104:訓練しよう。
嬉しそうに戻っていくライサさんを見送り、訓練を始める。
とりあえず、まずは【魔力操作】からだよね。
「それじゃ【魔力操作】の練習から始めようか。体内の魔力って言われてもよく解らないだろうから、まずは【吸精】で流れ込んでくるのを感じ取ってみよう」
「はい。しかし、何から吸えば?」
「んーっと…… あぁ、あるある。花壇に雑草が混ざってるから、あれから吸っちゃおう。手入れにもなるから、最後まで吸い取って枯らしちゃって良いよ」
「あぁ、そういえば芝生から吸っていらっしゃいましたわね」
「うん。あ、口で吸った時だけは味があるから、手で吸った方がいいと思う。大抵苦いからね」
「解りましたわ。うぅっ、本当ですわね……」
「なんで解ったって言いながら試すかな…… 手で吸った時、そこから胴体に向かって流れ込んでくるのが精気で、それが体の中で自分の魔力に変換されるんだ」
たぶん。
「最初は入ってきて消えていく様に感じると思うけど、自分に溶け込むから解り辛いだけだね」
「つまり、それをきちんと把握できる様になれば良いということですわね」
「そそ。多分それが出来るようになった時点で【魔力感知】が習得できてると思う。私の時は全部終わってから見たから、はっきりとは言えないけどね」
「はい。それでは頑張ってみますわ」
そうだ。時間かかると思うし、やっぱりポチは預けておこうかな。
「ごめん、受付でポチを預けて来るから続けてて。すぐ戻って来るから」
「はい。……難しいですわ」
受付の横を通り抜け、表に待機してるポチの元へ。
姿勢はダラダラせずに伏せて待ってるけど、あれは完全に気を抜いてるな。
「おーい、ポチー」
ハッとして顔だけこちらへ向ける。
いや、そんな「違いますよサボってないですよ私」みたいな空気を出されても。
「おいで、中で皆に可愛がってもらおう」
とは言っても、受付のスペースだとあんまり遊ぶことも出来ないだろうな。
まぁのんびりしててもらおう。おやつとか貰えるといいね。
受付に預けて中庭へ戻る。カトリーヌさんは苦戦してるっぽいな。
とりあえず手が空いたので、私は私で蜜でも集め…… あ。
そういえば、【魔力武具】で作った容器に入れた蜜がボックスにあった筈なんだけど……
あれ、多分容器だけ消えてるよね。どうしよっかな。
まぁいいや。取り出そうとしたら手がべたべたになるだろうし、お風呂の時にお湯に入れちゃおう。
それなら改めて手を洗う必要もないしね。
気を取り直して【施肥】と【蜜採取】で集め始める。
売ったり使ったりする為に、いくつかストックしておきたいしね。
百個ほど集めたけど、カトリーヌさんは集中して吸っては移動してを繰り返し続けてるな。
ふーむ、何か手助け出来ないかな?
「カトリーヌさん、試しに私が魔力流してみようか? 同じ【妖精】なら大丈夫かもしれないし」
「かもなんですのね…… しかし、もし問題があったとしてもペナルティはありませんし、お願いしますわ」
まぁ試す相手なんていなかったからね。
カトリーヌさんの前に降り立ち、向かい合って両手をつなぐ。
むー、相手も密度が高いからか流し込みづらいな。
まぁ入らなくもないのでちょっとずつ流し込もう。
「あぁ…… 手の平から白雪さんに侵されていきますわ……」
「いや変な言い方は止めてくれるかな、本気で。それはともかく、体はおかしくなってない?」
「今のところは大丈夫ですわ。これが白雪さんの魔力…… あら、消えてしまいましたわ」
「補助魔法かけた時みたいに吸収されちゃったのかな? その消えていってる所に集中してみて。多分心臓の辺りに集まっていくと思うから」
続けて流し込みながら自分の魔力の流れを見て、なんとなくでアドバイスしてみる。
肩から入った辺りで変換され始めてるっぽいな。
「はい。うーん……あっ、これ……これですわね!?」
いや、解んないけど。多分そうなんじゃない?
「お、いけたかな? なんでさっきまでこれが解らなかったんだって感じになるよね」
「そうですね。白雪さんの強大な魔力もはっきりと感じ取れますわ」
「人をボスキャラか何かみたいに言わないでよ。カトリーヌさんも同じ【妖精】なんだから、そう極端には違わないよ?」
こっちから見ても魔力の塊って言っていい位だし。
あ、そういえば細部までは形状が解らない様になってるな。訴訟せずに済んだね。
「そうでしょうか。あ、確かに取得できていますわ」
パネルを出して確認するカトリーヌさん。
やっぱりこのタイミングで取れてるか。
「それじゃ、今度はその魔力を動かす練習だね。魔力に集中して動けーって念じてればなんとかなると思う」
「凄くふわっとした説明ですわね……」
「いやー、実際そんな感じだし。一応補足するなら、私の時は胴体の中でくるくる循環させたり、両腕で出来た輪の中を廻したりしたかな」
「ふむふむ。それではそんな感じで試してみる事にしますわ。ありがとうございます」
「頑張って。私も隣で訓練してるから、出来たら教えてね」
少し離れた場所で浮いたまま座禅を組んで魔力を……
ってカトリーヌさん、おぉって感じで手を打って真似しなくてもいいよ。
いや、それで集中できるって言うなら止めないけどさ。
まぁいいや。自分の訓練に集中しよう。
あんまり外に出すとまた怒られるので、大人しく体内で動かしつつ精密操作にも挑戦してみる。
動かす量や密度を調整してみたり、輪にした腕の中を二通りのスピードで同時に回してみたり。
なんかこれ、脳が鍛えられそうだな。
「お、おぉ……? できましたわー!」
おー、早いな。って私の時もそんなもんだったっけか。
難しいのは感じ取るところだしな。
「おめでとー。これで魔法を覚える準備が出来たね」
「ありがとうございます。……ちゃんとありますわ」
あ、一応確認した。これで無かったらなんか恥ずかしいもんね。
「それじゃ、まずは一番便利な【純魔法】から覚えようか」
「どの様な魔法がありますの?」
「【魔力武具】っていう、魔力を固めていろんな物を作る魔法かな」
【魔力弾】は脅かすためにしか使ってないし。
「なるほど、あの女の子を押し潰すのに使っていた魔法ですわね」
「いや、それは…… ってそういえば、それ見て追っかけてきたんだっけ」
「はい。よろしければ後ほど私にも」
「よろしくないからさっさと覚えようね。手の平から魔力を放出して、それをボールにしてみよう。こんな感じで」
手の上に十センチほどの光球を生成して、カトリーヌさんに見せる。
「あ、あんまり大きいのは作らないでね。ジョージさんに怒られるから」
うん、今のもしっかり察知されてたな。
いつの間にかベンチに座って、「おい、解ってんだろうな?」って顔でこっち観てるし。
今日はまだちっちゃいのしか作ってないよ!