって貰うぞ……