103:飴を配ろう。
……あれ?
「アリア様、私たちの声が聞こえてるんですか?」
いやカトリーヌさん、何を言ってるんだこいつって目で見ないで?
「おぉ、ようやくか。このまま最後まで何のリアクションも無く退室されたらどうしようかと思ったぞ」
普通に言ってくれれば良いと思いますよ。
「コレットさんが居るのに、わざわざご自分で【聴覚強化】を取得したんですか?」
「うむ。常に傍に居るとはいえ、やはり直接話す方が性に合うからな」
しかし皆ポンポン取るな。余り気味なんだろうか。
私も増えた分は使ってないから、あんまり人の事言えないけどさ。
「それはさておき…… ふむ、同じ【妖精】でも大きさに結構な差があるのだな」
アリア様、その大きさっていうのは身長の事でいいんですよね?
確かに並んでみると、私の方が頭一つ分近く大きいんだよね。
と言ってもカトリーヌさんは別に小さい方でもないな。むしろ少し大きめ。
百六十センチくらいかな?
「人間同士でも個体差があるのと同じ事だと思いますよ。私はかなり背が高い方ですしね」
「いや体長もだが」
「あ、ストップ。ストップです。解りましたから続きはいいです」
言わせはせんよ。
「そうか。しかしこれでは多少手直しをせねばならんな」
カトリーヌさんをしげしげと見ながら呟くアリア様。
気にしないようにしてたけど、妖精の服だからすごい判りやすく膨らんでるんだよなぁ……
いかん、見てたらイラッとしてひっぱたきたくなってしまう。
こう、体からでっぱった部分を横からパーンって。
理不尽過ぎるしさっきとは違ってかなり痛いだろうから、まずやらないけどさ。
悦びそうだけど、それはそれでこっちが引くし。
「ええと、お話がよく見えないのですが。手直し、ですか?」
「あぁ、服を上げようと思ったけどって話かな。これもアリア様に頂いた物だよ」
裾をクイッとつまみながら言ってみた。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、頂きましても破損してしまうので着られませんわ」
「む、それはどういう事だ?」
「この人痛いのが大好きで、自分から危険に飛び込んで行くので……」
「ふむ、成程…… 着ている時は我慢するというのは?」
「有り得ませんわ」
即答したよ。出来ないとか無理とかじゃなくて、有り得ないなんだな。
「ならば仕方ないな。気が変わったらいつでも言ってくれ」
あっさり引き下がったな。まぁ無理に着せてもボロボロになるって事が解りきってるし、当然か。
さて、用件は…… あ、そうだ。
「アリア様、これ、先程作ったきなこ飴です。小さいですがよければどうぞ。コレットさんもぜひ」
「む、ありがとう」
「ありがとうございます」
ボックスに両手を突っ込んで三つ取り出し、差し出されたアリア様の手に乗せる。
更に二つ取り出して、控えていたコレットさんに渡して元の場所へ。
あ、王族に食べ物渡すとか、やっちゃって良いのかな。しかもむき出しって。
まぁダメならコレットさんが止めに入ってただろう。だから良いのだ。
やることも済んだので挨拶をして、コレットさんにドアを開けてもらい退出する。
それじゃ戻ろう……ってそうだ。
「ジョージさーん」
「おう、どうした?」
「おやつどうぞ」
「いや、今は仕事中なんだが…… まぁ後で食うわ。ありがとよ」
普段のお詫びも兼ねて飴を押し付ける。
仕事一杯増やしてるからなぁ…… いや、今も勤務中に無駄に呼んでるんだけど。
あ、ライサさんに上げるの忘れてたよ。
でもあそこで渡すとまた同僚から袋叩きに合いそうだな。
そうだ。後で新しく【姫蛍】が出てるからって言って、中庭に行ってから渡そう。
ついでに私の訓練も兼ねて【魔力操作】や他の魔法も教えようか。
「それじゃ、次は魔法を覚えちゃいますか?」
「はい。【鬼族】であった時は魔法を使えませんでしたので、少々楽しみですわ」
「最初のハードルがちょっと高いかもしれないけど、頑張ってね」
感覚が掴めるかどうかは手助けのしようも無いからな。
「ライサさん、先程忘れていたんですが【妖精魔法】の新しい物を覚えたので、中庭で確認してもらっていいですか?」
「はい、承知いたしました。すみません、ここを少しお願いします。……それでは行きましょう」
三人で中庭へ出て、屋内から見づらい端に寄っていく。
「えーと、とりあえず新しい魔法はこういうのですね」
パネルを出して、引き延ばして渡す。
「……なるほど、照明になる魔法ですね。しかしこれなら中庭でなくとも良かったのでは?」
「いえ、ちょっとした理由がありまして。とりあえず先に魔法を見せますね。少し恥ずかしいですけど……」
操作して光る場所を変えればいいんだけど、素の状態を見せるべきだろうからなぁ。
うー、やっぱり恥ずかしい。
「なるほど、蛍ですね。ありがとうございます」
なんか普通に対応された。その方がありがたいけどさ。
あれ、カトリーヌさんはどこに…… ってうわぁ!?
興味深げに人のお尻を至近距離で見てんじゃないよ!!
「なにやってんですかぁー!?」
前方に離脱しながら叫ぶ。
「いえ、どういった原理で光っているのかと思いまして」
「それは見ても解んないよ…… 魔法だからって事でいいんじゃないかな」
気になったからって今のは勘弁してよね……
しまった、本来の目的を果たさないと。
「ライサさん、手を出してください」
「はい。何かありましたでしょうか?」
「いえ、いつもお世話になっているのでお礼をと思いまして。採取した蜜で作った飴をどうぞ」
手の平に二つ置いて離れる。
……なんで両手で高々と掲げてるんだ。別に加護とか与えられないよ?
というか気を付けないと、転がって手から落ちちゃうよ。
「っありがとうございますっ!」
うわびっくりしたぁ! 声でっかいよ!
「一応言っておきますけど、今度は皆さんに自慢しないで下さいね?」
全員分作れって言われてもすぐには無理だよ?
「はい。奪い取られるのは御免ですので、決して目立たぬように致します」
え、なにそれ。ここの職員、獰猛過ぎない?