106:どんどん教えよう。
いや、外でも開き直るって決めたんだし、気にしない様にしよう。
とは言っても、今は見てる人居ないんだけどね。
……ジョージさんはあれだ、ノーカウントだ。
あの人の探知性能はよく解らないし。
「まぁどうせそういう目で見られるのは変わんないし、開き直ってマスコットやるのがいいかなって思い始めたよ」
「確かにここに来るまでの道中でも、普通に飛んでいただけでしたがそんな印象を受けましたわね」
「なんかNPCの好感度が最初から異常な位に高いしね。プレイヤーからの人気の高さは本当に謎なんだけど」
「物珍しさで神輿に乗せられている感じでしょうか?」
「かなー? まぁ一旦乗せられたら多分降りられないだろうから、諦めて担がれるけどさ」
「基本的には直接何かをする訳でも無い様ですしね」
「だねぇ。んー、そいっ」
話をしながら土いじりを続ける。
単に上に伸ばし続けていても飽きるので、柱のてっぺんを横に広げてしいたけみたいな形にしてみた。
あ、崩れた。粘土でもないし、ろくな支えも無しに広げれば崩れもするか。
「あ、取れた様ですわ。やはりスキルがあると動かしやすいですわね」
「おめでとー。それじゃ土を地面に戻して、次に行こうか」
「はい。……えいっ」
「おおう!?」
崩すと聞いたカトリーヌさんが、私が黙々と形を整えていた像に向けて柱を倒してきた。
強度を見極めてギリギリのラインを探っていたしいたけが、攻撃により脆くも崩れ去ってしまう。
私の無駄な努力の結晶が…… いやどうせ崩すから別に良いんだけどさ。
お喋りしながら訓練を続けて【火魔法】、【風魔法】、【水魔法】の三つも取得出来た。
【水魔法】を取得しようとしている姿は完全に水遊びだったが、気にしてはいけない。
そして二人の【妖精】がパチャパチャと水遊びをしている姿を、窓からじっと見つめていた受付嬢も見なかった事にする。
例によってジョージさんに引きずられて、無理矢理仕事に戻されたみたいだし。
「それじゃ、次は【吐息】の新しいのを取ろうか。口に含んだ水に魔力を通して、それを何回か噴出してれば取れるから」
「ええと、それは霧状にという事でしょうか?」
「んー、多分。霧で吹いた時に取れたから、普通に吹いても取れるかは解んないや」
「少々恥ずかしいですが…… 仕方ありませんわね」
あー、確かに。私の時は一人でやってたからなぁ。
「あ、ちなみに取れるのはこういうの」
【水魔法】取得の為に使っていた水を両手で掬い取り、前にばら撒いて【凍結吐息】で凍らせた。
大きい粒はそのまま落ちていき、小さな欠片がキラキラと舞い散る。
「おぉ、凍結のブレスですか。綺麗ですねぇ」
取得するための動作には綺麗さが全く無いけどね。
無事に取得出来たので、続けて【焼却吐息】と行こう。
「よし、次は火のブレスだね。これを口に含んで、可燃性のガスを吹くような感じでやってみて」
【火矢】から飴玉サイズの火球を作り出し、カトリーヌさんに手渡す。
「バーナーの様なものですわね?」
「うん、まぁそういう事だね。吹いたら火の玉が唇の内側に引っ付くけど、火傷はしないから大丈夫だよ」
「するくらいの威力はあった方が嬉しいのですが…… とにかくやってみますわね」
「ちなみに実際のブレスはこんな感じ」
ボックスから折れた矢を取り出し、前方に放り投げてから跡形も残さずに焼き尽くす。
「ほー、ふほいはほふへふはへー」
「いや、無理に喋らなくていいよ」
なんとなくは判るけど喋れてないから。
「ほへはひははー」
「おつかれー。でもそれ出してから喋ろうね……って何してんの!?」
出せって言ったのであって、飲めとは言ってないぞ。
喉が焼かれたりはしないだろうし、お腹に入れば勝手に吸収されるだろうけどさ。
なんか見てる方が怖いわ。
「すみません、つい」
「びっくりするからやめてよね…… で、後は【光魔法】と【木魔法】、それと【錬金術】かな」
「今までと同じとすると光に魔力を通して操れば良いのでしょうか?」
「多分、自分で放った光を操った方が簡単だと思う。試してないから確かな事は言えないけどね」
「白雪さんはどの様にして取得されたのですか?」
「んー、多分魔力の球が暴走した時に勝手に取れたんだと思う。気付いたらあった」
「それで取れるんですのね……」
「多分だけどね。あ、出来れば普通に取って欲しいな」
「はい。光を放つというのは、魔力を浮かべれば良いのでしょうか?」
「いや、体内で高めれば勝手に光ってくれるよ。ほら、こんな風に」
両手を光らせ、正面にかざして見せる。
「なるほど。……出来ましたわ。この光を操作すればよろしいのですね」
「うん。一か所に集中させてみたり、それを動かしてみたりすればいいんじゃないかな」
こんな風に、と実際に動かして見せる。
これに関しては確かな事は言えないけど、頑張ってくれたまえ。
基本の属性魔法より手間取ったみたいだけど、なんとか取得できた様だ。
あとは【錬金術】か。矢を使って覚えれば【木魔法】も取れるしね。
「よし、次はこれに魔力を流して柔らかくして捏ねようか」
矢を三本まとめて手渡す。
「それは【錬金術】の訓練でしょうか?」
「うん。粘土みたいにいじってれば取れるから、ぐにぐにやっちゃおう」
自分の分も取り出し、捏ね始める。こねこね。
「こうしてのんびりするのも、たまには楽しい物ですわね」
むにーっと引き伸ばしながら言ってきたので、同意しておいた。
でもカトリーヌさんの場合は普段が普段だからなぁ……
「あー、そういえば【妖精】になったらやたらと注目されると思うけど大丈夫?」
「問題ありませんわ。前の体でもよく見られていましたので」
そういえば私とは違うベクトルで有名プレイヤーだったんだっけか……
でっかいからとも思ったけど、鬼は少ないとはいえそこまで珍しくないしね。